二程全書卷之四  遺書二先生語三

謝顯道記憶平日語
【読み】
謝顯道平日の語を記憶す

鳶飛戾天、魚躍于淵、言其上下察也。此一段子思喫緊爲人處、與必有事焉而勿正心之意同、活潑潑地。會得時、活潑潑地。不會得時、只是弄精神。
【読み】
鳶飛んで天に戾[いた]り、魚淵に躍る。其の上下察[あき]らかなることを言えり。此の一段子思喫緊人の爲にするの處、必ず事とすること有り、心に正[あてて]すること勿かれの意と同じく、活潑潑地なり。會し得る時は、活潑潑地。會し得ざる時は、只是れ精神を弄す。

切脈最可體仁。(鄭轂云、嘗見顯道先生問此語。云、是某與明道切脈時、坐問有此語。)
【読み】
脈を切にするは最も仁に體す可し。(鄭轂云う、嘗て顯道先生に見えて此の語を問えり。云う、是れ某明道と脈を切にする時、坐問に此の語有り、と。)

觀雞雛。(此可觀仁。)
【読み】
雞雛を觀る。(此れ仁を觀る可し。)

漢成帝夢上帝敗我濯龍淵、打不過。
【読み】
1.漢の成帝、上帝我が濯龍淵を敗り、不過を打つというを夢む。
2.漢の成帝、上帝我が濯龍淵を敗り、打不過というを夢む。*「打不過」は「堪えられない」の意。下も同じ。
3.漢の成帝、上帝我が濯龍淵を敗るというを夢み、打不過。

問鬼神有無。曰、待說與賢道沒時、古人却因甚如此道。待說與賢道有時、又却恐賢問某尋。
【読み】
鬼神の有無を問う。曰く、賢に說與することを待って沒[な]き時を道わば、古人却って甚[なに]に因ってか此の如く道わん。賢に說與することを待って有る時を道わば、又却って恐る、賢某に問い尋ねんことを、と。

射法具而不滿者、無志者也。
【読み】
射法具わって滿[な]らざる者は、志無き者なり。

尸居却龍見、淵默却雷聲。
【読み】
尸居して却って龍見し、淵默して却って雷聲す。

須是合内外之道、一天人、齊上下、下學而上達、極高明而道中庸。
【読み】
須く是れ内外を合するの道、天人を一にし、上下を齊しくし、下學して上達し、高明を極めて中庸に道[よ]るべし。

旣得後、便須放開。不然、却只是守。
【読み】
旣に得て後は、便ち須く放開すべし。然らざれば、却って只是れ守るなり。

詩可以興。某自再見茂叔後、吟風弄月以歸、有吾與點也之意。
【読み】
詩は以て興る可し。某再び茂叔に見えて自り後、風に吟じ月を弄して以て歸りて、吾れ點に與すというの意有り。

古人互相點檢。如今之學射者亦然。
【読み】
古人互いに相點檢す。今の射を學ぶ者の如き亦然り。

鐵劍利而倡優拙。(此重則彼輕。)
【読み】
鐵劍利くして倡優拙し。(此れ重ければ則ち彼れ輕し。)

自舜發於畎畝之中、至孫叔敖舉於海、若要熟、也須從這裏過。
【読み】
舜は畎畝の中に發[おこ]るという自り、孫叔敖は海に舉ぐというに至るまで、若し熟せんことを要せば、也[また]須く這の裏より過ぐべし。

萃・渙皆享於帝立廟、因其精神之聚而形於此。爲其渙散、故立此以收之。
【読み】
萃・渙皆帝に享し廟を立つるは、其の精神の聚まるに因りて此に形[あらわ]るなり。其の渙散ずるが爲に、故に此を立てて以て之を收む。

