二程全書卷之五十四  明道先生文

銘詩

顏樂亭銘(爲孔周翰作。)
【読み】
顏樂亭の銘(孔周翰の爲に作る。)

天之生民、是爲(一作惟。)物則。非學非師、孰覺孰識。
聖賢之分、古難其明。有孔之遇、有顏之
(一作其。)生。
聖以道化、賢以學行。萬世心目、破昏爲醒。
周爰闕里、惟顏舊止。巷汙以榛、井堙而圮。
郷閭蚩蚩、弗視弗履。有卓其誰、師門之嗣。
追古念今、有惻其心。良價善諭、發帑出金。
巷治以闢、井渫而深。淸泉澤物、佳木成陰。
載基載落、亭曰顏樂。昔人有心、予忖予度。
千載之上、顏惟
(一作爲。)孔學、百世之下、顏居孔作。
盛德彌光、風流日長。道之無疆、古今所常。
水不忍廢、地不忍荒。嗚呼正學、其何可忘。
【読み】
天の民を生ずる、是れ物の則を爲す(一に惟に作る。)。學に非ず師に非ずんば、孰か覺り孰か識らん。
聖賢の分、古より其の明らかなることを難しとす。孔の遇有り、顏の(一に其に作る。)生有り。
聖は道を以て化し、賢は學を以て行う。萬世の心目、昏を破って醒ますことをす。
周の爰の闕里、惟顏舊止まる。巷汙れて以て榛[しげ]り、井堙[ふさ]がって圮[やぶ]る。
郷閭蚩蚩[しし]として、視ず履まず。卓たる有るは其れ誰ぞ、師門の嗣。
古を追い今を念って、其の心を惻[いた]ましむること有り。良賈善く諭して、帑を發し金を出す。
巷治めて以て闢[ひら]き、井渫[さら]って深し。淸泉物を澤[うるお]し、佳木陰を成す。
載[すなわ]ち基し載ち落す、亭を顏樂と曰う。昔人心有り、予れ忖[はか]り予れ度る。
千載の上、顏、孔の學を惟い(一に爲に作る。)、百世の下、顏、孔の作すに居る。
盛德彌々光り、風流日に長し。道の疆り無き、古今常なる所。
水廢るに忍びず、地荒れるに忍びず。嗚呼正學、其れ何ぞ忘る可けん。

遊鄠縣山詩十二首(有序。)
【読み】
鄠縣山[こけんざん]に遊ぶ詩十二首(序有り。)

僕自幼時、已聞秦山多奇、占有扈者尤復秀出。常恨遊賞無便。嘉祐二年、始應舉得官。遂請于天官氏、願主簿書於是邑。謂(徐本謂作爲。)厭飫雲山、以償素志。今到官幾二年矣、中閒被符移奔走外幹者三居其二。其一則簿書期會、倉廥出入、固無暇息。惟白雲特在山面、最爲近邑。常乘閒兩至。其餘佳處、都未得往。變化初心、辜負泉石。五年二月初吉、聞貳車晁公來遊諸山。先是、晁公見約同往。會探吏失期。二日早、晁公以書見命。始知車騎已留草堂、走白邑。大夫張君、時民產有在山麓者、以罪沒官府。符方命量其租入之數。因請以往、鞭馬至山。而晁公已由高觀登紫閣、還憩下院、見待已久。遂奉陪西遊、經李氏五花莊、息駕池上、夜宿白雲精舍。詰旦、晁公西首。僕復竝山、東遊紫閣、登南山望仙掌、回抵高觀谷探石穴、窺石潭、因周視所定田、徜徉於花林水竹閒、夜止草堂。是晩、雨氣自西山來。始慮不得徧詣諸境。一霎遂霽。明旦、入太平谷、憩息於重雲下院。自入太平谷、山水益奇絕、殆非人境。石道甚巇、下視可悸。往往步亂石閒、入長嘯洞、過虎溪西南、下至重雲、轉西閣、訪鳳池、觀雲頂・淩霄・羅漢三峰、登東嶺、望大頂積雪、復東北來雲際下深澗。白石磷磷於水閒、水聲淸冷可愛。坐石掬水、戀戀不能去者久之、遂宿大定寺。凌晨、登上方、候日初上、西望藥山、北眺大頂。千峰萬巒、目極無際。下山緣東澗、渡橫橋、復憩於重雲下院、出谷、遊太平宮故基而歸。馬上率爾口語、往往成詩章、自入山至歸、凡四日、得長短詠共十二篇。姑存之、以誌遊覽之次第云。
【読み】
僕幼なりし時自り、已に聞く、秦山多く奇にして、有扈に占むる者尤も復秀出すと。常に恨むらくは遊賞便無きことを。嘉祐二年、始めて舉に應じて官を得。遂に天官氏に請いて、簿書を是の邑に主らんことを願う。雲山に厭飫して、以て素志を償わんと謂う(徐本謂を爲に作る。)。今官に到って幾ど二年、中閒符移されて外幹に奔走する者三其の二に居す。其の一は則ち簿書の期會、倉廥[そうかい]の出入、固に暇息無し。惟白雲特り山面に在って、最も邑に近しとす。常に閒に乘じて兩たび至る。其の餘の佳處は、都て未だ往くことを得ず。初心に變化し、泉石に辜負す。五年二月初吉、貳車晁公諸山に來り遊ぶことを聞く。是より先、晁公同じく往くことを約せらる。會々吏を探して期を失す。二日早に、晁公書を以て命ぜらる。始めて知る、車騎已に草堂に留まり、白邑に走ることを。大夫張君、時に民產山麓に在る者有り、罪を以て官府に沒す。符方に命じて其の租入の數を量らしむ。因りて請いて以て往いて、馬に鞭うって山に至る。而して晁公已に高觀由り紫閣に登り、還って下院に憩いて、待たるること已に久し。遂に陪を奉って西遊して、李氏の五花莊を經、駕を池上に息い、夜白雲精舍に宿す。詰旦、晁公西首す。僕復山に竝[そ]って、東に紫閣に遊び、南山に登り仙掌を望み、回って高觀谷に抵[いた]って石穴を探り、石潭を窺い、因りて定むる所の田を周視し、花林水竹の閒に徜徉[しょうよう]して、夜草堂に止まる。是の晩、雨氣西山自り來る。始めて慮る、徧く諸境に詣ることを得ざらんことを。一霎[しょう]し遂に霽[は]れる。明旦、太平谷に入りて、重雲の下院に憩息す。太平谷に入りて自り、山水益々奇絕にして、殆ど人境に非ず。石道甚だ巇[けわ]しくして、下視悸[おそ]る可し。往往に亂石の閒に步して、長嘯洞に入り、虎溪の西南を過りて、下りて重雲に至り、西閣に轉じ、鳳池を訪い、雲頂・淩霄・羅漢の三峰を觀、東嶺に登って、大頂の積雪を望み、復東北より雲際に來りて深澗に下る。白石水閒に磷磷として、水聲淸冷なること愛す可し。石に坐し水を掬って、戀戀として去ること能わざる者久しくして、遂に大定寺に宿す。凌晨、上方に登り、日の初めて上るを候[ま]って、西のかた藥山を望み、北のかた大頂を眺む。千峰萬巒[らん]、目無際を極む。山を下って東澗に緣り、橫橋を渡って、復重雲の下院に憩い、谷を出て、太平宮の故基に遊んで歸る。馬上に率爾として口語して、往往に詩章を成すこと、山に入りて自り歸るに至るまで、凡そ四日、長短の詠共に十二篇を得。姑く之を存して、以て遊覽の次第を誌すと云う。

