二程全書卷之五十九  伊川先生文

上書

上仁宗皇帝書(皇祐二年)
【読み】
仁宗皇帝に上る書(皇祐二年)

草莽賤臣程頤、謹昧死再拜上書皇帝闕下。臣伏觀、前古聖明之主、無不好聞直諫、博采蒭蕘。故視益明而聽益聰、紀綱正而天下治。昏亂之主、無不惡聞過失、忽棄正言。故視益蔽而聽益塞、紀綱廢而天下亂。治亂之因、未有不由是也。伏惟陛下、德侔天地、明竝日月、寬慈仁聖、自古無比。曷嘗害一忠臣、戮一正士。羣臣雖有以言事得罪者、旋復拔擢、過其分際。此千載一遇、言事之秋也。桀・紂暴亂、殘賊忠良、然而義士不顧死以盡其節。明聖在上、其仁如天。布衣之士雖非當言責也、苟有可以裨聖治、何忍默默而不言哉。今臣竭其愚忠、非有斧鉞之虞也。所慮進言者至衆。豈盡有取。狂愚必多、而陛下因謂賤士之言無適用者。臣雖披心腹瀝肝膽、不見省覽、秖成徒爲。此臣之所懼也。儻或陛下少留聖慮、則非臣之幸、實天下之幸。臣請自陳所學、然後以臣之學議天下之事。
【読み】
草莽の賤臣程頤、謹んで昧死再拜して書を皇帝の闕下に上る。臣伏して觀るに、前古聖明の主は、好んで直諫を聞き、博く蒭蕘[すうじょう]を采らざるは無し。故に視ること益々明らかにして聽くこと益々聰く、紀綱正しくして天下治まる。昏亂の主は、過失を聞くことを惡み、正言を忽棄せざるは無し。故に視ること益々蔽われて聽くこと益々塞がり、紀綱廢れて天下亂る。治亂の因、未だ是に由らざるは有らず。伏して惟みるに陛下、德天地に侔[ひと]しく、明日月に竝び、寬慈仁聖、古自り比無し。曷ぞ嘗て一りの忠臣を害し、一りの正士を戮せん。羣臣事を言うを以て罪を得る者有りと雖も、旋[やや]復拔擢せらるること、其の分際に過ぐ。此れ千載一遇、事を言うの秋なり。桀・紂の暴亂、忠良を殘賊すれども、然れども義士死を顧みずして以て其の節を盡くす。明聖上に在して、其の仁天の如し。布衣の士言責に當たるに非ずと雖も、苟も以て聖治を裨[たす]く可きこと有らば、何ぞ忍んで默默として言わざらんや。今臣其の愚忠を竭くす、斧鉞の虞り有るに非ず。慮る所は言を進むる者至って衆し。豈盡く取ること有らんや。狂愚必ず多くして、陛下因りて謂わん、賤士の言用に適う者無し、と。臣心腹を披き肝膽を瀝[したた]ると雖も、省覽を見ず、秖[まさ]に徒爲と成らんことを。此れ臣の懼るる所なり。儻[も]し或は陛下少しく聖慮を留めば、則ち臣の幸いのみに非ず、實に天下の幸いなり。臣請う自ら學ぶ所を陳べて、然して後に臣の學を以て天下の事を議せん。

臣所學者、天下大中之道也。聖人性之爲聖人、賢者由之爲賢者、堯・舜用之爲堯・舜、仲尼述之爲仲尼。其爲道也至大、其行之也至易。三代以上莫不由之。自秦而下、衰而不振、魏・晉之屬、去之遠甚。漢・唐小康、行之不醇。自古學之者衆矣。而考其得者蓋寡焉。
【読み】
臣の學ぶ所の者は、天下大中の道なり。聖人は之を性のままにして聖人爲り、賢者は之に由って賢者爲り、堯・舜は之を用いて堯・舜爲り、仲尼は之を述べて仲尼爲り。其の道爲ること至って大にして、其の之を行うこと至って易し。三代以上之に由らずということ莫し。秦自りして下、衰えて振わず、魏・晉の屬、之を去ること遠きこと甚だし。漢・唐は小しく康けれども、之を行うこと醇ならず。古自り之を學ぶ者衆し。而れども其の得る者を考うるに蓋し寡し。

道必充於己、而後施以及人。是故道非大成、不苟於用。然亦有不私其身、應時而作者也。出處無常、惟義所在。所謂道非大成、不苟於用、顏囘・曾參之徒是也。天之大命在夫子矣。故彼得自善其身、非至聖人則不出也。在於平世、無所用者亦然。所謂不私其身、應時而作者、諸葛亮及臣是也。亮感先主三顧之義、閔生民塗炭之苦、思致天下於三代。義不得自安而作也。如臣者、生逢聖明之主、而天下有危亂之虞。義豈可苟善其身、而不以一言悟陛下哉。故曰、出處無常、惟義所在。
【読み】
道は必ず己に充たして、而して後に施して以て人に及ぼす。是の故に道大成に非ざれば、用うるに苟もせず。然れども亦其の身に私せず、時に應じて作る者有り。出處常無し、惟義の在る所のままにす。所謂道大成に非ざれば、用うるに苟もせざるは、顏囘・曾參の徒是れなり。天の大命夫子に在り。故に彼自ら其の身を善くすることを得て、聖人に至るに非ざれば則ち出ず。平世に在って、用うる所無き者も亦然り。所謂其の身に私せず、時に應じて作る者は、諸葛亮及び臣是れなり。亮先主三顧の義に感じ、生民塗炭の苦しみを閔れんで、天下を三代に致すことを思う。義自ら安んずることを得ずして作るなり。臣の如きは、生きて聖明の主に逢って、天下危亂の虞り有り。義豈苟も其の身を善くして、一言を以て陛下を悟さざる可けんや。故に曰く、出處常無し、惟義の在る所のままにす、と。

臣請議天下之事。不識陛下以今天下爲安乎、危乎、治乎、亂乎。烏可知危亂而不思救之之道。如曰安且治矣、則臣請明其未然。方今之勢、誠何異於抱火厝之積薪之下而寢其上、火未及然、因謂之安者乎。書曰、民惟邦本。本固邦寧。竊惟固本之道、在於安民。安民之道、在於足衣食。今天下民力匱竭、衣食不足、春耕而播、延息以待。一歲失望、便須流亡。以此而言、本未得爲固也。臣料陛下仁慈、愛民如子、必不忍使之困苦、一至於是。臣竊疑左右前後壅蔽陛下聰明、使陛下不得而知。今國家財用、常多不足。不足則責於三司、三司責諸路轉運。轉運何所出。誅剥於民爾。或四方有事、則多非時配卒(徐本卒作率。)、毒害尤深。急令誅求、竭民膏血、徃往破產亡業、骨肉離散。衆人觀之、猶可傷痛。陛下爲民父母、豈不憫哉。
【読み】
臣請う、天下の事を議せん。識らず、陛下今の天下を以て安しとするか、危うしとするか、治まるとするか、亂るとするか。烏んぞ危亂を知って之を救う道を思わざる可けんや。如し安くして且つ治まると曰わば、則ち臣請う、其の未だ然らざることを明かさん。方に今の勢、誠に何ぞ火を抱いて之を積薪の下に厝[お]いて其の上に寢て、火未だ然[も]ゆるに及ばざれば、因りて之を安しと謂う者に異ならんや。書に曰く、民は惟れ邦の本。本固ければ邦寧し、と。竊かに惟みるに本を固くする道は、民を安んずるに在り。民を安んずる道は、衣食を足らすに在り。今天下民力匱竭して、衣食足らず、春耕して播き、延息して以て待つ。一歲望みを失せば、便ち須く流亡すべし。此を以て言うに、本未だ固しとすることを得ざるなり。臣料るに陛下の仁慈、民を愛すること子の如く、必ず之をして困苦せしむること、一に是に至るに忍びじ。臣竊かに疑うらくは左右前後陛下の聰明を壅蔽して、陛下をして得て知らざらしむるならん。今國家の財用、常に多くは足らず。足らざれば則ち三司に責め、三司は諸路の轉運に責む。轉運何の出す所あらん。民を誅剥するのみ。或は四方事有らば、則ち多くは時に非ずして卒(徐本卒を率に作る。)を配すること、毒害尤も深からん。急に誅[せ]め求めしめば、民の膏血を竭くして、徃往に產を破り業を亡くして、骨肉離散せん。衆人之を觀て、猶傷み痛む可し。陛下の民の父母爲る、豈憫れまざらんや。

民無儲備、官廩復空。臣觀京師緣邊以至天下、率無二年之備。卒有連歲凶災、如明道中、不知國家何以待之。坐食之卒、計踰百萬。旣無以供費、將重斂於民、而民已散矣。强敵乘隙於外、姦雄生心於内、則土崩瓦解之勢、深可虞也。太寧之世、聖人猶不忘爲備、必有九年之蓄、以待凶歲。況今百姓困苦、愁怨之氣上衝於天、災沴凶荒、是所召也。陛下能保其必無乎。中民之家有十金之產、子孫不能守、則人皆謂之不孝。陛下承祖宗基業、而前有土崩瓦解之勢。可不懼哉。
【読み】
民儲備無くして、官廩復空し。臣京師より邊に緣って以て天下に至るを觀るに、率ね二年の備え無し。卒に連歲の凶災、明道中の如くなること有らば、知らず、國家何を以て之を待たん。坐食の卒、計るに百萬を踰ゆ。旣に以て費に供すること無くんば、將に重く民に斂めて、民已に散ぜんとす。强敵隙に外に乘じ、姦雄心を内に生せば、則ち土のごとく崩れ瓦のごとく解[くづ]るの勢、深く虞る可し。太寧の世すら、聖人猶備えを爲すことを忘れず、必ず九年の蓄え有って、以て凶歲を待つ。況んや今百姓困苦して、愁怨の氣上天に衝いて、災沴[さいれい]凶荒、是れ召く所なり。陛下能く保たば其れ必ずや無けんか。中民の家十金の產有るすら、子孫守ること能わざれば、則ち人皆之を不孝と謂う。陛下祖宗の基業を承けて、前に土のごとく崩れ瓦のごとく解るの勢有り。懼れざる可けんや。

戎狄强盛、自古無比。幸而目前尙守盟誓。果能以金帛厭其欲乎。能必料其常爲今日之計乎。則夫沿邊豈宜無備。益以兵則用不足、省其戍則力弗支、皆非長久之策也。前者昊賊叛逆、西垂用兵、數年之閒、天下大困。蓋内外經制、多失其宜。陜西之民、苦毒尤甚、及多逃散。重以軍法禁之、以至人心大怨、皆有思冦之言。悖逆之深、不敢以聞聖聽。顧恐陛下亦頗知之。故曰、無恆產而有恆心者、惟士爲能。彼庶民者、饑寒旣切於内、父子不相保、尙能顧忠義哉。非民無良、政使然也。當時秦中、冦盗屢起。儻稽撲滅、必多響應。幸而尋時盡能誅剪、尙賴社稷之福。西虜亦疲。彼知未可遠圖、遂且詭辭稱順。向若更相牽制、未得休兵、内釁將生。言之可駭。今天下勞弊、不比景祐以前、復有如(徐本如作加。)曩時之役。臣愚竊恐不能堪矣。況爲患者、豈止西戎。臣每思之、神魂飛越。不知朝廷議者以爲何如。亦嘗置之慮乎。其謂制之無術乎。
【読み】
戎狄强盛なること、古自り比無し。幸いにして目前尙盟誓を守る。果たして能く金帛を以て其の欲を厭わしめんや。能く必ず其の常を料って今日の計とせんや。則ち夫れ邊に沿って豈宜しく備え無かるべけんや。益すに兵を以てすれば則ち用足らず、其の戍りを省けば則ち力支えず、皆長久の策に非ざるなり。前に昊賊叛逆して、西垂兵を用うること、數年の閒、天下大いに困しむ。蓋し内外の經制、多く其の宜しきを失す。陜西の民、苦毒尤も甚だしくして、多くは逃散するに及ぶ。重ぬるに軍法を以て之を禁じて、以て人心大いに怨みて、皆冦を思うの言有るに至る。悖逆の深き、敢えて以て聖聽に聞せざらんや。顧みるに恐らくは陛下も亦頗る之を知らん。故に曰く、恆の產無くして恆の心有る者は、惟士のみ能くすることをす、と。彼の庶民は、饑寒旣に内に切なれば、父子すら相保たず、尙能く忠義を顧みんや。民良無きに非ず、政の然らしむるなり。當時秦中、冦盗屢々起こる。儻し撲滅を稽うれば、必ず多くは響きのごとくに應ぜん。幸いにして時を尋いで盡く能く誅剪することは、尙社稷の福に賴れり。西虜亦疲る。彼未だ遠く圖る可からざることを知って、遂に且辭を詭[いつわ]って順うと稱す。向[さき]に若し更に相牽制せば、未だ兵を休むることを得ずして、内釁[ないきん]將に生ぜんとす。之を言いて駭[おどろ]く可し。今天下の勞弊、景祐以前に比せずして、復曩時[のうじ]の役の如きこと(徐本如を加に作る。)有り。臣愚竊かに恐る、堪うること能わざらんことを。況んや患を爲す者、豈止西戎のみならんや。臣之を思う每に、神魂飛越す。知らず、朝廷の議する者以て何如とする。亦嘗て之を慮りに置かんや。其れ之を制するに術無しと謂わんや。

臣竊謂今天下猶無事、人命未甚危、陛下宜早警惕於衷、思行王道。不然、臣恐歲月易失。因循不思事勢、觀之理無常爾。雖我太祖之有天下、救五代之亂、不戮一人、自古無之。非漢・唐可比。固知趙氏之祀安於泰山。然而損陛下之聖明、陷斯民於荼毒、深可痛也。臣料羣臣必未嘗有爲陛下陳王道者。以陛下聖明、豈有言而不行者乎。
【読み】
臣竊かに謂えらく、今天下猶無事、人命未だ甚だしくは危うからず、陛下宜しく早く衷に警惕して、王道を行うことを思うべし、と。然らずんば、臣歲月の失し易からんことを恐る。因循として事勢を思わずんば、之を理に觀るに常無からんのみ。我が太祖天下を有つと雖も、五代の亂を救って、一人を戮せざること、古自り之れ無し。漢・唐の比す可きに非ず。固に趙氏の祀泰山より安からんことを知る。然れども陛下の聖明を損して、斯の民を荼毒[とどく]に陷らしむること、深く痛む可し。臣料るに羣臣必ず未だ嘗て陛下の爲に王道を陳ぶる者有らず。陛下の聖明を以てして、豈言いて行わざる者有らんや。