隘與不恭、君子不由、非是瑕疵。夷・惠之語、其弊至此。
【読み】
隘と不恭とは、君子由らざるなりというは、是れ瑕疵に非ず。夷・惠が語、其の弊此に至る。

趙普除節度使權、便是烏重胤之策、以兵付逐州刺史。
【読み】
趙普節度使の權を除すは、便ち是れ烏重胤が策にて、兵を以て逐州の刺史に付す。

以記誦博識爲玩物喪志。(時以經語錄作一册。○鄭轂云、嘗見顯道先生云、某從洛中學時、錄古人善行別作一册。洛中見之、云是玩物喪志。蓋言心中不宜容絲髮事。)
【読み】
記誦博識を以て物を玩び志を喪うと爲す。(時に經語を以て錄して一册と作す。○鄭轂云う、嘗て顯道先生に見えて云う、某洛中に從って學ぶ時、古人の善行を錄して、別に一册と作す、と。洛中にして之を見て、云う、是れ物を玩んで志を喪う、と。蓋し言うこころは心中宜しく絲髪の事を容るべからず、と。)

張子厚・邵堯夫、善自開大者也。
【読み】
張子厚・邵堯夫は、善く自ら開き大にする者なり。

彈琴、心不在便不成聲。所以謂琴者禁也、禁人之邪心。
【読み】
琴を彈じて、心在らざれば便ち聲を成さず。所以に謂く、琴は禁なり、人の邪心を禁ず、と。

舞蹈本要長袖、欲以舒其性情。某嘗觀舞正樂、其袖往必反。有盈而反之意。今之舞者、反收拾袖子結在一處。
【読み】
舞蹈本長袖を要するは、以て其の性情を舒べんと欲するなり。某嘗て正樂を舞うを觀るに、其の袖往いて必ず反る。盈ちて反るの意有り。今の舞は、反って袖子を收拾して一處に結在す。

周茂叔窗前草不除去。問之云、與自家意思一般。(子厚觀驢鳴、亦謂如此。)
【読み】
周茂叔窗前の草除い去らず。之を問えば云く、自家の意思と一般なり、と。(子厚驢の鳴くを觀るも、亦謂うこと此の如し。)

張子厚聞生皇子、喜甚。見餓莩者、食便不美。
【読み】
張子厚は皇子生まると聞けば、喜ぶこと甚だし。餓莩[がひょう]の者を見れば、食便ち美とせず。

某寫字時甚敬、非是要字好、只此是學。
【読み】
某字を寫す時甚だ敬むは、是れ字の好きことを要するに非ず、只此れ是れ學なればなり。

一日游許之西湖、在石壇上坐、少頃腳踏處便溼。舉起云、便是天地升降道理。
【読み】
一日許の西湖に游び、石壇の上に在りて坐すること、少頃にして腳の踏む處便ち溼[うるお]う。舉起して云う、便ち是れ天地升降の道理なり、と。

一日見火邊燒湯瓶、指之曰、此便是陰陽消長之義。
【読み】
一日火邊の燒湯瓶を見て、之を指して曰く、此れ便ち是れ陰陽消長の義なり、と。

鳶飛戾天、向上更有天在。魚躍于淵、向下更有地在。(此兩句去作人材上說更好。○鄭轂云、嘗問此二句。顯道先生云、非是極其上下而言。蓋眞箇見得如此。正是子思喫緊道與人處。若從此解悟、便可入堯・舜氣象。)
【読み】
鳶飛んで天に戾るとは、上に向かえば更に天の在る有り。魚淵に躍るとは、下に向かえば更に地の在る有り。(此の兩句人材の上に說くことを作し去ること更に好し。○鄭轂云う、嘗て此の二句を問う。顯道先生云う、是れ其の上下を極めて言うに非ず。蓋し眞箇に見得ること此の如し。正に是れ子思喫緊道人に與うる處。若し此に從いて解悟せば、便ち堯・舜の氣象に入る可し、と。)

因論口將言而囁嚅。云、若合開口時、要他頭、也須開口。(如荆軻於樊於期。)須是聽其言也厲。
【読み】
因りて口將に言わんとして囁嚅[しょうじゅ]するを論ず。云う、若し合に口を開く時、他の頭を要すべく、也須く口を開くべし。(荆軻が樊於期に於るが如し。)須く是れ其の言を聽くや厲しかるべし、と。