白雲道中

吏身拘絆同疏屬。俗眼(徐本眼作服。)塵昏甚瞽矇。辜負終南好泉石、一年一度到山中。
【読み】
吏身拘絆せられて疏屬に同じ。俗眼(徐本眼を服に作る。)塵昏甚だ瞽矇。終南の好泉石に辜負して、一年一度山中に到る。

馬上偶成

身勞無補公家事、心冗空令學業衰。世路嶮巇功業遠。未能歸去不男兒。
【読み】
身勞して公家の事に補い無く、心冗して空しく學業をして衰えしむ。世路の嶮巇[けんき]功業遠し。未だ歸り去ること能わずんば男兒ならず。

遊紫閣山
【読み】
紫閣山に遊ぶ

仙掌遠相招、縈紆渡石橋。暝雲生澗底、寒雨下山腰。
樹色千層亂、天形一罅遙。吏紛難久駐、回首羨漁樵。
【読み】
仙掌遠く相招く、縈紆[えいう]として石橋を渡る。暝雲澗底に生じ、寒雨山腰を下る。
樹色千層亂れ、天形一罅[いっか]遙かなり。吏紛久しく駐[とど]まり難し、首を回して漁樵を羨む。

獼猴(山僧云、晏元獻公來、獼猴滿山。)
【読み】
獼猴(山僧云く、晏元獻公來るとき、獼猴山に滿つ、と。)

聞說獼猴性頗靈。相車來便滿山迎。鞭羸到此何曾見。始覺毛蟲更世情。
【読み】
聞說[き]くならく、獼猴性頗る靈なり、と。相車來るとき便ち山に滿ちて迎う。鞭羸[つか]れて此に到るも何ぞ曾て見ん。始めて覺う毛蟲更に世情なることを。

高觀谷

轟雷疊鼓響前峰。來自彤雲翠藹中。洞壑積陰成氣象、鬼神憑暗弄威風。
噴崖雨露千尋濕、落石珠璣萬顆紅。縱有虯龍難駐足。還應不是旱時功。
【読み】
轟雷疊鼓前峰に響く。來ること彤雲[とううん]翠藹[すいあい]の中自りす。洞壑陰を積んで氣象を成し、鬼神暗に憑[み]ちて威風を弄す。
崖に噴く雨露千尋濕い、石を落とす珠璣萬顆紅なり。縱[たと]い虯龍[きゅうりょう]有りとも足を駐め難し。還って是れ旱時の功あらざる應し。

草堂(寺在竹林之心。其竹蓋將十頃。)
【読み】
草堂(寺は竹林の心に在り。其の竹蓋し將に十頃にならんとす。)

參差臺殿綠雲中、四面篔簹一徑通。曾讀華陽眞誥上、神仙居在碧琳宮。
【読み】
參差たる臺殿綠雲の中、四面の篔簹[うんとう]一徑通ず。曾て讀む華陽眞誥の上、神仙の居は碧琳宮に在り。

長嘯巖中得冰、以石敲餐甚佳
【読み】
長嘯巖中に冰を得、石を以て敲き餐するに甚だ佳なり

車倦人煩渴思長。巖中冰片玉成方。老仙笑我塵勞久、乞與雲膏洗俗腸。
【読み】
車倦み人煩わして渴思長し。巖中の冰片玉方を成す。老仙我が塵勞の久しきを笑って、雲膏を乞與して俗腸を洗わしむ。

遊重雲
【読み】
重雲に遊ぶ

久厭塵籠萬慮昏。喜尋泉石暫淸神。目勞足倦深山裏。猶勝低眉對俗人。
【読み】
久しく厭う塵籠萬慮昏せることを。喜ぶらくは泉石を尋ねて暫く神を淸することを。目勞し足倦む深山の裏。猶眉を低[た]れて俗人に對するに勝れり。

長嘯洞北回望大頂如列屛幛。比到山前却不見。蓋爲仙掌所蔽
【読み】
長嘯洞の北より大頂を回し望めば屛幛を列ぬるが如し。山前に到るに比[およ]んで却って見えず。蓋し仙掌の爲に蔽わるればなり

行盡重雲幾曲山。回頭方見碧峰寒。天將仙掌都遮斷。元恐塵中俗眼看。
【読み】
行盡くす重雲幾曲の山。頭を回して方に見れば碧峰寒し。天仙掌を將て都て遮斷す。元恐る塵中俗眼の看ることを。

凌霄三峰

長嘯巖東古寺前、三峰相倚勢相連。偶逢雲靜得見日。若有路通須近天。
陰吹響雷生谷底、老松如箸見崖顚。結根不得居平地、猶與蓮花遠比肩。
【読み】
長嘯巖の東古寺の前、三峰相倚って勢相連なる。偶々雲靜かなるに逢って日を見ることを得。若し路通ずること有らば須く天に近づくべし。
陰吹雷を響して谷底に生じ、老松箸の如くにして崖顚に見る。結根平地に居することを得ず、猶蓮花と遠く肩を比[なら]ぶ。

