二程全書卷之六十五  伊川先生文七

行狀 墓誌 祭文

明道先生行狀(見遺書附錄)

明道先生門人朋友敍述序(見遺書附錄)

明道先生墓表(見遺書附錄)


孝女程氏墓誌
【読み】
孝女程氏の墓誌

孝女程氏、其第二十九、有宋名臣諱羽之後、故宗正寺丞顥之女。幼而莊靜、不妄言笑、風格瀟灑、趣向高潔、發言慮事、遠出人意。終日安坐、儼然如齊。未嘗敎之讀書、而自通文義。舉族愛重之、擇配欲得稱者。其父名重於時、知聞遍天下。有識者皆願出其門。訪求七八年、未有可者、旣長矣。親族皆以爲憂、交舊咸以爲非。謂自古未聞以賢而不嫁者。不得已而下求。嘗有所議、不忍使之聞知。蓋度其不屑也。母亡、持喪盡哀。雖古篤孝之士、無以過也。遂以毀死。
【読み】
孝女程氏、其の第二十九は、有宋の名臣諱は羽の後、故の宗正寺丞顥の女なり。幼にして莊靜にして、妄りに言笑せず、風格瀟灑、趣向高潔にして、言を發し事を慮ること、遠く人意に出づ。終日安坐して、儼然として齊するが如し。未だ嘗て之に書を讀むことを敎えざれども、自ら文義に通ず。舉族之を愛重して、配を擇んで稱う者を得んことを欲す。其の父名時に重んぜられ、知聞天下に遍し。有識の者皆其の門に出ることを願う。訪い求むること七八年にして、未だ可なる者有らずして、旣に長ず。親族皆以て憂えと爲し、交舊咸く以て非ることをす。謂く、古自り未だ賢を以て嫁せざる者を聞かず、と。已むことを得ずして下り求む。嘗て議する所有れども、之をして聞知せしむるに忍びず。蓋し其の屑しとせざることを度ってなり。母亡くなって、喪を持すること哀を盡くす。古の篤孝の士と雖も、以て過ぐること無し。遂に毀を以て死す。

病旣革、頤念無以適其意、謂之曰、爾喜聞道義。吾爲爾言之。曰、何不素敎。我今且惛矣。我死無憾。獨以不勝喪爲恨爾。盡召兄弟舅甥姪、人人敎誡、幼者撫視、頃之而絕。嗚呼、是雖女子、亦天地中一異人也。如其高識卓行、使之享年、足以名世勵俗、竝前古賢婦、垂光簡册。不幸短命、何痛如之。
【読み】
病旣に革るとき、頤以て其の意に適うこと無きことを念って、之に謂いて曰く、爾道義を聞くことを喜ぶ。吾れ爾の爲に之を言わん、と。曰く、何ぞ素より敎えざる。我れ今且つ惛せり。我が死は憾み無し。獨り喪に勝えざるを以て恨みとするのみ、と。盡く兄弟舅甥姪を召して、人人敎誡し、幼き者撫視して、頃[しばら]くあって絕す。嗚呼、是れ女子と雖も、亦天地の中の一異人なり。其の高識卓行の如き、之をして年を享けしめば、以て世に名あり俗を勵ますに足りて、前古の賢婦に竝んで、光を簡册に垂れん。不幸短命、何の痛みか之に如かん。

衆人皆以未得所歸爲恨。頤獨不然。頤與其父以聖賢爲師、所爲尙(一作常。)恐不當其意。苟未遇賢者而以配世俗常人、是使之抱羞辱以沒世。頤恨其死、不恨其未嫁也。其生以嘉祐辛丑九月庚戌、其卒以元豐乙丑二月丙寅。葬於伊川先塋之東。是年十月乙酉也。叔父頤誌。
【読み】
衆人皆未だ歸する所を得ざるを以て恨みとす。頤獨り然らず。頤と其の父と聖賢を以て師とするすら、する所尙(一に常に作る。)其の意に當たらざらんことを恐る。苟も未だ賢者に遇わずして以て世俗の常人に配せば、是れ之をして羞辱を抱いて以て世を沒えしめん。頤其の死を恨んで、其の未だ嫁せざることを恨みず。其の生まるるは嘉祐辛丑九月庚戌を以てし、其の卒するは元豐乙丑二月丙寅を以てす。伊川先塋の東に葬る。是の年十月乙酉なり。叔父頤誌す。