竊惟王道之本、仁也。臣觀陛下之仁、堯・舜之仁也。然而天下未治者、誠由有仁心而無仁政爾。故孟子曰、今有仁心仁聞、而民不被其澤、不可法於後世者、不行先王之道也。陛下精心庶政、常懼一夫不獲其所、未嘗以一喜怒殺一無辜、官吏有犯入人罪者、則終身棄之。是陛下愛人之深也。然而凶年饑歲、老弱轉死於溝壑、壯者散而之四方、爲盗賊、犯刑戮者、幾千萬人矣。豈陛下愛人之心哉。必謂歲使之然、非政之罪歟、則何異於刺人而殺之。曰、非我也、兵也。三代之民、無是病也。豈三代之政不可行於今邪。州縣之吏有陷人於辟者、陛下必深惡之。然而民不知義、復迫困窮、放辟邪侈而入於罪者、非陛下陷之乎。必謂其自然、則敎化、聖人之妄言邪。
【読み】
竊かに惟みるに王道の本は、仁なり。臣觀るに陛下の仁は、堯・舜の仁なり。然れども天下未だ治まらざる者は、誠に仁心有って仁政無きに由るのみ。故に孟子曰く、今仁心仁聞有って、民其の澤を被らず、後世に法る可からざる者は、先王の道を行わざればなり、と。陛下心を庶政に精しくして、常に一夫も其の所を獲ざらんことを懼れ、未だ嘗て一つの喜怒を以て一つの辜無きを殺さず、官吏人を罪に入るることを犯す者有れば、則ち身を終うるまで之を棄つ。是れ陛下人を愛したまうの深きなり。然れども凶年饑歲には、老弱溝壑に轉死し、壯者散じて四方に之き、盗賊を爲し、刑戮を犯す者、幾ど千萬人なり。豈陛下人を愛するの心ならんや。必ず歲之をして然らしむ、政の罪に非ずと謂わば、則ち何ぞ人を刺して之を殺して、我に非ず、兵なりと曰うに異ならんや。三代の民は、是の病無し。豈三代の政今に行う可からざらんや。州縣の吏人を辟に陷らしむる者有れば、陛下必ず深く之を惡む。然れども民義を知らず、復困窮に迫って、放辟邪侈にして罪に入る者は、陛下之を陷らしむるに非ずや。必ず其れ自ら然りと謂わば、則ち敎化は、聖人の妄言ならんや。

天下之治、由得賢也。天下不治、由失賢也。世不乏賢、顧求之之道何如爾。今夫求賢、本爲治也。治天下之道、莫非五帝・三王・周公・孔子治天下之道也。求乎明於五帝・三王・周公・孔子治天下之道者、各以其所得大小而用之。有宰相事業者、使爲宰相、有卿大夫事業者、使爲卿大夫、有爲郡之術者、使爲刺史、有治縣之政者、使爲縣令、各得其任、則無職不舉、然而天下弗治者、未之有也。
【読み】
天下の治まるは、賢を得るに由る。天下治まらざるは、賢を失うに由る。世賢に乏しからず、之を求むるの道何如と顧みるのみ。今夫れ賢を求むるは、本治めんが爲なり。天下を治むるの道は、五帝・三王・周公・孔子天下を治むるの道に非ざるは莫し。五帝・三王・周公・孔子天下を治むるの道を明らかにすることを求むる者は、各々其の得る所の大小を以てして之を用う。宰相の事業有る者は、宰相爲らしめ、卿大夫の事業有る者は、卿大夫爲らしめ、郡を爲むるの術有る者は、刺史爲らしめ、縣を治むるの政有る者は、縣令爲らしめ、各々其の任を得るときは、則ち職として舉がらずということ無し。然して天下治まらざる者は、未だ之れ有らず。

國家取士、雖以數科、然而賢良方正、歲止一二人而已。又所得不過博聞强記之士爾。明經之屬、唯專念誦、不曉義理、尤無用者也。最貴盛者、唯進士科、以詞賦聲律爲工。詞賦之中、非有治天下之道也。人學之以取科第、積日累久、至於卿相。帝王之道、敎化之本、豈嘗知之。居其位、責其事業、則未嘗學之。譬如胡人操舟、越客爲御。求其善也、不亦難乎。往者丁度建言、祖宗以來、得人不少。愚瞽之甚、議者至今切齒。使墨論墨、固以墨爲善矣。
【読み】
國家の士を取る、數科を以てすと雖も、然れども賢良方正は、歲に止一二人のみ。又得る所は博聞强記の士に過ぎざるのみ。明經の屬は、唯專ら念誦して、義理を曉さず、尤も用無き者なり。最も貴盛なる者は、唯進士の科、詞賦聲律を以て工とす。詞賦の中、天下を治むるの道有るに非ず。人之を學んで以て科第を取り、日を積み久しきを累ねて、卿相に至る。帝王の道、敎化の本、豈嘗て之を知らんや。其の位に居して、其の事業を責むれば、則ち未だ嘗て之を學ばず。譬えば胡人舟を操り、越客御を爲すが如し。其の善ならんことを求むること、亦難からずや。往者[さき]に丁度建が言く、祖宗以來、人を得ること少なからず、と。愚瞽の甚だしき、議する者今に至って齒を切す。墨をして墨を論ぜしめ、固に墨を以て善とせん。

今天下未治、誠由有君而無臣也。豈世無人。求之失其道爾。苟欲取士必得、豈無術哉。王道之不行二千年矣。後之愚者皆云、時異事變、不可復行。此則無知之深也。然而人主往往惑於其言。今有人得物於道、示玉工、曰玉也。示衆人、曰石也。則當以玉工爲是乎、以衆人爲然乎。必以玉工爲是矣。何則識與不識也。聖人垂敎、思以治後世。而愚者謂不可行於今。則將守聖人之道乎、從衆人之言乎。謂衆人以王道可行、其猶詰瞽者以五色之鮮、詢聾者以八音之美。其曰不然、宜也。彼非憎五色而惡八音。聞見限也。
【読み】
今天下未だ治まらざるは、誠に君有って臣無きに由れり。豈世に人無けんや。之を求むること其の道を失するのみ。苟も士を取って必ず得んことを欲せば、豈術無けんや。王道の行われざること二千年なり。後の愚者皆云う、時異に事變ず、復行う可からず、と。此れ則ち無知の深きなり。然して人主往往に其の言に惑う。今人物を道に得る有り、玉工に示せば、玉と曰う。衆人に示せば、石と曰う。則ち當に玉工を以て是とすべきか、衆人を以て然りとせんか。必ず玉工を以て是とせん。何となれば則ち識ると識らざるとなり。聖人の敎を垂るるは、以て後世を治めんことを思う。而れども愚者今に行う可からずと謂う。則ち將に聖人の道を守らんとするか、衆人の言に從わんか。衆人に謂いて王道行う可きやというを以てすれば、其れ猶瞽者に詰[と]うに五色の鮮やかなるを以てし、聾者に詢[と]うに八音の美なるを以てするがごとし。其れ然らずと曰うは、宜なり。彼五色を憎んで八音を惡むに非ず。聞見限ればなり。

臣觀陛下之心、非不憂慮天下也。以陛下憂慮天下之心行王道、豈難乎哉。孟子曰、以齊王、猶反手也。又曰、師文王、大國五年、小國七年、必爲政於天下矣。以諸侯之位、一國之地、五年可以王天下。況陛下居天子之尊、令行四海、如風之動、苟行王政、奚啻反手之易哉。昔者大禹治水、八年於外、三過其門而不入、思以利天下、雖勞苦不避也。今陛下行王政、非有苦身體勞思慮之難也。何憚而不爲哉。孝經曰、立身行道、揚名於後世、以顯父母、孝之終也。匹夫猶當行道以顯父母。況陛下貴爲天子。豈不發憤求治、思齊堯・舜、納民仁壽、上光祖考、垂休無窮。凡所謂孝、無大於此者也。
【読み】
臣觀るに陛下の心、天下を憂え慮らざるには非ざるなり。陛下天下を憂え慮るの心を以て王道を行わば、豈難からんや。孟子曰く、齊を以て王たらんこと、猶手を反すがごとし、と。又曰く、文王を師とせば、大國は五年、小國は七年、必ず政を天下にせん、と。諸侯の位、一國の地を以て、五年にして以て天下に王たる可し。況んや陛下天子の尊に居して、令四海に行われて、風の動かすが如き、苟も王政を行いたまわば、奚んぞ啻手を反すの易きのみならんや。昔大禹水を治めて、外に八年、三たび其の門を過れども入らず、以て天下を利せんことを思って、勞苦と雖も避けず。今陛下王政を行う、身體を苦しめ思慮を勞するの難有るに非ず。何ぞ憚ってせざるや。孝經に曰く、身を立て道を行い、名を後世に揚げて、以て父母を顯すは、孝の終わりなり、と。匹夫すら猶當に道を行って以て父母を顯す。況んや陛下貴きこと天子爲り。豈憤を發して治を求め、堯・舜に齊しからんことを思い、民を仁壽に納れ、上祖考を光[おお]いにして、休[よ]きを無窮に垂れざらんや。凡そ所謂孝とは、此より大なる者無し。

臣以謂、治今天下、猶理亂絲、非持其端條而舉之、不可得而治也。故臣前所陳、不及歷指政治之闕、但明有危亂之虞、救之當以王道也。然而行王之道、非可一二而言。願得一面天顏、罄陳所學。如或有取、陛下其置之左右、使盡其誠。苟實可用、陛下其大用之。若行而不效、當服罔上之誅、亦不虚受陛下爵祿也。
【読み】
臣以謂えらく、今の天下を治むるは、猶亂れたる絲を理むるがごとく、其の端條を持して之を舉ぐるに非ずんば、得て治む可からず。故に臣が前に陳べし所は、歷く政治の闕を指すに及ばず、但危亂の虞り有り、之を救うに當に王道を以てすべきことを明かすなり。然れども王の道を行うこと、一二にして言う可きに非ず。願わくは一たび天顏に面することを得て、罄[ことごと]く學ぶ所を陳べんことを。如し或は取ること有らば、陛下其れ之を左右に置いて、其の誠を盡くさしめたまえ。苟し實に用う可くんば、陛下其れ大いに之を用いたまえ。若し行って效あらずんば、當に上を罔するの誅に服すべく、亦不虚しく陛下の爵祿を受けじ。

陛下問羣臣、羣臣必謂寒賤之士、未可使近上側。自臣思之、以爲不然。臣髙祖羽、太祖朝年六十餘爲縣令。一言遭遇、聖祖特加拔擢、攀附太宗、終於兵部侍郎。顧遇之厚、羣臣無比。備存家牒。不敢繁述。臣曾祖希振、旣以父任後。祖遹復被推恩、國家錄先世之勳。臣父珦又蒙延賞、今爲國子博士。非有橫草之功、食君祿四世、一百年矣。臣料天下受國恩之厚、無如臣家者。臣自職事以來、思爲國家盡死、未得其路。爾則臣進見、宜無疑也。或者更爲强詞、言其不可、此乃自負陰私、懼防詆訐者也。
【読み】
陛下羣臣に問いたまわば、羣臣必ず謂わん、寒賤の士、未だ上の側に近づかしむ可からず、と。臣自り之を思うに、以て然らずとす。臣が髙祖羽は、太祖の朝に年六十餘にして縣令爲り。一言聖祖に遭遇して特に拔擢を加えられ、太宗に攀附して、兵部侍郎に終う。顧遇の厚き、羣臣比無し。備に家牒に存す。敢えて繁く述べず。臣が曾祖希振は、旣に父の任を以て後[つ]ぐ。祖遹も復推恩せられて、國家先世の勳を錄す。臣が父珦[きょう]も又延賞を蒙って、今國子博士爲り。橫草の功有るに非ざれども、君の祿を食すること四世、一百年なり。臣料るに天下國恩を受くるの厚き、臣の家に如く者無し。臣職事して自り以來、國家の爲に死を盡くさんことを思えども、未だ其の路を得ず。爾らば則ち臣が進見、宜しく疑い無かるべし。或は更に强詞を爲して、其の不可を言うは、此れ乃ち自ら陰私を負って、懼防詆訐する者なり。

伏望陛下出於聖斷、勿徇衆言、以王道爲心、以生民爲念、黜世俗之論、期非常之功。昔漢武笑齊宣不行孟子之說、自致不王、而不用仲舒之策。隋文笑漢武不用仲舒之策、不至於道、而不聽王通之言。二主之昏、料陛下亦嘗笑之矣。臣雖不敢望三子之賢、然臣之所學、三子之道也。陛下勿使後之視今、猶今之視昔、則天下不勝幸甚。望陛下特留意焉。臣愚無任踰越狂狷恐懼之極。臣頤昧死頓首謹言。
【読み】
伏して望むらくは陛下聖斷を出して、衆言に徇うこと勿く、王道を以て心とし、生民を以て念いとして、世俗の論を黜け、非常の功を期したまえ。昔漢武齊宣が孟子の說を行わざることを笑えども、自ら王ならざることを致して、仲舒の策を用いず。隋文漢武が仲舒の策を用いざることを笑えども、道に至らずして、王通の言を聽かず。二主の昏き、料るに陛下も亦嘗て之を笑いたまわん。臣敢えて三子の賢を望まずと雖も、然れども臣の學ぶ所は、三子の道なり。陛下後の今を視ること、猶今の昔を視るがごとくならしむること勿くんば、則ち天下幸甚に勝えず。望むらくは陛下特に意を留めんことを。臣愚踰越狂狷恐懼の極みに任[た]うること無し。臣頤昧死頓首して謹んで言[もう]す。


代彭思永上英宗皇帝論濮王典禮疏(治平二年四月)
【読み】
彭思永に代わって英宗皇帝に上って濮王の典禮を論ずる疏(治平二年四月)

臣思永言、伏見近日以濮王稱親事、言事之臣奏章交上、中外論議沸騰。此蓋執政大臣違亂典禮、左右之臣不能開陳理道、而致陛下聖心疑惑、大義未明。臣待罪憲府、不得不爲陛下明辨其事。竊以濮王之生陛下、而仁宗皇帝以陛下爲嗣、承祖宗大統、則仁廟、陛下之皇考、陛下、仁廟之適子。濮王、陛下所生之父、於屬爲伯。陛下、濮王出繼之子、於屬爲姪。此天地大義、生人大倫、如乾坤定位、不可得而變易者也。固非人意所能推移。苟亂大倫、人理滅矣。陛下仁廟之子、則曰父、曰考、曰親、乃仁廟也。若更稱濮王爲親、是有二親。則是非之理昭然自明、不待辨論而後見也。
【読み】
臣思永言す、伏して近日濮王を以て親と稱する事を見るに、事を言う臣奏章交々上って、中外論議沸騰す。此れ蓋し執政大臣典禮を違き亂し、左右の臣理道を開陳すること能わずして、陛下聖心疑惑し、大義未だ明らかならざることを致す。臣罪を憲府に待って、陛下の爲に明らかに其の事を辨ぜざることを得ず。竊かに以[おもん]みるに濮王の陛下を生んで、仁宗皇帝陛下を以て嗣と爲し、祖宗の大統を承くるときは、則ち仁廟は、陛下の皇考、陛下は、仁廟の適子なり。濮王は、陛下生む所の父、屬に於て伯と爲す。陛下は、濮王出繼の子、屬に於て姪と爲す。此れ天地の大義、生人の大倫、乾坤位を定めて、得て變易す可からざるが如き者なり。固に人意の能く推し移す所に非ず。苟も大倫を亂らば、人理滅びん。陛下は仁廟の子なるときは、則ち父と曰い、考と曰い、親と曰うは、乃ち仁廟なり。若し更に濮王を稱して親と爲さば、是れ二りの親有り。則ち是非の理昭然として自明なること、辨論を待たずして後に見ゆ。

