正 蒙

太和篇

1
太和所謂道。中涵浮沈・升降・動靜相感之性、是生絪縕・相盪・勝負・屈伸之始。其來也幾微易簡、其究也廣大堅固。起知於易者乾乎。效法於簡者坤乎。散殊而可象爲氣、淸通而不可象爲神。不如野馬絪縕、不足謂之太和。語道者知此、謂之知道。學易者見此、謂之見易。不如是、雖周公才美、其智不足稱也已。
【読み】
太和は所謂道なり。中に浮沈・升降・動靜相感ずるの性を涵[ふく]み、是より絪縕・相盪・勝負・屈伸の始を生ず。其の來や幾微易簡にして、其の究や廣大堅固なり。知を易きに起こす者は乾か。法を簡[つづま]やかに效[いた]す者は坤か。散殊して象る可きを氣と爲し、淸通して象る可からざるを神と爲す。野馬の絪縕なるが如きにあらざれば、之を太和と謂うに足らず。道を語る者此を知る、之を道を知ると謂う。易を學ぶ者此を見る、之を易を見ると謂う。是の如きにあらざれば、周公の才の美と雖も、其の智稱するに足らざるのみ。

2
太虛無形、氣之本體。其聚其散、變化之客形爾。至靜無感、性之淵源。有識有知、物交之客感爾。客感客形與無感無形、惟盡性者一之。
【読み】
太虛形無きは、氣の本體なり。其の聚其の散は、變化の客形のみ。至靜感無きは、性の淵源なり。識有り知有るは、物交の客感のみ。客感客形と無感無形とは、惟性を盡くす者のみ之を一にす。

3
天地之氣、雖聚散攻取百塗、然其爲理也順而不妄。氣之爲物、散入無形、適得吾體。聚爲有象、不失吾常。太虛不能無氣、氣不能不聚而爲萬物、萬物不能不散而爲太虛。循是出入、是皆不得已而然也。然則盡道其閒、兼體而不累者、存神其至矣。彼語寂滅者、往而不反。徇生執有者、物而不化。二者雖有閒矣、以言乎失道則均焉。
【読み】
天地の氣、聚散攻取すること百塗なりと雖も、然れども其の理爲るや順にして妄りならず。氣の物爲る、散ずれば無形に入り、適々吾が體を得。聚まれば有象と爲り、吾が常を失わず。太虛は氣無きこと能わず、氣は聚まりて萬物と爲らざること能わず、萬物は散じて太虛と爲らざること能わず。是に循いて出入するは、是れ皆已むを得ずして然るなり。然れば則ち道を其の閒に盡くし、兼ね體して累わされざる者にして、神を存すること其れ至れり。彼の寂滅を語る者は、往いて返らず。生を徇[とな]え有に執する者は、物して化せず。二者は閒有りと雖も、以て道を失えるより言えば則ち均し。

4
聚亦吾體、散亦吾體、知死之不亡者、可與言性矣。
【読み】
聚まるも亦吾が體、散ずるも亦吾が體、死するも亡びざることを知る者は、與[とも]に性を言う可し。

5
知虛空卽氣、則有無隱顯・神化性命、通一無二。顧聚散・出入・形不形、能推本所從來、則深於易者也。若謂虛能生氣、則虛無窮、氣有限、體用殊絕、入老氏有生於無自然之論、不識所謂有無混一之常。若謂萬象爲太虛中所見之物、則物與虛不相資、形自形、性自性、形性・天人不相待而有、陷於浮屠以山河大地爲見病之說。此道不明、正由懵者略知體虛空爲性、不知本天道爲用、反以人見之小因緣天地。明有不盡、則誣世界乾坤爲幻化。幽明不能舉其要、遂躐等妄意而然。不悟一陰一陽、範圍天地、通乎晝夜、三極大中之矩。遂使儒・佛・老莊、混然一途。語天道性命者、不罔於恍惚夢幻、則定以有生於無、爲窮高極微之論。入德之途、不知擇術而求、多見其蔽於詖而陷於淫矣。
【読み】
虛空は卽ち氣なるを知れば、則ち有無隱顯、神化性命は、一に通じて二無し。聚散・出入・形不形を顧み、能く從り來る所を推し本づくるは、則ち易に深き者なり。若し虛能く氣を生ずと謂わば、則ち虛は窮まり無く、氣は限り有り、體用殊[わか]れ絕ち、老氏有は無より生ずという自然の論に入り、所謂有無混一の常を識らず。若し萬象は太虛中に見るる物と爲すと謂わば、則ち物と虛と相資せず、形は自づから形、性は自づから性にして、形性・天人相待たずして有り、浮屠の山河大地を以て見病と爲すの說に陷る。此の道の明らかならざるは、正に懵[くら]き者略[ほぼ]虛空を體して性と爲すを知るも、天道に本づきて用と爲すを知らず、反って人見の小を以て天地を因緣するに由る。明盡くさざること有れば、則ち世界乾坤を誣いて幻化と爲す。幽明其の要を舉ぐること能わず、遂に等を躐[こ]え意を妄りにすること然り。一陰一陽、天地を範圍し、晝夜を通じ、三極大中の矩なるを悟らず。遂に儒・佛・老莊をして、混然として一途たらしめ、天道性命を語る者も、恍惚夢幻に罔せざれば、則ち定[かなら]ず有は無より生ずるを以て、高きを窮め微を極むるの論と爲す。德に入るの途、術を擇びて求むるを知らず、多く其の詖[よこしま]に蔽われて淫に陷るを見るのみ。

6
氣坱然太虛、升降飛揚、未嘗止息、易所謂絪縕、莊生所謂生物以息相吹、野馬者與。此虛實・動靜之機、陰陽・剛柔之始。浮而上者陽之淸、降而下者陰之濁。其感遇聚散、爲風雨、爲雪霜、萬品之流形、山川之融結、糟粕煨燼、無非敎也。
【読み】
氣の太虛に坱然として、升降飛揚し、未だ嘗て止息せざるは、易に謂う所の絪縕、莊生謂う所の生物の息を以て相吹く、野馬なる者か。此れ虛實・動靜の機、陰陽・剛柔の始めなり。浮びて上る者は陽の淸めるなり、降りて下る者は陰の濁れるなり。其の感遇聚散して、風雨と爲り、雪霜と爲り、萬品の形を流[し]き、山川の融け結ぶは、糟粕煨燼[わいじん]にして、敎に非ざるは無し。