舜由仁義行。非行仁義也。
【読み】
舜は仁義に由って行う。仁義を行うに非ざるなり。

與善人處、壞了人。須是與不善人處。方成就得人。他山之石可以攻玉。(善下一有柔字。)
【読み】
善人と處すれば、人を壞了す。須く是れ不善の人と處すべし。方に人を成就し得ん。他山の石以て玉を攻む可し。(善の下一に柔の字有り。)

又言、不哭底孩兒、誰抱不得。
【読み】
又言う、哭せざる底の孩兒、誰か抱き得ざらん、と。

須是就事上學。蠱、振民育德。然有所知後、方能如此。何必讀書、然後爲學。
【読み】
須く是れ事上に就いて學ぶべし。蠱は、民を振[すく]い德を育う。然れども知る所有りて後に、方に能く此の如し。何ぞ必ずしも書を讀んで、然して後に學を爲さん。

士不可以不弘毅、任重而道遠。(重擔子須是硬脊梁漢方擔得。)
【読み】
士は以て弘毅ならずんばある可からず、任重くして道遠し。(重擔子須く是れ硬脊梁の漢方に擔い得べし。)

詩・書只說帝與天。
【読み】
詩・書は只帝と天とを說くのみ。

有人疑伊尹出處合於孔子可以仕則仕、可以止則止。不得爲聖之時、何也。曰、終是任底意思在。
【読み】
人有り疑う、伊尹の出處は孔子の以て仕う可きときは則ち仕え、以て止む可きときは則ち止むみ合す。聖の時と爲ることを得ざるは、何ぞや、と。曰く、終に是れ任底の意思在り、と。

一行豈所以名聖人。至於聖、則自不可見。何嘗道聖人孝、聖人廉。
【読み】
一行は豈聖人を名のる所以ならんや。聖に至っては、則ち自ら見る可からず。何ぞ嘗て聖人は孝なり、聖人は廉なりと道わん。

太山爲高矣。然太山頂上已不屬太山。雖堯・舜之事、亦只是如太虛中一點浮雲過目。
【読み】
太山を高しと爲す。然れども太山の頂上は已に太山に屬せず。堯・舜の事と雖も、亦只是れ太虛中一點の浮雲の目を過るが如し。

執事須是敬、又不可矜持太過。
【読み】
事を執るには須く是れ敬すべく、又矜持太過す可からず。

孟子知言、正如人在堂上、方能辨堂下人曲直。若自下去堂下、則却辨不得。
【読み】
孟子言を知るは、正に人堂上に在りて、方に能く堂下の人の曲直を辨ずるが如し。若し自ら堂下に下り去らば、則ち却って辨じ得じ。

勿忘勿助長之閒、正當處也。
【読み】
忘るること勿かれ助長せしむること勿かれの閒、正に處す當きなり。

顏子合下完具、只是小。要漸漸恢廓。孟子合下大、只是未粹。索學以充之。(恢一作開。)
【読み】
顏子は合下完具し、只是れ小。漸漸恢廓[かいかく]ならんことを要す。孟子は合下大にして、只是れ未だ粹ならず。學以て之を充てることを索む。(恢は一に開に作る。)

學者要學得不錯、須是學顏子。(有準的。)
【読み】
學者學び得て錯[あやま]らざらんことを要せば、須く是れ顏子を學ぶべし。(準的有り。)

參也、竟以魯得之。
【読み】
參や、竟に魯を以て之を得たり。

默而識之、不言而信、存乎德行。
【読み】
默して之を識り、言わずして信なるは、德行に存す。

毛猶有倫、入毫釐絲忽終不盡。
【読み】
毛は猶倫有り、毫釐絲忽に入りて終に盡きず。

滿腔子是惻隱之心。
【読み】
滿腔子是れ惻隱の心。

衆人安則不恭、恭則不安。
【読み】
衆人は安んずるときは則ち恭ならず、恭なるときは則ち安からず。

君子以言有物而行有恆。
【読み】
君子は言物有りて行恆有ることを以てす。

邢恕日三點檢。謂亦可哀也。何時不點檢。
【読み】
邢恕日に三たび點檢す。謂く、亦哀れむ可し。何れの時か點檢せざらん、と。

學射者互相點檢病痛。朋友攸攝、攝以威儀。
【読み】
射を學ぶ者互いに病痛を相點檢す。朋友の攝する攸、攝するに威儀を以てす。

有甚你管得我。有甚我管得你。敎人致却太平後、某願爲太平之民。
【読み】
甚の你我を管し得ること有らん。甚の我れ你を管し得ること有らん。人をして太平を却くことを致さしめて後、某願わくは太平の民爲たらん。