然而聖意必欲稱之者、豈非陛下大孝之心、義雖出繼、情厚本宗。以濮王實(徐本實作寔。)生聖躬、曰伯則無以異於諸父、稱王則不殊於臣列、思有以尊大、使絕其等倫、如此而已。此豈陛下之私心哉。蓋大義所當、典禮之正、天下之公論、而執政大臣不能將順陛下大孝之心、不知尊崇之道、乃以非禮不正之號上累濮王、致陛下於有過之地、失天下之心、貽亂倫之咎。言事之臣又不能詳據典禮、開明大義、雖知稱親之非、而不知爲陛下推所生之至恩、明尊崇之正禮、使濮王與諸父夷等、無有殊別。此陛下之心所以難安而重違也。
【読み】
然れども聖意必ず之を稱せんと欲する者は、豈陛下大孝の心、義出繼と雖も、情本宗を厚くするに非ずや。濮王實(徐本實を寔に作る。)に聖躬を生むを以て、伯と曰うときは則ち以て諸父に異なること無く、王と稱するときは則ち臣の列に殊ならず、尊大を以て、其の等倫を絕たしむること有らんことをを思うこと、此の如きのみ。此れ豈陛下の私心ならんや。蓋し大義の當たる所、典禮の正しき、天下の公論にして、執政大臣陛下大孝の心に將[したが]い順うこと能わず、尊崇の道を知らずして、乃ち非禮不正の號を以て上濮王を累わして、陛下を過ち有るの地に致し、天下の心を失し、倫を亂るの咎を貽す。事を言う臣も又詳らかに典禮に據って、大義を開明すること能わず、親と稱するの非を知ると雖も、陛下の爲に生まるる所の至恩を推して、尊崇の正禮を明らかにすることを知らず、濮王をして諸父と夷等にして、殊別有ること無からしむ。此れ陛下の心安んじ難くして重く違う所以なり。

臣以爲、所生之義、至尊至大。雖當專意於正統、豈得盡絕於私恩。故所繼主於大義、所生存乎至情。至誠一心、盡父子之道、大義也。不忘本宗、盡其恩義、至情也。先王制禮、本緣人情。旣明大義以正統緒、復存至情以盡人心。是故在喪服、恩義別其所生。蓋明至重、與伯叔不同也。此乃人情之順、義理之正、行於父母之前、亦無嫌閒。至於名稱、統緒所繫。若其無別、斯亂大倫。
【読み】
臣以爲えらく、生む所の義は、至尊至大なり。當に意を正統に專らにすべしと雖も、豈盡く私恩を絕つことを得んや。故に繼ぐ所は大義を主とし、生む所は至情を存す。至誠心を一にして、父子の道を盡くすは、大義なり。本宗を忘れずして、其の恩義を盡くすは、至情なり。先王の禮を制するは、本人情に緣る。旣に大義を明らかにして以て統緒を正し、復至情を存して以て人心を盡くす。是の故に喪服に在って、恩義其の生む所に別つ。蓋し至重、伯叔と同じからざることを明らかにす。此れ乃ち人情の順、義理の正、父母の前に行くとも、亦嫌閒すること無し。名稱に至っては、統緒の繫かる所。若し其れ別無くんば、斯れ大倫を亂る。

今濮王陛下之所生。義極尊重、無以復加。以親爲稱、有損無益、何哉。親與父同、而所以不稱父者、陛下以身繼大統、仁廟父也。在於人倫、不可有貳。故避父而稱親、則是陛下明知稱父爲決不可也。旣避父而稱親、則是親與父異、此乃姦人以邪說惑陛下。言親義非一、不止謂父、臣以謂、取父義、則與稱父正同。決然不可。不取父義、則其稱甚輕。今宗室疎遠卑幼、悉稱皇親。加於所生、深恐非當。孝者以誠爲本。乃以疑似無正定之名、黷於所尊、體屬不恭、義有大害。稱之於仁廟、乃有嚮背之嫌、去之於濮王、不損所生之重、絕無小益、徒亂大倫。
【読み】
今濮王は陛下の生まるる所。義極めて尊重、以て復加うること無し。親を以て稱することをせば、損有って益無きは、何ぞや。親と父と同じくして、父と稱せざる所以の者は、陛下身大統を繼ぐを以て、仁廟は父なり。人倫に在って、貳有る可からず。故に父を避けて親と稱するときは、則ち是れ陛下明らかに父と稱するの決して不可爲ることを知ればなり。旣に父を避けて親と稱すれば、則ち是れ親と父と異なりというは、此れ乃ち姦人邪說を以て陛下を惑わすなり。親の義一に非ず、止父を謂うのみにあらずと言わば、臣以謂えらく、父の義を取るときは、則ち父と稱すると正に同じ。決然として不可なり。父の義を取らざるときは、則ち其の稱甚だ輕し。今宗室疎遠卑幼、悉く皇親と稱す。生まるる所に加うれば、深く恐らくは當たるに非ず。孝は誠を以て本とす。乃ち疑似にして正定無きの名を以て、尊ぶ所を黷[けが]さば、體不恭に屬し、義大なる害有り。之を仁廟に稱すれば、乃ち嚮背の嫌有り、之を濮王に去れば、生まるる所の重きを損せず、絕えて小益無くして、徒に大倫を亂るのみ。

臣料陛下之意、不必須要稱親。止謂不加殊名、無以別於臣列。臣以爲不然。推所生之義、則不臣自明。盡致恭之禮、則其尊可見。況當揆量事體、別立殊稱。要在得盡尊崇、不愆禮典。言者皆欲以高官大國加於濮王。此甚非知禮之言也。先朝之封、豈陛下之敢易。爵秩之命、豈陛下之敢加。臣以爲當以濮王之子襲爵奉祀、尊稱濮王爲濮國太王。如此則夐然殊號、絕異等倫、凡百禮數、必皆稱情。請舉一以爲率。借如旣置嗣襲、必伸祭告、當曰姪嗣皇帝名、敢昭告於皇伯父濮國太王。自然在濮國極尊崇之道、於仁皇無嫌貳之失、天理人心、誠爲允合。不獨正今日之事、可以爲萬世之法。復恐議者以太字爲疑。此則不然。蓋繫於濮國下、自於大統無嫌。
【読み】
臣料るに陛下の意、必ずしも親と稱することを須要せじ。止謂えらく、殊名を加えずんば、以て臣の列に別つこと無けん、と。臣以爲えらく、然らず。生む所の義を推せば、則ち臣たらざること自明なり。恭を致すの禮を盡くすときは、則ち其の尊見る可し。況んや當に事體を揆り量って、別に殊稱を立つべけんや。要は尊崇を盡くすことを得て、禮典を愆[あやま]らざるに在り。言者皆高官大國を以て濮王に加えんと欲す。此れ甚だ禮を知る言に非ず。先朝の封、豈陛下敢えて易えんや。爵秩の命、豈陛下敢えて加えんや。臣以爲えらく、當に濮王の子を以て襲爵奉祀せしめ、濮王を尊稱して濮國の太王と爲すべし。此の如きときは則ち夐然[けいぜん]たる殊號、等倫に絕異にして、凡そ百の禮數、必ず皆情に稱わん。請う一を舉げて以て率とせん。借如[も]し旣に嗣襲を置き、必ず祭告を伸べば、當に姪嗣皇帝の名、敢えて昭らかに皇伯父濮國の太王に告すと曰うべし。自然に濮國に在っては尊崇の道を極め、仁皇に於ては嫌貳の失無くして、天理人心、誠に允に合うとす。獨り今日の事を正すのみにあらず、以て萬世の法とす可し。復恐らくは議する者太の字を以て疑いを爲さん。此れ則ち然らず。蓋し濮國の下に繫かるときは、自づから大統に於て嫌無し。

今親之稱、大義未安。言事者論列不已、前者旣去、後者復然。雖使臺臣不言、百官在位亦必繼進、理不可奪、勢不可遏。事體如此、終難固持。仁宗皇帝在位日久、海宇億兆涵被仁恩。陛下嗣位之初、功德未及天下、而天下傾心愛戴者、以陛下仁廟之子也。今復聞以濮王爲親、含生之類、發憤痛心。蓋天下不知陛下孝事仁皇之心、格於天地、尊愛濮王之意、非肯以不義加之。但見誤致名稱、所以深懷疑慮。謂濮王旣復稱親、則仁廟不言自絕、羣情洶懼、異論喧囂。夫王者之孝、在乎得四海之歡心。胡爲以不正無益之稱、使億兆之口指斥謗讟(徐本讟作言。)、致濮王之靈不安於上。臣料陛下仁孝、豈忍如斯。皆由左右之臣不能爲陛下開明此理。在於神道、不遠人情。故先聖謂、事死如事生、事亡如事存。設如仁皇在位、濮王居藩、陛下旣爲冢嗣、復以親稱濮王、則仁皇豈不震怒。濮王豈不側懼。是則君臣兄弟立致釁隙。其視陛下當如何也。神靈如在。亦豈不然。以此觀之、陛下雖加名稱、濮王安肯當受。
【読み】
今親の稱、大義未だ安からず。事を言う者論列已まず、前なる者旣に去れば、後なる者復然り。臺臣をして言わざらしむと雖も、百官の位に在る亦必ず繼ぎ進んで、理奪う可からず、勢遏[とど]む可からず。事體此の如くならば、終に固持し難からん。仁宗皇帝在位日久しくして、海宇億兆仁恩を涵し被る。陛下位を嗣ぐの初め、功德未だ天下に及ばずして、天下心を傾けて愛戴する者は、陛下は仁廟の子なるを以てなり。今復濮王を以て親とすることを聞かば、含生の類、憤りを發し心を痛めしめん。蓋し天下陛下仁皇に孝事する心、天地に格ることを知らずして、濮王を尊愛する意、肯えて不義を以て之に加うることを非らん。但誤って名稱を致すを見て、深く疑慮を懷く所以なり。謂えらく、濮王旣に復親と稱せば、則ち仁廟自ら絕つと言わずとも、羣情洶懼[きょうく]して、異論喧囂たらん。夫れ王者の孝は、四海の歡心を得るに在り。胡爲れぞ不正無益の稱を以て、億兆の口をして指斥して謗讟[ぼうとく](徐本讟を言に作る。)せしめて、濮王の靈上に安んぜざること致さん。臣料るに陛下の仁孝、豈斯の如くなるに忍びんや。皆左右の臣陛下の爲に此の理を開明すること能わざるに由れり。神道に在っても、人情に遠からず。故に先聖謂えらく、死に事うること生に事うるが如く、亡に事うること存に事うるが如し、と。設し仁皇位に在り、濮王藩に居るが如き、陛下旣に冢嗣と爲りて、復親を以て濮王を稱せば、則ち仁皇豈震怒せざらんや。濮王豈側懼せざらんや。是れ則ち君臣兄弟立つところに釁隙[きんげき]を致さん。其れ陛下を視るに當に如何にすべき。神靈在すが如し。亦豈然らざらんや。此を以て之を觀れば、陛下名を加えて稱すと雖も、濮王安んぞ肯えて當に受くべけん。

伏願陛下深思此理、去稱親之文、以明示天下、則祖宗濮王之靈交歡於上、皆當垂祐陛下、享福無窮、率土之心、翕然慰悅、天下化德、人倫自正、大孝之名光於萬世矣。夫姦邪之人、希恩固寵、自爲身謀、害義傷孝、以陷陛下。今旣公論如此。不無徊徨、百計搜求、務爲巧飾、欺罔聖聽、枝梧言者、徼冀得己、尙圖自安、正言未省、而巧辯已至、使陛下之心無由而悟。伏乞將臣此章、省覽數遍、裁自宸衷、無使姦人與議。其措心用意、排拒人言、隱迹藏形、陰贊陛下者、皆姦人也。幸陛下察而辨之、勿用其說、則自然聖心開悟、至理明白。天下不勝大願。
【読み】
伏して願わくは陛下深く此の理を思って、親と稱するの文を去って、以て明らかに天下に示さば、則ち祖宗濮王の靈歡びを上に交[か]わして、皆當に祐を陛下に垂れ、福を無窮に享くべく、率土の心、翕然として慰悅し、天下德に化し、人倫自ら正しくして、大孝の名萬世に光らん。夫れ姦邪の人は、恩を希い寵を固くして、自ら身の謀とし、義を害し孝を傷って、以て陛下を陷る。今旣に公論此の如し。徊徨して、百計搜し求むること無くんばあらず、務めて巧飾を爲して、聖聽を欺罔し、枝梧の言者、徼[かす]めて己に得んことを冀って、尙自ら安んずることを圖り、正言未だ省みずして、巧辯已に至り、陛下の心をして由って悟ること無からしむ。伏して乞う、臣の此の章を將って、省覽數遍、裁すること宸衷自りして、姦人をして與に議せしむること無かれ。其の心を措き意を用いて、人の言を排拒し、迹を隱し形を藏して、陰かに陛下を贊[たす]くる者は、皆姦人なり。幸いに陛下察して之を辨じて、其の說を用うること勿くんば、則ち自然に聖心開悟し、至理明白ならん。天下大願に勝えず。


爲家君應詔上英宗皇帝書(治平二年)
【読み】
家君の爲に詔に應じて英宗皇帝に上る書(治平二年)

臣珦言、伏覩八月八日詔勑、以比年以來、水潦爲沴、八月庚寅大雨應、中外臣僚竝許上實封、言時政闕失及當世利病。此蓋皇帝陛下承祖宗大業、嚴恭天命、祗畏警懼之深也。天下士民欽聞德音、苟有知見、孰不願披忠瀝懇、上逹天聽。臣雖至愚、官爲省郎、職分郡寄。敢不竭其區區之誠、以應明詔。惟陛下寬其狂易之誅、賜之省覽、則天下幸甚。
【読み】
臣珦言す、伏して覩るに八月八日の詔勑、比年以來、水潦沴[れい]を爲し、八月庚寅大雨應ずるを、中外の臣僚竝びに實封を上って、時政の闕失及び當世の利病を言すことを許さる。此れ蓋し皇帝陛下祖宗の大業を承けて、天命を嚴[とうと]び恭しくして、祗み畏れ警め懼るること深ければなり。天下の士民欽んで德音を聞き、苟も知見有らば、孰か忠を披き懇を瀝[したた]りて、上天聽に逹することを願わざらんや。臣至愚なりと雖も、官省郎爲り、職郡寄を分かつ。敢えて其の區區の誠を竭くして、以て明詔に應ぜざらんや。惟陛下其の狂易の誅を寬め、之が省覽を賜わば、則ち天下幸甚ならん。

臣聞水旱之沴、由陰陽不和。繫政事之所致。是以自昔明王、或遇災變、則必警懼以省躬之過、思政之闕、廣延衆論、求所以當天心、致和氣。故能消弭變異、長保隆平。昔在商王中宗之時、有桑穀之祥、高宗之時、有雊雉之異。二王以爲懼而修政行德、遂致王道復興、皆爲商宗、百世之下頌其聖明。今陛下嗣位之初、比年陰沴。聖心警畏、下明詔以求政之闕。誠聖明之爲也。然臣觀近古以來、引咎之詔、自新之言、亦世有之。其如人君不由於至誠、天下徒以爲虛語。豈復有如商之二宗興王道於旣衰者乎。臣願陛下因此天戒、奮興善治、思商宗之休實、鑒後代之虛飾、不獨消復災沴於今日、將永保丕基於無窮。
【読み】
臣聞く、水旱の沴は、陰陽和せざるに由れり。政事の致す所に繫かれり、と。是を以て昔自り明王、或は災變に遇わば、則ち必ず警め懼れて以て躬の過ちを省み、政の闕を思って、廣く衆論を延べて、天心に當たり、和氣を致す所以を求む。故に能く變異を消弭[しょうび]して、長く隆平を保つ。昔商王中宗の時、桑穀の祥有り、高宗の時、雊雉[こうち]の異有り。二王以て懼るることを爲して政を修め德を行って、遂に王道復興ることを致して、皆商の宗と爲りて、百世の下其の聖明を頌す。今陛下位を嗣ぐの初め、比年陰沴す。聖心警畏して、明詔を下して以て政の闕を求む。誠に聖明の爲[しわざ]なり。然れども臣觀るに近古以來、咎を引くの詔、自ら新にするの言は、亦世々之れ有り。其れ如し人君至誠に由らざれば、天下徒に以て虛語とす。豈復商の二宗王道を旣に衰えたるに興すが如くなる者有らんや。臣願わくは陛下此の天戒に因って、善治を奮興して、商宗の休實を思い、後代の虛飾を鑒みば、獨り災沴を今日に消復するのみにあらず、將に永く丕基[ひき]を無窮に保たんとせん。

