國子監刊本『周易本義』(華聯出版社)及び懐徳堂文庫本『周易雕題』を参考とした。

文言傳

此篇申彖傳象傳之意、以盡乾坤二卦之蘊。而餘卦之說、因可以例推云。
【読み】
此の篇は彖傳象傳の意を申ね、以て乾坤二卦の蘊を盡くす。而して餘卦の說も、因りて例を以て推す可しと云う。

○元者善之長也。亨者嘉之會也。利者義之和也。貞者事之幹也。長、丁丈反。下長人同。幹、古旦反。○元者、生物之始。天地之德、莫先於此。故於時爲春、於人則爲仁。而衆善之長也。亨者、生物之通。物至於此、莫不嘉美。故於時爲夏、於人則爲禮。而衆美之會也。利者、生物之遂。物各得宜、不相妨害。故於時爲秋、於人則爲義。而得其分之和。貞者、生物之成。實理具備、隨在各足。故於時爲冬、於人則爲智。而爲衆事之幹。幹、木之身而枝葉所依以立者也。
【読み】
○元は善の長なり。亨は嘉の會なり。利は義の和なり。貞は事の幹なり。長は、丁丈の反。下の長人も同じ。幹は、古旦の反。○元は、生物の始めなり。天地の德は、此より先だつは莫し。故に時に於ては春と爲し、人に於ては則ち仁と爲す。而して衆善の長なり。亨は、生物の通ずるなり。物此に至れば、嘉美ならざること莫し。故に時に於ては夏と爲し、人に於ては則ち禮と爲す。而して衆美の會するなり。利は、生物の遂ぐるなり。物各々宜しきを得て、相妨げ害さず。故に時に於ては秋と爲し、人に於ては則ち義と爲す。而して其の分の和を得。貞は、生物の成るなり。實理具備し、在るに隨いて各々足る。故に時に於ては冬と爲し、人に於ては則ち智と爲す。而して衆事の幹と爲す。幹とは、木の身にして枝葉の依りて以て立つ所の者なり。

君子體仁足以長人、嘉會足以合禮、利物足以和義、貞固足以幹事。以仁爲體、則无一物不在所愛之中。故足以長人。嘉其所會、則无不合禮。使物各得其所利、則義无不和。貞固者、知正之所在而固守之。所謂知而弗去者也。故足以爲事之幹。
【読み】
君子は仁を體すれば以て人に長たるに足り、會を嘉すれば以て禮に合するに足り、物を利すれば以て義を和するに足り、貞固なれば以て事に幹するに足る。仁を以て體と爲せば、則ち一物として愛する所の中に在らざること无し。故に以て人に長たるに足る。其の會する所を嘉すれば、則ち禮に合わざること无し。物をして各々其の利ろしき所を得せしめば、則ち義和せざること无し。貞固は、正しきの在る所を知りて之を固く守るなり。所謂知って去らざる者なり。故に以て事の幹と爲るに足るなり。

君子行此四德者。故曰、乾元亨利貞。非君子之至健、无以行此。故曰乾元亨利貞。○此第一節。申彖傳之意。與春秋傳所載穆姜之言不異。疑古者已有此語。穆姜稱之、而夫子亦有取焉。故下文別以子曰表孔子之辭。蓋傳者欲以明此章之爲古語也。
【読み】
君子は此の四德の者を行うなり。故に曰く、乾は元亨利貞、と。君子の至健に非ざれば、以て此を行うこと无し。故に乾は元亨利貞と曰う。○此れ第一節。彖傳の意を申ぬ。春秋傳に載す所の穆姜の言と異ならず。疑うらくは古已に此の語有らん。穆姜之を稱して、夫子も亦取る有り。故に下文に別に子曰を以て孔子の辭を表す。蓋し傳者以て此の章の古語爲るを明らかにせんと欲するならん。

○初九曰、潛龍勿用、何謂也。子曰、龍德而隱者也。不易乎世、不成乎名、遯世无悶、不見是而无悶。樂則行之、憂則違之。確乎其不可拔、潛龍也。樂、音洛。確、苦學反。○龍德、聖人之德也。在下故隱。易、謂變其所守。大抵乾卦六爻、文言皆以聖人明之、有隱顯而无淺深也。
【読み】
○初九に曰く、潛龍用うること勿かれとは、何の謂ぞや。子曰く、龍德ありて隱れたる者なり。世に易えず、名を成さず、世を遯れて悶うること无く、是とせられずして悶うること无し。樂しめば則ち之を行い、憂うれば則ち之を違[さ]る。確乎として其れ拔く可からざるは、潛龍なり。樂は、音洛。確は、苦學の反。○龍德とは、聖人の德なり。下に在る故に隱る。易とは、其の守る所を變ずるを謂う。大抵乾の卦の六爻、文言は皆聖人を以て之を明らかにすれば、隱顯有りて淺深无きなり。

