二程全書卷之三十七  外書第十

大全集拾遺

聖人未嘗無喜也。象喜亦喜。聖人未嘗無怒也。一怒而安天下之民。聖人未嘗無哀也。哀此煢獨。聖人未嘗無懼也。臨事而懼。聖人未嘗無愛也。仁民而愛物。聖人未嘗無欲也。我欲仁、斯仁至矣。但中其節、則謂之和。
【読み】
聖人は未だ嘗て喜ぶこと無くんばあらず。象喜べば亦喜ぶ。聖人は未だ嘗て怒ること無くんばあらず。一たび怒って天下の民を安んず。聖人は未だ嘗て哀しむこと無くんばあらず。此の煢獨[けいどく]を哀しむ。聖人は未だ嘗て懼るること無くんばあらず。事に臨んで懼る。聖人は未だ嘗て愛すること無くんばあらず。民を仁[いつく]しんで物を愛す。聖人は未だ嘗て欲すること無くんばあらず。我れ仁を欲すれば、斯に仁至る。但其の節に中るときは、則ち之を和と謂う。

荀卿才高學陋、以禮爲僞、以性爲惡、不見聖賢。雖曰尊子弓、然而時相去甚遠。聖人之道、至卿不傳。楊子雲仕莽賊。謂之旁燭無疆、可乎。隱可也。仕不可也。
【読み】
荀卿才高く學陋しくして、禮を以て僞りとし、性を以て惡として、聖賢を見ず。子弓を尊ぶと曰うと雖も、然れども時に相去ること甚だ遠し。聖人の道、卿に至って傳わらず。楊子雲莽賊に仕う。之を旁く無疆を燭[て]らすと謂いて、可ならんや。隱るるは可なり。仕うるは不可なり。

劉子之學甚支離。只立名做法語。便不是了。
【読み】
劉子の學甚だ支離す。只名を立て法語を做す。便ち是ならず。

遊酢於西銘、讀之已能不逆於心、言語之外、別立得這箇義理。便道中庸矣。(道、一作到。)
【読み】
遊酢西の銘に於て、之を讀んで已に能く心に逆わず、言語の外、別に這箇の義理を立て得。便ち中庸に道[よ]る。(道は、一に到るに作る。)

向日與向火意思別。火只是一箇酷烈底性。日則自然一般生底氣。便與人氣接。
【読み】
日に向かうと火に向かうとは意思別なり。火は只是れ一箇の酷烈底の性。日は則ち自然に一般生底の氣。便ち人氣と接す。

問星辰。曰、星是二十八宿、辰是日月五星。
【読み】
星辰を問う。曰く、星は是れ二十八宿、辰は是れ日月五星、と。

井泉之異、全由地脈一溜之別。伯淳在扶溝、扶溝水皆鹹。惟僧舍井小甘。不欲令婦女往汲之、乃禁之。旣禁之、又一縣無水。乃相一端鑿一井、其味適別。地脈是一溜也。又如在襄城、寺中水鹹、寺外卽甘。一日觀其牆下有地皮一旋裂。於是試令近牆鑿井、遂亦甘。只是要相地脈如何。
【読み】
井泉の異なるは、全く地脈一溜の別に由る。伯淳扶溝に在るとき、扶溝の水皆鹹[しおから]し。惟僧舍の井小しく甘し。婦女をして往いて之を汲ましむることを欲せずして、乃ち之を禁ず。旣に之を禁じて、又一縣に水無し。乃ち一端を相[み]て一井を鑿[ほ]るに、其の味適に別なり。地脈是れ一溜なればなり。又襄城に在るが如き、寺中は水鹹く、寺外は卽ち甘し。一日其の牆下を觀るに地皮一に旋り裂くる有り。是に於て試みに牆に近づいて井を鑿れば、遂に亦甘し。只是れ地脈如何と相んことを要す。

冬桃、今視之似先春。其實晩桃也。直到如今方發。
【読み】
冬桃は、今之を視るに春に先だつに似れり。其の實は晩桃なり。直に如今に到って方に發するなり。

南京三十六岡改葬、只是臺中人爲之。要得自振其術以營利也。
【読み】
南京の三十六岡葬ることを改むるは、只是れ臺中の人之をす。自ら其の術を振って以て利を營ずることを得んことを要す。