伏觀詔旨、時政闕失、當世利病、可以佐元元者、悉心以陳、毋有所諱。臣竊惟天下之勢所甚急者、在安危治亂之機。若夫指一政之闕失、陳一事之利病、徒爲小補、不足以救當世之弊、而副陛下勤求之意也。所謂安危治亂之機、臣請條其大端。
【読み】
伏して詔旨を觀て、時政の闕失、當世の利病、以て元元を佐く可き者、心を悉くして以て陳べて、諱む所有ること毋し。臣竊かに惟みるに天下の勢甚だ急なる所の者、安危治亂の機に在り。若し夫れ一政の闕失を指し、一事の利病を陳ぶるは、徒に小補を爲して、以て當世の弊を救って、陛下勤め求むるの意に副うに足らず。所謂安危治亂の機、臣請う、其の大端を條せん。

所謂安且治者、朝廷有綱紀權持總攝百職庶務。天下之治、如網之有綱、裘之有領、舉之而有條、委之而不紊也。郡縣之官、得人而職修、惠養有道、朝廷政化宣逹于下也。百姓安業、衣食足而有恆心、知孝悌忠信之敎、率之易從、勞之不怨、心附於上、固而不可搖也。化行政肅、無姦宄盜賊之患。設有之、不足爲慮。蓋有殲滅之備、而無響應之虞也。民心和而陰陽順、無水旱蟲螟之災。雖有之、不能爲害。蓋倉廩實而府庫充、官用給於上、民食足於下也。武備修而威靈振、蠻夷戎狄無敢不服。雖有之、不足爲憂。蓋甲兵利而儲備豐、將善謀而士素練也。
【読み】
所謂安んじて且つ治むる者は、朝廷綱紀有りて百職庶務を權持總攝すればなり。天下の治は、網の綱有り、裘の領有って、之を舉げて條有り、之を委して紊れざるが如し。郡縣の官、人を得て職修め、惠養道有れば、朝廷の政化下に宣逹す。百姓業を安んじ、衣食足りて恆の心有りて、孝悌忠信の敎を知れば、之を率いるに從い易く、之を勞すれども怨みず、心上に附くこと、固くして搖らす可からず。化行われ政肅[きび]しければ、姦宄[かんき]盜賊の患え無し。設い之れ有るとも、慮りを爲すに足らず。蓋し殲滅の備え有って、響應の虞[おそ]れ無ければなり。民心和して陰陽順なれば、水旱蟲螟の災無し。之れ有りと雖も、害を爲すこと能わず。蓋し倉廩實ちて府庫充ち、官用上に給[た]りて、民食下に足ればなり。武備修めて威靈振るえば、蠻夷戎狄敢えて服せずということ無し。之れ有りと雖も、憂えを爲すに足らず。蓋し甲兵利して儲備豐かに、將善く謀って士素より練ればなり。

此六者、所謂安且治者。今之事、一皆反是。朝廷紀綱汙漫離散、莫可總攝。本原如此、治將安出。郡縣之官、選不以道、更易之數、雖時謂才者、尙莫能稱其職。況庸常者乎。循常苟安、狃以成俗、舉世以爲當然。政治廢亂、生民困苦。朝廷雖有惠澤、孰能宣布以逹于下。所與共理者如此。天下斯可知矣。百姓窮蹙、日以加甚、而重斂繁賦、消削之不息。天下戶口雖衆、而自足者益寡。司牧者治其事爾。非有師保左右之也。其善惡勤惰、趨利避害、或昧而反之。一從其自然、而困之陷之之道又非一塗。人用無聊、苟度歲月、驅之於治則難格、率之於惡則易搖。民惟邦本。本根如是、邦國奈何。民無生業、極困則慮生。不漸善敎、思利而志動、乘閒隙則萌姦宄、逼凍殍則爲盜賊。今玆幸無大故、尙爾苟安。設或遇大饑饉、有大勞役、姦雄一呼、所在必應。以今無事之時、尙恐力不能制。況勞擾多事之際乎。天下安危、實(徐本實作寔。)繫於此。保民之道、以食爲本。今自京師至于天下、計平時之用、率無三年之蓄。民閒空匱、則又甚焉。以萬室之邑觀之、有厚蓄者百無二三、困衣食者十居六七。統而較之、天下虛竭可知矣。豐年樂歲、飢寒見於道路。一穀不稔、便致流轉。卒有方數千里連數年之水旱、不知何以待之。姦盜蜂起於内、夷狄乘隙於外、雖欲爲之、末如何矣。戎狄强盛、古未有此。歲輸金帛以修好、而好不可恃。窮天下之力以養兵、而兵不足用。尙幸二虜無謀、厭小欲而忘大利。故我得以紓朝夕之急。若其連衡而來、則必興數十萬之衆、宿於邊境。饋餉不繼、財用不充、將何以濟乎。驕惰之兵、縱無奔潰之患、曠日持久、終有窮極之虞。又況征斂興發、而民人轉亡、饑饉愁怨、而姦雄競起。事至於此、興衰可知。以今觀之、天下之勢、安乎、危乎。
【読み】
此の六つの者は、所謂安んじて且つ治むる者なり。今の事、一に皆是に反す。朝廷の紀綱汙漫離散して、總攝す可き莫し。本原此の如くならば、治將に安くにか出んとす。郡縣の官、選ぶに道を以てせず、更々之が數を易えば、時に才ある者と謂うと雖も、尙能く其の職に稱うこと莫し。況んや庸常なる者をや。常に循って苟も安んじて、狃って以て俗を成し、世を舉げて以て當然とす。政治廢亂し、生民困苦す。朝廷惠澤有りと雖も、孰か能く宣布して以て下に逹せん。與に共に理むる所の者此の如し。天下斯に知る可し。百姓窮蹙[きゅうしゅく]、日に以て加々甚だしくして、重く斂し繁く賦して、之を消削すること息まず。天下の戶口衆しと雖も、自ら足れりとする者益々寡し。司牧の者其の事を治むるのみ。師保之を左右[たす]くること有るに非ず。其の善惡勤惰、利に趨り害を避け、或は昧くして之に反す。一に其の自然に從って、之を困しめ之を陷しむるの道又一塗に非ず。人用って無聊にして、苟も歲月を度らば、之を治に驅れば則ち格し難く、之を惡に率いば則ち搖らし易からん。民は惟れ邦の本なり。本根是の如くならば、邦國奈何にせん。民生業無くして、極めて困するときは則ち慮り生ず。漸く善く敎えずして、利を思って志動かば、閒隙に乘じては則ち姦宄を萌し、凍殍[とうひょう]に逼らば則ち盜賊をせん。今玆に幸いに大故無しとして、尙爾[しか]く苟も安んず。設し或は大なる饑饉に遇い、大なる勞役に有って、姦雄一呼せば、所在必ず應ぜん。今無事の時を以てすら、尙力制すること能わざらんことを恐る。況んや勞擾多事の際をや。天下の安危、實(徐本實を寔に作る。)に此に繫かれり。民を保んずるの道は、食を以て本とす。今京師自り天下に至るまで、平時の用を計るに、率ね三年の蓄え無し。民閒空匱すること、則ち又焉より甚だし。萬室の邑を以て之を觀るに、厚く蓄うること有る者百に二三無く、衣食に困しめる者十に六七に居す。統べて之を較べて、天下の虛竭知る可し。豐年樂歲、飢寒道路に見る。一穀も稔らずんば、便ち流轉を致さん。卒に方數千里數年を連ぬるの水旱有らば、知らず、何を以て之を待たん。姦盜内に蜂起し、夷狄隙に外に乘ぜば、之をせんと欲すと雖も、如何ともすること末けん。戎狄强盛なること、古より未だ此のごときには有らず。歲々に金帛を輸して以て好を修すれども、好恃む可からず。天下の力を窮めて以て兵を養うとも、兵用うるに足らず。尙幸いに二虜謀無くして、小欲に厭いて大利を忘る。故に我れ以て朝夕の急を紓[の]ぶることを得。若し其れ連衡して來らば、則ち必ず數十萬の衆を興して、邊境に宿せん。饋餉繼がず、財用充てずんば、將何を以て濟さんや。驕惰の兵、縱い奔潰の患え無くとも、日を曠[むな]しくして持すること久しければ、終に窮極の虞り有らん。又況んや征斂興發して、民人轉亡し、饑饉愁怨して、姦雄競い起たん。事此に至っては、興衰知る可し。今を以て之を觀れば、天下の勢、安しとせんや、危うしとせんや。

凡此數端、皆有危亡之虞、而未至於是者、不識朝廷制置能使之然邪。抑亦天幸而偶然邪。幸然之事、其可常乎。先皇帝至仁格天地、保持之以至於今。歷時旣已久、言者旣已多、朝廷遂以爲果不足憂也。可以常然。姑維持之而已。雖聞至深至切之言、不爲動也。嗚呼、貽天下之患、必由於是乎。今天下尙無事、朝廷宜急思所以救時之道。不然、臣恐因循歲月、前之所陳者一事至、則爲之晩矣。中人之家、有百金之產、子孫保守、不敢不念。陛下承祖宗大業、可不懼乎。
【読み】
凡そ此の數端、皆危亡の虞れ有って、未だ是に至らざる者は、識らず、朝廷の制置能く之をして然らしむるか。抑々亦天幸いにして偶々然るか。幸然の事は、其れ常にす可けんや。先皇帝至仁天地を格して、之を保持して以て今に至れり。時を歷ること旣已に久しく、言者旣已に多くして、朝廷遂に以て果たして憂うるに足らずとす。以て常に然る可けんや。姑く之を維持するのみ。至深至切の言を聞くと雖も、動くことをせず。嗚呼、天下の患えを貽すこと、必ず是に由らんか。今天下尙無事、朝廷宜しく急に時を救う所以の道を思うべし。然らずんば、臣恐れらくは歲月に因循して、前の陳ぶる所の者一事至らば、則ち之をすること晩からんことを。中人の家、百金の產有るすら、子孫保ち守ること、敢えて念わずんばあらず。陛下祖宗の大業を承けて、懼れざる可けんや。

今言當世之務者、必曰所先者、寬賦役也、勸農桑也、實倉廩也、備災害也、修武備也、明敎化也。此誠要務。然猶未知其本也。臣以爲所尤先者有三焉。請爲陛下陳之。一曰立志、二曰責任、三曰求賢。今雖納嘉謀、陳善算、非君志先立、其能聽而用之乎。君欲用之、非責任宰輔、其孰承而行之乎。君相協心、非賢者任職、其能施於天下乎。三者本也。制於事者用也。有其本、不患無其用。
【読み】
今當世の務めを言う者、必ず曰わん、先んずる所の者は、賦役を寬くし、農桑を勸め、倉廩を實て、災害に備え、武備を修め、敎化を明らかにするなり、と。此れ誠に要務なり。然れども猶未だ其の本を知らざるなり。臣以爲えらく、尤も先んずる所の者三つ有り。請う陛下の爲に之を陳べん。一に曰く志を立つ、二に曰く任を責む、三に曰く賢を求む。今嘉謀を納れ、善算を陳ぶと雖も、君の志先づ立つに非ずんば、其れ能く聽いて之を用いんや。君之を用いんと欲すとも、任を宰輔に責むるに非ずんば、其れ孰か承けて之を行わんや。君相心を協[あ]わすとも、賢者職に任ずるに非ずんば、其れ能く天下に施さんや。三つの者は本なり。事を制する者は用なり。其の本有れば、其の用無きを患えず。

三者之中、復以立志爲本。君志立而天下治矣。所謂立志者、至誠一心、以道自任、以聖人之訓爲可必信、先王之治爲可必行、不狃滯於近規、不遷惑於衆口、必期致天下如三代之世、此之謂也。夫以一夫之身、立志不篤、則不能自修。況天下之大、非體乾剛健、其能治乎。自昔人君、孰不欲天下之治。然而或欲爲而不知所措、或始銳而不克其終、或安於積久之弊而不能改爲、或惑於衆多之論而莫知適用。此皆上志不立故也。
【読み】
三つの者の中、復志を立つるを以て本とす。君の志立って天下治まる。所謂志を立つとは、至誠心を一にして、道を以て自ら任じて、以て聖人の訓必ず信ず可しとし、先王の治必ず行う可しとして、近規に狃滯[じゅうたい]せず、衆口に遷惑せず、必ず天下三代の世の如くなることを致すことを期する、此れ之の謂なり。夫れ以みるに一夫の身すら、志を立つること篤からざれば、則ち自ら修むること能わず。況んや天下の大、乾の剛健に體するに非ずんば、其れ能く治まらんや。昔自り人君、孰か天下の治まることを欲せざらん。然れども或はせんと欲すれども措く所を知らず、或は始め銳にして其の終わりを克くせず、或は積久の弊に安んじて改め爲すこと能わず、或は衆多の論に惑いて用に適うことを知ること莫し。此れ皆上の志立たざるが故なり。