雲際山

南藥東邊白閣西、登臨身共白雲齊。上方頂上朝來望、陡覺群峰四面低。
【読み】
南藥東邊白閣の西、登臨すれば身白雲と共に齊し。上方頂上朝來望めば、陡[にわか]に覺う群峰四面に低るることを。

下山偶成
【読み】
山より下って偶々成る

襟裾三日絕塵埃。欲上籃輿首重廻。不是吾儒本經濟、等閑爭肯出山來。
【読み】
襟裾三日塵埃を絕つ。籃輿に上らんと欲して首重ねて廻す。是れ吾が儒經濟を本とするにあらずんば、等閑に爭って肯えて山を出ん。

是遊也、得小松黃楊各四本、植於公署之西窗、戲作五絕、呈邑令張寺丞(興(徐本興作乘。)宗。)
【読み】
是の遊や、小松黃楊各々四本を得て、公署の西窗に植え、戲れに五絕を作って、邑令張寺丞(興(徐本興を乘に作る。)宗。)に呈す

中春時節百花明、何必繁弦列管聲。借問す近郊行樂の地、潢(一作璜。)溪山水照人淸。
【読み】
中春の時節百花明なり、何ぞ必とせん繁弦列管の聲。借問す近郊行樂の地、潢(一に璜に作る。)溪の山水人を照らして淸し。

心閑不爲管弦樂。道勝豈因名利榮。莫謂冗官難自適。暇時還得肆遊行。
【読み】
心閑にして管弦の樂をせず。道勝して豈名利の榮に因らんや。謂うこと莫し冗官自適し難しと。暇ある時還って肆に遊行することを得ん。

功名不是關心事、富貴由來自有天。任是榷酤虧課利、不過抽得俸中錢。
【読み】
功名是れ心事に關らず、富貴由り來ること自づから天に有り。任是[たと]い榷酤[かっこ]課利を虧くとも、俸中の錢を抽[ひ]き得るに過ぎず。

有生得遇唐虞聖、爲政仍逢守令賢。縱得無能閑主簿、嬉遊不負豔陽天。
【読み】
生まるること有りて唐虞の聖に遇うことを得、政を爲め仍りて守令の賢に逢う。縱[たと]い無能の閑主簿を得るとも、嬉遊豔陽の天に負[そむ]かず。

獄訟已聞冤滯雪、田農還喜土膏匀。只應野叟猶相笑、不與溪山作主人。
【読み】
獄訟已に聞いて冤滯雪ぐ、田農還って喜ぶ土膏匀しきことを。只野叟猶相笑う應し、溪山に與して主人と作らざることを。

偶成(時作鄠縣主簿。)
【読み】
偶成(時に鄠縣の主簿と作る。)

雲淡風輕近午天、望花隨柳過前川。旁人不識予心樂、將謂偸閑學少年。
【読み】
雲淡く風輕し近午の天、花を望み柳に隨って前川を過ぐ。旁人予が心の樂しみを識らず、將に閑を偸[ぬす]んで少年を學ぶと謂わん。

郊行卽事

芳原綠野恣行時、春入遙山碧四圍。興逐亂紅穿柳巷、困臨流水坐苔磯。
莫辭盞酒十分醉、祗恐風花一片飛。況是淸明好天氣、不妨遊衍莫忘歸
【読み】
芳原綠野恣[ほしいまま]に行く時、春遙山に入りて碧四[よも]に圍む。興すれば亂紅を逐って柳巷を穿ち、困すれば流水に臨んで苔磯に坐す。
辭すること莫し盞酒[さんしゅ]十分の醉、祗[まさ]に恐る風花一片飛ぶことを。況んや是れ淸明好天氣、遊衍を妨げず歸るを忘るること莫し

下白徑嶺、先寄孔周翰郎中
【読み】
白徑嶺を下って、先づ孔周翰郎中に寄す

驟經微雨過芳郊、轉覺長河氣象豪。歸騎已登吳坂峻、飛雲猶認華山高。
門前岐路通西國、城上樓臺壓巨濤。欲問甘棠舊風化、主人邀客醉春
(一作香。)醪。
【読み】
驟[にわか]に微雨の芳郊に過るを經、轉[うた]た覺う長河の氣象豪なることを。歸騎已に吳坂の峻きに登り、飛雲猶認む華山の高きことを。
門前の岐路西國に通じ、城上の樓臺巨濤を壓[お]す。甘棠の舊風化を問わんと欲すれば、主人客を邀[むか]えて春(一に香に作る。)醪[ろう]に醉う。

春日江上

新蒲嫩柳滿汀洲、春入漁舟一棹浮。雲幕倒遮天外日、風帘輕颺竹閒樓。
望窮遠岫微茫見、興逐歸槎汗漫遊。不畏蛟螭起波浪、却憐淸泚向東流。
【読み】
新蒲嫩[どん]柳汀洲に滿つ、春漁舟に入りて一棹浮かぶ。雲幕倒[さかしま]に遮る天外の日、風帘[ふうれん]輕く颺[あ]がる竹閒の樓。
望んで遠岫[えんしゅう]を窮むれば微茫として見え、興すれば歸槎を逐って汗漫として遊ぶ。畏れず蛟螭[こうち]の波浪を起こすことを、却って憐れむ淸泚[せいせい]として東に向かって流るることを。

題淮南寺
【読み】
淮南寺に題す

南去北來休便休、白蘋吹盡楚江秋。道人不是悲秋客、一任晩山相對愁。
【読み】
南去北來休して便ち休す、白蘋[ひん]吹き盡くす楚江の秋。道人は是れ秋を悲しむ客にあらず、晩山に一任して相對して愁う。