7
氣聚、則離明得施而有形、氣不聚、離明不得施而無形。方其聚也、安得不謂之客。方其散也、安得遽謂之無。故聖人仰觀俯察、但云知幽明之故、不云知有無之故。盈天地之閒者、法象而已。文理之察、非離不相睹也。方其形也、有以知幽之因。方其不形也、有以知明之故。
【読み】
氣聚まるときは、則ち離明施すことを得て形有り、氣聚まらざるときは、離明施すことを得ずして形無し。其の聚まるに方[あた]っても、安んぞ之を客と謂わざるを得ん。其の散ずるに方っても、安んぞ遽に之を無と謂うを得ん。故に聖人は仰いで觀、俯して察し、但幽明の故[こと]を知ると云うのみにて、有無の故を知るとは云わず。天地の閒に盈つる者は、法象のみ。文理の察は、離に非ざれば相睹ざるなり。其の形るるに方っても、以て幽の因を知ること有り。其の形れざるに方っても、以て明の故を知ること有り。

8
氣之聚散於太虛、猶氷凝釋於水、知太虛卽氣則無無。故聖人語性與天道之極、盡於參伍之神變易而已。諸子淺妄、有有無之分、非窮理之學也。
【読み】
氣の聚散の太虛に於るは、猶氷の凝釋の水に於るがごとく、太虛は卽ち氣なるを知れば則ち無なるは無し。故に聖人の性と天道とを語るの極みも、參伍の神の變易するに盡くるのみ。諸子淺妄にして、有無の分ち有るは、窮理の學に非ざるなり。

9
太虛爲淸。淸則無礙。無礙故神。反淸爲濁。濁則礙。礙則形。
【読み】
太虛を淸と爲す。淸なるときは則ち礙[こ]ること無し。礙ること無きが故に神なり。淸に反するを濁と爲す。濁なるときは則ち礙る。礙れば則ち形あり。

10
凡氣淸則通、昏則壅。淸極則神。故聚而有閒、則風行而聲聞具逹、淸之驗與。不行而至、通之極與。
【読み】
凡そ氣は淸なるときは則ち通じ、昏きときは則ち壅[ふさ]がる。淸極まるときは則ち神なり。故に聚まりて閒有るとき、則ち風行きて聲聞具に逹するは、淸の驗か。行かずして至るは、通の極みか。

11
由太虛、有天之名。由氣化、有道之名。合虛與氣、有性之名。合性與知覺、有心之名。
【読み】
太虛に由って、天の名有り。氣化に由って、道の名有り。虛と氣とを合わせて、性の名有り。性と知覺とを合わせて、心の名有り。

12
鬼神者、二氣之良能也。聖者、至誠得天之謂。神者、太虛妙應之目。凡天地法象、皆神化之糟粕爾。
【読み】
鬼神は、二氣の良能なり。聖は、至誠にして天を得るの謂なり。神は、太虛妙應の目なり。凡そ天地の法象は、皆神化の糟粕のみ。

13
天道不窮、寒暑也。衆動不窮、屈伸也。鬼神之實、不越二端而已矣。
【読み】
天道窮まらざるは、寒暑なり。衆動窮まらざるは、屈伸なり。鬼神の實も、二端を越[す]ぎざるのみ。

14
兩不立則一不可見。一不可見則兩之用息。兩體者、虛實也、動靜也、聚散也、淸濁也。其究一而已。
【読み】
兩立たざれば則ち一見る可からず。一見る可からざれば則ち兩の用息む。兩體は、虛と實なり、動と靜なり、聚と散なり、淸と濁なり。其の究まるところは一のみ。

15
感而後有通。不有兩、則無一。故聖人以剛柔立本。乾・坤毀則無以見易。
【読み】
感じて後に通ずること有り。兩有らざれば、則ち一無し。故に聖人剛柔を以て本を立つ。乾・坤毀[やぶ]るるときは則ち以て易を見ること無し。

16
游氣紛擾、合而成質者、生人物之萬殊。其陰陽兩端、循環不已者、立天地之大義。
【読み】
游氣紛擾して、合して質を成す者は、人物の萬殊を生ず。其の陰陽兩端の、循環して已まざる者は、天地の大義を立つ。

17
日月相推而明生、寒暑相推而歲成、神易無方體、一陰一陽、陰陽不測、皆所謂通乎晝夜之道也。
【読み】
日月相推して明生じ、寒暑相推して歲成る、神・易は方・體無し、一陰一陽、陰陽測られずとは、皆所謂晝夜の道に通ずるものなり。

18
晝夜者、天之一息乎。寒暑者、天之晝夜乎。天道春秋分而氣易、猶人一寤寐而魂交。魂交成夢、百感紛紜、對寤而言、一身之晝夜也。氣交爲春、萬物揉錯、對秋而言、天之晝夜也。氣本之虛則湛本無形、感而生則聚而有象。有象斯有對、對必反其爲。有反斯有仇、仇必和而解。故愛惡之情同出於太虛、而卒歸於物欲。倏而生、忽而成、不容有毫髮之閒、其神矣夫。
【読み】
晝夜は、天の一息か。寒暑は、天の晝夜か。天道の春秋分にして氣の易わるは、猶人の一寤寐して魂の交わるがごとし。魂交わり夢を成して、百感の紛紜するを、寤むるに對[あ]てて言わば、一身の晝夜なり。氣交わりて春と爲り、萬物揉錯するを、秋に對てて言わば、天の晝夜なり。氣は之を虛に本づくるときは則ち湛として本形無く、感じて生ずれば則ち聚まりて象有り。象有れば斯[ここ]に對有り、對は必ず其の爲に反く。反くこと有れば斯に仇有り、仇は必ず和して解く。故に愛惡の情は同じく太虛より出でて、卒に物欲に歸す。倏[たちま]ちにして生じ、忽ちにして成り、容[まさ]に毫髮の閒有るべからざるは、其れ神なるかな。

19
造化所成、無一物相肖者。以是知萬物雖多、其實一物。無無陰陽者。以是知天地變化、二端而已。
【読み】
造化の成す所は、一物として相肖[に]たる者無し。是を以て萬物多しと雖も、其の實は一物なるを知る。陰陽無き者無し。是を以て天地の變化は、二端のみなるを知る。

20
萬物形色、神之糟粕。性與天道云者、易而已矣。心所以萬殊者、感外物爲不一也。天大無外、其爲感者、絪縕二端而已。
【読み】
萬物の形色あるは、神の糟粕なり。性と天道とを云う者も、易のみ。心の萬殊なる所以の者は、外物に感ずること一ならざるが爲なり。天の大なる、外無けれども、其の感を爲す者は、絪縕なる二端のみ。

21
物之所以相感者、利用出入、莫知其郷。一萬物之妙者與。
【読み】
物の相感ずる所以の者は、利用出入して、其の郷を知る莫し。萬物に一なるの妙なる者か。

22
氣與志、天與人、有交勝之理。聖人在上而下民咨、氣壹之動志也。鳳凰儀、志壹之動氣也。
【読み】
氣と志と、天と人と、交々勝つの理有り。聖人上に在りて下民咨[なげ]くは、氣壹[もっぱ]らにして志を動かすなり。鳳凰儀するは、志壹らにして氣を動かすなり。


參兩篇

1
地所以兩、分剛柔男女而效之、法也。天所以參、一太極兩儀而象之、性也。
【読み】
地の兩なる所以は、剛柔男女を分かちて之を效[あらわ]す、法なり。天の參なる所以は、太極兩儀を一にして之を象る、性なり。