○九二曰、見龍在田、利見大人、何謂也。子曰、龍德而正中者也。庸言之信、庸行之謹、閑邪存其誠、善世而不伐、德博而化。易曰、見龍在田、利見大人、君德也。行、下孟反。邪、以嗟反。○正中、不潛而未躍之時也。常言亦信、常行亦謹、盛德之至也。閑邪存其誠、无斁亦保之意。言君德也者、釋大人之爲九二也。
【読み】
○九二に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、何の謂ぞや。子曰く、龍德ありて正中なる者なり。庸言を信じ、庸行を謹み、邪を閑[ふせ]ぎて其の誠を存し、世に善くして伐[ほこ]らず、德博くして化す。易に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、君德あるなり。行は、下孟の反。邪は、以嗟の反。○正中とは、潛まずして未だ躍らざるの時なり。常言亦信じ、常行亦謹むは、盛德の至りなり。邪を閑ぎ其の誠を存するは、斁[えら]ぶこと无くして亦之を保つの意。君德あるなりと言うは、大人は之れ九二爲るを釋くなり。

○九三曰、君子終日乾乾、夕惕若、厲无咎、何謂也。子曰、君子進德脩業。忠信所以進德也。脩辭立其誠、所以居業也。知至至之、可與幾也。知終終之、可與存義也。是故居上位而不驕、在下位而不憂。故乾乾。因其時而惕。雖危无咎矣。幾、音機。○忠信、主於心者无一念之不誠也。脩辭、見於事者无一言之不實也。雖有忠信之心、然非脩辭立誠、則无以居之。知至至之、進德之事。知終終之、居業之事。所以終日乾乾而夕猶惕若者、以此故也。可上可下、不驕不憂、所謂无咎也。
【読み】
○九三に曰く、君子終日乾乾し、夕べに惕若たり、厲うけれども咎无しとは、何の謂ぞや。子曰く、君子は德を進め業を脩む。忠信は德を進むる所以なり。辭を脩めて其の誠を立つるは、業に居る所以なり。至るを知りて之に至る、與に幾す可きなり。終わるを知りて之に終える、與に義を存す可きなり。是の故に上位に居りて驕らず、下位に在りて憂えず。故に乾乾す。其の時に因りて惕る。危うしと雖も咎无きなり。幾は、音機。○忠信とは、心に主たる者にて一念の誠あらざること无きなり。辭を脩むとは、事に見す者にて一言の實あらざること无きなり。忠信の心有りと雖も、然れども辭を脩めて誠を立つるに非ざれば、則ち以て之に居ること无し。至るを知りて之に至るとは、德を進むる事。終わるを知りて之に終えるとは、業に居る事。終日乾乾して夕べに猶惕若たる所以の者は、此を以て故なり。上なる可く下なる可く、驕らず憂えざれば、所謂咎无きなり。

○九四曰、或躍在淵、无咎、何謂也。子曰、上下无常、非爲邪也。進退无恆、非離羣也。君子進德脩業、欲及時也。故无咎。離、去聲。○内卦以德學言、外卦以時位言。進德脩業、九三備矣。此則欲其及時而進也。
【読み】
○九四に曰く、或は躍りて淵に在り、咎无しとは、何の謂ぞや。子曰く、上下すること常无きも、邪を爲すには非ざるなり。進退すること恆无きも、羣を離るるには非ざるなり。君子德を進めて業を脩むるは、時に及ばんことを欲するなり。故に咎无し。離は、去聲。○内卦は德學を以て言い、外卦は時位を以て言う。德を進めて業を脩むること、九三備われり。此れ則ち其の時に及びて進まんことを欲するなり。