桃花菊

仙人紺髪粉紅腮、近自武陵源上來(此花近歲方有。)。不似常花羞晩發、故將春色待秋開。
存留金蕊天偏與、漏泄春香衆始猜。兼得佳名共堅節、曉霜還獨對樓臺。
【読み】
仙人の紺髪粉紅の腮[あご]、近ごろ武陵源上自り來る(此の花近歲方に有り。)。常花の晩く發くことを羞づるに似ず、故[ことさら]に春色を將て秋を待って開く。
金蕊[きんずい]を存留して天偏に與え、春香を漏泄して衆始めて猜う。佳名と堅節とを兼ね得て、曉霜還って獨り樓臺に對す。

早寒

一夜威霜特地嚴、朝來寒氣入書簾。乍須火暖親爐獸、初覺冰澌結硯蟾。
敗葉卷
(徐本卷作捲。)風輕簌簌、遠峰經曉(徐本曉作燒。)靜尖尖。出門未要貂狐燠、且着輕裘次第添。
【読み】
一夜威霜特地に嚴なり、朝來の寒氣書簾に入る。乍[むし]ろ須く火暖爐獸に親しむべし、初めて覺う冰澌[ひょうし]硯蟾[けんせん]に結ぶことを。
敗葉風に卷(徐本卷を捲に作る。)いて輕くして簌簌[そくそく]、遠峰曉(徐本曉を燒に作る。)を經て靜かにして尖尖。門を出て未だ要せず貂狐の燠[あたた]かなることを、且輕裘を着て次第に添う。

新晴野步二首

靑帝方成萬物春、如何淫雨害芳晨。乞求共指雲閒日、悔恨輕嫌陌上塵。
消盡風威猶料峭、放閑山色已嶙峋。燕遊莫道王孫樂、亦有羲皇更上人。
【読み】
靑帝方に成す萬物の春、如何ぞ淫雨芳晨を害する。乞い求めて共に指す雲閒の日、悔い恨んで輕く嫌う陌[はく]上の塵。
風威を消盡すれども猶料峭[りょうしょう]、山色を放閑すれば已に嶙峋[りんしゅん]。燕遊道うこと莫かれ王孫樂しむと、亦羲皇更上の人有り。

陰曀消除六幕寬、嬉遊何事我心閑。鳥聲人意融和候、草色花芳杳藹閒。
水底斷霞光出岸、雲頭斜日影銜山。緣情若論詩家興、却恐騷人合厚顏。
【読み】
陰曀[いんえい]消除して六幕寬し、嬉遊何事ぞ我が心閑なる。鳥聲き人意融和の候、草色花芳杳藹[ようあい]の閒。
水底の斷霞光岸を出て、雲頭の斜日影山を銜[ふく]む。緣情若し詩家の興を論ぜば、却って恐る騷人厚顏なる合きことを。

中秋月

雲靜好風吹、淸光溢四垂。金行方盛日、陰魄正中時。
髣髴窺瑤闕、分明露桂枝。遴英同醉賞、誰復嘆官羈。
【読み】
雲靜かにして好風吹く、淸光四垂に溢る。金行方に盛んなる日、陰魄正に中する時。
髣髴として瑤闕を窺い、分明に桂枝を露す。英を遴[むさぼ]って同じく醉賞す、誰か復官羈を嘆ぜん。

盆荷二首

庭下竹靑靑、盆(一作圓。)荷水面平。誰言無遠趣、自覺有餘淸。
影倒假山翠、波光朝日明。漣漪尤綠淨、涼吹夜來生。
【読み】
庭下の竹靑靑として、盆(一に圓に作る。)荷水面に平らかなり。誰か言う遠趣無しと、自ら覺う餘淸有ることを。
影倒して假山翠[みどり]に、波光って朝日明らかなり。漣漪[れんい]尤も綠淨なり、涼吹夜來生ず。

衡茅岑寂掩柴關、庭下蕭疏竹數竿。狹地難容大池沼、淺盆聊作小波瀾。
澄澄皓月供宵影、瑟瑟涼風助曉寒。不校蹄涔與滄海、未知淸興有誰安。
【読み】
衡茅岑寂として柴關を掩う、庭下蕭疏たり竹數竿。狹地大池沼を容れ難し、淺盆小波瀾を作す。
澄澄たる皓月[こうげつ]宵影を供し、瑟瑟たる涼風曉寒を助く。蹄涔[ていしん]と滄海とを校べず、未だ知らず淸興誰に有って安んぜん。

象戲

大都博奕皆戲劇、象戲翻能學用兵。車馬尙存周戰法、偏裨兼備漢官名。
中軍八面將軍重、河外尖斜
(徐本尖斜作斜尖。)步卒輕。却凭紋楸聊自笑、雄如劉・項亦閑爭。
【読み】
大都の博奕皆戲劇、象戲翻[かえ]って能く兵を用うることを學ぶ。車馬尙存す周の戰法、偏裨兼ね備う漢の官名。
中軍八面將軍重く、河外尖斜(徐本尖斜を斜尖に作る。)步卒輕し。却って紋楸[もんしゅう]に凭[よ]って自ら笑う、雄劉・項の如きも亦閑爭なることを。

九日訪張子直、承出看花。戲書學舍五首
【読み】
九日張子直を訪うに、出でて花を看ると承る。戲れに學舍に書す五首

平昔邀相見。過門又不逢。貪隨看花伴。應笑我龍鍾。
【読み】
平昔邀[もと]めて相見んとす。門を過れども又逢わず。貪って花を看る伴に隨わんとす。笑う應し我が龍鍾たることを。

須知春色醲於酒。醉得遊人意自狂。直使華顚老公子、看花爭入少年場。
【読み】
須く知るべし春色酒より醲きことを。醉い得て遊人意自づから狂す。直使[たと]い華顚の老公子も、花を看れば爭って少年場に入らん。

貪花自是少年事。沈酒定嫌醒者非。顧我疏慵老山野。却騎歸馬背斜暉。
【読み】
花を貪るは自づから是れ少年の事。酒に沈んでは定めて醒者の非を嫌わん。我を顧みるに疏慵にして山野に老う。却って歸馬に騎って斜暉[しゃき]を背にせん。

下馬問老僕、言公賞花去。只在近園中。叢深不知處。
【読み】
馬より下りて老僕に問えば、言う公花を賞して去ると。只近園の中に在らん。叢深くして處を知らず。

桃李飄零杏子靑、滿城車馬響春霆。就中得意張公子、十日花前醉不醒。
【読み】
桃李飄零して杏子靑し、滿城の車馬春霆に響く。中に就いて意を得る張公子、十日花前醉って醒めず。