2
一物兩體、氣也。一故神、兩故化、此天之所以參也。
【読み】
一物兩體なるは、氣なり。一故に神、兩故に化すは、此れ天の參たる所以なり。

3
地純陰凝聚於中、天浮陽運旋於外、此天地之常體也。恆星不動、純繫乎天、與浮陽運旋而不窮者也。日月五星逆天而行、幷包乎地者也。地在氣中、雖順天左旋、其所繫辰象隨之、稍遲則反移徙而右爾。閒有緩速不齊者、七政之性殊也。月陰精、反乎陽者也。故其右行最速。日爲陽精、然其質本陰。故其右行雖緩、亦不純繫乎天、如恆星不動。金水附日前後進退而行者、其理精深、存乎物感可知矣。鎭星地類、然根本五行、雖其行最緩、亦不純繫乎地也。火者亦陰質、爲陽萃焉。然其氣比日而微。故其遲倍日。惟木乃歲一盛衰。故歲歷一辰。辰者日月一交之次、有歲之象也。
【読み】
地は純陰にして中に凝聚し、天は浮陽にして外に運旋するは、此れ天地の常體なり。恆星は動かず、純[もっぱ]ら天に繫かりて、與に浮陽運旋して窮まらざる者なり。日月五星は天に逆いて行[めぐ]り、幷せて地を包む者なり。地は氣中に在り、天に順いて左旋すると雖も、其の繫かる所の辰象之に隨いて、稍[やや]遲きときは則ち反って移り徙[うつ]りて右するのみ。閒緩速の齊しからざる有る者は、七政の性殊なればなり。月は陰の精にして、陽に反する者なり。故に其の右行すること最も速し。日は陽の精爲るも、然れども其の質は陰に本づく。故に其の右行すること緩やかなりと雖も、亦純ら天に繫かること、恆星の動かざるが如きにあらず。金水は日に附き前後進退して行る者にして、其の理精深、物の感ずるところに存すること知る可し。鎭星は地の類、然して五行の根本なれば、其の行ること最も緩やかなりと雖も、亦純ら地に繫るにはあらざるなり。火なる者も亦陰の質にして、陽の萃[あつ]まれるものと爲す。然して其の氣は日に比べて微かなり。故に其の遲きこと日に倍す。惟木は乃ち歲ごとに一盛衰す。故に歲ごとに一辰を歷る。辰なる者は日月一交の次[やど]にして、歲有るの象なり。

4
凡圜轉之物、動必有機。旣謂之機、則動非自外也。古今謂天左旋、此直至粗之論爾。不考日月出沒恆星昏曉之變。愚謂、在天而運者、惟七曜而已。恆星所以爲晝夜者、直以地氣乘機左旋於中。故使恆星河漢因北爲南、日月因天隱見。太虛無體、則無以驗其遷動於外也。
【読み】
凡そ圜轉の物は、動くに必ず機有り。旣に之を機と謂えば、則ち動は外自りなるに非ざるなり。古今天は左旋すと謂うは、此れ直[ただ]至って粗き論のみ。日月出沒、恆星昏曉の變を考えざるなり。愚謂えらく、天に在りて運[めぐ]る者は、惟七曜のみ、と。恆星の晝夜を爲す所以の者は、直地氣の機に乘りて中に左旋するを以てなり。故に恆星河漢をして北に因って南と爲り、日月天に因って隱見せしむ。太虛は體無ければ、則ち以て其の遷動を外に驗すこと無きなり。

5
天左旋、處其中者順之、少遲則反右矣。
【読み】
天は左旋し、其の中に處る者は之に順い、少しく遲るるときは則ち反って右す。

6
地、物也。天、神也。物無踰神之理。顧有地斯有天、若其配然爾。
【読み】
地は、物なり。天は、神なり。物は神を踰ゆるの理無し。顧[ゆえ]に地有れば斯に天有ること、其の配の若く然るのみ。

7
地有升降、日有修短。地雖凝聚不散之物、然二氣升降其閒、相從而不已也。陽日上、地日降而下者、虛也。陽日降、地日進而上者、盈也。此一歲寒暑之候也。至於一晝夜之盈虛升降、則以海水潮汐驗之爲信。然閒有小大之差、則繫日月朔望、其精相感。
【読み】
地に升降有り、日に修短有り。地は凝聚して散ぜざるの物と雖も、然れども二氣其の閒に升降して、相從って已まざるなり。陽日々に上り、地日々に降りて下る者は、虛なり。陽日々降り、地日々に進みて上る者は、盈なり。此れ一歲の寒暑の候なり。一晝夜の盈虛升降に至っては、則ち海水潮汐を以て之を驗して信と爲す。然して閒小大の差有るは、則ち日月の朔望に、其の精相感ずるに繫かる。

8
日質本陰、月質本陽。故於朔望之際、精魄反交、則光爲之食矣。
【読み】
日の質は陰に本づき、月の質は陽に本づく。故に朔望の際に於て、精魄反し交わるときは、則ち光之が爲に食す。

9
虧盈法。月於人爲近、日遠在外。故月受日光常在於外、人視其終初如鈎之曲、及其中天也如半璧然。此虧盈之驗也。
【読み】
虧盈[きえい]の法。月は人に於て近しと爲し、日は遠く外に在り。故に月の日の光を受くるは常に外に在り、人其の終初を視るに鈎の曲れるが如く、其の中天に及ぶや半璧の如く然り。此れ虧盈の驗なり。

10
月所位者陽。故受日之光、不受日之精。相望中弦則光爲之食。精之不可以二也。
【読み】
月の位する所の者は陽なり。故に日の光を受けて、日の精を受けず。中弦に相望むときは則ち光之が爲に食す。精の以て二たる可からざればなり。

11
日月雖以形相物、考其道則有施受健順之差焉。星月金水受光於火日、陰受而陽施也。
【読み】
日月は形あるを以て相[とも]に物なりと雖も、其の道を考うるときは則ち施受健順の差有り。星・月・金・水の光を火・日より受くるは、陰受けて陽施すなり。

12
陰陽之精互藏其宅、則各得其所安。故日月之形、萬古不變。若陰陽之氣、則循環迭至、聚散相盪、升降相求、絪縕相揉、蓋相兼相制、欲一之而不能。此其所以屈伸無方、運行不息、莫或使之、不曰性命之理、謂之何哉。
【読み】
陰陽の精互いに其の宅に藏るときは、則ち各々其の安き所を得。故に日月の形は、萬古變わらず。陰陽の氣の若きは、則ち循環して迭[こもごも]至り、聚散して相盪[うご]き、升降して相求め、絪縕して相揉[ま]じり、蓋し相兼ね相制して、之を一にせんと欲するも能わざるなり。此れ其の屈伸して方無く、運行して息まざる所以にして、之をせしむるもの或る莫きは、性命の理と曰わずして、之を何と謂わんや。