有人葬埋、至有毀伐其親之屍以祈福利。然偶獲禍。其事雖未必然、然據理、安得不招此禍。
【読み】
人葬埋するに、其の親の屍を毀ち伐って以て福利を祈ること有るに至る有り。然れども偶々禍いを獲。其の事未だ必ずしも然らずと雖も、然れども理に據れば、安んぞ此の禍いを招かざることを得ん。

冬至與諸友賀。先生不出。云有司法服慰乃出。
【読み】
冬至に諸友と與に賀す。先生出ず。云う、有司の法服慰して乃ち出づ、と。

子夏易雖非卜商作、必非杜子夏所能爲。必得於師傳也。
【読み】
子夏易は卜商の作に非ずと雖も、必ず杜子夏が能くする所に非ず。必ず師傳を得るならん。

易因爻象論變化、因變化論神、因神論人、因人論德行。大體通論易道、而終於默而成之、不言而信、存乎德行。
【読み】
易は爻象に因りて變化を論じ、變化に因りて神を論じ、神に因りて人を論じ、人に因りて德行を論ず。大體易道を通論して、默して之を成し、言わずして信あること、德行に存すというに終う。

復者反本也。本有而去之。今來復。乃見天地之心也。乃天理也。此賢人之事也。
【読み】
復は本に反るなり。本有って之を去る。今來り復る。乃ち天地の心を見るなり。乃ち天理なり。此れ賢人の事なり。

惟聖罔念作狂、如周官六德之聖。通明之謂也。
【読み】
惟れ聖も念うこと罔きときは狂と作るというは、周官六德の聖の如し。通明の謂なり。

徽柔懿恭、四事也。徽懿皆美也。懿、美中似有寬裕意。研其意味乃得之。若淵亦深也。淵則深中有奧意。
【読み】
徽柔懿恭は、四事なり。徽懿は皆美なり。懿は、美の中に寬裕の意有るに似れり。其の意味を研いて乃ち之を得。淵の若きも亦深し。淵は則ち深き中に奧意有り。

周禮不全是周公之禮法、亦有後世隨時添入者、亦有漢儒撰入者。如呂刑・文侯之命、通謂之周書。
【読み】
周禮は全くは是れ周公の禮法にあらず、亦後世時に隨いて添え入る者有り、亦漢儒撰し入る者有り。呂刑・文侯の命、通じて之を周書と謂うが如し。

學者有所得、不必在談經論道閒。當於行事動容周旋中禮得之。
【読み】
學者得る所有るは、必ずしも經を談じ道を論ずるの閒に在らず。當に行事に於て動容周旋禮に中りて之を得るべし。

學者不學聖人則已。欲學之、須是熟玩聖人氣象。不可止於名上理會。如是、只是講論文字。
【読み】
學者は聖人を學ばずんば則ち已まん。之を學ばんと欲せば、須く是れ聖人の氣象を熟玩すべし。止名の上に於て理會す可からず。是の如きは、只是れ文字を講論するのみ。

易學、後來曾子・子夏學得到上面也。
【読み】
易學は、後來曾子・子夏學び得て煞だ上面に到る。

君實近年病漸較、放得下也。
【読み】
君實近年病漸く較[い]えて、煞だ放ち得下す。

致知在格物、格、至也。窮理而至於物、則物理盡。
【読み】
知を致むるは物に格るに在りとは、格は、至るなり。理を窮めて物に至れば、則ち物理盡く。

先生曰、司馬遷爲近古。書中多有前人格言。如作紀本尙書。但其閒有曉不得書意、有錯用却處。嘉仲問、項籍作紀、如何。曰、紀只是有天下方可作。又問、班固嘗議遷之失、如何。曰、後人議前人固甚易。
【読み】
先生曰く、司馬遷は古に近しとす。書中多くは前人の格言有り。紀を作るが如きは尙書に本づけり。但其の閒に書の意を曉り得ざること有り、錯りて用却する處有り、と。嘉仲問う、項籍紀を作るは、如何、と。曰く、紀は只是れ天下を有たば方に作る可し、と。又問う、班固嘗て遷の失を議するは、如何、と。曰く、後人前人を議すること固に甚だ易し、と。

天下寧無魏公之忠亮、而不可無忠臣之義。昔事建成而今事太宗、可乎。
【読み】
天下寧ろ魏公の忠亮無くとも、而れども忠臣の義無くんばある可からず。昔建成に事えて今太宗に事うるは、可ならんや。