戲題

曾是去年賞春日。春光過了又逡巡。却是去年春自去。我心依舊去年春。
【読み】
曾て是れ去年春日を賞す。春光過ぎて又逡巡す。却って是れ去年の春自づから去る。我が心舊に依る去年の春。

贈王求(一作永。)甫鐵如意
【読み】
王求(一に永に作る。)甫に鐵如意を贈る

妖言莫信傳張惡。虛氣休將碎唾壺。借問閑窗靜抓背、何如爭勝擊珊瑚。
【読み】
妖言張惡を傳うることを信ずること莫かれ。虛氣唾壺を碎くことを將うることを休[や]めよ。借問す閑窗靜かに背を抓[か]くとも、何如ぞ爭って珊瑚を擊つに勝えん。

和家君早寒之什
【読み】
家君早寒の什を和す

滿地淸霜結曉寒。平明飛霰灑柴關。乍憑酒力溫肌骨。陡覺風威著(徐本著作着。)面顏。
閭裏相呼泥北戶、牛羊收牧下前山。急須趁日藏薪炭。凍後高枝不易攀。
【読み】
滿地の淸霜曉寒に結ぶ。平明飛霰柴關に灑[そそ]ぐ。乍[まさ]に酒力に憑[よ]って肌骨を溫む。陡[にわか]に覺う風威面顏に著(徐本著を着に作る。)くことを。
閭裏相呼んで北戶を泥[ぬ]り、牛羊收牧して前山を下る。急に須く日を趁[お]って薪炭を藏むべし。凍後高枝攀[ひ]くこと易からず。

和詠草
【読み】
草を詠ずるを和す

漸覺東皇意思匀、陳根初動夜來新。忽驚平地有輕綠、已蓋六街無舊塵。
莫爲枯榮吟野草
(恐當作火。)、且憐愁醉柅(舊作枕。)香輪。詩人空怨王孫遠、極目萋萋又一春。
【読み】
漸く覺う東皇意思匀しきことを、陳根初めて動いて夜來新たなり。忽ち驚く平地に輕綠有ることを、已に六街に蓋って舊塵無し。
枯榮の爲に野草(恐らくは當に火に作るべし。)を吟ずること莫かれ、且つ憐れむ愁醉香輪を柅[とど](舊枕に作る。)むることを。詩人空しく怨む王孫遠きことを、目を極むれば萋萋として又一春。

和邵堯夫打乖吟二首
【読み】
邵堯夫打乖の吟を和す二首

打乖非是要安身、道大方能混世塵。陋巷一生顏氏樂、淸風千古伯夷貧。
客求墨妙多攜卷、天爲詩豪剩借春。儘把笑談親俗子、德容猶足慰郷人。
【読み】
打乖は是れ身を安んずることを要するに非ず、道大にして方に能く世塵に混ず。陋巷一生顏氏の樂しみ、淸風千古伯夷の貧しき。
客墨妙を求めて多く卷を攜え、天詩豪の爲に剩[さか]んに春を借す。儘く笑談を把って俗子に親しむ、德容猶郷人を慰するに足れり。

聖賢事業本經綸、肯爲巢由繼後塵。三幣未回伊尹志、萬鍾難換子輿貧。
且因經世藏千古、已占西軒度十春。時止時行皆有命、先生不是打乖人。
【読み】
聖賢の事業は經綸を本とす、肯えて巢由の爲に後塵を繼がんや。三幣未だ回らず伊尹の志、萬鍾換え難し子輿の貧。
且經世に因って千古を藏し、已に西軒を占って十春を度る。時に止め時に行わるるは皆命有り、先生は是れ打乖の人にあらず。

和堯夫首尾吟
【読み】
堯夫首尾の吟を和す

先生非是愛吟詩、爲要形容至樂時。醉裏乾坤都寓物、閑來風月更輸誰。
死生有命人何與、消長隨時我不悲。直到希夷無事處、先生非是愛吟詩。
【読み】
先生は是れ吟詩を愛するに非ず、爲に至樂の時を形容せんことを要す。醉裏の乾坤都て物に寓す、閑來の風月更に誰を輸[いた]さん。
死生命有り人何ぞ與らん、消長時に隨って我れ悲しまず。直に希夷無事の處に到る、先生は是れ吟詩を愛するに非ず。

和堯夫西街之什二首
【読み】
堯夫西街の什を和す二首

先生相與賞西街、小子親攜几杖來。行次每容參劇論、坐隅還許侍餘杯。
檻前流水心同樂、林外靑山眼重開。時泰身閑難兩得、直須乘興數追陪。
【読み】
先生相與に西街を賞す、小子親ら几杖を攜え來る。行次每に容[ゆる]す劇論に參[あづか]ることを、坐隅還って許す餘杯に侍することを。
檻前の流水心同じく樂しみ、林外の靑山眼重ねて開く。時泰に身閑なること兩ながら得難し、直に須く興に乘じて數々追陪すべし。

先生高蹈隱西街、風月猶牽賦詠才。暫到鄰家賞池館、便將佳句寫瓊瑰。
壯圖已讓心先快、劇韻仍降字占挼。只有一條誇大甚、水邊曾未兩三杯。
【読み】
先生高く蹈んで西街に隱る、風月猶牽く賦詠の才。暫く鄰家に到って池館を賞し、便ち佳句を將て瓊瑰を寫す。
壯圖已に讓って心先づ快く、劇韻仍[しばしば]降って字占挼[も]む。只一條誇大なること甚だしき有り、水邊曾て未だ兩三杯ならず。

遊月陂
【読み】
月陂に遊ぶ

月陂堤上四徘徊、北有中天百尺臺。萬物已隨秋氣改、一樽聊爲晩涼開。
水心雲影閑相照、林下泉聲靜自來。世事無端何足計、但逢佳日約重陪。
【読み】
月陂堤上四[よも]に徘徊す、北に中天百尺の臺有り。萬物已に秋氣に隨って改り、一樽晩涼の爲に開く。
水心の雲影閑に相照らし、林下の泉聲靜かに自ら來る。世事端無し何ぞ計るに足らん、但佳日に逢って重陪を約す。