右明道先生語

三王不足四、無四三王之理。如忠質文之所尙、子丑寅之所建、歲三月爲一時之理。秦强以亥爲正、畢竟不能行。孔子知是理。故其志不欲爲一王之法、欲爲百王之通法。如語顏淵爲邦是也。其法度又一寓之春秋。(已後別有說。)
【読み】
三王四にするに足らざるは、三王を四にするの理無ければなり。忠質文の尙ぶ所、子丑寅の建[さ]す所、歲三月を一時と爲すの理の如し。秦强いて亥を以て正と爲すは、畢竟行わるること能わず。孔子是の理を知る。故に其の志一王の法と爲ることを欲せず、百王の通法と爲らんことを欲す。顏淵に邦を爲むることを語るが如き是れなり。其の法度も又一に之を春秋に寓[よ]す。(已後別に說有り。)

西北東南、人材不同。
【読み】
西北東南、人材同じからず。

以律管定尺、乃是以天地之氣爲準。非秬黍之比也。秬黍積數、在先王時、惟此爲適與度量合、故可用。今時則不同。
【読み】
律管を以て尺を定むるは、乃ち是れ天地の氣を以て準と爲す。秬黍の比に非ざるなり。秬黍の積數、先王の時に在っては、惟此れ適々度量と合えりと爲す、故に用う可し。今時は則ち同じからず。

物之可卜者、惟龜與羊髀骨可用。蓋其坼可驗吉凶。
【読み】
物の卜す可き者は、惟龜と羊髀骨とのみ用う可し。蓋し其れ坼きて吉凶を驗す可し。

李覯謂若敎管仲身長在宮内、何妨更六人。此語不然。管仲時、桓公之心特未蠹也。若已蠹、雖管仲可奈何。未有心蠹尙能用管仲之理。
【読み】
李覯謂く、若し管仲が身をして長く宮内に在らしめば、何ぞ更に六人なるに妨げん、と。此の語然らず。管仲が時、桓公の心特に未だ蠹[と]せず。若し已に蠹せば、管仲と雖も奈何にかす可けん。未だ心蠹して尙能く管仲を用うるの理有らじ。

孟子言性、當隨文看。不以告子生之謂性爲不然者、此亦性也。彼命受生之後謂之性爾。故不同。繼之以犬之性猶牛之性、牛之性猶人之性與。然不害爲一。若乃孟子之言善者、乃極本窮源之性。
【読み】
孟子性を言うは、當に文に隨いて看るべし。告子が生之を性と謂うを以いずして然らずとする者は、此も亦性なればなり。彼生を受くるの後を命じて之を性と謂うのみ。故に同じからず。之に繼ぐに犬の性は猶牛の性のごとく、牛の性は猶人の性のごときかというを以てす。然も一とすることを害せず。若し乃ち孟子の善なりと言う者は、乃ち本を極め源を窮むるの性なり。

日月之形、如人有身須有目。目必面前。故太陽無北觀者。
【読み】
日月の形は、人の身有れば須く目有るべきが如し。目は必ず前に面[む]かう。故に太陽の北觀する者無し。

仁則一、不仁則二。
【読み】
仁なれば則ち一、不仁なれば則ち二。

仁道難名。惟公近之。非以公便爲仁。
【読み】
仁道は名づけ難し。惟公は之に近し。公を以て便ち仁と爲すには非ず。

禪家之言性、猶太陽之下置器、其閒方圓小大不同。特欲傾此於彼爾。然在太陽幾時動。又其學善遁。若人語以此理、必曰我無修無證。
【読み】
禪家の性を言うは、猶太陽の下に器を置き、其の閒方圓小大同じからざるがごとし。特に此を彼に傾けんと欲するのみ。然も太陽は幾時か動くこと在らん。又其の學善く遁る。若し人語るに此の理を以てすれば、必ず我れ無修無證と曰う。