薛公言、黥布出上策、則關東非漢有、非也。使出上策、亦敗。
【読み】
薛公が言く、黥布上策を出さば、則ち關東は漢の有に非じとは、非なり。上策を出さしむとも、亦敗れん。

趙襄子姊爲代國夫人。襄子旣殺代王、將奪其國。夫人距戰、是也。身爲代國夫人、社稷無主、獨當其任。義不可棄社稷以與弟、則戰而殺之、非姊殺弟也、代國夫人殺賊也。
【読み】
趙襄子が姊は代國の夫人爲り。襄子旣に代王を殺して、將に其の國を奪わんとす。夫人距[ふせ]ぎ戰うは、是なり。身代の國夫人と爲りて、社稷主無くんば、獨り其の任に當る。義社稷を棄てて以て弟に與う可からざるときは、則ち戰って之を殺すとも、姊弟を殺すに非ず、代國の夫人賊を殺すなり。

陳寔見張讓、是故舊、見之可也。不然則非矣。此所謂太丘道廣。
【読み】
陳寔[ちんしょく]張讓に見ゆるは、是れ故舊ならば、之に見ゆること可なり。然らずんば則ち非なり。此れ所謂太丘道廣きなり。

唐之有天下數百年、自是無綱紀。太宗・肅宗皆簒也。更有甚君臣父子。其妻則取之不正。又妻殺其夫、簒其位、無不至也。若太宗、言以功取天下、此尤不可。最啓僭奪之端、其惡大。是殺兄簒位、又取元吉之妻。後世以爲聖明之主、不可會也。太宗與建成、史所書却是也。肅宗則分明是乘危而簒。若是、則今後父有事、安得使其子。
【読み】
唐の天下を有つこと數百年、自づから是れ綱紀無し。太宗・肅宗皆簒えばなり。更に甚の君臣父子か有らん。其の妻は則ち之を取ること正しからず。又妻其の夫を殺し、其の位を簒い、至らずということ無し。若し太宗、功を以て天下を取ると言わば、此れ尤も不可なり。最も僭奪の端を啓いて、其の惡大なり。是れ兄を殺して位を簒い、又元吉の妻を取る。後世以て聖明の主とすることは、會す可からず。太宗と建成と、史の書す所は却って是なり。肅宗は則ち分明に是れ危に乘じて簒えり。是の若くならば、則ち今より後父事有るとも、安んぞ其の子を使うことを得ん。

新書且未說義中否、且如與小人說能亦有主(徐本・呂本主作至。)言。然只是一箇氣象。今日新書讀之、便有一箇支離氣象。(疑有誤字。)
【読み】
新書は且未だ義中を說かざるや否や。且小人と說くが如きも能く亦主(徐本・呂本主を至に作る。)言有り。然れども只是れ一箇の氣象。今日新書之を讀むに、便ち一箇支離の氣象有り。(疑うらくは誤字有らん。)

觀太學諸生數千人、今日之學、要之亦無有自信者。如遊酢・楊時等二三人遊其閒、諸人遂爲之警動、敬而遠之。
【読み】
太學の諸生を觀るに數千人、今日の學、之を要するに亦自ら信ずる者有ること無し。遊酢・楊時等二三人の如き其の閒に遊べば、諸人遂に之が爲に警動して、敬して之を遠ざく。

先生自少時未嘗乘轎。頃在蜀、與二使者遊二峽。使者相强乘轎、不可。詰其故。語之曰、某不忍乘。分明以人代畜。若疾病及泥濘、則不得已也。二使者亦將不乘。某語之曰、使者安可不乘。旣至、留題壁閒。先生曰、毋書某名。詰其故。曰、以使者與一閒人遊、若錚客。當時竟不乘轎、亦不留名。
【読み】
先生少き時自り未だ嘗て轎に乘らず。頃[このごろ]蜀に在って、二使者と二峽に遊ぶ。使者相强いて轎に乘らしむるに、可[き]かず。其の故を詰[なじ]る。之に語って曰く、某乘るに忍びず。分明に人を以て畜に代う。疾病及び泥濘の若きは、則ち已むことを得ざればなり、と。二使者亦將に乘らず。某之に語って曰く、使者安んぞ乘らざる可けん、と。旣に至って、題を壁閒に留む。先生曰く、某の名を書すこと毋かれ、と。其の故を詰る。曰く、使者を以て一閒人と遊ぶは、客を錚するが若し、と。當時竟に轎に乘らず、亦名を留めず。