13
日月得天、得自然之理也。非蒼蒼之形也。
【読み】
日月天を得るとは、自然の理を得たるなり。蒼蒼の形には非ざるなり。

14
閏餘生於朔、不盡周天之氣。而世傳交食法、與閏異術、蓋有不知而作者爾。
【読み】
閏餘朔に生ずるは、周天の氣を盡くさざればなり。而して世に傳わる交食の法の、閏と術を異にするは、蓋し知らずして作れる者有るのみ。

15
陽之德主於遂、陰之德主於閉。
【読み】
陽の德は遂ぐるを主とし、陰の德は閉づるを主とす。

16
陰性凝聚、陽性發散。陰聚之、陽必散之。其勢均散。陽爲陰累、則相持爲雨而降。陰爲陽得、則飄揚爲雲而升。故雲物班布太虛者、陰爲風驅、斂聚而未散者也。凡陰氣凝聚、陽在内者不得出、則奮擊而爲雷霆。陽在外者不得入、則周旋不舍而爲風。其聚有遠近・虛實。故雷風有小大・暴緩。和而散則爲霜雪雨露、不和而散則爲戾氣曀霾。陰常散緩、受交於陽、則風雨調、寒暑正。
【読み】
陰の性は凝聚にして、陽の性は發散なり。陰之を聚むれば、陽必ず之を散らす。其の勢均しきときは散る。陽、陰の爲に累わさるるときは、則ち相持して雨と爲りて降る。陰、陽の爲に得らるるときは、則ち飄揚して雲と爲りて升る。故に雲物の太虛に班布する者は、陰、風の爲に驅られ、斂聚して未だ散らざる者なり。凡そ陰氣凝聚し、陽の内に在る者出づるを得ざるときは、則ち奮擊して雷霆と爲る。陽の外に在る者入るを得ざるときは、則ち周旋して舍[や]まずして風と爲る。其の聚まるに遠近・虛實有り。故に雷風に小大・暴緩有り。和して散るときは則ち霜雪雨露と爲り、和せずして散るときは則ち戾氣曀霾[えいばい]と爲る。陰常に散じて緩く、交わりを陽に受くるときは、則ち風雨調い、寒暑正し。

17
天象者、陽中之陰。風霆者、陰中之陽。
【読み】
天象は、陽中の陰なり。風霆は、陰中の陽なり。

18
雷霆感動雖速、然其所由來亦漸爾。能窮神化所從來、德之盛者與。
【読み】
雷霆感動すること速やかなりと雖も、然れども其の由り來る所は亦漸なるのみ。能く神化の從り來る所を窮むるは、德の盛んなる者か。

19
火・日外光、能直而施。金・水内光、能闢而受。受者隨材各得、施者所應無窮、神與形・天與地之道與。
【読み】
火・日は外光[あまね]く、能く直にして施す。金・水は内光く、能く闢いて受く。受くる者、材に隨いて各々得、施す者、應ずる所窮まり無きは、神と形と、天と地との道か。

20
木曰曲直、能旣曲而反申也。金曰從革、一從革而不能自反也。水・火、氣也。故炎上潤下、與陰陽升降、土不得而制焉。木・金者、土之華實也。其性有水・火之雜。故木之爲物、水漬則生、火然而不離也、蓋得土之浮華於水・火之交也。金之爲物、得火之精於土之燥、得水之精於土之濡。故水・火相待而不相害、鑠之反流而不耗、蓋得土之精實於水・火之際也。土者、物之所以成始而成終也、地之質也、化之終也。水・火之所以升降、物兼體而不遺者也。
【読み】
木を曲直と曰うとは、能く旣に曲るも反り申[の]ぶればなり。金を從革と曰うとは、一たび從って革めれば自ら反ること能わざればなり。水・火は、氣なり。故に炎上潤下し、陰陽と與に升降し、土得て制せざるなり。木・金は、土の華實なり。其の性に水・火の雜じれる有り。故に木の物爲る、水漬すときは則ち生じ、火然[も]えて離れざるは、蓋し土の浮華を水・火の交わりに得るなり。金の物爲る、火の精を土の燥けるに得、水の精を土の濡れるに得。故に水・火相待って相害さず、之を鑠かすも反流して耗[へ]らざるは、蓋し土の精實を水・火の際わりに得るなり。土は、物の始めを成して終わりを成す所以なり、地の質なり、化の終わりなり。水・火の升降する所以にして、物ごとに兼ね體して遺さざる者なり。

21
氷者、陰凝而陽未勝也。火者、陽麗而陰未盡也。火之炎、水之蒸、有影無形、能散而不能受光者、其氣陽也。
【読み】
氷とは、陰凝りて陽未だ勝たざるなり。火とは、陽麗[つ]きて陰未だ盡きざるなり。火の炎え、水の蒸し、影有りて形無く、能く散じて光を受くること能わざるは、其の氣陽なればなり。

22
陽陷於陰爲水、附於陰爲火。
【読み】
陽、陰に陷るを水と爲し、陰に附くを火と爲す。


天道篇

1
天道四時行百物生。無非至敎。聖人之動、無非至德。夫何言哉。
【読み】
天道四時行われ百物生ず。至敎に非ざるは無し。聖人の動くは、至德に非ざるは無し。夫れ何をか言わん。

2
天體物不遺、猶仁體事無不在也。禮儀三百、威儀三千、無一物而非仁也。昊天曰明、及爾出王、昊天曰旦、及爾游衍。無一物之不體也。
【読み】
天の物に體して遺さざるは、猶仁の事に體して在らざる無きがごときなり。禮儀三百、威儀三千、一物として仁に非ざるは無きなり。昊天曰[ここ]に明らかなり、爾と出で王[ゆ]く、昊天曰に旦[あき]らかなり、爾と游衍す。一物の體せざる無きなり。

3
上天之載、有感必通。聖人之爲、得爲而爲之也。
【読み】
上天の載[こと]は、感有れば必ず通ず。聖人の爲[しわざ]も、爲すこと得りて之を爲すなり。

4
天不言而四時行。聖人神道設敎而天下服。誠於此、動於彼、神之道與。
【読み】
天は言わずして四時行わる。聖人は神道もて敎を設けて天下服す。此に誠なれば、彼に動くは、神の道か。

5
天不言而信、神不怒而威。誠、故信。無私、故威。
【読み】
天は言わずして信あり、神は怒らずして威あり。誠なるが故に信あり。私無きが故に威あり。

6
天之不測謂神、神而有常謂天。
【読み】
天の測られざるを神と謂い、神にして常有るを天と謂う。

7
運於無形之謂道。形而下者不足以言之。
【読み】
形無きに運る、之を道と謂う。形よりして下なる者は以て之を言うに足らず。

8
鼓萬物而不與聖人同憂、天道也。聖不可知也。無心之妙、非有心所及也。
【読み】
萬物を鼓[うご]かして聖人と憂いを同じくせざるは、天道なり。聖も知る可からざるなり。無心の妙は、有心の及ぶ所に非ざるなり。