秋日偶成二首

寥寥天氣已高秋、更倚凌虛百尺樓。世上利名羣蠛蠓、古來興廢幾浮漚。
退安陋巷顏回樂、不見長安李白愁。兩事到頭須有得、我心處處自優遊。
【読み】
寥寥たる天氣已に高秋、更に凌虛百尺の樓に倚る。世上の利名羣蠛蠓[べつもう]、古來の興廢幾浮漚。
退き安んず陋巷顏回の樂しみ、見ず長安李白の愁い。兩事到頭須く得ること有るべし、我が心處處として自づから優遊。

閑來無(一作何。)事不從容、睡覺東窗日已紅。萬物靜觀皆自得、四時佳興與人同。
道通天地有形外、思入風雲變態中。富貴不淫貧賤樂、男兒到此是豪雄。
【読み】
閑來事として從容ならずということ無し(一に何に作る。)、睡覺めて東窗の日已に紅なり。萬物靜かに觀れば皆自得す、四時の佳興人と同じ。
道は天地有形の外に通じ、思いは風雲變態の中に入る。富貴にして淫せず貧賤にして樂しむ、男兒此に到るは是れ豪雄。

代少卿和王宣徽遊崇福宮
【読み】
少卿に代わって王宣徽が崇福宮に遊ぶを和す

睿祖開眞宇、祥光下紫微。威容凝粹穆、仙仗儼周圍。
嗣聖嚴追奉、神遊遂此歸。冕旒臨秘殿、天日照西畿。
朱鳳銜星蓋、淸童護玉衣。鶴笙鳴遠吹、珠蕊弄晴暉。
瑤草春常在、瓊霜曉未晞
(徐本晞作稀。)。木文靈像出、太一醴泉飛。
醮夕思飆馭、香晨望絳闈。衰遲愧宮職、蕭灑自忘機。
【読み】
睿祖眞宇を開き、祥光紫微より下る。威容粹穆を凝[な]し、仙仗儼として周圍す。
嗣聖嚴に追奉して、神遊遂に此に歸す。冕旒秘殿に臨み、天日西畿を照らす。
朱鳳星蓋を銜み、淸童玉衣を護す。鶴笙遠吹に鳴り、珠蕊[しゅずい]晴暉[せいき]に弄す。
瑤草春常に在り、瓊霜曉未だ晞[き](徐本晞を稀に作る。)えず。木文靈像出て、太一醴泉飛ぶ。
醮[しょう]夕飆馭[ひょうぎょ]を思い、香晨絳闈[こうい]を望む。衰遲宮職を愧ぢ、蕭灑として自づから機を忘る。

和王安之五首
【読み】
王安之に和す五首

小園
閑坊西曲奉常家、景物天然占一窳。恰似庾園基址小、全勝浥澗路途賖。
知君陋巷心猶樂、比我僑居事已誇。且喜杖藜相過易、隔牆無用少遊車。
(白樂天有詩戲盧中丞、浥澗山居去城之遠。)
【読み】
小園
閑坊の西曲奉常の家、景物天然一窳[ゆ]を占む。恰も庾園[ゆえん]の基址小なるに似たり、全く浥澗の路途賖[しゃ]なるに勝れり。
知んぬ君が陋巷心猶樂しむことを、我が僑居に比するに事已に誇る。且喜ぶ杖藜相過ること易きことを、牆を隔てて少遊が車を用うること無し。(白樂天盧中丞に戲る詩有り、浥澗の山居城を去ること遠し、と。)

野軒
誰憐大第多奇景、自愛貧家有古風。會向紅塵生野思、始知泉石在胸中。
【読み】
野軒
誰か憐れまん大第奇景多きことを、自ら愛す貧家古風有ることを。會々紅塵に向かって野思を生ず、始めて知る泉石胸中に在ることを。

汙亭
强潔猶來眞有爲、好高安得是無心。汙亭妙旨君須會、物我何爭事莫侵。
【読み】
汙亭
潔きを强うるは猶來す眞の有爲を、高きを好むは安んぞ是の無心を得ん。汙亭の妙旨君須く會すべし、物我何ぞ爭わん事侵すこと莫し。

藥軒
囊中數味應千種、砌下栽苗過百名。好是微風入庭戶、淸香交送滿簷楹。
【読み】
藥軒
囊中の數味應に千種なるべし、砌下[せいか]の栽苗百名に過ぐ。好き是れ微風庭戶に入る、淸香交々送って檐楹[えんえい]に滿つ。

晩暉亭
亭下花光春正好、亭頭山色晩尤佳。欲知剩占淸(一作春。)風處、思順街東第一家。
【読み】
晩暉亭
亭下の花光春正に好し、亭頭の山色晩に尤も佳なり。剩[さかんに]淸(一に春に作る。)風の處を占むることを知らんと欲せば、思順街東第一家。

和花庵
【読み】
花庵に和す

得意卽爲適、種花非貴多。一區才丈席、滿目自雲蘿。
靜聽禽聲樂、閑招月色過。期公在康濟、終奈此情何。
【読み】
意を得れば卽ち適くことを爲す、花を種うること多きを貴ぶに非ず。一區才かに丈席、滿目自づから雲蘿。
靜かに禽聲の樂しむを聽き、閑に月色の過ぐるを招く。期す公康濟に在り、終に此の情を奈何。

子直示以新詩一軸、偶爲四韻奉謝
【読み】
子直示すに新詩一軸を以てす、偶々四韻を爲りて謝し奉る

治劇君能佚、居閑我更慵。自惟降藻麗、不解繼春容。
寡和知高唱、深情見古風。靜吟梁甫意、眞似臥隆中。
【読み】
劇を治めて君能く佚[いっ]し、閑に居して我れ更に慵[ものう]し。自ら惟藻麗を降す、春容を繼ぐことを解せず。
和を寡くして高唱を知り、情を深くして古風を見る。靜かに吟ずれば梁甫の意、眞に隆中に臥するに似る。

和諸公梅臺
【読み】
諸公の梅臺に和す

急須乘興賞春英、莫待空枝謾寄聲。淑景暖風前日事、淡雲微雨此時情。
【読み】
急に須く興に乘じて春英を賞すべし、待つこと莫かれ空枝謾に聲を寄することを。淑景暖風前日の事、淡雲微雨此の時の情。