先生少時、多與禪客語、欲觀其所學淺深。後來更不問。蓋察言不如觀貌。言猶可以所聞强勉、至於貌則不可强。
【読み】
先生少き時、多く禪客と語りて、其の學ぶ所の淺深を觀んと欲す。後來更に問わず。蓋し言を察するは貌を觀るに如かず。言は猶聞く所を以て强い勉む可く、貌に至っては則ち强う可からず。

氣形而下者。
【読み】
氣は形よりして下なる者なり。

語學者以所見未到之理、不惟所聞不深徹、久將理低看了。
【読み】
學者に語るに見る所未だ到らざるの理を以てすれば、惟聞く所深く徹せざるのみにあらず、久しくして理を將て低く看了わる。

性不可以内外言。
【読み】
性は内外を以て言う可からず。

神是極妙之語。
【読み】
神は是れ極妙の語なり。

(一本無。)與性元不相離、則其死也、何合之有。如禪家謂別有一物常在、偸胎奪陰之說、則無是理。
【読み】
(一本に無。)と性と元相離れざるときは、則ち其の死するや、何の合うことか之れ有らん。禪家別に一物有りて常に在りと謂うが如き、偸胎奪陰の說は、則ち是の理無し。

魂謂精魂。其死也魂氣歸於天、消散之意。
【読み】
魂を精魂と謂う。其の死するや魂氣天に歸するは、消散の意なり。

某欲以金作器比性成形。先生謂、金可以比氣、不可以比性。
【読み】
某金を以て器を作りて性形を成すに比せんと欲す。先生謂く、金は以て氣に比す可く、以て性に比す可からず、と。

唐人伎藝、亦有精絕過今人處。
【読み】
唐人の伎藝も、亦精絕にして今の人に過ぐる處有り。

日月謂一日一箇亦得、謂通古今只一箇亦得。
【読み】
日月は一日一箇と謂うも亦得、古今に通じて只一箇と謂うも亦得。

易言天亦不同。如天道虧盈而益謙、此通上下。理亦如此、天道之運亦如此。如言天且弗違、況於人乎、況於鬼神乎、此直謂形而上者。言以鬼神爲天地矣。
【読み】
易に天を言うこと亦同じからず。天道は盈つるを虧きて謙に益すというが如き、此れ上下に通ず。理も亦此の如く、天道の運も亦此の如し。天すら且つ違わず、況んや人に於てをや。況んや鬼神に於てをやと言うが如き、此れ直に形よりして上なる者を謂う。言うこころは鬼神を以て天地と爲すなり。

莊生形容道體之語、儘有好處。老氏谷神不死一章最佳。
【読み】
莊生が道體を形容するの語、儘好き處有り。老氏が谷神死せずの一章最も佳し。

禪家出世之說、如閉目不見鼻。然鼻自在。
【読み】
禪家出世の說は、目を閉ぢて鼻を見ざるが如し。然れども鼻自づから在り。

聖人不記事。所以常記得。今人忘事、以其記事。不能記事、處事不精、皆出於養之不完固。
【読み】
聖人は事を記せず。所以に常に記得す。今の人事を忘るるは、其の事を記するを以てなり。事を記すること能わず、事を處すること精しからざるは、皆養の完固ならざるに出づ。

陳恆弑其君。夫子請討、當時夫子已去位矣。(曾爲大夫。)
【読み】
陳恆其の君を弑す。夫子討ぜんことを請うは、當時夫子已に位を去ればなり。(曾て大夫爲り。)

人固可以前知。然其理須是用則知、不用則不知。知不如不知之愈。蓋用便近二。所以釋子謂又不是野狐精也。
【読み】
人固に以て前知す可し。然れども其の理須く是れ用うるときは則ち知り、用いざるときは則ち知らざるべし。知るは知らざるの愈れるに如かず。蓋し用うるは便ち二に近し。所以に釋子謂う、又是れ野狐精にあらず、と。