村酒肆、要之蠹米麥、聚閒人、妨農工、致詞訟、藏賊盜、州縣極有害。
【読み】
村の酒肆は、之を要するに米麥を蠹[そこな]い、閒人を聚め、農工を妨げ、詞訟を致し、賊盜を藏して、州縣極めて害有り。

正叔謂、子厚在禮院所定龍女衣冠、使依封號夫人品秩爲準。正叔語其非、此事合理會。夫大河之塞、莫非上天降鑒之靈、官吏勤職、士卒效命。彼龍、水獸也。何力焉。今最宜與他正人畜分、不宜使畜產而用人之衣服。
【読み】
正叔謂く、子厚禮院に在りて定むる所の龍女の衣冠、封號夫人の品秩に依りて準と爲さしむ。正叔其の非を語る、此の事合に理會すべし。夫れ大河の塞は、上天降鑒の靈、官吏職を勤め、士卒命を效すに非ずということ莫し。彼の龍は、水獸なり。何ぞ力めん。今最も宜しく他と人畜の分を正すべく、宜しく畜產をして人の衣服を用いしむべからず、と。

汝之多癭、以地氣壅滯。嘗有人以器雜貯州中諸處水、例皆重濁、至有水脚如膠者。食之安得無癭。治之之術、於中開鑿數道溝渠、洩地之氣、然後少可也。
【読み】
汝の癭[こぶ]多き、地氣壅滯するを以てなり。嘗て人器を以て州中諸處の水を雜え貯むること有り、例[おおむ]ね皆重濁にして、水脚膠の如くなる者有るに至る。之を食せば安んぞ癭無きことを得ん。之を治むるの術は、中に於て數道の溝渠を開鑿して、地の氣を洩らして、然して後に少しく可ならん。

介甫言、律是八分書、是他見得。又有學律者言、今之人析言破律。正叔謂、律便是此律否。但恐非也。學者以傳世來、未之或能改也。惟近年改了一字。舊言指斥乘輿言理惡者死。今改曰情理、亦非也。今有人極一場凶惡、無禮於上、猶不當死。須是反逆得死也邪。
【読み】
介甫が言く、律は是れ八分の書、是れ他見得せん、と。又律を學ぶ者有り言く、今の人言を析きて律を破る、と。正叔謂く、律は便ち是れ此の律なるや否や。但恐らくは非ならん。學者世に傳え來るを以て、未だ之を能く改むること或らず。惟近年一字を改め了わる。舊乘輿を指斥するを言って理惡しき者は死すと言う。今改めて情理と曰うは、亦非なり。今人有りて一場の凶惡を極め、上に禮無けれども、猶當に死すべからず。須く是れ反逆せば死を得るべけんや、と。

酒是麹糵爲之、以亂其氣。人苟持其志、則不到於亂。乃知飮酒須德持之、未有害也。志之爲力極可怪。
【読み】
酒は是れ麹糵[きくげつ]にて之を爲せば、以て其の氣を亂る。人苟も其の志を持せば、則ち亂に到らず。乃ち知る、酒を飮まば須く德之を持すべくして、未だ害有らざるなり。志の力爲る極めて怪しむ可し、と。

石炭穴中遺火、則連蔓火不絕。故有數百千年。今火山蓋爲山中時有火光。必是此箇火時發於山閒也。
【読み】
石炭穴中に火を遺すときは、則ち連蔓して火絕えず。故に數百千年有り。今の火山は蓋し山中時に火光有ることを爲す。必ず是は此れ箇の火時に山閒に發するならん。

昔聶覺唱不信鬼神之說。故身殺湫魚。其同行者有不食魚而病死者、有食魚亦不病不死者。只是其心打得過。或食而病、或不食而病。要之、山中陰森之氣、心懷憂思、以致動其氣血也。如太一湫魚、自唐以來、自不敢取、今當不可容。然亦只如此者、蓋自相食及亦有死傷也。若晉祠之魚則極多。必是呑魚之魚不衆也。伯淳嘗到其水濱、魚可俯拾。然衆人不取、以神爲畏、而特不殘及於此魚也。
【読み】
昔聶覺鬼神を信ぜざるの說を唱う。故に身ら湫の魚を殺す。其の同行の者魚を食せずして病死する者有り、魚を食して亦病まず死せざる者有り。只是れ其の心打し得過ぎればなり。或は食して病み、或は食せずして病む。之を要するに、山中陰森の氣、心に憂思を懷い、其の氣血を動かすことを致すを以てなり。太一湫の魚の如き、唐自り以來、自ら敢えて取らざるは、今當に容る可からず。然れども亦只此の如き者、蓋し自ら相食し及び亦死傷すること有り。晉祠の魚の若きは則ち極めて多し。必ず是れ魚を呑む魚衆からじ。伯淳嘗て其の水濱に到るに、魚俯して拾う可し。然れども衆人取らず、神を以て畏るることを爲して、特に此の魚を殘[そこ]ない及ぼさざるなり。