後一日再和
【読み】
後一日再び和す

常勸嬉遊須及辰、莫辭巾屨染埃塵。秖應風雨梅臺上、已減前時一半春。
【読み】
常に勸む嬉遊須く辰に及ぶべきことを、辭すること莫かれ巾屨埃塵に染まることを。秖[まさ]に風雨梅臺の上、已に前時一半の春を減ず應し。

送呂晦叔赴河陽
【読み】
呂晦叔の河陽に赴くを送る

曉日都門颭旆旌、晩風鐃吹入三城。知公再爲蒼生起、不是尋常刺史行。
【読み】
曉日都門旆旌[はいせい]を颭[せん]す、晩風鐃吹三城に入る。知んぬ公再び蒼生の爲に起こることを、是れ尋常刺史の行にあらず。

贈司馬君實
【読み】
司馬君實に贈る

二龍閑臥洛波淸、今日都門獨餞行。願得賢人均出處、始知深意在蒼生。
【読み】
二龍閑臥して洛波淸し、今日都門獨り行に餞す。願わくは賢人を得て均しく出處せんとす、始めて知る深意蒼生に在ることを。

哭張子厚先生
【読み】
張子厚先生を哭す

歎息斯文約共修、如何夫子便長休。山東無復蒼生望、西土誰共後學求。
千古聲名聯棣萼、二年零落去山丘。寢門慟哭知何限、豈獨交親念舊遊。
【読み】
歎息す斯の文共に修することを約することを、如何ぞ夫子便ち長く休する。山東復蒼生の望み無し、西土誰と共にか後學求めん。
千古の聲名棣萼[ていがく]に聯[つら]なり、二年零落して山丘に去る。寢門慟哭知んぬ何ぞ限りあらん、豈獨り交親して舊遊を念うのみならんや。

陪陸子履遊白石萬固
【読み】
陸子履白石萬固に遊ぶに陪す

條山蒼蒼河流黃、中蒲形勢天下疆。帝得賢侯殿一方、四年不更慰民望。
元豐戊午季春月、上心閔雨愁黎蒼。使車四出走羣望、我亦奉命來侯疆。
情誠
(徐本誠作神。)感格天意順、詔書纔下雨已霶。病麥還青禾出土、野農鼓舞歌君王。
故人相見不道舊、爲雨懽喜殊未央。聖主寬憂小臣樂、自可放蕩舒胸腸。
白石萬固皆勝地、主人爲我攜壺觴。況逢佳日俗所尙、車馬未曉塡康莊。
扶提十里雜老幼、迤邐千騎明戈槍。初聽鳴鐃入青靄、漸見朱旆輝朝陽。
遨頭自是謝康樂、後乘獨慚元漫郎。侯來雖知有賓客、衆喜更爲將豐穰。
臨溪坐石遍岩谷、幽處往往聞絲簧。山光似迎好客動、日景定爲遊人長。
乘高望遠興不盡、戀戀不知岐路忙。人生汨沒苦百態、得此樂事眞難常。
我辭佳境已惆悵、侯亦那得久此郷。他時會合重相語、辜負泉石何能忘。
【読み】
條山蒼蒼として河流黃なり、中蒲の形勢天下の疆。帝賢侯を得て一方を殿[しづ]む、四年更わらず民望を慰む。
元豐戊午季春の月、上の心雨を閔[うれ]い黎蒼を愁う。使車四[よも]に出て羣望に走る、我も亦命を奉じて侯の疆に來る。
精誠(徐本誠を神に作る。)感格天意順う、詔書纔かに下って雨已に霶[ほう]たり。病麥還って青く禾土を出づ、野農鼓舞して君王を歌う。
故人相見て舊を道わず、雨の爲に懽喜すること殊に未だ央ならず。聖主憂えを寬[ゆる]し小臣樂しむ、自ら放蕩して胸腸を舒[の]ぶ可し。
白石萬固皆勝地、主人我が爲に壺觴[こしょう]を攜う。況んや佳日俗の尙ぶ所に逢うをや、車馬未だ曉らざるに康莊に塡[み]つ。
扶提十里老幼を雜じえ、迤邐[いり]たる千騎戈槍明らかなり。初めて聽く鳴鐃青靄に入ることを、漸く見る朱旆朝陽に輝くことを。
遨頭自づから是れ謝康樂、後乘獨り慚づ元漫郎。侯來りて賓客有ることを知ると雖も、衆喜ぶ更に將に豐穰ならんとすることを。
溪に臨み石に坐して岩谷に遍し、幽處往往に絲簧を聞く。山光好客を迎えて動くに似る、日景定めて遊人の爲に長からん。
高きに乘り遠きを望んで興盡きず、戀戀として岐路の忙しきを知らず。人生汨沒苦に百態、此の樂しき事を得ること眞に常にし難し。
我れ佳境を辭して已に惆悵す、侯亦那ぞ此の郷に久しきことを得ん。他時會合して重ねて相語らば、泉石に辜負すとも何ぞ能く忘れん。

陳公廙園修禊事席上賦
【読み】
陳公廙園[よくえん]に禊事を修する席上に賦す

盛集蘭亭(徐本亭作臺。)舊、風流洛社今。坐中無俗客、水曲有淸音。
香篆來還去、花枝泛復沈。未須愁日暮、天際是輕陰。
【読み】
盛集蘭亭(徐本亭を臺に作る。)の舊、風流洛社の今。坐中俗客無く、水曲淸音有り。
香篆來りて還って去り、花枝泛[うか]んで復沈む。未だ須く日暮を愁うべからず、天際是れ輕陰。