○九五曰、飛龍在天、利見大人、何謂也。子曰、同聲相應、同氣相求。水流濕、火就燥。雲從龍、風從虎、聖人作而萬物覩。本乎天者親上、本乎地者親下。則各從其類也。應、去聲。○作、起也。物、猶人也。覩、釋利見之意也。本乎天者、謂動物。本乎地者、謂植物。物各從其類。聖人、人類之首也。故興起於上、則人皆見之。
【読み】
○九五に曰く、飛龍天に在り、大人を見るに利ろしとは、何の謂ぞや。子曰く、同聲相應じ、同氣相求む。水は濕[うるお]えるに流れ、火は燥[かわ]けるに就く。雲は龍に從い、風は虎に從い、聖人作りて萬物覩る。天に本づく者は上を親しみ、地に本づく者は下を親しむ。則ち各々其の類に從うなり。應は、去聲。○作とは、起こるなり。物とは、猶人のごとし。覩るとは、見るに利ろしの意を釋くなり。天に本づく者は、動物を謂う。地に本づく者は、植物を謂う。物は各々其の類に從う。聖人は、人類の首なり。故に上に興起すれば、則ち人皆之を見る。

○上九曰、亢龍有悔、何謂也。子曰、貴而无位、高而无民、賢人在下位而无輔。是以動而有悔也。賢人在下位、謂九五以下。无輔、以上九過高志滿、不來輔助之也。○此第二節。申象傳之意。
【読み】
○上九に曰く、亢龍悔有りとは、何の謂ぞや。子曰く、貴くして位无く、高くして民无く、賢人下位に在るも輔くる无し。是を以て動きて悔有るなり。賢人下位に在るとは、九五以下を謂う。輔くる无しとは、上九は過高志滿を以て、來りて之を輔助せざるなり。○此れ第二節。象傳の意を申ぬ。

○潛龍勿用、下也。
【読み】
○潛龍用うること勿かれとは、下なればなり。

○見龍在田、時舍也。舍、音捨。○言未爲時用也。
【読み】
○見龍田に在りとは、時舍[す]つるなり。舍は、音捨。○言うこころは、未だ時用と爲さず、と。

○終日乾乾、行事也。
【読み】
○終日乾乾すとは、事を行うなり。

○或躍在淵、自試也。未遽有爲。姑試其可。
【読み】
○或は躍りて淵に在りとは、自ら試みるなり。未だ遽に爲すこと有らず。姑く其の可ならんかを試みるなり。

○飛龍在天、上治也。治、平聲。○居上以治下。
【読み】
○飛龍天に在りとは、上にして治むるなり。治は、平聲。○上に居りて以て下を治む。

○亢龍有悔、窮之災也。
【読み】
○亢龍悔有りとは、窮まるの災いあるなり。

○乾元用九、天下治也。治、去聲。○言乾元用九、見與他卦不同。君道剛而能柔、天下无不治矣。○此第三節。再申前意。
【読み】
乾元の用九は、天下治まるなり。治は、去聲。○乾元の用九と言うは、他の卦と同じからざるを見す。君の道剛にして能く柔なれば、天下治まらざること无し。○此れ第三節。再び前意を申ぬ。

○潛龍勿用、陽氣潛藏。
【読み】
○潛龍用うること勿かれとは、陽氣潛藏すればなり。

○見龍在田、天下文明。雖不在上位、然天下已被其化。
【読み】
○見龍田に在りとは、天下文明なるなり。上位に在らずと雖も、然れども天下已に其の化を被れり。

○終日乾乾、與時偕行。時當然也。
【読み】
○終日乾乾すとは、時と偕に行うなり。時當に然るべし。

○或躍在淵、乾道乃革。離下而上。變革之時。
【読み】
○或は躍りて淵に在りとは、乾道乃ち革まるなり。下を離れて上る。變革の時なり。

○飛龍在天、乃位乎天德。天德、卽天位也。蓋唯有是德、乃宜居是位。故以名之。
【読み】
○飛龍天に在りとは、乃ち天德に位するなり。天德とは、卽ち天位なり。蓋し唯是の德有りて、乃ち宜しく是の位に居るべし。故に以て之に名づく。

○亢龍有悔、與時偕極。
【読み】
○亢龍悔有りとは、時と偕に極まるなり。

○乾元用九、乃見天則。剛而能柔、天之法也。○此第四節。又申前意。
【読み】
○乾元の用九は、乃ち天の則を見[しめ]すなり。剛にして能く柔なるは、天の法なり。○此れ第四節。又前意を申ぬ。