臣觀朝廷每有善政、鮮克堅守、或行之而天下不從。請舉近年一二事以明之。朝廷以今之任人未嘗選擇、一用薦舉之定式。患所舉不得其人也。故詔以飭之、非不丁寧。然而當其任者如弗聞也。陛下以爲自後所舉果得其人乎。曾少異於舊乎。又以守令數易之害治也、詔廉察之官、舉其有善政者俾之再任。于今未聞有應詔者。豈天下守令無一人有善政邪。苟誠無之、朝廷負生民、不已甚乎。且以爲善而行之、何不使天下奉承以見其效。若曰非不欲必行也、奈天下不從何。如此則是政令不行矣。將如天下何。此亦在陛下而已。苟陛下之志先立、奮其英斷以必行之、雖彊大諸侯、跋扈藩鎭、亦將震懾(徐本懾作慴。)、莫敢違也。況郡縣之吏乎。故臣願陛下以立志爲先。如臣前所陳、法先王之治、稽經典之訓、篤信而力行之、救天下深沈固結之弊、爲生民長久治安之計、勿以變舊爲難、勿以衆口爲惑、則三代之治可望於今日也。
【読み】
臣觀るに朝廷每に善政有れども、克く堅く守ること鮮く、或は之を行えども而れども天下從わず。請う近年の一二事を舉げて以て之を明かさん。朝廷今の人に任ずる未だ嘗て選擇せざるを以て、一に薦舉の定式を用う。舉ぐる所其の人を得ざることを患う。故に詔して以て之を飭[いまし]むること、丁寧ならざるには非ず。然れども其の任に當たる者聞かざるが如し。陛下以爲えらく、自後舉ぐる所果たして其の人を得たりとするか。曾て少しく舊に異なりとするか、と。又守令數々之を易うれば治を害するを以て、廉察の官に詔して、其の善政有る者を舉げて之をして再び任ぜしめんとす。今に于て未だ詔に應ずる者有ることを聞かず。豈天下の守令一人も善政有ること無けんや。苟し誠に之れ無しとせば、朝廷生民に負うこと、已甚だしからずや。且以て善にして之を行うとせば、何ぞ天下をして奉承して以て其の效を見さしめざる。若し必ず行うことを欲せざるに非ずと曰わば、天下從わざるを奈何。此の如きときは則ち是れ政令行われざるなり。將天下を如何。此れ亦陛下に在るのみ。苟も陛下の志先づ立って、其の英斷を奮って以て必ず之を行いたまわば、彊大の諸侯、跋扈の藩鎭と雖も、亦將震い懾[おそ](徐本懾を慴に作る。)れて、敢えて違くこと莫けん。況んや郡縣の吏をや。故に臣願わくは陛下志を立つるを以て先とせんことを。臣が前に陳ぶる所の如く、先王の治に法り、經典の訓を稽えて、篤信して力めて之を行って、天下深沈固結の弊を救い、生民長久治安の計を爲し、舊を變ずることを以て難しとすること勿く、衆口を以て惑うことをすること勿くんば、則ち三代の治今日に望む可し。

若曰人君所爲、不可以易、易而或失、其害則大、臣以爲不然。稽古而行、非爲易也。歷觀前史、自古以來、豈有法先王、稽訓典、將大有爲而致敗亂者乎。惟動不師古、苟安襲弊、卒至危亡者則多矣。事據昭然、無可疑也。願陛下不以臣之疏賤而易其言、則天下幸甚。
【読み】
若し人君のする所、以て易しとす可からず、易くして或は失すれば、其の害則ち大なりと曰わば、臣以爲えらく、然らず、と。古を稽えて行うは、易しとするに非ず。歷く前史を觀るに、古自り以來、豈先王に法り、訓典を稽え、將に大いにすること有らんとして敗亂を致す者有らんや。惟動[ややもす]れば古を師とせず、苟も襲弊に安んじて、卒に危亡に至る者は則ち多し。事據昭然として、疑う可き無し。願わくは陛下臣が疏賤を以て其の言を易[あなど]らずんば、則ち天下幸甚ならん。

所謂責任者、夫以海宇之廣、億兆之衆、一人不可以獨治、必賴補弼之賢、然後能成天下之務。自古聖王、未有不以求任輔相爲先者也。在商王高宗之初、未得其人、則恭默不言。蓋事無當先者也。及其得說而命之、則曰濟川作舟楫、歲旱作霖雨、和羮惟鹽梅、其相須倚賴之如是。此聖人任輔相之道也。
【読み】
所謂任を責むとは、夫れ以みるに海宇の廣き、億兆の衆き、一人以て獨治む可からず、必ず補弼の賢に賴って、然して後に能く天下の務めを成す。古自り聖王、未だ輔相に任ずることを求むるを以て先とせざる者は有らず。商王高宗の初め、未だ其の人を得ざるに在っては、則ち恭默して言わず。蓋し事當に先んずべき者無ければなり。其の說を得て之に命ずるに及んでは、則ち曰く、川を濟らば舟楫と作り、歲旱せば霖雨と作り、羮を和らぐるには惟鹽梅をせんとは、其の相須い倚り賴ること是の如し。此れ聖人輔相に任ずるの道なり。

夫圖任之道、以愼擇爲本。擇之愼、故知之明。知之明、故信之篤。信之篤、故任之專。任之專、故禮之厚而責之重。擇之愼、則必得其賢。知之明、則仰成而不疑。信之篤、則人致其誠。任之專、則得盡其才。禮之厚、則禮貌尊而其勢重。責之重、則其自任切而功有成。是故推誠任之、待以師傅之禮、坐而論道、責之以天下治、陰陽和。故當之者、自知禮尊而任專、責深而勢重、則挺然以天下爲己任。故能稱其職也。雖有姦諛巧佞、知其交深而不可閒、勢重而不可搖、亦將息其邪謀、歸附於正矣。
【読み】
夫れ任を圖るの道は、愼擇を以て本とす。之を擇ぶこと愼む、故に之を知ること明らかなり。之を知ること明らかなり、故に之を信ずること篤し。之を信ずること篤し、故に之に任ずること專らなり。之に任ずること專らなり、故に之を禮すること厚くして之を責むること重し。之を擇ぶこと愼むときは、則ち必ず其の賢を得。之を知ること明らかなるときは、則ち成ることを仰いで疑わず。之を信ずること篤きときは、則ち人其の誠を致す。之を任ずること專らなるときは、則ち其の才を盡くすことを得。之を禮すること厚きときは、則ち禮貌尊くして其の勢重し。之を責むること重きときは、則ち其の自ら任ずること切にして功成ること有り。是の故に誠を推して之に任じ、待するに師傅の禮を以てして、坐して道を論ぜしめ、之を責むるに天下の治を以てするに、陰陽和す。故に之に當たる者、自ら禮尊くして任專らに、責め深くして勢重きことを知るときは、則ち挺然として天下を以て己が任とす。故に能く其の職に稱うなり。姦諛巧佞有りと雖も、其の交わり深くして閒[へだ]つ可からず、勢重くして搖らす可からざることを知って、亦將其の邪謀を息めて、正しきに歸附す。

後之任相者異於是。其始也不愼擇。擇之不愼、故知之不明。知之不明、故信之不篤。信之不篤、故任之不專。任之不專、故禮之不厚、而責之亦不重矣。擇不愼、則不得其人。知不明、則用之猶豫。信不篤、則人懷疑慮。任不專、則不得盡其能。禮不厚、則其勢輕而易搖。責不重、則不稱其職。是故任之不盡其誠、待之不以其禮、僕僕趨走、若吏史然。文案紛冗、下行有司之事。當之者自知交不深而其勢輕、動懷顧慮、不肯自盡、上懼君心之疑、下虞羣議之奪。故蓄縮不敢有爲、苟循常以圖自安爾。君子弗願處也。姦邪之人亦知其易搖、日伺閒隙。如是其能自任以天下之重乎。
【読み】
後の相に任ずる者は是に異なり。其の始めに愼み擇ばず。之を擇ぶこと愼まず、故に之を知ること明らかならず。之を知ること明らかならず、故に之を信ずること篤からず。之を信ずること篤からず、故に之に任ずること專らならず。之に任ずること專らならず、故に之を禮すること厚からずして、之を責むること亦重からず。擇ぶこと愼まざるときは、則ち其の人を得ず。知ること明らかならざるときは、則ち之を用うること猶豫す。信ずること篤からざるときは、則ち人疑慮を懷く。任ずること專らならざるときは、則ち其の能を盡くすことを得ず。禮厚からざるときは、則ち其の勢輕くして搖らし易し。責むること重からざるときは、則ち其の職に稱わず。是の故に之に任ずること其の誠を盡くさず、之に待すること其の禮を以てせず、僕僕として趨走すること、吏史の若く然り。文案紛冗にして、下有司の事を行う。之に當たる者は自ら交わり深からずして其の勢輕きことを知って、動れば顧慮を懷いて、肯えて自ら盡くさず、上君の心に疑われんことを懼れ、下羣議に奪われんことを虞る。故に蓄縮して敢えてすること有らず、苟も常に循って以て自ら安んずることを圖るのみ。君子は處することを願わず。姦邪の人亦其の搖らし易きことを知って、日に閒隙を伺う。是の如くならば其れ能く自ら任ずるに天下の重きを以てせんや。

若曰非任之艱、知之惟艱、且何以知其賢而任之。或失其人、治亂其(徐本其作所。)繫。此人君所以難之也。臣以爲知人誠難。亦繫取之之道如何爾。皋陶爲帝舜謨曰、在知人。禹吁而難之。及其陳九德載采采、則曰底可績。蓋詢行考實、人焉廋哉。歷觀前史、自古以來、豈有履道之士、孝聞於家、行著於郷、德推於朝廷、節見於事爲、其言合聖人之道、其施蹈經典之訓、及用之於朝、反致敗亂者乎。用是而求、其有差乎。
【読み】
若し任ずること艱きに非ず、知ること惟艱しと曰わば、且何を以て其の賢を知って之に任ぜん。或は其の人を失すれば、治亂其れ(徐本其を所に作る。)繫かる。此れ人君之を難しとする所以なり。臣以爲えらく、人を知ること誠に難し。亦之を取るの道如何というに繫かるのみ。皋陶帝舜の爲に謨[はか]って曰く、人を知るに在り、と。禹吁[なげ]いて之を難しとす。其の九德を載[おこな]うこと采采[ことごと]にすと陳ぶるに及んでは、則ち底[いた]して績とす可しと曰う。蓋し行いを詢[と]い實を考えば、人焉んぞ廋[かく]さんや。歷く前史を觀るに、古自り以來、豈道を履む士、孝家に聞え、行い郷に著れ、德朝廷に推され、節事爲に見れ、其の言聖人の道に合い、其の施し經典の訓を蹈んで、之を朝に用うるに及んで、反って敗亂を致す者有らんや。是を用いて求めば、其れ差い有らんや。

若乃人君以爲賢、而用之卒敗厥事者、古亦多矣。稽迹其由、蓋取之不以其道也。大率以言事合於己心、則謂之才而用之。曾不循核本末、稽考名實、如前之云。傷明害政、不亦宜乎。四海之大、未始乏賢、誠能廣聰明、揚側陋、至誠降禮、求之以道、雖皋・虁・伊・周之比、亦可必有、賢德志道之士、皆可得而用也。
【読み】
若し乃ち人君以て賢なりと爲して、之を用いて卒に厥の事を敗る者、古亦多し。其の由を稽え迹[たづ]ぬるに、蓋し之を取ること其の道を以てせざればなり。大率事を言うこと己の心に合うを以て、則ち之を才ありと謂いて之を用う。曾て本末を循核し、名實を稽考せざること、前に云うが如し。明を傷り政を害すること、亦宜ならずや。四海の大なる、未だ始めより賢に乏しからず、誠に能く聰明を廣げ、側陋までを揚げ、至誠降禮して、之を求むるに道を以てせば、皋・虁・伊・周の比と雖も、亦必ず有る可くして、賢德あり道を志すの士、皆得て用う可し。

願陛下如臣前所陳、旣堅求治之志、則以責任宰輔爲先。待之盡其禮、任之盡其誠、責之盡其職、不患其不爲、患其不能爲、不患其不能爲、患其不得爲。蓋不爲者可責之必爲、不能者可勉求而能。惟不得爲則已矣。所謂不得爲者、君臣之志不通、懷顧慮而不肯自盡。此由失待任之道也。今執政大臣皆先朝之選。天下重望、在陛下責任之而已。臣願陛下召延宰執、從容訪問、今天下之事、爲安爲危、爲治爲亂、當維持以度歲月乎、當有爲以救其弊乎。如曰當爲、則願示之以必爲之意、詢之以所爲之政、審慮之、力行之、時不可後、事不可緩也。
【読み】
願わくは陛下臣が前に陳ぶる所の如く、旣に治を求むるの志を堅くせば、則ち任を宰輔に責むるを以て先としたまえ。之に待するに其の禮を盡くし、之に任ずるに其の誠を盡くし、之を責むるに其の職を盡くして、其のせざることを患えず、其のすること能わざることを患え、其のすること能わざることを患えず、其のすることを得ざることを患えたまえ。蓋しせざる者は之を必爲に責む可く、能わざる者は勉め求めて能くす可し。惟することを得ざるときは則ち已みぬ。所謂することを得ざる者は、君臣の志通ぜず、顧慮を懷いて肯えて自ら盡くさず。此れ待任の道を失するに由れり。今執政大臣は皆先朝の選。天下の重望、陛下之に任ずることを責むるに在るのみ。臣願わくは陛下宰執を召き延き、從容として訪問したまえ、今天下の事、安しとするか危うしとするか、治まるとするか亂れるとするか、當に維持して以て歲月を度るべきか、當にすること有りて以て其の弊を救うべきか、と。如し當にすべしと曰わば、則ち願わくは之に示すに必爲の意を以てし、之に詢うにする所の政を以てして、審らかに之を慮り、力めて之を行って、時後る可からず、事緩くす可からず。

如曰非不爲也、患不能也、則天下之廣、豈無賢德。可以禮問。朝廷之上、豈無英髦。可以討論。有先王之政。可以考觀。有經典之訓。可以取則。道豈遠哉。病不求爾。在君相協心勤求力爲之而已。
【読み】
如しせざるには非ず、能くせざることを患うと曰わば、則ち天下の廣き、豈賢德無けんや。以て禮問す可し。朝廷の上、豈英髦無けんや。以て討論す可し。先王の政有り。以て考え觀る可し。經典の訓有り。以て則を取る可し。道豈遠からんや。求めざることを病むのみ。君相心を協わせて之を勤め求め力め爲すに在るのみ。

如曰無妄爲也、姑守常而已、則在陛下深思而明辨之。唐文宗之時、大權漸奪、天下將亂。而牛僧孺欺以爲治矣。史册書之。可爲明鑒。今陛下聖明、執政忠良、無是事也。願陛下不以臣之疏賤而易其言、則天下幸甚。
【読み】
如し妄りにすること無し、姑く常を守るのみと曰わば、則ち陛下深く思って明らかに之を辨ずるに在り。唐の文宗の時、大權漸奪し、天下將に亂れんとす。而るに牛僧孺欺いて以て治まれりとす。史册に之を書す。明鑒と爲す可し。今陛下聖明、執政忠良、是の事無し。願わくは陛下臣が疏賤を以てして其の言を易らずんば、則ち天下幸甚ならん。

所謂求賢者、夫古之聖王所以能致天下之治、無他術也。朝廷至於天下、公卿大夫、百職羣僚、皆稱其任而已。何以得稱其任。賢者在位、能者在職而已。何以得賢能而任之。求之有道而已。雖天下常用易得之物、未有不求而得者也。金生於山、木生於林、非匠者採伐、不登於用。況賢能之士、傑出羣類、非若山林之物廣生而無極也。非人君捜擇之有道、其可得而用乎。自昔邦家張官置吏、未嘗不取士也。顧取之之道如何爾。
【読み】
所謂賢を求むとは、夫れ古の聖王能く天下の治を致す所以は、他の術無し。朝廷より天下に至るまで、公卿大夫、百職羣僚、皆其の任に稱うのみ。何を以て其の任に稱うことを得る。賢者位に在り、能者職に在るのみ。何を以て賢能を得て之に任ずる。之を求むるに道有るのみ。天下常に用いて得易き物と雖も、未だ求めずして得る者は有らず。金山に生じ、木林に生ずるも、匠者採伐するに非ざれば、用に登らず。況んや賢能の士、羣類に傑出するは、山林の物廣く生じて極まり無きが若くに非ず。人君捜し擇ぶこと道有るに非ずんば、其れ得て用う可けんや。昔自り邦家官を張り吏を置き、未だ嘗て士を取らずんばあらず。之を取る道如何と顧みるのみ。