爲家君祭司馬溫公文
【読み】
家君の爲に司馬溫公を祭る文

嗚呼、公乎、誠貫天地、行通神明。徇己者私、衆口爲容於異論。合聽則聖、百姓曾無於閒言。老始逢時、心期行道。致君澤物、雖有志而未終。救弊除煩、則爲功而已大。何天乎之不弔斯人也而遽亡。溥天興殄瘁之悲、明主失倚毗之望。如其可贖、人百其身。死生旣極於哀榮、名德永高於今古。藐茲羸老、夙被深知。撫柩慟哀、聊陳薄奠。
【読み】
嗚呼、公なるかな、誠天地を貫き、行い神明に通ず。己に徇う者は私し、衆口爲は異論を容る。合わせ聽けば則ち聖、百姓曾て閒言すること無し。老いて始めて時に逢って、心道を行うことを期す。君を致し物を澤すこと、志有りと雖も未だ終えず。弊を救い煩を除くことは、則ち功を爲して已に大なり。何ぞ天之に斯の人を弔わずして遽に亡ぼす。溥天殄瘁の悲しみを興し、明主倚毗[きひ]の望みを失う。如し其れ贖う可くんば、人其の身を百にせん。死生旣に哀榮を極め、名德永く今古に高し。藐たる茲の羸老、夙に深く知らる。柩を撫して慟哀して、聊か薄奠を陳ぶ。


爲家君祭韓康公文
【読み】
家君の爲に韓康公を祭る文

嗚呼、惟公天賦忠義、世推孝友。忠以事君、完始終之大節、孝施有政、作儀刑於四方。樂善本乎至誠、好學至於沒齒。故有識之士、無思不服。垂老之年、其猷益壯。位雖極於將相、志則歉於施爲、恢弘之度、若海瀆之難量、高邈之風、非世俗之可企、推賢獎善、惟日不足、周急樂施、室幾屢空。方逢時之尙年、遽奉身而勇退。如何不吊、奄及云亡。忠義之表、天不憖遺、孝友之規、世將安倣。寒族有姻家之契、二男蒙國士之知。感恩德而未酬、痛音容之遽隔。茲焉歸葬、復阻臨穴。恭陳薄奠、以寫哀誠。
【読み】
嗚呼、惟れ公天忠義を賦し、世孝友を推す。忠以て君に事えて、始終の大節を完くし、孝政有るに施して、儀刑を四方に作す。善を樂しむこと至誠に本づき、學を好んで齒を沒うるに至る。故に有識の士、思って服せずということ無し。垂老の年、其の猷益々壯なり。位將相を極むと雖も、志は則ち施爲に歉らず、恢弘の度、海瀆の量り難きが若く、高邈の風、世俗の企す可きに非ず、賢を推し善を獎めて、惟れ日を足らずとし、急を周[すく]い施すことを樂しんで、室幾ど屢々空し。時に逢うの尙年あるに方って、遽に身を奉じて勇退す。如何ぞ吊せずして、奄[たちま]ち云[ここ]に亡ぶるに及ぶ。忠義の表、天憖いに遺さず、孝友の規、世將に安くにか倣わんとす。寒族姻家の契り有り、二男國士の知を蒙る。恩德ありて未だ酬いざるに感じ、音容の遽に隔つることを痛む。茲に歸し葬るに、復穴に臨むことを阻[へだ]つ。恭しく薄奠を陳べて、以て哀誠を寫す。