9
不見而章、己誠而明也。不動而變、神而化也。無爲而成、爲物不貳也。
【読み】
見[しめ]さずして章らかなるは、己誠にして明らかなるなり。動かずして變ずるは、神にして化するなり。爲すこと無くして成るは、物爲る貳ならざるなり。

10
己誠而明。故能不見而章、不動而變、無爲而成。
【読み】
己誠にして明らかなり。故に能く見さずして章らかに、動かずして變じ、爲すこと無くして成る。

11
富有、廣大不禦之盛與。日新、悠久無疆之道與。
【読み】
富有とは、廣大にして禦[とど]めざるの盛りか。日に新たなりとは、悠久にして疆[かぎ]り無きの道か。

12
天之知物、不以耳目心思。然知之之理、過於耳目心思。天視聽以民、明威以民。故詩書所謂帝天之命、主於民心而已焉。
【読み】
天の物を知るは、耳目心思を以てせず。然れども之を知るの理は、耳目心思に過ぎたり。天の視聽は民を以てし、明威は民を以てす。故に詩書に所謂帝天の命は、民心を主とするのみ。

13
化而裁之存乎變。存四時之變、則周歲之化可裁。存晝夜之變、則百刻之化可裁。推而行之存乎通。推四時而行、則能存周歲之通。推晝夜而行、則能存百刻之通。
【読み】
化して之を裁するは變に存す。四時の變を存するときは、則ち周歲の化裁す可し。晝夜の變を存するときは、則ち百刻の化裁す可し。推して之を行うは通に存す。四時を推して行うときは、則ち能く周歲の通を存す。晝夜を推して行うときは、則ち能く百刻の通を存す。

14
神而明之、存乎其人。不知上天之載、當存文王。默而成之、存乎德行。學者常存德性、則自然默成而信矣。存文王則知天載之神、存衆人則知物性之神。
【読み】
神にして之を明らかにするは、其の人に存す。上天の載を知らざれば、當に文王を存[おも]うべし。默して之を成すは、德行に存す。學者常に德性を存すれば、則ち自然に默成して信あり。文王を存うときは則ち天載の神を知り、衆人を存うときは則ち物性の神を知る。

15
谷之神也有限。故不能通天下之聲。聖人之神惟天。故能周萬物而知。
【読み】
谷の神たるや限り有り。故に天下の聲に通ずること能わず。聖人の神は惟れ天なり。故に能く萬物に周くして知る。

16
聖人有感無隱。正猶天道之神。
【読み】
聖人は感有れば隱すこと無し。正に猶天道の神のごとし。

17
形而上者、得意斯得名、得名斯得象。不得名、非得象者也。故語道至於不能象、則名言亡矣。
【読み】
形よりして上なる者も、意を得れば斯に名を得、名を得れば斯に象を得。名を得ざるは、象を得る者に非ざるなり。故に道を語りて象ること能わざるに至るときは、則ち名言亡びんのみ。

18
世人知道之自然、未始識自然之爲體爾。
【読み】
世人は道の自然たるを知るも、未だ始めより自然の體爲ることを識らざるのみ。

19
有天德、然後天地之道可一言而盡。
【読み】
天德有りて、然る後に天地の道一言にして盡くす可し。

20
正明不爲日月所眩。正觀不爲天地所遷。
【読み】
正明は日月の爲に眩まされず。正觀は天地の爲に遷らされず。


神化篇

1
神、天德。化、天道。德其體、道其用、一於氣而已。
【読み】
神は、天德なり。化は、天道なり。德は其の體、道は其の用なるも、氣に一なるのみ。

2
神無方、易無體。大且一而已爾。
【読み】
神は方無く、易は體無し。大にして且つ一なるのみ。

3
虛明照鑒、神之明也。無遠近幽深、利用出入、神之充塞無閒也。
【読み】
虛明にして照鑒[しょうらん]するは、神の明なり。遠近幽深無く、利用出入するは、神の充塞して閒無きなり。

4
天下之動、神鼓之也。辭不鼓舞、則不足以盡神。
【読み】
天下の動は、神之を鼓[うご]かすなり。辭もて鼓舞せざれば、則ち以て神を盡くすに足らず。

5
鬼神、往來屈伸之義。故天曰神、地曰示、人曰鬼。
【読み】
鬼神は、往來屈伸の義なり。故に天に神と曰い、地に示と曰い、人に鬼と曰う。

6
形而上者、得辭斯得象矣。神爲不測。故緩辭不足以盡神。化爲難知。故急辭不足以體化。
【読み】
形よりして上なる者は、辭を得て斯に象を得るなり。神は測られずと爲す。故に緩辭は以て神を盡くすに足らず。化は知り難しと爲す。故に急辭は以て化を體するに足らず。

7
氣有陰陽、推行有漸爲化、合一不測爲神。其在人也、知義用利、則神化之事備矣。德盛者、窮神則知不足道、知化則義不足云。天之化也運諸氣、人之化順夫時。非氣非時、則化之名何有、化之實何施。中庸曰至誠爲能化、孟子曰大而化之、皆以其德合陰陽、與天地同流而無不通也。所謂氣也者、非待其蒸欝凝聚、接於目而後知之。苟健順・動止・浩然・湛然之得言、皆可名之象爾。然則象若非氣、指何爲象。時若非象、指何爲時。世人取釋氏鎖礙入空、學者舍惡趨善以爲化。此直可以爲始學遣累者薄乎云爾。豈天道神化所同語哉。
【読み】
氣に陰陽有り、推行して漸有るを化と爲し、合一して測られざるを神と爲す。其の人に在りてや、知義の用利ろしきときは、則ち神化の事備わる。德の盛んなる者は、神を窮むれば則ち知も道[い]うに足らず、化を知れば則ち義も云うに足らず。天の化するや諸を氣に運らし、人の化するや夫の時に順う。氣に非ず時に非ざれば、則ち化の名何くにか有らん、化の實何くにか施さん。中庸に至誠のみ能く化することを爲すと曰い、孟子に大にして之を化すと曰うは、皆其の德陰陽に合し、天地と流れを同じくして通ぜざる無きを以てなり。所謂氣なる者は、其の蒸欝凝聚を待ちて、目に接して而る後に之を知るには非ず。苟も健順・動止・浩然・湛然の言を得たるは、皆名づく可きの象たるのみ。然れば則ち象若し氣に非ざれば、何を指してか象と爲さん。時若し象に非ざれば、何を指してか時と爲さん。世人は釋氏の礙[さまたげ]を鎖[け]して空に入り、學者の惡を舍てて善に趨くを取りて以て化と爲す。此れ直[ただ]以て始めて學びて累いを遣[はら]さんとする者の爲に薄[しばら]く爾[しか]云う可きのみ。豈天道の神化と同じく語る所ならんや。