今取士之弊、議者亦多矣。臣不暇條析而言。大概投名自薦記誦聲律、非求賢之道爾。求不以道、則得非其賢。閒或得才、適由偶幸、非知其才而取之也。朝廷選任、盡自其中、曾不虞賢俊之棄遺於下也。果天下無遺賢邪。抑雖有之、吾姑守法於上、不足以爲意邪。將科舉所得之賢、已足致(徐本無致字。)治而不乏邪。臣以爲治天下今日之弊、蓋由此也。以今選舉之科、用今進任之法、而欲得天下之賢、興天下之治、其猶北轅適越。不亦遠乎。
【読み】
今士を取るの弊、議する者亦多し。臣條析して言うに暇あらず。大概名を投じて自ら記誦聲律を薦むるは、賢を求むるの道に非ざるのみ。求むること道を以てせざれば、則ち得ること其の賢に非ず。閒[まま]或は才を得るも、適々偶幸に由って、其の才を知って之を取るに非ざるなり。朝廷の選任、盡く其の中自りして、曾て賢俊の下に棄遺せることを虞らず。果たして天下遺れる賢無しとするや。抑々之れ有りと雖も、吾れ姑く法を上に守って、以て意とするに足らずとするや。將科舉得る所の賢、已に治を致すに(徐本致の字無し。)足りて乏しからずとするや。臣以爲えらく、天下を治むるに今日の弊、蓋し此に由れり。今の選舉の科を以てし、今の進任の法を用てして、天下の賢を得て、天下の治を興さんと欲せば、其れ猶轅を北にして越に適くがごとし。亦遠からずや。

臣願陛下如臣前所陳、旣立求治之志、又思責任之道、則以求賢爲先。苟不先得賢、雖陛下焦心勞思、將安所施。誠得天下之賢、置之朝廷、則端拱(徐本端拱作前扶。)無爲而天下治矣。此所謂勞於求賢、逸於得人也。歷觀前史、自古以來、稱治之君、有不以求賢爲事者乎。有規規守常、以資任人、而能致大治者乎。有國家之興、不由得人者乎。由此言之、用賢之驗、不其甚明。
【読み】
臣願わくは陛下臣が前に陳ぶる所の如く、旣に治を求むるの志を立て、又任を責むるの道を思い、則ち賢を求むるを以て先としたまえ。苟も賢を得ることを先んぜずんば、陛下心を焦がし思いを勞すと雖も、將安んぞ施す所あらん。誠に天下の賢を得て、之を朝廷に置かば、則ち端拱(徐本端拱を前扶に作る。)無爲にして天下治まらん。此れ所謂賢を求むるに勞し、人を得るに逸するなり。歷く前史を觀るに、古自り以來、治を稱する君、賢を求むるを以て事とせざる者有りや。規規として常を守って、以て任人に資って、能く大治を致す者有りや。國家の興る、人を得るに由らざる者有りや。此に由って之を言えば、賢を用うるの驗、其れ甚だ明らかならずや。

若曰非不欲賢也、病求之之難也、臣以爲不然。夫以人主之勢、心之所嚮、天下風靡景從。設若珍禽異獸瓌寶奇玩之物、雖遐方殊域之所有、深山大海之所生、志所欲者、無不可致。蓋上心所好、奉之以天下之力也。若使存好賢之心如是、則何巖穴之幽不可求、何山林之深不可致。所患好之不篤爾。
【読み】
若し賢を欲せざるには非ず、之を求むるの難きを病むと曰わば、臣以爲えらく、然らず、と。夫れ以みるに人主の勢、心の嚮かう所、天下風のごとく靡き景のごとく從う。設い珍禽異獸瓌寶奇玩の物の若き、遐方殊域の有る所、深山大海の生ずる所と雖も、志の欲する所の者は、致す可からずということ無し。蓋し上の心の好む所は、之を奉ずるに天下の力を以てすればなり。若し賢を好むの心を存すること是の如くならしめば、則ち何ぞ巖穴の幽[ふか]き求む可からず、何ぞ山林の深き致す可からざらん。患うる所は之を好むこと篤からざるのみ。

夫人君用賢、亦賴公卿大臣推援薦達之力。今朝廷未嘗求賢、公卿大臣亦不以求賢取士爲意。相先引彙、世所罕聞、訪道求師、貴達所恥、大率以爲任己可也、士將安補、今世無賢、求之何益。夫以周公之聖、其自任足矣。尙汲汲求賢以自輔也。以其聖且好賢、知人之明。宜天下之賢皆爲之用、莫有遺也。尙乃日不暇食(徐本食作給。)、恐失天下之士。後之人其才不及周公、而自謂足矣、不求賢以自輔也。以其不求、且知之不明。宜賢者在下之多也。乃曰天下無賢矣。噫、何其用心(徐本心作意。)與周公異也。欲其助皇明燭幽隱、不可得也。
【読み】
夫れ人君の賢を用うるは、亦公卿大臣推援薦達の力に賴る。今朝廷未だ嘗て賢を求めず、公卿大臣も亦賢を求め士を取るを以て意とせず。相先んじて彙を引くは、世の罕に聞く所、道を訪い師を求むるは、貴達の恥づる所として、大率以爲えらく、己に任じて可なり、士將安んぞ補いあらん、今世賢無し、之を求めて何の益あらん、と。夫れ以みるに周公の聖は、其の自ら任ずること足れり。尙汲汲として賢を求めて以て自ら輔く。其の聖を以て且賢を好むは、人を知ること明らかなればなり。宜なり天下の賢皆之が爲に用いられて、遺すこと有ること莫きこと。尙乃ち日に食するに(徐本食を給に作る。)暇あらずして、天下の士を失わんことを恐る。後の人其の才周公に及ばずして、自ら足れりと謂いて、賢を求めて以て自ら輔けず。其の求めざるを以て、且之を知ること明らかならず。宜なり賢者下に在るの多きこと。乃ち曰く、天下賢無し、と。噫、何ぞ其れ心(徐本心を意に作る。)を用うること周公と異なるや。其の皇明を助け幽隱を燭らさんと欲すとも、得可からざるなり。

然亦繫上之所爲而已。陛下誠能專心致志、孜孜不倦、以求賢爲事、常恐天下有遺棄之才、朝廷之上、推賢援能者登進之、蔽賢自任者疏遠之、自然天下嚮風、自上及下、孰不以相先爲善行、薦達爲急務。捜羅(徐本羅作拔。)旣廣、雖小才片善、無所隱晦。如此則士益貴而守益堅、廉恥格而風敎厚矣。天下之賢、其有遺乎。旣得天下之賢、則天下之治不足道也。
【読み】
然れども亦上のする所に繫かるのみ。陛下誠に能く心を專らにし志を致して、孜孜として倦まず、賢を求むるを以て事とし、常に天下に遺棄の才有らんことを恐れ、朝廷の上、賢を推し能を援く者は之を登り進めて、賢を蔽い自ら任ずる者は之を疏んじ遠ざけば、自然に天下風に嚮かって、上自り下に及ぶまで、孰か以て相先んずるを善行とし、薦達するを急務とせざらん。捜羅(徐本羅を拔に作る。)旣に廣きときは、小才片善と雖も、隱晦する所無けん。此の如きときは則ち士益々貴くして守り益々堅く、廉恥格して風敎厚からん。天下の賢、其れ遺すこと有らんや。旣に天下の賢を得ば、則ち天下の治は道うに足らず。

今世人情淺近、積慣成俗。朝廷進人、苟循常法、則雖千百而取、羣伍而用、庸惡混雜、曾不以爲非。設或拔一賢、進一善、出於不次、則求摭小差、衆議囂沸。如眞廟擢种放、先朝用范仲淹是也。設非君心篤信、寧免疑惑。反自以爲過。此所以非常之舉、曠久不行也。伏見近日陛下不由言、薦擢范純仁置之言路。在今世爲非常之舉。純仁名臣之子、有才名、在位多言其能。陛下擢之、當也。然臣願陛下自信、勿疑純仁果賢、則陛下知人之明也。如用之而無顯效、則亦曰吾勞心任人、雖未得其效、亦無愧於天下矣。設或大敗厥職、則亦曰吾知之失也。當益務選擇、期於得人爾。蓋拔十得五才、不可勝用。求賢而失、尙愈於不求。誠持是心、何患不得賢也。方陛下用純仁、識者皆喜。臣獨憂之。何者、陛下始奮英斷拔一人。誠恐或有差失。遂抑聖心、以爲專守常規、可以無過、不復以簡擢爲意、則天下將何望焉。此在陛下自信勿疑而已。願陛下不以臣之疏賤而易其言、則天下幸甚。
【読み】
今世人情淺近、積み慣れて俗を成す。朝廷の人を進むる、苟も常法に循わば、則ち千百にして取り、羣伍にして用うと雖も、庸惡混雜して、曾て以て非とせず。設し或は一賢を拔き、一善を進むること、不次に出ては、則ち小差を求め摭[ひろ]って、衆議囂沸[ごうふつ]せん。眞廟种放を擢[あ]げ、先朝范仲淹を用うるが如き是れなり。設し君の心篤く信ずるに非ずんば、寧ろ疑惑を免れんや。反って自ら以て過つことをせん。此れ非常の舉、曠しく久しく行われざる所以なり。伏して見るに近日陛下言に由らずして、范純仁を薦擢して之を言路に置く。今世に在って非常の舉とす。純仁は名臣の子にして、才名有り、在位多く其の能を言う。陛下之を擢ぐること、當たれり。然れども臣願わくは陛下自ら信じて、純仁の果たして賢なることを疑うこと勿くんば、則ち陛下人を知るの明なり。如し之を用いて顯效無きときは、則ち亦曰わん、吾れ心を任人に勞す、未だ其の效を得ずと雖も、亦天下に愧づること無し、と。設し或は大いに厥の職を敗るときは、則ち亦曰わん、吾れ之を知ること失せり、と。當に益々選擇を務めて、人を得るを期すべきのみ。蓋し十を拔いて五才を得ば、勝げて用う可からず。賢を求めて失するは、尙求めざるに愈れり。誠に是の心を持せば、何ぞ賢を得ざることを患えん。陛下純仁を用うるに方って、識者皆喜ぶ。臣獨り之を憂う。何となれば、陛下始めて英斷を奮って一人を拔く。誠に恐れらくは或は差失有らんことを。遂に聖心を抑えて、以て專ら常規を守り、以て過ち無かる可しと爲して、復簡擢を以て意とせざれば、則ち天下將何をか望まん。此れ陛下自ら信じて疑うこと勿きに在るのみ。願わくは陛下臣が疏賤を以て其の言を易らずんば、則ち天下幸甚ならん。

臣前所陳三者、治天下之本也。臣非不知有興利除害之方、安國養民之術、邊境備禦之策、敎化根本之論、可以爲陛下陳之。顧三者不先、徒虛言爾。三者旣行、不患爲之無術也。願陛下以社稷爲心、以生民爲念、鑒苟安之弊、思永世之策、賜之省覽、察其深誠。萬一有毫髮之補於聖朝、臣雖被妄言之誅、無所悔恨。昔賈誼爲漢文言治亂。漢文不能用。百世之下爲譏病(徐本無病字。)。願陛下勿使後之視今、猶今之視昔、則天下不勝幸甚。狂瞽之言、惟聖明裁恕。干冒宸嚴、臣無任兢皇戰汗、激切屛營之至。
【読み】
臣前に陳ぶる所の三つの者は、天下を治むる本なり。臣利を興し害を除くの方、國を安んじ民を養うの術、邊境備禦の策、敎化根本の論、以て陛下の爲に之を陳ぶる可き有ることを知らざるには非ず。顧みるに三つの者先んぜざれば、徒に虛言のみ。三つの者旣に行わるれば、之をするに術無きことを患えず。願わくは陛下社稷を以て心と爲し、生民を以て念いと爲し、苟も安んずるの弊を鑒み、永世の策を思い、之が省覽を賜い、其の深き誠を察したまえ。萬一毫髮の聖朝に補える有れば、臣妄言の誅を被ると雖も、悔い恨む所無からん。昔賈誼漢文の爲に治亂を言う。漢文用うること能わず。百世の下譏病(徐本病の字無し。)を爲す。願わくは陛下後の今を視ること、猶今の昔を視るがごとくならしむること勿くんば、則ち天下幸甚に勝えじ。狂瞽の言、惟聖明裁恕したまえ。宸嚴を干冒して、臣兢皇戰汗、激切屛營の至りに任うること無し。


爲家君上神宗皇帝論薄葬書(治平四年)
【読み】
家君の爲に神宗皇帝に上って葬を薄くせんことを論ずる書(治平四年)

具位臣程珦皇恐昧死、再拜上書皇帝陛下。臣聞孝莫大於安親、忠莫先於愛主。人倫之本、無越於斯。人無知愚、靡不知忠孝之爲美也。然而不得其道則反害之。故自古爲君者、莫不欲孝其親。而多獲不孝之譏。爲臣者、莫不欲忠其君。而常負不忠之罪。何則、有其心、行之不得其道也。伏惟陛下以至德承洪業、以大孝奉先帝。聖心切至、天下共知。然臣以疏賤、復敢區區冒萬死以進其說者、願陛下以至孝之心盡至孝之道、鑑歷古之失、爲先帝深慮、則天下臣子之心無不慰安。
【読み】
具位臣程珦皇恐昧死、再拜して書を皇帝陛下に上る。臣聞く、孝は親を安んずるより大なるは莫く、忠は主を愛するより先なるは莫し、と。人倫の本、斯に越ゆること無し。人知愚と無く、忠孝の美爲ることを知らざるは靡し。然れども其の道を得ざるときは則ち反って之を害す。故に古自り君爲る者、其の親に孝することを欲せざるは莫し。而れども多くは不孝の譏りを獲。臣爲る者、其の君に忠することを欲せざるは莫し。而れども常に不忠の罪を負う。何となれば則ち、其の心有れども、之を行うこと其の道を得ざればなり。伏して惟みるに陛下至德を以て洪業を承け、大孝を以て先帝に奉ず。聖心切に至ること、天下共に知る。然るに臣疏賤を以て、復敢えて區區として萬死を冒して以て其の說を進むる者は、願わくは陛下至孝の心を以て至孝の道を盡くし、歷古の失を鑑みて、先帝の爲に深く慮りたまうときは、則ち天下の臣子の心慰安せずということ無からん。