二三立、則一之名亡矣。
【読み】
二三立つときは、則ち一の名亡ぶ。

感而遂通天下之故、以其寂然不動。小則事物之至、大則無時而不感。
【読み】
感じて遂に天下の故に通ずるは、其の寂然として動かざるを以てなり。小なるときは則ち事物の至り、大なるときは則ち時として感ぜざること無し。

人之稟賦有無可奈何者。聖人所以戒忿疾於頑。
【読み】
人の稟賦奈何ともす可きこと無き者有り。聖人所以に忿疾を頑に戒む。

釋氏處死生之際、不動者有二。有英明不以爲事者、亦有昏愚爲人所誤、以前路自有去處者。
【読み】
釋氏死生の際に處して、動ぜざる者二つ有り。英明にして以て事とせざる者有り、亦昏愚にして人の爲に誤らされて、以て前路自づから去る處有る者有り。

(一作必。)欲窮四方上下所至、且以無窮、置却則得。若要眞得(一作識。)、須是體合。
【読み】
(一に必に作る。)四方上下の至る所を窮めんと欲せば、且窮まり無きを以て、置却すれば則ち得。若し眞に得んことを(一に識に作る。)要せば、須く是れ體合すべし。

有剪桐之戲、則隨事箴規。違養生之戒、則卽時諫止。
【読み】
剪桐の戲有るときは、則ち事に隨いて箴規し、養生の戒に違うときは、則ち卽時に諫め止ましむ。

未有不能體道而能無思者。故坐忘卽是坐馳。有忘之心乃思也。
【読み】
未だ道を體すること能わずして能く思うこと無き者有り。故に坐忘は卽ち是れ坐馳なり。忘るること有るの心は乃ち思えばなり。

許渤與其子隔一窗而寢。乃不聞其子讀書與不讀書。先生謂、此人持敬如此。(曷嘗有如此聖人。)
【読み】
許渤と其の子と一窗を隔てて寢ぬ。乃ち其子の書を讀むと書を讀まざるとを聞かず。先生謂く、此の人敬を持すること此の如し、と。(曷ぞ嘗て此の如き聖人有らん。)

伯淳在澶州日修橋。少一長梁。曾博求之民閒。後因出入、見林木之佳者、必起計度之心。因語以戒學者、心不可有一事。
【読み】
伯淳澶州に在りし日橋を修む。一つの長梁を少[か]けり。曾て博く之を民閒に求む。後出入するに因りて、林木の佳なる者を見れば、必ず計度の心を起こせり。因って語りて以て學者を戒む、心一に事とすること有る可からず、と。

閲機事之久、機心必生。蓋方其閲時、心必喜。旣喜、則如種下種子。
【読み】
機事を閲ること久しければ、機心必ず生ず。蓋し其の閲る時に方りて、心必ず喜ぶ。旣に喜ぶときは、則ち種種子を下すが如し。

見一學者忙迫、先生問其故。曰、欲了幾處人事。曰、某非不欲周旋人事者、曷嘗似賢急迫。
【読み】
一りの學者忙迫なるを見て、先生其の故を問う。曰く、幾處の人事を了せんと欲す、と。曰く、某は人事に周旋するを欲せざる者に非ざるも、曷ぞ嘗て賢の似[ごと]く急迫ならん、と。

忘物與累物之弊等。
【読み】
物を忘るると物に累わさるるの弊は等し。

疑病者、未有事至時、先有疑端在心。周羅事者、先有周事之端在心。皆病也。
【読み】
疑病ある者は、未だ事の至ること有らざる時に、先づ疑端心に在る有り。事を周羅する者は、先づ事を周する端心に在る有り。皆病なり。

較事大小、其弊爲枉尺直尋之病(一作論。)
【読み】
事の大小を較ぶるは、其の弊は尺を枉げて尋を直くするの病(一に論に作る。)と爲る。

忘敬而後無(一作毋。)不敬。
【読み】
敬を忘れて而して後に敬せざること無し(一に毋に作る。)