爲家君祭呂申公文
【読み】
家君の爲に呂申公を祭る文

嗚呼、公稟則異、得天之粹。遘茲昌辰、出爲嘉瑞。生而富貴、處之無累。幼而聰明、充之能至。學旣知眞、仕則爲道。出入屢更、夷險一操。二聖臨御、人望是從。起藩入輔、命相册公。平日視公、靜密恂恂。國論所斷、一言萬鈞。謂公無位、位爲相臣。謂公得志、志存未伸。然公心如權衡。所以無閒言於率土。德如山嶽。所以致敬心於人主。從容語默之閒、人孰量其所補。胡上天之不弔、不一老之憖遺。淵水無涯。將孰求於攸濟。百身莫贖、爲有識之同悲。嗚呼哀哉、羸老餘生、辱知有素。二男論忘勢之交。不偶無酬知之路。阻臨穴以伸哀。姑托文而披露。想英靈兮如在。監丹誠而來顧。
【読み】
嗚呼、公の稟則ち異なって、天の粹を得る。茲の昌辰に遘って、出て嘉瑞を爲す。生まれて富貴なれども、之に處して累い無し。幼にして聰明なれども、之を充たして能く至る。學旣に眞を知り、仕えて則ち道を爲す。出入屢々更われども、夷險操を一にす。二聖臨御、人望是れ從う。藩より起ちて入って輔け、相に命ぜられ公に册[さづ]かる。平日公を視るに、靜密恂恂たり。國論斷ずる所、一言萬鈞なり。公位無しと謂わんや、位相臣爲り。公志を得んと謂わんや、志未だ伸べざることを存す。然れども公の心權衡の如し。所以に率土に閒言すること無し。德山嶽の如し。所以に敬心を人主に致す。從容語默の閒、人孰か其の補う所を量らん。胡ぞ上天弔せずして、一老を憖いに遺さざる。淵水涯無し。將孰か濟す攸を求めん。百身贖うこと莫く、有識同じく悲しむことを爲す。嗚呼哀しいかな、羸老の餘生、知ることを辱くすること素有り。二男勢を忘るの交わりを論ず。不偶知に酬ゆるの路無し。穴に臨んで以て哀を伸ぶることを阻つ。姑く文に托して披露す。想うに英靈在すが如し。丹誠を監て來り顧よ。


爲家君祭李屯田九縣君文
【読み】
家君の爲に李屯田九縣君を祭る文

嗚呼、夫婦不幸、皆終盛年。美才不克究其施、淑德不克久其芳。此親戚交舊知聞所共悲也。及茲歸葬。去故郷之沮洳、得水土之深厚。幽安顯慰、其善之報而幸之厚與。羸老不任遠之、莫由臨穴盡於一哀。聊爲薄奠。尙其來饗。
【読み】
嗚呼、夫婦不幸にして、皆盛年を終う。美才其の施しを究むること克わず、淑德其の芳しきを久しくすること克わず。此の親戚交舊知り聞いて共に悲しむ所なり。茲に及んで歸し葬る。故郷の沮洳を去って、水土の深厚を得る。幽安んじ顯慰むるは、其の善の報あって幸いの厚きか。羸老遠く之くに任えず、穴に臨んで一哀を盡くすに由莫し。聊か薄奠を爲す。尙わくは其れ來り饗けよ。


祭劉質夫文
【読み】
劉質夫を祭る文

嗚呼、聖學不傳久矣。吾生百世之後、志將明斯道、興斯文於旣絕。力小任重、而不懼其難者、蓋亦有冀矣。以謂苟能使知之者廣、則用力者衆、何難之不易也。遊吾門者衆矣。而信之篤、得之多、行之果、守之固、若子者幾希。方賴子致力以相輔、而不幸遽亡、使吾悲傳學之難、則所以惜子者、豈止遊從之情哉。茲焉歸葬。不克臨穴、姑因薄奠、以敍其哀。
【読み】
嗚呼、聖學傳わらざること久し。吾れ百世の後に生まれて、志將に斯の道を明らかにし、斯の文を旣に絕えたるに興さんとす。力小さく任重けれども、其の難きを懼れざる者は、蓋し亦冀うこと有ればなり。以謂えらく、苟も能く之を知る者廣からしめば、則ち力を用うる者衆くして、何の難きことか之れ易からざらん、と。吾が門に遊ぶ者衆し。而れども之を信ずること篤く、之を得ること多く、之を行うこと果し、之を守ること固きこと、子が若き者幾ど希なり。方に子が力を致して以て相輔けんことを賴むに、不幸にして遽に亡んで、吾をして學を傳うるの難きことを悲しましむるときは、則ち子を惜しむ所以の者、豈止遊び從うの情のみならんや。茲に歸し葬る。穴に臨むこと克わず、姑く薄奠に因って、以て其の哀を敍づ。


祭李端伯文
【読み】
李端伯を祭る文

嗚呼、自予兄弟倡明道學、世方驚疑、能使學者視效而信從、子與劉質夫爲有力矣。質夫於子、爲外兄弟。同邑而居、同門而學、才器相類、志尙如一。予謂、二子可以大受。期之遠到。而半年之閒、相繼以亡。使予憂事道者鮮、悲傳學之難。嗚呼、天於斯文、何其艱哉。官制有拘、不克臨穴。寄文爲奠、以敍其哀。
【読み】
嗚呼、予が兄弟道學を倡明せし自り、世方に驚疑して、能く學者をして視效べて信じ從わしむることは、子と劉質夫と力有りとす。質夫が子に於る、外兄弟爲り。同邑にして居し、同門にして學んで、才器相類し、志尙一の如し。予謂えらく、二子以て大いに受けしむ可し、と。之を遠到に期す。而るに半年の閒に、相繼いで以て亡ぶ。予をして道を事とする者鮮きことを憂え、學を傳うるの難きを悲しましむ。嗚呼、天の斯の文に於る、何ぞ其れ艱きや。官制拘ること有って、穴に臨むこと克わず。文を寄せて奠を爲して、以て其の哀を敍づ。