8
變則化、由粗入精也。化而裁之謂之變、以著顯微也。谷神不死。故能微顯而不揜。
【読み】
變ずるときは則ち化すとは、粗由り精に入るなり。化して之を裁する、之を變と謂うとは、著[あき]らかなるものを以て微かなるものを顯[あらわ]にするなり。谷神死せず。故に能く微かなるものも顯れて揜われざるなり。

9
鬼神常不死。故誠不可揜。人有是心、在隱微必乘閒而見。故君子雖處幽獨、防亦不懈。
【読み】
鬼神は常にして死せず。故に誠は揜う可からず。人是の心有りて、隱微に在るも必ず閒に乘じて見る。故に君子は幽獨に處ると雖も、防ぎて亦懈らず。

10
神化者、天之良能、非人能。故大而位天德、然後能窮神知化。
【読み】
神化なる者は、天の良能にして、人能に非ず。故に大にして天德に位して、然る後に能く神を窮め化を知るなり。

11
大可爲也。大而化不可爲也。在熟而已。易謂窮神知化、乃德盛仁熟之致、非智力能强也。
【読み】
大は爲す可きなり。大にして化するは爲す可からざるなり。熟するに在るのみ。易に神を窮め化を知ると謂えるは、乃ち德盛んに仁熟するの致りにして、智力の能く强[し]うるに非ざるなり。

12
大而化之、能不勉而大也。不已而天、則不測而神矣。
【読み】
大にして之を化すとは、能く勉めずして大たるなり。已まずして天なるは、則ち測られずして神たるなり。

13
先後天而不違、順至理以推行、知無不合也。雖然、得聖人之任者、皆可勉而至、猶不害於未化爾。大幾聖矣。化則位乎天德矣。
【読み】
天に先後して違わず、至理に順いて以て推行すれば、合わざること無きを知るなり。然りと雖も、聖人の任を得たる者は、皆勉めて至る可く、猶未だ化せざるを害とせざるのみ。大は聖に幾[ちか]し。化は則ち天德に位せり。

14
大則不驕、化則不吝。
【読み】
大なれば則ち驕らず、化なれば則ち吝かならず。

15
無我而後大。大成性而後聖。聖位天德不可致知謂神。故神也者、聖而不可知。
【読み】
我無くして後に大なり。大、性を成して後に聖なり。聖、天德に位し知を致す可からざるを神と謂う。故に神なる者は、聖にして知る可からざるなり。

16
見幾則義明、動而不括則用利、屈伸順理則身安而德滋。窮神知化、與天爲一。豈有我所能勉哉。乃德盛而自致爾。
【読み】
幾を見るときは則ち義明らかにして、動いて括[と]じざるときは則ち用いて利ろしく、屈伸理に順うときは則ち身安んじて德滋[さか]んなり。神を窮め化を知れば、天と一爲り。豈我有るものの能く勉むる所ならんや。乃ち德盛んにして自づから致せるのみ。

17
精義入神、事豫吾内、求利吾外也。利用安身、素利吾外、致養吾内也。窮神知化、乃養盛自致、非思勉之能强。故崇德而外、君子未或致知也。
【読み】
義を精しくして神に入るは、事吾が内に豫めして、吾が外を利せんことを求むるなり。用を利ろしくして身を安んずるは、素より吾が外を利して、吾が内を養うことを致すなり。神を窮め化を知るは、乃ち養うこと盛んにして自ら致り、思勉の能く强うるに非ず。故に德を崇ぶよりして外は、君子未だ知を致すこと或らざるなり。

18
神不可致思、存焉可也。化不可助長、順焉可也。存虛明、久至德、順變化、逹時中、仁之至、義之盡也。知微知彰、不舍而繼其善、然後可以成人性矣。
【読み】
神は思を致す可からず、焉を存して可なり。化は助長す可からず、焉に順って可なり。虛明を存し、至德に久しくし、變化に順って、時中に逹するは、仁の至りにして、義の盡くるなり。微かなるを知り彰らかなるを知り、舍まずして其の善を繼いで、然る後に以て人の性を成す可し。

19
聖不可知者、乃天德良能。立心求之、則不可得而知之。
【読み】
聖にして知る可からずとは、乃ち天德良能なり。心を立てて之を求むるとも、則ち得て之を知る可からず。

20
聖不可知謂神。莊生繆妄、又謂有神人焉。
【読み】
聖にして知る可からざるを神と謂う。莊生は繆妄にして、又神人なるもの有りと謂えり。

21
唯神爲能變化、以其一天下之動也。人能知變化之道、其必知神之爲也。
【読み】
唯神のみ能く變化すと爲すは、其の天下の動を一にするを以てなり。人能く變化の道を知れば、其れ必ず神の爲たるを知るなり。

22
見易、則神其幾矣。
【読み】
易を見れば、則ち神は其れ幾いかな。

23
知幾其神。由經正以貫之、則寧用終日、斷可識矣。幾者、象見而未形也。形則涉乎明。不待神而後知也。吉之先見云者、順性命、則所先皆吉也。
【読み】
幾を知るは其れ神なり。經正に由って以て之を貫くときは、則ち寧ぞ日を終うるを用いん、斷じて識る可し。幾とは、象見れて未だ形あらざるものなり。形あるときは則ち明に涉る。神を待ちて後に知るにはあらざるなり。吉の先づ見るると云う者は、性命に順えば、則ち先んずる所皆吉なるなり。

24
知神而後能饗帝饗親。見易而後能知神。是故不聞性與天道而能制禮作樂者、末矣。
【読み】
神を知り、而して後に能く帝を饗[まつ]り親を饗る。易を見て、而して後に能く神を知る。是の故に性と天道とを聞かずして能く禮を制し樂を作る者は、末[な]し。

25
精義入神、豫之至也。
【読み】
義を精しくして神に入るは、豫めするの至りなり。

26
徇物喪心、人化物而滅天理者乎。存神過化、忘物累而順性命者乎。
【読み】
物に徇[したが]いて心を喪うは、人、物に化せられて天理を滅ぼす者か。神を存して過ぐるところ化すは、物の累いを忘れて性命に順う者か。

27
敦厚而不化、有體而無用也。化而自失焉、徇物而喪己也。大德敦化、然後仁智一而聖人之事備。性性爲能存神、物物爲能過化。
【読み】
敦厚にして化せざるは、體有りて用無きなり。化せられて自ら失うは、物に徇いて己を喪えるなり。大德は化を敦くし、然る後に仁智一にして聖人の事備わる。性を性とするを能く神を存すと爲し、物を物とするを能く過ぐるところ化すと爲す。

28
無我然後得正己之盡、存神然後妙應物之感。範圍天地之化而不過、過則溺於空、淪於靜、旣不能存夫神、又不能知夫化矣。
【読み】
我無くして然る後に己を正すの盡くことを得、神を存して然る後に物に應ずるの感を妙にす。天地の化を範圍して過ごさしめずとは、過ぐるときは則ち空に溺れ、靜に淪[しづ]み、旣に夫の神を存すること能わずして、又夫の化を知ること能わざるなり。