所謂歷古之失、臣觀秦・漢而下、爲帝王者、居天下之尊、有四海之富、其生也奉養之如之何、其亡也安厝之如之何。然而鮮克保完其陵墓者、其故何哉。獨魏文帝、唐太宗所傳嗣君、能盡孝道、爲之永慮、至今安全、事迹昭然、存諸簡策。嗚呼、二嗣君不苟爲崇侈以徇己意、乃以安親爲心。可謂至孝矣。漢武之葬、霍光秉政、暗於大體、奢侈過度、至使陵中不復容物。赤眉之亂、遂見發掘。識者謂赤眉之暴、無異光自爲之。爲其不能深慮以致後害也。二君從儉、後世不謂其不孝。霍光厚葬、千古不免爲罪人。自古以來、觀此明鑑而不能行之者、無他、衆議難違、人情所迫爾。苟若務合常情、遂亡遠慮、是乃厚於人情而薄於先君也。不亦惑乎。
【読み】
所謂歷古の失は、臣觀るに秦・漢よりして下、帝王爲る者、天下の尊に居し、四海の富を有って、其の生けるに之を奉養すること如何、其の亡くなるに之を安厝[あんそ]すること如何にかする。然れども克く其の陵墓を保完する者鮮きは、其の故何ぞや。獨り魏の文帝、唐の太宗傳うる所の嗣君、能く孝道を盡くして、之が爲に永く慮って、今に至るまで安全、事迹昭然として、簡策に存す。嗚呼、二りの嗣君苟も崇侈を爲して以て己が意に徇わず、乃ち親を安んずるを以て心とす。至孝と謂う可し。漢武の葬、霍光政を秉り、大體に暗く、奢侈度に過ぎて、陵中をして復物を容れざらしむるに至る。赤眉の亂に、遂に發掘さるる。識者謂えらく、赤眉の暴、光自ら之を爲すに異なること無し、と。其の深く慮ること能わずして以て後の害を致すが爲なり。二君儉に從って、後世其の不孝を謂わず。霍光厚く葬って、千古罪人爲ることを免れず。古自り以來、此の明鑑を觀て之を行うこと能わざる者は、他無し、衆議違き難く、人情に迫らるるのみ。苟も若し務めて常情に合わせて、遂に遠慮亡くんば、是れ乃ち人情に厚くして先君に薄きなり。亦惑えざらんや。

魏文帝所作終制、及唐虞世南所上封事、皆足取法。其指陳深切、非所忍言。願陛下取而觀之、可以見明君賢臣所慮深遠。古人有言曰、死者無終極、國家有廢興。自昔人臣當大事之際、乃以興廢之言爲忌諱、莫敢議及如此。苟循人情、辜負往者、不忠之大者也。
【読み】
魏の文帝の作する所の終制、及び唐の虞世南が上る所の封事、皆法を取るに足れり。其の指陳深切なること、言を忍ぶ所に非ず。願わくは陛下取って之を觀たまわば、以て明君賢臣の慮る所深遠なることを見る可し。古人言えること有り曰く、死者終極無くんば、國家廢興有り、と。昔自り人臣大事に當たるの際、乃ち興廢の言を以て忌み諱むことを爲して、敢えて議し及ぼすこと莫きこと此の如し。苟も人情に循って、往者に辜負せば、不忠の大なる者なり。

臣竊慮陛下追念先帝、聖情罔極、必欲崇厚陵寢、以盡孝心。臣愚以爲、違先帝之儉德、損陛下之孝道、無益於實、有累於後、非所宜也。伏願陛下損抑至情、深爲永慮、承奉遺詔、嚴飭有司、凡百規模、盡依魏文之制、明器所須、皆以瓦木爲之、金銀銅鐵珍寶奇異之物無得入壙、然後昭示遐邇、刊之金石。如是則陛下之孝顯於無窮、陛下之明高於曠古。至於紈帛易朽之物、亦能爲患於數百年之後。漢薄后陵是也。
【読み】
臣竊かに慮るに陛下先帝を追念すること、聖情極むること罔くして、必ず陵寢を崇厚して、以て孝心を盡くさんと欲す。臣愚以爲えらく、先帝の儉德に違き、陛下の孝道を損せば、實に益無く、後に累い有って、宜しき所に非ず。伏して願わくは陛下至情を損抑して、深く永慮を爲し、遺詔を承奉し、有司を嚴飭して、凡百の規模、盡く魏文の制に依り、明器の須[もち]うる所、皆瓦木を以て之を爲し、金銀銅鐵珍寶奇異の物壙に入るることを得ること無く、然して後に昭らかに遐邇に示して、之を金石に刊[きざ]みたまえ。是の如くなるときは則ち陛下の孝無窮に顯れ、陛下の明曠古に高からん。紈帛[がんはく]朽ち易き物に至ってすら、亦能く患えを數百年の後に爲す。漢の薄后の陵是れなり。

或曰、山陵崇大、雖使無藏、安能信於後世。臣以爲、不然。天下旣知之、後世必知之。臣嘗遊秦中、歷觀漢・唐諸陵、無有完者。惟昭陵不犯。陵旁居人尙能道當日儉素之事。此所以歷數百年、屢經寇亂而獨全也。夫臣之於君、猶子之於父。豈有陛下欲厚其親、而臣反欲薄於其君乎。誠以厚於先帝、無厚於此者也。遺簪墜履、尙當保而藏之、不敢不恭。況於園陵、得不窮深極遠以慮之乎。
【読み】
或るひと曰く、山陵崇大、雖使[たと]い藏むること無くんば、安んぞ能く後世に信ぜられん、と。臣以爲えらく、然らず、と。天下旣に之を知れば、後世必ず之を知る。臣嘗て秦中に遊んで、歷く漢・唐の諸陵を觀るに、完き者有ること無し。惟昭陵のみ犯されず。陵旁の居人尙能く當日儉素の事を道う。此れ數百年を歷、屢々寇亂を經て獨り全き所以なり。夫れ臣の君に於るは、猶子の父に於るがごとし。豈陛下其の親に厚くせんことを欲して、臣反って其の君に薄くせんと欲すること有らんや。誠に以て先帝に厚くせんこと、此より厚き者は無し。遺簪墜履も、尙當に保って之を藏めば、敢えて恭しくせずんばあらず。況んや園陵に於て、深きを窮め遠きを極めて以て之を慮らざることを得んや。

陛下嗣位方初、羣臣畏威。臣苟不言必慮、無敢言者。陛下以臣言爲妄而罪之、則臣死且不悔。以臣言爲是而從之、則可以爲先帝之福、大陛下之孝。安天下之心、示萬世之法、所補豈不厚哉。臣哀誠内激、言意狂率。願陛下詳覽而深察之、天下不勝大願。臣無任踰越狂狷恐懼之極。臣昧死頓首謹言。
【読み】
陛下嗣位初めに方って、羣臣威を畏る。臣苟も言わずして必ず慮らば、敢えて言う者無けん。陛下臣が言を以て妄なりと爲して之を罪せば、則ち臣死すとも且悔いず。臣が言を以て是なりと爲して之に從いたまわば、則ち以て先帝の福を爲し、陛下の孝を大にす可し。天下の心を安んじ、萬世の法を示さば、補う所豈厚からざらんや。臣哀誠内に激して、言意狂率なり。願わくは陛下詳らかに覽て深く之を察したまわば、天下大願に勝えじ。臣踰越狂狷恐懼の極みに任うること無し。臣昧死頓首して謹んで言す。


代呂公著應詔上神宗皇帝書(熙寧八年十月)
【読み】
呂公著に代わって詔に應じて神宗皇帝に上る書(熙寧八年十月)

伏覩今月十三日詔勑、以彗出東方、許中外臣僚直言朝廷闕失。臣自言事得罪、久去朝廷、無所補報、退就閑冗、尙敢區區以言自進者、誠見陛下寅畏天命、有恐懼修省之意、草萊之人、尙思效其忠懇。況臣世荷國恩、久忝近侍。雖罪釁之餘、敢不竭其愚誠、以應明詔。
【読み】
伏して覩るに今月十三日の詔勑に、彗東方に出るを以て、中外の臣僚朝廷の闕失を直言することを許したまう。臣事を言いて罪を得し自り、久しく朝廷を去って、補い報ゆる所無く、退いて閑冗に就いて、尙敢えて區區として言を以て自ら進む者は、誠に陛下天命を寅み畏れて、恐懼修省の意有るを見て、草萊の人すら、尙其の忠懇を效[いた]さんことを思う。況んや臣世々國恩を荷って、久し近侍を忝くす。罪釁[ざいきん]の餘と雖も、敢えて其の愚誠を竭くして、以て明詔に應ぜざらんや。

臣伏觀前史所載、彗之爲變多矣。鮮有無其應者。蓋上天之意、非徒然也。今陛下旣有警畏之心、當思消弭之道。且以今日之變、孰從而來。書曰、天視自我民視、天聽自我民聽。豈非政之所致歟。如曰非政之由、則經爲誣矣。臣復何言。詔之所求、亦爲虛設。若以爲政之所致、則改以(一作而。)順天、在陛下而已。晏子所謂可祝而來、亦可禳而去也。傳曰、天之有彗、以除穢也。又曰、所以除舊布新。臣願陛下祗若天戒、思當除者何事、而當新者何道。如曰舊政旣善、無所可除、則天爲誣矣。臣復何言。若以爲當求自新、則在陛下思之而已。
【読み】
臣伏して觀るに前史載する所、彗の變を爲すこと多し。其の應無き者有ること鮮し。蓋し上天の意、徒然に非ざればなり。今陛下旣に警み畏るるの心有らば、當に消弭の道を思いたまうべし。且以みるに今日の變、孰從り來るや。書に曰く、天の視ることは我が民に自って視る、天の聽くことは我が民に自って聽く、と。豈政の致す所に非ざるや。如し政の由に非ずと曰わば、則ち經を誣とす。臣復何をか言わん。詔の求むる所も、亦虛設とす。若し以て政の致す所とせば、則ち改めて以て(一に而に作る。)天に順うこと、陛下に在るのみ。晏子謂う所の祝して來る可く、亦禳って去る可きなり。傳に曰く、天の彗有るは、以て穢れを除かんとなり、と。又曰く、舊を除[さ]り新を布く所以なり、と。臣願わくは陛下祗んで天の戒めの若くにして、當に除るべき者何事にして、當に新たにすべき者何の道ということを思いたまえ。如し舊政旣に善にして、除る可き所無しと曰わば、則ち天を誣とす。臣復何をか言わん。若し以て當に自ら新たにすることを求むべしとせば、則ち陛下之を思うに在るのみ。

自非大無道之世。何嘗不遇災而懼。然而能自新者蓋寡。大率蔽於所欲、惑於所任、明不足以自辨也。視是而爲非、以邪而爲正、敗亡至而不寤、天亦不能戒也。豈其惡存而好亡、憎治而喜亂哉。亦惑而不能辨爾。臣以爲辨之非艱。顧不得其道也。誠能省己之存心、考己之任人、察己之爲政、思己之自處、然後質之人言、何惑之不可辨哉。能辨其惑、則知所以應天自新之道矣。臣請爲陛下辨之。
【読み】
自づから大いに道無きの世に非ず。何ぞ嘗て災に遇って懼れざらん。然れども能く自ら新たにする者は蓋し寡し。大率所欲に蔽われ、所任に惑わされて、明以て自ら辨ずるに足らざればなり。是を視て非と爲し、邪を以て正と爲し、敗亡至れども寤[さと]らざるは、天も亦戒むること能わず。豈其れ存を惡んで亡を好み、治を憎んで亂を喜ばんや。亦惑いて辨ずること能わざるのみ。臣以爲えらく、之を辨ずること艱きに非ず、と。顧みるに其の道を得ざればなり。誠に能く己が心を存することを省み、己が人に任ずることを考え、己が政を爲すことを察し、己が自ら處することを思って、然して後に之を人の言に質さば、何の惑いか之れ辨ず可からざらんや。能く其の惑いを辨ずるときは、則ち天に應じて自ら新たにする所以の道を知る。臣請う、陛下の爲に之を辨ぜん。

所謂省己之存心者、人君因億兆以爲尊。其撫之治之之道、當盡其至誠惻怛之心、視之如傷、動敢不愼。兢兢然惟懼一政之不順於天、一事之不合於理。如此、王者之公心也。若乃恃所據之勢、肆求欲之心、以嚴法令、舉條綱爲可喜、以富國家、强兵甲爲自得、銳於作爲、快於自任、貪惑至於如此、迷錯豈能自知。若是者、以天下徇其私欲者也。勤身勞力、適足以致負(一作貪。)敗。夙興夜寐、適足以招後悔。以是而致善治者、未之聞也。願陛下内省於心、有近於是者乎。苟有之、則天之所戒也。當改而自新者也。
【読み】
所謂己が心を存することを省みるとは、人君は億兆に因って以て尊爲り。其の之を撫し之を治むる道、當に其の至誠惻怛の心を盡くすべく、之を視ること傷めるが如くにして、動くこと敢えて愼まざらんや。兢兢然として惟一政の天に順わず、一事の理に合わざることを懼る。此の如きは、王者の公心なり。若し乃ち據る所の勢を恃み、求め欲するの心を肆にして、法令を嚴にして、條綱を舉ぐるを以て喜ぶ可しとし、國家を富まし、兵甲を强くするを以て自ら得るとし、作爲に銳く、自ら任ずるに快くして、貪惑此の如きに至らば、迷錯豈能く自ら知らんや。是の若きは、天下を以て其の私欲に徇う者なり。身を勤め力を勞すとも、適に以て負(一に貪に作る。)敗を致すに足れり。夙に興き夜寐ぬとも、適に以て後悔を招くに足れり。是を以て善治を致す者は、未だ之を聞かざるなり。願わくは陛下内心に省みたまうに、是に近き者有らんや。苟も之れ有らば、則ち天の戒むる所なり。當に改めて自ら新たにすべき者なり。

所謂考己之任人者、夫王者之取人、以天下之公而不以己、求其見正而不求其從欲。逆心者求諸道、巽志者察其非。尙孜孜焉懼或失也。此王者任人之公也。若乃喜同而惡異、偏信而害明、謂彼所言者吾之所大欲也。悅而望之、信而惑之、至於甚惡而不察、恣欺而不悟。推是而往、鹿可以爲馬矣。願陛下考己之任人、有近於是者乎。苟有之、則天之所戒也。當改而自新者也。
【読み】
所謂己が人に任ずることを考うとは、夫れ王者の人を取る、天下の公を以てして己を以てせず、其の正しきを見ることを求めて其の欲に從うことを求めず。心に逆う者は諸を道に求め、志に巽[したが]う者は其の非を察す。尙孜孜焉として或は失せんことを懼る。此れ王者人に任ずるの公なり。若し乃ち同じきを喜んで異なるを惡み、信を偏にして明を害すれば、彼が言う所の者は吾が大いに欲する所なりと謂わん。悅んで之を望み、信じて之に惑いて、甚だ惡けれども而れども察せず、恣に欺けども而れども悟らざるに至る。是より而往を推すに、鹿以て馬と爲す可し。願わくは陛下己が人に任ずることを考えたまうに、是に近き者有らんや。苟も之れ有らば、則ち天の戒むる所なり。當に改めて自ら新たにすべき者なり。

方陛下思治之初、未有所偏主、好惡取舍一以公議、天下謂之賢、陛下從而賢之者衆矣。進之於朝亦多矣。及乎旣有爲也、皆以不合而去之、更用後來之人。皆昔未嘗以爲賢者也。然後議論無違、始之所賢者皆愚、始之未嘗賢者皆賢。此爲天下之公乎。己意之私乎。自論議無違之後、逆耳怫心之言亦罕聞矣。夫以居至尊之位、負出世之資、而不聞怫逆之言、可懼之大者也。知人之難、雖至明不能無失。然至於朝合則爲不世之賢、暮隙則有(一作爲。)無窮之罪、顚錯亦已甚矣。在任人之道當改亦明矣。
【読み】
陛下治を思うの初めに方って、未だ偏主する所有らず、好惡取舍一に公を以て議して、天下之を賢と謂いて、陛下從って之を賢とする者衆し。之を朝に進むることも亦多し。旣にすること有るに及んで、皆合わざるを以て之を去って、更に後來の人を用う。皆昔未だ嘗て以て賢とせざる者なり。然して後に議論違うこと無くして、始めの賢とする所の者皆愚に、始めの未だ嘗て賢とせざる者皆賢なり。此れ天下の公とせんや。己が意の私か。論議違うこと無きの後自り、耳に逆い心に怫[もと]る言亦聞くこと罕なり。夫れ以みるに至尊の位に居し、出世の資を負って、怫逆の言を聞かざるは、懼る可きの大なる者なり。人を知ることの難き、至明と雖も失無きこと能わず。然も朝合えば則ち不世の賢と爲し、暮に隙あれば則ち無窮の罪有るに(一に爲に作る。)至るは、顚錯亦已に甚だし。人に任ずるの道に在って當に改めて亦明らかにすべし。