祭楊應之文
【読み】
楊應之を祭る文

嗚呼、昔予與君、邂逅相遇於大江之南。言契氣合、遂從予遊。歲將三紀、情均骨肉。忽聞來訃。何痛如之。嗚呼應之、誰謂君而止於此乎。高才偉度、絕出羣類、善志奇蘊、曾未得施。天胡爲厚其稟而嗇其年。人誰不死。君之死爲可恨也。奚止交舊之情、悲哀而已。管城之原、歸祔先兆。屬予衰年、憚於長道、不能臨穴一慟、以伸余情。姑致菲薄之奠。魂兮其來、歆此誠意。
【読み】
嗚呼、昔予と君と、邂逅に大江の南に相遇う。言契[あ]い氣合って、遂に予に從って遊ぶ。歲將に三紀ならんとして、情骨肉に均し。忽ち來訃を聞く。何の痛みか之に如かん。嗚呼應之、誰か君にして此に止まると謂わんや。高才偉度、羣類に絕出し、善志奇蘊、曾て未だ施すことを得ず。天胡爲れぞ其の稟を厚くして其の年を嗇[お]しむ。人誰か死せざらん。君の死恨む可しとす。奚んぞ止交舊の情、悲哀するのみならんや。管城の原、先兆に歸祔す。屬[このごろ]予衰年にして、長道に憚って、穴に臨んで一慟して、以て余が情を伸ぶること能わず。姑く菲薄の奠を致す。魂其れ來りて、此の誠意を歆[う]けよ。


祭朱公掞文
【読み】
朱公掞を祭る文

嗚呼、道旣不明、世罕信者。不信則不求、不求則何得。斯道之所以久不明也。自予兄弟倡學之初、衆方驚異。君時甚少、獨信不疑。非夫豪傑特立之士、能如是乎。篤學力行、至於沒齒。志不渝於金石、行可質於神明。在邦在家、臨民臨事、造次動靜、一由至誠。上論古人、豈易其比。蹇蹇王臣之節、凜凜循吏之風、著見事爲、皆可紀述。謂當大施於時、必得其壽。天胡難忱、遽止於此。嗚呼、哀哉、不幸七八年之閒、同志共學之人、相繼而逝(劉質夫・李端伯・呂與叔・範巽之・楊應之相繼而逝也。)。今君復往、使予踽踽於世、憂道學之寡助、則予之哭君、豈特交朋之情而已。邙山之陽、歸祔先宅。思平生之深契、痛音容之永隔、陳薄奠以將誠。庶英靈兮來格。
【読み】
嗚呼、道旣に明らかならずして、世信ずる者罕なり。信ぜざるときは則ち求めず、求めざるときは則ち何ぞ得ん。斯の道の久しく明らかならざる所以なり。予が兄弟學を倡うるの初め自り、衆方に驚異す。君時に甚だ少くして、獨り信じて疑わず。夫の豪傑特立の士に非ずんば、能く是の如くならんや。篤く學び力め行って、齒を沒うるに至る。志金石に渝[か]わらず、行い神明に質す可し。邦に在り家に在り、民に臨み事に臨み、造次動靜も、一に至誠に由る。上古人を論ずとも、豈其れ比し易からんや。蹇蹇たる王臣の節、凜凜たる循吏の風、事爲に著見せる、皆紀述す可し。謂えらく、當に大いに時に施して、必ず其の壽を得るべし、と。天胡ぞ忱とし難くして、遽に此に止めるや。嗚呼、哀しいかな、不幸にして七八年の閒、志を同じくし學を共にする人、相繼いで逝す(劉質夫・李端伯・呂與叔・範巽之・楊應之相繼いで逝す。)。今君復往いて、予をして世に踽踽[くく]として、道學の助け寡きことを憂えしむるときは、則ち予の君を哭する、豈特交朋の情のみならんや。邙山の陽、先宅に歸祔す。平生の深契を思って、音容の永く隔つるを痛み、薄奠を陳べて以て誠を將[すす]む。庶わくは英靈來り格れ。


参考文献
『和刻本漢籍 二程全書』(中文出版社)
『二程集』(里仁書局)