春雪

二月將臨尾、羣陰久退潛。只知桃李豔、何復雪霜嫌。
密霰仍先集、飄霙忽散沾。帶風成料峭、和雨作廉纖。
江漢初彌望、珠璣亦閒兼。片痕才著
(徐本著作着。)瓦、斜勢漸穿簾。
鳥化遼城鶴、途鋪越女縑。落英時鬭舞、飛絮或同黏。
直把瓊瑤比、誰疑鵠鷺撏。透肌錐共利、灑面刃爭銛。
寒怯開闈賞、光凝伴月覘。價增樵市炭、興入酒家帘。
駐足銀妝履、昂頭玉裹髯。如何欺煦律、重復困窮閻。
薪乏經朝備、衣因恃暖拈。擷芳遊女恨、憂歲老農占。
惜竹頻敲葉、愁花旋覆苫。失權悲太皞、助虐有飛廉。
驟降初疑勇、旋消亦訝謙。朔雲雖借便、水后可無厭。
縱任陰靈巧、難令木氣殲。寒威徒自奮、春氣亦時添。
積勢方平壟、澌流
(徐本澌流作流澌。)已墜簷。暗空猶沓沓、近地卽佔佔。
遠水難遮面、高峰不裹尖。著
(徐本著作着。)牆聊畫粉、蓋地豈成鹽。
紈扇驚塵曀、昆崗認火炎。端來薦融釋、空復助洳漸。
積潤終滋嫩、驚雷亦震淹。東君莫惆悵、杲日待重瞻。
【読み】
二月將に尾に臨まんとす、羣陰久しく退き潛む。只知る桃李の豔なることを、何ぞ復雪霜嫌わん。
密霰仍[しばしば]先づ集まり、飄霙忽ち散沾す。風を帶びて料峭を成し、雨に和して廉纖を作す。
江漢初めて彌[あまね]く望み、珠璣亦閒兼す。片痕才かに瓦に著(徐本著を着に作る。)き、斜勢漸く簾を穿つ。
鳥は遼城の鶴と化し、途は越女の縑を鋪く。落英時に鬭舞し、飛絮[ひじょ]或は同黏[どうねん]す。
直に瓊瑤を把って比す、誰か鵠鷺を疑って撏[と]らん。肌に透けて錐利を共にし、面に灑[ち]って刃銛[するど]きことを爭う。
寒は闈を開いて賞することを怯れ、光は月に伴って覘[うかが]うに凝る。價は樵市の炭を增し、興すれば酒家の帘[れん]に入る。
足を駐むれば銀履に妝[よそお]いし、頭を昂ぐれば玉髯を裹[つつ]む。如何ぞ煦律[くりつ]を欺いて、重ねて復窮閻を困しむる。
薪は朝を經て備うるに乏しく、衣は暖を恃んで拈[ひね]るに因る。芳を擷[つ]んで遊女恨み、歲を憂えて老農占う。
竹を惜しんで頻りに葉を敲き、花を愁えて旋[つ]いで苫を覆う。權を失して太皞を悲しみ、虐を助けて飛廉有り。
驟[は]せ降って初めて勇なるかと疑い、旋消して亦謙なるかと訝る。朔雲便を借ると雖も、水后厭うこと無かる可し。
縱に陰靈の巧に任ずれども、木氣をして殲[つ]くさしめ難し。寒威徒に自ら奮い、春氣亦時に添う。
積勢方に壟に平らかに、澌流(徐本澌流を流澌に作る。)已に簷に墜つ。暗空猶沓沓たり、近地卽ち佔佔[せんせん]たり。
遠水面を遮り難く、高峰尖を裹まず。牆に著(徐本著を着に作る。)いて粉を畫く、地を蓋うに豈鹽と成らんや。
紈扇[がんせん]塵曀[じんえい]に驚き、昆崗火炎を認む。端に來りて融釋を薦[し]き、空しく復洳漸を助く。
積潤終に滋嫩[じどん]、驚雷亦震淹なり。東君惆悵すること莫かれ、杲日[こうじつ]重ねて瞻ることを待て。

晩春

人生百年永、光景我逾半。中閒幾悲歡、況復多聚散。
靑陽變晩春、弱條成老幹。不爲時節驚、把酒欲誰勸。
【読み】
人生百年の永き、光景我れ半ばを逾ゆ。中閒幾悲歡、況んや復多くは聚散す。
靑陽晩春に變じ、弱條老幹と成る。時節の爲に驚かずんば、酒を把って誰にか勸めんと欲す。

西湖

潩水橋邊鴨子陂、樓臺只在郡城西。烟波乍見心先快、島嶼將尋路欲迷。
盡日無風橫舴艋、有時經雨飮虹蜺。如何咫尺塵埃地、能使遊人意不齊。
【読み】
潩水橋邊鴨子陂、樓臺は只郡城の西に在り。烟波乍ち見て心先づ快く、島嶼[とうしょ]將に尋ねんとして路迷わんと欲す。
盡日風無くして舴艋[さくもう]を橫たえ、時有って雨を經て虹蜺[こうげい]を飮む。如何ぞ咫尺[しせき]塵埃の地、能く遊人をして意齊しからざらしむ。

環翠亭

城居不見萬山重、因起高亭破遠空。虛曠直疑天宇外、周旋如在畫屛中。
凝嵐散靄層層出、削玉排靑面面同。暫得登臨已忘去、四時佳致屬賢公。
【読み】
城居萬山の重なるを見ず、因りて高亭を起ちて遠空を破す。虛曠直に天宇の外かと疑い、周旋畫屛の中に在るが如し。
嵐を凝し靄を散じて層層出て、玉を削り靑を排して面面同じ。暫く登臨することを得て已に去ることを忘る、四時の佳致賢公に屬す。

酬韓持國資政湖上獨酌見贈
【読み】
韓持國資政湖上に獨酌して贈らるるに酬う

對花酌酒公能樂、飯糗羹藜我自貧。若語至誠無内外、却應分別更迷眞。(韓詩云、曲肱飮水程夫子、宴坐焚香范使君。愧我未能忘外樂、綠尊紅芰對西曛。)
【読み】
花に對し酒を酌んで公能く樂しむ、糗を飯にし藜を羹にして我れ自ら貧し。若し至誠内外無きことを語らば、却って分別せば更に眞に迷う應し。(韓が詩に云く、肱を曲げ水を飮む程夫子、宴坐香を焚く范使君。愧づ我れ未だ外の樂しみを忘るること能わざるを、綠尊紅芰[き]西曛[せいくん]に對す、と。)


参考文献
『和刻本漢籍 二程全書』(中文出版社)
『二程集』(里仁書局)