29
旁行不流、圓神不倚也。百姓日用不知、溺於流也。
【読み】
旁く行われて流れざるは、圓神倚[かたよ]らざるなり。百姓日々に用いて知らざるは、流れに溺るるなり。

30
義以反經爲本。經正則精。仁以敦化爲深。化行則顯。義入神、動一靜也。仁敦化、靜一動也。仁敦化則無體、義入神則無方。
【読み】
義は經に反るを以て本と爲す。經正しきときは則ち精し。仁は化を敦くするを以て深きと爲す。化行わるるときは則ち顯らかなり。義の神に入るは、動も靜に一たるなり。仁化を敦くするは、靜も動に一たるなり。仁化を敦くすれば則ち體無く、義神に入れば則ち方無し。


動物篇

1
動物本諸天、以呼吸爲聚散之漸。植物本諸地、以陰陽升降爲聚散之漸。物之初生、氣日至而滋息。物生旣盈、氣日反而游散。至之謂神。以其伸也。反之爲鬼。以其歸也。
【読み】
動物は天に本づき、呼吸を以て聚散の漸を爲す。植物は地に本づき、陰陽升降を以て聚散の漸を爲す。物の初めて生ずるや、氣日々に至りて滋息す。物生じて旣に盈つるや、氣日々に反りて游散す。至る、之を神と謂う。其の伸ぶるを以てなり。反る、之を鬼と爲す。其の歸るを以てなり。

2
氣於人、生而不離、死而游散者謂魂、聚成形質、雖死而不散者謂魄。
【読み】
氣の人に於る、生けるときは而[すなわ]ち離れず、死すれば而ち游散する者を魂と謂い、聚まりて形質を成し、死すと雖も而も散ぜざる者を魄と謂う。

3
海水凝則氷、浮則漚。然氷之才、漚之性、其存其亡、海不得而與焉。推是足以究死生之說。
【読み】
海水凝れば則ち氷となり、浮かべば則ち漚[あわ]となる。然れども氷の才、漚の性、其の存其の亡、海は得て與[あずか]らず。是を推せば以て死生の說を究むるに足らん。

4
有息者根於天、不息者根於地。根於天者不滯於用、根於地者滯於方。此動植之分也。
【読み】
息有る者は天に根ざし、息せざる者は地に根ざす。天に根ざす者は用に滯らず、地に根ざす者は方に滯る。此れ動植の分なり。

5
生有先後、所以爲天序。小大高下相竝而相形焉、是謂天秩。天之生物也有序、物之旣形也有秩。知序然後經正、知秩然後禮行。
【読み】
生に先後有るは、天序爲る所以なり。小大高下相竝びて相形るる、是を天秩と謂う。天の物を生ずるや序有り、物の旣に形るるや秩有り。序を知りて然る後に經正しく、秩を知りて然る後に禮行わる。

6
凡物能相感者、鬼神施受之性也。不能感者、鬼神亦體之而化矣。
【読み】
凡そ物の能く相感ずる者は、鬼神施受の性なり。感ずること能わざる者も、鬼神は亦之を體して化するなり。

7
物無孤立之理。非同異・屈伸・終始以發明之、則雖物非物也。事有始卒乃成。非同異・有無相感、則不見其成。不見其成、則雖物非物。故曰、屈伸相感而利生焉。
【読み】
物に孤立の理無し。同異・屈伸・終始以て之を發明するに非ざれば、則ち物と雖も物に非ざるなり。事は始卒有りて乃ち成る。同異・有無相感ずるに非ざれば、則ち其の成るを見ず。其の成るを見ざれば、則ち物と雖も物に非ず。故に曰く、屈伸相感じて利生ず、と。

8
獨見獨聞、雖小異、怪也。出於疾與妄也。共見共聞、雖大異、誠也。出陰陽之正也。
【読み】
獨り見獨り聞けるものは、小異なりと雖も、怪なり。疾と妄とより出づればなり。共に見共に聞けるものは、大異なりと雖も、誠なり。陰陽の正より出づればなり。

9
賢才出、國將昌。子孫才、族將大。
【読み】
賢才出づるときは、國將に昌んならんとす。子孫才あるときは、族將に大ならんとす。

10
人之有息、蓋剛柔相摩、乾坤闔闢之象也。
【読み】
人の息有るは、蓋し剛柔相摩し、乾坤闔闢の象なり。

11
寤、形開而志交諸外也。夢、形閉而氣專乎内也。寤所以知新於耳目、夢所以緣舊於習心。醫謂、饑夢取、飽夢與。凡寤夢所感、專語氣於五藏之變、容有取焉爾。
【読み】
寤むるときは、形開けて志外に交わるなり。夢には、形閉ぢて氣内に專らなり。寤は新たなるを耳目に知る所以、夢は舊きを習心に緣る所以なり。醫に謂う、饑うれば取ることを夢み、飽けば與うることを夢みる、と。凡そ寤夢の感ずる所、專ら氣を五藏の變に語れるは、容[まさ]に取ること有るべきのみ。

12
聲者、形氣相軋而成。兩氣者、谷響雷聲之類。兩形者、桴皷叩擊之類。形軋氣、羽・扇・敲矢之類。氣軋形、人聲笙簧之類。是皆物感之良能、人皆習之而不察者爾。
【読み】
聲なる者は、形氣相軋りて成る。兩氣とは、谷響雷聲の類なり。兩形とは、桴[ばち]と皷と叩擊するの類なり。形の氣を軋るとは、羽・扇・敲矢の類なり。氣の形を軋るとは、人聲笙簧[しょうこう]の類なり。是れ皆物感の良能にして、人皆之に習れて察せざる者なるのみ。

13
形也、聲也、臭也、味也、溫凉也、動靜也、六者莫不有五行之別、同異之變。皆帝則之必察者與。
【読み】
形や、聲や、臭や、味や、溫凉や、動靜や、六者は五行の別、同異の變有らざるは莫し。皆帝則の必ず察すべき者なるか。


誠明篇

1
誠明所知、乃天德良知、非聞見小知而已。
【読み】
誠明の知る所は、乃ち天德の良知にして、聞見の小知に非ざるのみ。

2
天人異用、不足以言誠。天人異知、不足以盡明。所謂誠明者、性與天道、不見乎小大之別也。
【読み】
天と人と用を異にするときは、以て誠を言うに足らず。天と人と知を異にするときは、以て明を盡くすに足らず。所謂誠明なる者は、性と天道と、小大の別を見ざるなり。

3
義命合一存乎理、仁知合一存乎聖、動靜合一存乎神、陰陽合一存乎道、性與天道合一存乎誠。
【読み】
義と命との合一は理に存し、仁と知との合一は聖に存し、動と靜との合一は神に存し、陰と陽との合一は道に存し、性と天道との合一は誠に存す。