今人家買乳婢、亦多有不得已者。或不能自乳、須著使人。然食己子而殺人之子、不是道理。必不得已、用二乳而食二子、我之子、又足備他虞。或乳母病且死、則不能爲害。或以勢要二人、又不更爲己子而殺人子。要之只是有所費。若不幸致誤其子、害孰大焉。
【読み】
今の人家乳婢を買うは、亦多く已むことを得ざる者有り。或は自ら乳すること能わずんば、須く人をしむることを著すべし。然れども己が子を食[やしな]って人の子を殺すは、是れ道理にあらず。必ず已むことを得ずんば、二乳を用[もっ]て二子を食わば、我が子も、又他虞に備うるに足れり。或は乳母病み且つ死すとも、則ち害を爲すこと能わず。或は勢を以て二人を要せば、又更に己が子の爲にせずして人の子を殺さん。之を要せば只是れ費す所有るのみ。若し不幸にして其の子を誤つことを致さば、害孰れか大ならん。

今人居覆載中、却不知天地、在照臨之内、却不理會得日月。此冥然而行者也。
【読み】
今の人覆載の中に居て、却って天地を知らず、照臨の内に在りて、却って日月を理會し得ず。此れ冥然として行く者なり。

凡人有斗筲之量、有鍾鼎之量、有釜斛之量。江海亦大矣。然尙有限。惟聖人之量與天地竝。故至多不盈、至少不虛。凡人爲器量所拘、到滿後自然形見。本朝向敏中號有度量。至作相、却與張齊賢爭取一妻。爲其有十萬囊橐故也。王隨亦有德行。仁宗嘗稱王隨德行、李淑文章。至作相、蕭端公欲得作三路運使。及退、隨語室中人曰、何不以溺自照面看。做得三路運使無。皆量所動也。今人何嘗不動。只得綾寫一卷與便動。又干他身分甚事。
【読み】
凡そ人に斗筲の量有り、鍾鼎の量有り、釜斛の量有り。江海も亦大なり。然れども尙限り有り。惟聖人の量は天地と竝ぶ。故に多きに至れども盈てず、少なきに至れども虛しからず。凡そ人器量の爲に拘わられば、滿つる後に到って自然に形見す。本朝の向敏中度量有りと號す。相と作るに至って、却って張齊賢と爭って一妻を取る。其の十萬の囊橐[のうたく]有るが爲の故なり。王隨も亦德行有り。仁宗嘗て王隨の德行、李淑の文章と稱す。相と作るに至って、蕭端公三路の運使と作ることを得んことを欲す。退くに及んで、隨室中の人に語って曰く、何ぞ溺を以て自ら面を照らして看ざる。三路の運使と做り得る無[か]、と。皆量の動く所なり。今の人何ぞ嘗て動かざらん。只綾寫の一卷を得て與えば便ち動かん。又他の身分に干[かか]わること甚事ぞ。

程・蘇之姓傳於天下者不蕃、至於張・王・李・趙、雖其出不一、要之其姓蕃衍。此亦受姓之祖、其流之盛、固有定分也。
【読み】
程・蘇の姓天下に傳わる者蕃からず、張・王・李・趙に至っては、其の出ること一ならずと雖も、之を要するに其の姓蕃衍す。此れ亦姓を受くるの祖、其の流れの盛んなる、固に定分有ればなり。

日再中、只是新垣平詐言也。史冊實之、後世遂以爲誠然。如丁謂天書之類、當時人却未必全信、却是後世觀史者已信矣。
【読み】
日再び中すとは、只是れ新垣平が詐言なり。史冊之を實として、後世遂に以て誠に然りとす。丁謂天書の類の如き、當時の人却って未だ必ずしも全くは信ぜず、却って是れ後世史を觀る者已に信ず。