○乾元者、始而亨者也。始則必亨。理勢然也。
【読み】
○乾元は、始めにして亨る者なり。始めなれば則ち必ず亨る。理勢然り。

利貞者、性情也。收斂歸藏、乃見性情之實。
【読み】
利貞は、性情なり。收斂歸藏は、乃ち性情の實を見す。

乾始能以美利利天下、不言所利、大矣哉。始者、元而亨也。利天下者、利也。不言所利者、貞也。或曰、坤利牝馬、則言所利矣。
【読み】
乾始めは能く美利を以て天下を利して、利する所を言わず、大なるかな。始めは、元いにして亨るなり。天下に利するは、利なり。利する所を言わざるは、貞なり。或ひと曰く、坤の牝馬に利ろしとは、則ち利する所を言うなり、と。

大哉乾乎、剛健中正、純粹精也。剛以體言、健兼用言。中者、其行无過不及。正者、其立不偏。四者乾之德也。純者、不雜於陰柔。粹者、不雜於邪惡。蓋剛健中正之至極、而精者、又純粹之至極也。或疑乾剛无柔、不得言中正者、不然也。天地之閒、本一氣之流行而有動靜爾。以其流行之統體而言、則但謂之乾而无所不包矣。以其動靜分之、然後有陰陽剛柔之別也。
【読み】
大なるかな乾や、剛健中正、純粹にして精なり。剛は體を以て言い、健は用を兼ねて言う。中は、其の行うこと過不及无し。正は、其の立つこと偏ならず。四つの者は乾の德なり。純は、陰柔に雜らず。粹は、邪惡に雜らず。蓋し剛健中正の至極にして、精は、又純粹の至極ならん。或ひと乾は剛にて柔无く、中正と言うを得ずと疑うは、然らざるなり。天地の閒は、本一氣の流行にして動靜有るのみ。其の流行の統體を以て言えば、則ち但之を乾と謂いて包ねざる所无し。其の動靜を以て之を分かちて、然して後に陰陽剛柔の別有るなり。

六爻發揮、旁通情也。旁通、猶言曲盡。
【読み】
六爻發揮して、旁く情を通ずるなり。旁く通ずとは、猶言わば曲盡のごとし。

時乘六龍、以御天也。雲行雨施、天下平也。言聖人時乘六龍以御天、則如天之雲行雨施而天下平也。○此第五節。復申首章之意。
【読み】
時に六龍に乘りて、以て天に御するなり。雲行きて雨施して、天下平かなるなり。言うこころは、聖人時に六龍に乘りて以て天に御せば、則ち天の雲行きて雨施すが如くして天下平かなり。○此れ第五節。復首章の意を申ぬ。

○君子以成德爲行。日可見之行也。潛之爲言也、隱而未見、行而未成。是以君子弗用也。行、並去聲。未見之見、音現。○成德、已成之德也。初九固成德、但其行未可見爾。
【読み】
○君子は成德を以て行いと爲す。日々に見す可きの行いなり。潛の言爲る、隱れて未だ見れず、行いて未だ成らざるなり。是を以て君子は用いざるなり。行は、並去聲。未見の見は、音現。○成德とは、已に成れる德なり。初九は固より成德にて、但其の行い未だ見る可からざるのみ。

○君子學以聚之、問以辨之、寬以居之、仁以行之。易曰、見龍在田、利見大人、君德也。蓋由四者以成大人之德。再言君德、以深明九二之爲大人也。
【読み】
○君子は學以て之を聚め、問以て之を辨え、寬以て之に居り、仁以て之を行う。易に曰く、見龍田に在り、大人を見るに利ろしとは、君德あるなり。蓋し四つの者に由りて以て大人の德を成す。再び君德と言い、以て深く九二の大人爲るを明らかにす。

○九三、重剛而不中。上不在天、下不在田。故乾乾。因其時而惕。雖危无咎矣。重、平聲。下同。○重剛、謂陽爻陽位。
【読み】
○九三は、重剛にして不中。上は天に在らず、下は田に在らず。故に乾乾す。其の時に因りて惕る。危うしと雖も咎无きなり。重は、平聲。下も同じ。○重剛とは、陽爻陽位なるを謂う。

○九四、重剛而不中。上不在天、下不在田、中不在人。故或之。或之者、疑之也。故无咎。九四非重剛。重字疑衍。在人、謂三。或者、隨時而未定也。
【読み】
○九四は、重剛にして不中。上は天に在らず、下は田に在らず、中は人に在らず。故に之を或とす。之を或とするは、之を疑うなり。故に咎无し。九四は重剛に非ず。重の字は疑うらくは衍ならん。人に在りとは、三を謂う。或は、時に隨いて未だ定まらざるなり。