聖人之心、未嘗有在、亦無不在。蓋其道合内外、體萬物。
【読み】
聖人の心は、未だ嘗て在ること有らず、亦在らざること無し。蓋し其の道は内外を合し、萬物を體す。

事神易、爲尸難。苟孝子有思親之心、以至誠持之、皆可以盡其道。惟尸象神。其所以祖考來格者以此。後世巫覡、立尸之遺意。但其流入於妄僞。豈有通幽明之理。
【読み】
神に事うることは易く、尸を爲ることは難し。苟も孝子親を思うの心有りて、至誠を以て之を持せば、皆以て其の道を盡くす可し。惟尸は神に象る。其れ祖考の來格する所以の者は此を以てなり。後世の巫覡[ふげき]、尸を立つるの遺意なり。但其の流妄僞に入る。豈幽明に通ずるの理有らんや。

死者不可謂有知、不可謂無知。
【読み】
死は知ること有りと謂う可からず、知ること無しと謂う可からず。

嘗問先生、其有知之原、當倶稟得。先生謂、不曾稟得、何處交割得來。又語及太虛曰、亦無太虛。遂指虛曰、皆是理。安得謂之虛。天下無實於理者。
【読み】
嘗て先生に問う、其れ知有るの原は、當に倶に稟得すべき、と。先生謂く、曾て稟得せずんば、何れの處よりか交割し得來らん、と。又語りて太虛に及んで曰く、亦太虛無し、と。遂に虛を指して曰く、皆是れ理なり。安んぞ之を虛と謂うことを得ん。天下理より實なる者無し、と。

罪己責躬不可無。然亦不當長留在心胸爲悔。
【読み】
己を罪し躬を責むること無くんばある可からず。然れども亦當に長く心胸に留在して悔を爲すべからず。

有恐懼心、亦是燭理不明、亦是氣不足。須知義理之悅我心、猶芻豢之悅我口。玩理以養心如此。蓋人有小稱意事、猶喜悅、有淪肌浹骨如春和意思。何況義(一作見。)理。然窮理亦當知用心緩急。但苦勞而不知悅處、豈能養心。
【読み】
恐懼の心有るは、亦是れ理を燭すこと明らかならず、亦是れ氣足らざればなり。須く義理の我が心に悅ばしきこと、猶芻豢[すうかん]の我が口に悅ばしきがごときを知るべし。理を玩んで以て心を養うのこと此の如し。蓋し人小しく意に稱う事有れば、猶喜悅して、肌に淪み骨に浹うこと有りて春和の意思の如し。何ぞ況んや義(一に見に作る。)理をや。然れども理を窮むるは亦當に心を用うるの緩急を知るべし。但苦勞して悅ぶ處を知らずんば、豈能く心を養わんや。

入道莫如敬。未有能致知而不在敬者。今人主心不定、視心如寇賊而不可制。不是事累心、乃是心累事。當知天下無一物是合少得者。不可惡也。
【読み】
道に入るは敬に如くは莫し。未だ能く知を致して敬に在らざる者有らず。今の人は心を主とし定めず、心を視ること寇賊の如くにして制す可からず。是れ事心を累わすにあらずして、乃ち是れ心事を累わすなり。當に天下に一物として是れ少[か]き得合[べ]き者無きを知るべし。惡む可からざるなり

或謂許大太虛。先生謂、此語便不是。這裏論甚大與小。
【読み】
或るひと謂く、許大の太虛、と。先生謂く、此の語便ち是ならず。這の裏甚の大と小とを論ぜん、と。

大抵人有身、便有自私之理。宜其與道難一。
【読み】
大抵人は身有れば、便ち自私の理有り。宜[うべ]なり其の道と一なり難きは。

人之於儀形、有是持養者、有是修飾者。
【読み】
人の儀形に於る、是の持養の者有り、是の修飾の者有り。

人之於性、猶器之受光於日。日本不動之物。
【読み】
人の性に於るは、猶器の光を日に受けるがごとし。日は本動かざる物なり。

須是識在所行之先。譬如行路、須得光照。
【読み】
須く是れ識るは行く所の先に在るべし。譬えば路に行くが如き、須く光照らすことを得べし。

伯有爲厲之事、別是一理。
【読み】
伯有厲と爲るの事は、別に是れ一理あり。

一陰一陽之謂道、道非陰陽也。所以一陰一陽道也。如一闔一闢謂之變。
【読み】
一陰一陽之を道と謂うは、道は陰陽に非ざるなり。一陰一陽する所以は道なり。一闔一闢之を變と謂うが如し。