太行山千裏一塊、石更無閒。故於石上起峰。
【読み】
太行山は千裏一塊、石にして更に閒無し。故に石上に於て峰を起こす。

天下獨高處、無如河東上黨者。言上與天爲黨也。澤州北望有桑林村、蓋湯自爲犧牲處。湯十一遷、所居皆言亳。却似今言京師之比。
【読み】
天下獨り高き處は、河東上黨に如く者無し。言うこころは、上天と黨を爲す、と。澤州北望すれば桑林の村有り、蓋し湯自ら犧牲を爲す處ならん。湯の十一遷、居る所は皆亳[はく]と言う。却って今京師と言うの比[たぐい]に似れり。

佛畢竟不知性命。世之人相詆曰、爾安知性命、是果報知之。
【読み】
佛は畢竟性命を知らず。世の人相詆って曰く、爾安んぞ性命を知らん、是れ果報之を知らん、と。

問、古人所謂衣冠不正、無容止、爲身之恥。今學佛者反以爲幻妄。此誠爲理否。曰、只如一株樹、春華秋枯、乃是常理。若是常華、則無此理。却是妄也。今佛氏以死爲無常。有死則有常。無死却是無常。
【読み】
問う、古人の所謂衣冠正しからず、容止すること無きは、身に恥とす、と。今佛を學ぶ者反って以て幻妄とす。此れ誠に理とするや否や、と。曰く、只一株の樹、春華さき秋枯るるが如きは、乃ち是れ常理なり。若し是れ常に華さくときは、則ち此の理無し。却って是れ妄なり。今佛氏死を以て無常とす。死有るは則ち常有るなり。死無くば却って是れ常無きなり、と。

周茂叔謂、一部法華經只消一箇艮卦可了。
【読み】
周茂叔謂く、一部の法華經は只一箇の艮の卦を消[もち]いて了す可し、と。

要之、釋氏之學、他只是一箇自私奸黠、閉眉合眼、林閒石上自適而已。
【読み】
之を要すれば、釋氏の學は、他只是れ一箇の自私奸黠、眉を閉ぢ眼を合して、林閒石上に自適するのみ。

明言吾理、使學者曉然審其是非、始得。
【読み】
明らかに吾が理を言いて、學者をして曉然として其の是非を審らかにせしめば、始めて得ん。

釋氏之說、其歸欺詐。今在法、欺詐雖赦不原。爲其罪重也。及至釋氏、自古至今、欺詐天下、人莫不溺其說、而不自覺也。豈不謂之大惑耶。原釋祖只是一箇黠胡、亦能窺測因緣轉化。其始亦只似譬喩。其徒識卑、看得入於形器。故後來只去就上結果。其說始以世界爲幻妄、而謂有天宮、後亦以天爲幻、卒歸之無。佛有髮、而僧復毀形、佛有妻子舍之、而僧絕其類。若使人盡爲此、則老者何養、幼者何長。以至剪帛爲衲、夜食欲省、舉事皆反常、不近人情。至如夜食後睡、要敗陽氣。其意尤不美直如此。奈何不下。
【読み】
釋氏の說、其の歸欺詐す。今法に在りて、欺詐は赦すと雖も原[ゆる]さず。其の罪重きが爲なり。及び釋氏、古自り今に至るまで、天下を欺詐するに至っては、人其の說に溺れずということ莫くして、自ら覺らず。豈之を大惑を謂わざらんや。原[たづ]ぬるに釋祖は只是れ一箇の黠胡、亦能く因緣轉化を窺い測る。其の始めも亦只譬喩するに似れり。其徒識卑きは、形器に看得入る。故に後來只上に就いて果を結び去る。其の說始め世界を以て幻妄として、天宮有りと謂い、後に亦天を以て幻として、卒に之を無に歸す。佛髮有りて、僧復形を毀[さ]り、佛妻子有りて之を舍てて、僧其の類を絕つ。若し人をして盡く此を爲さしめば、則ち老者何ぞ養わん、幼者何ぞ長ぜん。以て帛を剪って衲[のう]と爲し、夜食省かんと欲するに至るまで、舉事皆常に反して、人情に近からず。夜食の後睡るが如きに至っては、陽氣を敗らんことを要す。其の意尤も美ならざること直に此の如し。奈何ぞ下さざらん。

大宗小宗圖子、六七年前被人將出。後來京師印却便是這本。
【読み】
大宗小宗の圖子、六七年前人に將出さるる。後來京師の印は却って便ち是れ這の本なり。


参考文献
『和刻本漢籍 二程全書』(中文出版社)
『二程集』(里仁書局)