所謂察己之爲政者、爲政之道、以順民心爲本、以厚民生爲本、以安而不擾爲本。陛下以今日之事、方於卽位之初、民心爲歡悅乎、爲愁怨乎、民生爲阜足乎、爲窮蹙乎、政事爲安之乎、爲擾之乎。億兆之口非不能言也。顧恐察之不審爾。苟有不察、則天之所戒也。當改而自新者也。
【読み】
所謂己が政を爲すことを察すとは、政を爲すの道は、民心に順うを以て本と爲し、民生を厚くするを以て本と爲し、安んじて擾[みだ]れざるを以て本と爲す。陛下今日の事を以てするに、卽位の初めに方って、民心歡悅すとするか、愁怨すとするか、民生阜足すとするか、窮蹙すとするか、政事之を安んずとするか、之を擾るとするか。億兆の口言うこと能わざるに非ず。顧みるに之を察すること審らかならざることを恐るるのみ。苟も察せざること有らば、則ち天の戒むる所なり。當に改めて自ら新たにすべき者なり。

所謂思己之自處者、聖人謂、亡者保其存者也、亂者有其治者也。陛下必不以斯言爲妄。自古以來、何嘗有以危亡爲憂而至危亡者乎。惟其自謂治安而危亡卒至者則多矣。不識陛下平日自處、以天下爲如何。聖心所自知也。苟有憂危恐懼之心、常慮所任者非其人、所由者非其道、唯恐不聞天下之言。如此則聖王保天下之心也。上帝其鑒之矣。或以爲已安且治、所任者當矣、所爲者至矣、天下之言不足恤矣、如此則天之所戒也。當改而自新者也。
【読み】
所謂己が自ら處することを思うとは、聖人謂く、亡は其の存を保つ者なり、亂は其の治を有つ者なり、と。陛下必ず斯の言を以て妄とせざれ。古自り以來、何ぞ嘗て危亡を以て憂えと爲して危亡に至る者有らんや。惟其れ自ら治むること安きなりと謂いて危亡卒に至る者は則ち多し。識らず、陛下平日自ら處するに、天下を以てすること如何とかする。聖心自ら知る所なり。苟も憂危恐懼の心有って、常に任ずる所の者其の人に非ず、由る所の者其の道に非ざることを慮って、唯天下の言を聞かざらんことを恐れたまえ。此の如きは則ち聖王天下を保つの心なり。上帝其れ之を鑒ん。或は以て已に安んじて且つ治まり、任ずる所の者當たり、する所の者至れり、天下の言恤うるに足らずとせば、此の如きは則ち天の戒むる所なり。當に改めて自ら新たにすべき者なり。

所謂質之人言者、當有其方。欲詢之於衆人乎。衆人之言可使同也。欲訪之下民乎。下民之言亦可爲也。察之以一人之心、而蔽之以衆人之智、其可勝乎。是不足以辨惑、而足以固其蔽爾。臣以爲在外一二老臣、事先朝數十年、久當大任、天下共知其非欺妄人也、知其非覆敗邦家者也。臣願陛下禮而問之、宜可信也。及天下所謂賢人君子、陛下聞之於有爲之前、而不在今日利害之閒者、亦可訪也。以是數者參考之、則所當改者何事、所當新者何道、固可見矣。
【読み】
所謂之を人の言に質すとは、當に其の方有るべし。之を衆人に詢[と]わんと欲するか。衆人の言同じからしむ可し。之を下民に訪わんと欲するか。下民の言亦爲す可し。之を察するに一人の心を以てして、之を蔽うに衆人の智を以てせば、其れ勝う可けんや。是れ以て惑いを辨ずるに足らずして、以て其の蔽を固くするに足れるのみ。臣以爲えらく、外に在る一二の老臣、先朝に事うること數十年、久しく大任に當たって、天下共に其の欺妄の人に非ざることを知り、其の邦家を覆敗する者に非ざることを知る。臣願わくは陛下禮して之に問いて、宜しく信ず可し。及び天下の所謂賢人君子は、陛下之をすること有るの前に聞いて、今日利害の閒に在らざる者も、亦訪う可し。是の數者を以て之を參え考えば、則ち當に改むべき所の者何事ぞ、當に新たにすべき所の者何の道ぞということ、固に見る可し。

天下之人、一聞詔音、莫不鼓舞相慶、謂陛下必能上應天心、召迎和氣。臣以爲唯至誠可以動天、在陛下誠意而已。昔在商王中宗之時有桑穀之祥、高宗之時有雊雉之異、二王以爲懼而修政、遂致王道復興、皆爲商宗。百世之下頌其聖明。近世以來、引咎之詔、自新之言、亦常有之、倘人君不由於至誠、則天下徒以爲虛語。其能感天心弭災變乎。臣願陛下因此天戒、奮然改爲、思商宗之休實、鑑後代之虛飾、不獨消復災沴於今日、將永保丕基於無窮。天下幸甚。
【読み】
天下の人、一たび詔音を聞いて、鼓舞して相慶ばずということ莫くして、謂わん、陛下必ず能く上天心に應じて、和氣を召き迎えん、と。臣以爲えらく、唯至誠以て天を動かす可きこと、陛下の誠意に在るのみ、と。昔商王中宗の時桑穀の祥有り、高宗の時雊雉の異有り、二王以て懼るることを爲して政を修めて、遂に王道復興ることを致して、皆商の宗と爲る。百世の下其の聖明を頌す。近世以來、引咎の詔、自新の言、亦常に之れ有れども、倘[も]し人君至誠に由らずんば、則ち天下徒に以て虛語と爲さん。其れ能く天心を感じて災變を弭[や]めんや。臣願わくは陛下此の天の戒めに因って、奮然として改爲して、商宗の休實を思い、後代の虛飾を鑑みば、獨り災沴を今日に消復するのみにあらず、將に永く丕基を無窮に保たんとす。天下の幸甚なり。


代富弼上神宗皇帝論永昭陵疏(元豐三年)
【読み】
富弼に代わって神宗皇帝に上って永昭陵を論ずる疏(元豐三年)

臣弼伏睹太皇太后山陵有期、老臣之心有所甚切、不忍不言、昧死以聞。惟陛下深思而力行之、不勝大願。往者營奉昭陵時、英宗皇帝方不豫、未能聽事、朝廷罔然不知其制、失於迫卒、不復深慮博訪、凡百規畫、一出匠者之拙謀、中人之私意、以巨木架石爲之屋、計不百年、必當損墜。壙中又爲鐵罩、重且萬斤、以木爲骨、大止數寸、不過二三十年、決須摧毀。梓宮之厚度不盈尺、異日以億萬鈞之石、自高而墜、其將奈何。思之及此、骨寒膽喪。臣始則不知其詳、後則無以爲計。士民之閒有知之者、無不痛心飲恨。況老臣之心乎。況陛下之心乎。
【読み】
臣弼伏して睹るに太皇太后の山陵期有り、老臣の心甚だ切なる所有り、言わざるに忍びず、昧死して以て聞す。惟陛下深く思って之を力め行いたまわば、大願に勝えず。往者[さき]に昭陵を營奉する時、英宗皇帝方に不豫にして、未だ事を聽きたまうこと能わず、朝廷罔然として其の制を知らず、迫卒に失して、復深く慮り博く訪わず、凡百の規畫、一に匠者の拙謀、中人の私意に出て、巨木を以て石を架して之が屋を爲せば、計るに百年ならずして、必ず當に損墜すべし。壙中も又鐵罩[てっとう]を爲し、重さ且に萬斤ならんとし、木を以て骨と爲し、大きさ止數寸、二三十年を過ぎずして、決して須く摧毀すべし。梓宮の厚さ度るに尺に盈たず、異日億萬鈞の石を以て、高き自りして墜とさば、其れ將に奈何にせんとす。之を思うこと此に及べば、骨寒え膽喪う。臣始めは則ち其の詳らかなることを知らず、後は則ち以て計を爲すべきこと無し。士民の閒之を知る者有るも、心を痛ましめ恨みを飮まずということ無し。況んや老臣の心をや。況んや陛下の心をや。

其後厚陵始爲石藏。議者竊意、主事大臣已悟昭陵之事、獨陛下未知之爾。今也不幸、太皇太后奄棄天下之養。因此事、會當爲之謀。竊以周公制合葬之禮、仲尼善魯人之祔。歷代諸陵、雖不盡用、亦多行之。太祖皇帝神謀聖慮、超越萬古、昭憲太后亦合安陵。夫以周公之制、仲尼之訓、歷代之舊、藝祖之法、循而行之、可無疑也。老臣願陛下思安親之道、爲後日之慮、決於聖心、勿循浮議、奉太皇太后合祔昭陵、因得徹去鐵罩、用厚陵石藏之制、仍更別加裁處、使異日雖木壞石墜、不能爲害、救仁皇必至之禍、成陛下莫大之孝。復何難哉。在陛下斷之而已。
【読み】
其の後厚陵始めて石藏を爲す。議する者竊かに意えらく、事を主る大臣已に昭陵の事を悟れども、獨陛下未だ之を知らざるのみ。今や不幸にして、太皇太后奄[たちま]ち天下の養を棄てたまう。此の事に因って、會[かなら]ず當に之が謀を爲すべし、と。竊かに以みるに周公合葬の禮を制し、仲尼魯人の祔を善しとす。歷代の諸陵、盡く用いずと雖も、亦多くは之を行う。太祖皇帝神謀聖慮、萬古に超越したまうも、昭憲太后亦安陵に合す。夫れ以みるに周公の制、仲尼の訓、歷代の舊、藝祖の法、循って之を行って、疑い無かる可し。老臣願わくは陛下親を安んずるの道を思い、後日の慮りを爲し、聖心を決し、浮議に循うこと勿くして、太皇太后を奉じて昭陵に合祔し、因りて鐵罩を徹去することを得て、厚陵石藏の制を用い、仍って更に別に裁處を加えて、異日木壞石墜すと雖も、害を爲すこと能わざらしめて、仁皇必至の禍を救い、陛下莫大の孝を成したまえ。復何ぞ難からんや。陛下之を斷ずるに在るのみ。

旣合禮典、又順人情、雖無知之人必不敢以爲非是。但恐有以陰陽拘忌之說上惑聰明者、在陛下睿斷、不難辨也。不遵聖訓、不度事宜、而規規於拘忌者、爲賢乎、爲愚乎。且陰陽之說、設爲可信、吉凶之應、貴賤當同。今天下臣庶之家、夫婦莫不同穴、未聞以爲忌也。獨國家忌之、有何義理。唐中宗庸昏之主、尙能守禮法、盡孝心、責嚴善思愚惑之論、卒祔乾陵。其後高宗子孫歷世延永。是合葬非不利也。老臣位至三公、年將八十。復何求哉。所保者名節而已。肯以不是事勸陛下取譏於後世乎。
【読み】
旣に禮典に合い、又人情に順えば、無知の人と雖も必ず敢えて以て是に非ずとせず。但恐れらくは陰陽拘忌の說を以て上聰明を惑わす者有って、陛下の睿斷、難辨せざるに在るなり。聖訓に遵わず、事の宜しきを度らずして、拘忌に規規たる者、賢とせんや、愚とせんや。且つ陰陽の說、設し信ず可しとせば、吉凶の應、貴賤當に同じかるべし。今天下臣庶の家、夫婦同穴せずということ莫く、未だ以て忌むとすることを聞かず。獨り國家之を忌みたまうは、何の義理有る。唐の中宗庸昏の主すら、尙能く禮法を守り、孝心を盡くして、嚴しく善思愚惑の論を責めて、卒に乾陵に祔す。其の後高宗の子孫歷世延永なり。是れ合葬利あらざるに非ざるなり。老臣位三公に至り、年將に八十にならんとす。復何を求めんや。保つ所の者は名節のみ。肯えて不是の事を以て陛下を勸めて譏りを後世に取らんや。

復恐、陛下謂臣心雖忠切、而識慮愚暗、不能曉達事理。臣誠至愚。然臣所言者、欲陛下守經典之訓、遵藝祖之規、使仁宗皇帝得安全之道、於太皇太后極崇奉之意。豈獨老臣之心哉。天下之心莫不然也。陛下不信、試以臣之所陳、訪於羣臣。必無以爲非者。若以臣言爲非、則是使仁宗遺骨聖體碎於巨石之下而不恤、乃爲是也。凡有血氣之類、孰肯爲此意乎。
【読み】
復恐る、陛下臣が心忠切なりと雖も、而れども識慮愚暗にして、事理に曉達すること能わずと謂[のたま]わん。臣誠に至愚なり。然れども臣が言う所の者は、陛下經典の訓を守り、藝祖の規に遵って、仁宗皇帝をして安全の道を得せしめ、太皇太后に於て崇奉の意を極めんことを欲してなり。豈獨り老臣の心のみならんや。天下の心然らずということ莫し。陛下信ぜずんば、試みに臣が陳ぶる所を以て、羣臣に訪いたまえ。必ず以て非とする者無けん。若し臣が言を以て非とせば、則ち是れ仁宗の遺骨聖體をして巨石の下に碎けて恤えざるを、乃ち是とせん。凡そ血氣有るの類、孰か肯えて此の意をせんや。

臣事仁宗皇帝三十餘年、位至宰相。聾瞽之蔽、不能早知而救之於始、已爲大罪。今遇可爲之時、若更惜情顧己、不能極言、天地神靈、必加誅殛。死何面目見仁宗於地下。且陛下不知則已。今旣聞之、在常人之情、無可忍而不爲之理。況陛下至仁大孝乎。惟陛下深思而力行之、則天下不勝大願。
【読み】
臣仁宗皇帝に事うること三十餘年、位宰相に至る。聾瞽の蔽、早く知って之を始めに救うこと能わず、已に大いなる罪とす。今爲す可きの時に遇って、若し更に情を惜しみ己を顧みて、極言すること能わずんば、天地の神靈、必ず誅殛を加えん。死して何の面目ありて仁宗に地下に見えんや。且つ陛下知らずんば則ち已みぬ。今旣に之を聞いては、常人の情に在ってすら、忍んでせざる可きの理無し。況んや陛下の至仁大孝をや。惟陛下深く思って之を力め行いたまえば、則ち天下大願に勝えじ。

富公見托爲此奏。頤以拙於文辭、辭之再三、其意甚切、義不可拒。數日之閒、遂生顧慮、不克上。惜乎其不果於義也。遂爲忠孝罪人。
【読み】
富公に托せられて此の奏を爲る。頤文辭に拙きを以て、之を辭すること再三なれども、其の意甚だ切にして、義拒む可からず。數日の閒、遂に顧慮を生じて、上ること克わず。惜しいかな其の義に果たさざること。遂に忠孝の罪人と爲る。


参考文献
『和刻本漢籍 二程全書』(中文出版社)
『二程集』(里仁書局)