右伊川先生語

拾 遺

許渤初起、問人天氣寒溫、加減衣服、一加減定、卽終日不換。
【読み】
許渤初起して、人に天氣の寒溫問い、衣服を加減すること、一たび加減し定むれば、卽ち終日換えず。

許渤在潤州、與范文正・胡宿・周茂叔游。
【読み】
許渤潤州に在るとき、范文正・胡宿・周茂叔と游ぶ。

古人立尸之意甚高。
【読み】
古人尸を立つるの意甚だ高し。

萬取千焉、千取百焉。(齊語謂某處取某處遠近。)
【読み】
萬に千を取り、千に百を取る。(齊語に謂う、某處と某處との遠近。)

夫天未欲平治天下也、如欲平治天下、當今之世、舍我其誰、此是有所受命之語。若孔子謂天之將喪斯文也、後死者不得與於斯文也、天之未喪斯文也、匡人其如予何、喪乃我喪。未喪乃我未喪、我自做著天裏。聖人之言、氣象自別。
【読み】
夫れ天未だ天下を平治せんことを欲せず、如し天下を平治せんことを欲せば、今の世に當たりて、我を舍てて其れ誰ぞというは、此は是れ命を受くる所有るの語なり。孔子天の將に斯の文を喪ぼさんとすれば、後に死する者斯の文に與ることを得じ、天の未だ斯の文を喪ぼさざるに、匡人其れ予を如何と謂うが若きは、喪ぶるは乃ち我れ喪ぶ。未だ喪びざれば乃ち我れ未だ喪びずとして、我れ自ら天の裏に做著す。聖人の言、氣象自づから別なり。

張橫渠謂范文正才氣老成。(笑指揮趙兪。)
【読み】
張橫渠謂えらく、范文正は才氣老成す、と。(趙兪に指揮するを笑う。)

古人求法器。
【読み】
古人は法器を求む。

禮樂只在進反之閒、便得性情之正。
【読み】
禮樂は只進反の閒に在りて、便ち性情の正しきを得。

孟子答公孫丑問何謂浩然之氣、曰、難言也。只這裏便見得是孟子實有浩然之氣。若他人便亂說道、是如何、是如何。
【読み】
孟子公孫丑が何をか浩然の氣と謂うと問えるに答えて、曰く言い難し、と。只這の裏に便ち見得ん、是れ孟子實に浩然の氣有ることを。他人の若きは便ち亂りに說いて道わん、是れ如何、是れ如何、と。

子路亦百世之師。(人告之以有過則喜。)
【読み】
子路も亦百世の師なり。(人之に告ぐるに過有ることを以てすれば則ち喜ぶ。)

右明道先生語

先生在經筵日、有二同列論武侯事業謂、戰伐所喪亦多。非殺一不辜而得天下不爲之事。先生謂、二公語過矣。殺一不辜而得天下不爲、謂殺不辜以私己。武侯以天子之命討天下之賊。何害。
【読み】
先生經筵に在るの日、二りの同列有りて武侯の事業を論じて謂く、戰伐の喪ぼす所亦多し。一りの辜[つみ]あらざるを殺して天下を得るともせざるの事に非ず、と。先生謂く、二公の語過てり。一りの辜あらざるを殺して天下を得るともせずとは、辜あらざるを殺して以て己に私するを謂う。武侯は天子の命を以て天下の賊を討てり。何ぞ害あらん、と。

漢儒近似者三人、董仲舒・大毛公・楊雄。
【読み】
漢儒近く似たる者三人、董仲舒・大毛公・楊雄。

右伊川先生語

参考文献
『和刻本漢籍 二程全書』(中文出版社)
『二程集』(里仁書局)