○夫大人者、與天地合其德、與日月合其明、與四時合其序、與鬼神合其吉凶。先天而天弗違、後天而奉天時。天且弗違、而況於人乎、況於鬼神乎。夫、音扶。先・後、並去聲。○大人、卽釋爻辭所利見之大人也。有是德而當其位、乃可以當之。人與天地鬼神、本无二理。特蔽於有我之私、是以梏於形體而不能相通。大人无私、以道爲體。曾何彼此先後之可言哉。先天不違、謂意之所爲、默與道契。後天奉天、謂知理如是、奉而行之。回紇謂郭子儀曰、卜者言此行當見一大人而還、其占蓋與此合。若子儀者、雖未及乎夫子之所論、然其至公无我、亦可謂當時之人矣。
【読み】
○夫れ大人は、天地と其の德を合わせ、日月と其の明を合わせ、四時と其の序を合わせ、鬼神と其の吉凶を合わす。天に先だちて天に違わず、天に後れて天の時を奉ず。天すら且つ違わず、而るを況や人に於てをや、況や鬼神に於てをや。夫は、音扶。先・後は、並去聲。○大人とは、卽ち爻辭の見るに利ろしき所の大人を釋くなり。是の德有りて其の位に當れば、乃ち以て之に當る可し。人と天地鬼神とは、本二理无し。特我有るの私に蔽われ、是を以て形體に梏して相通ずること能わず。大人は私无く、道を以て體と爲す。曾て何ぞ彼此先後を之れ言う可けんや。天に先だちて違わずとは、意の爲す所、默して道と契るを謂う。天に後れて天を奉ずとは、理是の如きを知りて、奉じて之を行うを謂う。回紇が郭子儀に謂いて曰く、卜者言いて此れ行えば當に一大人を見て還るべしとは、其の占蓋し此と合わん。子儀が若きは、未だ夫子の論ずる所に及ばずと雖も、然れども其の至公我无きは、亦當時の人と謂う可し。
*太・・・山崎嘉点は「太」、他の本では「大」。

○亢之爲言也、知進而不知退、知存而不知亡。知得而不知喪。喪、去聲。○所以動而有悔也。
【読み】
○亢の言爲る、進むを知って退くを知らず、存するを知って亡ぶるを知らず。得るを知って喪うを知らず。喪は、去聲。○動きて悔有る所以なり。

其唯聖人乎。知進退存亡、而不失其正者、其唯聖人乎。知其理勢如是而處之以道、則不至於有悔矣。固非計私以避害者也。再言其唯聖人乎、始若設問而卒自應之也。○此第六節。復申第二第三第四節之意。
【読み】
其れ唯聖人か。進退存亡を知って、其の正を失わざる者は、其れ唯聖人か。其の理勢是の如きを知って之に處るに道を以てすれば、則ち悔有るに至らざるなり。固より私を計りて以て害を避けんとする者に非ざるなり。再び其れ唯聖人かと言い、始め問を設けるが若くして卒わりに自ら之に應うるなり。○此れ第六節。復第二第三第四節の意を申ぬ。


○坤至柔而動也剛。至靜而德方。剛方、釋牝馬之貞也。方、謂生物有常。
【読み】
○坤は至柔にして動くや剛なり。至靜にして德方なり。剛方は、牝馬の貞を釋くなり。方は、生物に常有るを謂う。

後得、主而有常。程傳曰、主下當有利字。
【読み】
後るれば得て、主として常有り。程傳に曰く、主の下に當に利の字有るべし、と。

含萬物而化光。復明亨義。
【読み】
萬物を含んで化光[おお]いなり。復亨るの義を明らかにす。

坤道其順乎。承天而時行。復明順承天之義。○此以上、申彖傳之意。
【読み】
坤道は其れ順なるか。天に承けて時に行う。復順いて天に承くの義を明らかにす。○此れ以上、彖傳の意を申ぬ。

○積善之家必有餘慶。積不善之家必有餘殃。臣弑其君、子弑其父、非一朝一夕之故。其所由來者漸矣。由辯之不早辯也。易曰、履霜堅冰至。蓋言順也。古字順愼通用。按此當作愼。言當辯之於微也。
【読み】
○善を積む家には必ず餘慶有り。不善を積む家には必ず餘殃有り。臣にして其の君を弑し、子にして其の父を弑するは、一朝一夕の故に非ず。其の由って來る所の者は漸なり。辯ずべきを早く辯ぜざるに由るなり。易に曰く、霜を履んで堅冰至る、と。蓋し順なるを言うなり。古字順は愼に通用す。按ずるに此れ當に愼と作すべし。言うこころは、當に之を微に辯ずべし、と。

○直其正也、方其義也。君子敬以直内、義以方外。敬義立而德不孤。直・方・大、不習无不利、則不疑其所行也。此以學而言之也。正、謂本體。義、謂裁制。敬則本體之守也。直内方外、程傳備矣。不孤、言大也。疑故習而後利、不疑則何假於習。○傳曰、直、言其正也。方、言其義也。君子主敬以直其内、守義以方其外。敬立而内直、義形而外方。義形於外、非在外也。敬義旣立、其德盛矣。不期大而大矣。德不孤也。无所用而不周、无所施而不利。孰爲疑乎。
【読み】
○直は其れ正なり、方は其れ義なり。君子は敬以て内を直くし、義以て外を方にす。敬義立てば德孤ならず。直・方・大なり、習わざれども利ろしからざること无しとは、則ち其の行う所を疑わざるなり。此れ學を以て之を言うなり。正とは、本體を謂う。義とは、裁制を謂う。敬は則ち本體の守なり。内を直くし外を方にすは、程傳に備なり。孤ならずとは、大を言うなり。疑う故に習いて後に利ろしく、疑わざれば則ち何ぞ習に假りん。○傳に曰く、直は、其の正しきを言うなり。方は、其の義を言うなり。君子敬を主として以て其の内を直くし、義を守りて以て其の外を方にす。敬立ちて内直く、義形れて外方なり。義外に形れども、外に在るに非ず。敬義旣に立てば、其の德盛んなり。大を期せずして大なり。德孤ならず。用うる所として周からざること无く、施す所として利ろしからざること无し。孰か疑いを爲さんや、と。

○陰雖有美、含之以從王事、弗敢成也。地道也、妻道也、臣道也。地道无成、而代有終也。
【読み】
○陰は美有りと雖も、之を含んで以て王事に從い、敢えて成さざるなり。地の道なり、妻の道なり、臣の道なり。地の道は成すこと无くして、代わって終わり有るなり。

○天地變化、草木蕃、天地閉、賢人隱。易曰、括囊、无咎无譽。蓋言謹也。
【読み】
○天地變化して、草木蕃[しげ]り、天地閉じて、賢人隱る。易に曰く、囊を括る、咎も无く譽れも无し、と。蓋し謹むべきを言うなり。

○君子黄中通理、黄中、言中德在内。釋黄字之義也。
【読み】
○君子は黄中にして理に通じ、黄中とは、中德の内に在るを言う。黄の字の義を釋くなり。

正位居體。雖在尊位、而居下體。釋裳字之義也。
【読み】
正位にして體に居る。尊位に在ると雖も、而して下の體に居る。裳の字の義を釋くなり。

美在其中、而暢於四支、發於事業。美之至也。美在其中、復釋黄中。暢於四支、復釋居體。
【読み】
美其の中に在りて、四支に暢び、事業に發す。美の至りなり。美其の中に在りとは、復黄中を釋く。四支に暢びるとは、復體に居るを釋く。

○陰疑於陽必戰。爲其嫌於无陽也、故稱龍焉。猶未離其類也、故稱血焉。夫玄黄者、天地之雜也。天玄而地黄。爲、于僞反。離、力智反。夫、音扶。○疑、謂鈞敵而无小大之差也。坤雖无陽、然陽未嘗无也。血、陰屬。蓋氣陽而血陰也。玄黄、天地之正色。言陰陽皆傷也。○此以上、申象傳之意。
【読み】
○陰、陽に疑わしきときは必ず戰う。其の陽无きに嫌[うたが]わしきが爲に、故に龍と稱す。猶未だ其の類を離れざる、故に血と稱す。夫れ玄黄は、天地の雜るなり。天は玄にして地は黄なり。爲は、于僞の反。離は、力智の反。夫は、音扶。○疑うとは、鈞敵にして小大の差无きを謂うなり。坤は陽无きと雖も、然れども陽未だ嘗て无きことあらず。血は、陰の屬。蓋し氣は陽にして血は陰ならん。玄黄は、天地の正色。言うこころは、陰陽皆傷む、と。○此れ以上、象傳の意を申ぬ。