4
天所以長久不已之道、乃所謂誠。仁人孝子所以事天誠身、不過不已於仁孝而已。故君子誠之爲貴。
【読み】
天の長久にして已まざる所以の道は、乃ち所謂誠なり。仁人・孝子の天に事え身を誠にする所以は、仁孝に已まざるに過ぎざるのみ。故に君子は之を誠にするを貴しと爲す。

5
誠有是物、則有終有始。僞實不有、何終始之有。故曰、不誠無物。
【読み】
誠に是の物有れば、則ち終わり有り始め有り。僞りは實に有らず、何の終始か之れ有らん。故に曰く、誠ならざれば物無し、と。

6
自明誠、由窮理而盡性也。自誠明、由盡性而窮理也。
【読み】
明らかなる自りして誠なるとは、理を窮むるに由って性を盡くすなり。誠なる自りして明らかなるとは、性を盡くすに由って理を窮むるなり。

7
性者、萬物之一源、非有我之得私也。惟大人爲能盡其道。是故立必倶立、知必周知、愛必兼愛、成不獨成。彼自蔽塞而不知順吾理者、則亦末如之何矣。
【読み】
性とは、萬物の一源にして、我の私するを得ること有るに非ざるなり。惟大人のみ能く其の道を盡くすと爲す。是の故に立てば必ず倶に立ち、知れば必ず周く知り、愛すれば必ず兼ね愛し、成れば獨り成らず。彼の自ら蔽い塞がりて吾が理に順うを知らざる者は、則ち亦之を如何ともする末[な]きのみ。

8
天能爲性。人謀爲能。大人盡性、不以天能爲能而以人謀爲能。故曰天地設位、聖人成能。
【読み】
天能を性と爲す。人謀を能と爲す。大人は性を盡くし、天能を以て能と爲さずして人謀を以て能と爲す。故に曰く、天地位を設け、聖人能を成す、と。

9
盡性、然後知生無所得、則死無所喪。
【読み】
性を盡くして、然る後に生まれて得る所無ければ、則ち死も喪う所無きを知る。

10
未嘗無之謂體。體之謂性。
【読み】
未だ嘗て無ならざる、之を體と謂う。體、之を性と謂う。

11
天所性者通極於道、氣之昏明不足以蔽之。天所命者通極於性、遇之吉凶不足以戕之。不免乎蔽之戕之者、未之學也。性通乎氣之外、命行乎氣之内。氣無内外、假有形而言爾。故思知人不可不知天。盡其性然後能至於命。
【読み】
天の性とする所の者は道に通じ極まりて、氣の昏明も以て之を蔽うに足らず。天の命とする所の者は性に通じ極まりて、遇の吉凶も以て之を戕[そこ]なうに足らず。之を蔽い之を戕なうことを免れざる者は、未だ之を學ばざるなり。性は氣の外に通じ、命は氣の内に行わる。氣に内外無く、形有るに假りて言えるのみ。故に人を知らんと思わば天を知らざる可からず。其の性を盡くして然る後に能く命に至る。

12
知性知天、則陰陽鬼神皆吾分内爾。
【読み】
性を知り天を知れば、則ち陰陽鬼神も皆吾が分内のみ。

13
天性在人、正猶水性之在氷。凝釋雖異、爲物一也。受光有小大昏明、其照納不二也。
【読み】
天性の人に在るは、正に猶水性の氷に在るがごとし。凝れると釋けると異なりと雖も、物爲るは一なり。光を受くるに小大昏明有れども、其の照納は二ならざるなり。

14
天良能本吾良能。顧爲有我所喪耳。
【読み】
天の良能は本吾が良能なり。我有るが爲に喪わるる所を顧みんのみ。

15
上達反天理、下逹徇人欲者與。
【読み】
上達とは天理に反り、下逹とは人欲に徇う者か。

16
性、其總合兩也。命、其受有則也。不極總之要、則不至受之分。盡性窮理而不可變、乃吾則也。天所自不能已者謂命、不能無感者謂性。雖然、聖人猶不以所可憂而同其無憂者。有相之道存乎我也。
【読み】
性は、其れ總にして兩を合せるなり。命は、其れ受けたるものにして則有るなり。總の要を極めざれば、則ち受の分に至らず。性を盡くし理を窮めて變ず可からざるは、乃ち吾が則なり。天の自づから已む能わざる所の者を命と謂い、感無きこと能わざる者を性と謂う。然りと雖も、聖人は猶憂う可き所を以て其の憂い無き者と同じからず。相の道我に存する有ればなり。

17
湛一、氣之本。攻取、氣之欲。口腹於飮食、鼻舌於臭味、皆攻取之性也。知德者屬厭而已。不以嗜欲累其心、不以小害大、末喪本焉爾。
【読み】
湛一は、氣の本なり。攻取は、氣の欲なり。口腹の飮食に於る、鼻舌の臭味に於るは、皆攻取の性なり。德を知る者は屬厭するのみ。嗜欲を以て其の心を累わさず、小を以て大を害し、末、本を喪わざるのみ。

18
心能盡性、人能弘道也。性不知檢其心、非道弘人也。
【読み】
心能く性を盡くすは、人能く道を弘むるなり。性其の心を檢することを知らざるは、道人を弘むるに非ざるなり。

19
盡其性、能盡人物之性。至於命者、亦能至人物之命。莫不性諸道、命諸天。我體物未嘗遺、物體我知其不遺也。至於命、然後能成己成物、不失其道。
【読み】
其の性を盡くすは、能く人物の性を盡くすなり。命に至る者も、亦能く人物の命に至るなり。道を性とし、天を命とせざる莫し。我れ物に體して未だ嘗て遺さず、物我に體して其の遺さざるを知るなり。命に至り、然る後に能く己を成し物を成し、其の道を失わざるなり。

20
以生爲性、旣不通晝夜之道。且人與物等。故告子之妄、不可不詆。
【読み】
生を以て性と爲すは、旣に晝夜の道に通ぜず。且つ人と物と等し。故に告子の妄は、詆らざる可からず。

21
性於人無不善。繫其善反不善反而已。過天地之化、不善反者也。命於人無不正。繫其順與不順而已。行險以僥倖、不順命者也。
【読み】
性の人に於るや善ならざる無し。其の善く反ると善く反らざるとに繫かれるのみ。天地の化に過ぐるは、善く反らざる者なり。命の人に於るや正しからざる無し。其の順うと順わざるとに繫かれるのみ。險を行いて以て倖を僥[もと]むるは、命に順わざる者なり。

22
形而後有氣質之性。善反之則天地之性存焉。故氣質之性、君子有弗性者焉。
【読み】
形して後に氣質の性有り。善く之を反すときは則ち天地の性存す。故に氣質の性は、君子性とせざる者有り。

23
人之剛柔・緩急、有才與不才、氣之偏也。天本參和不偏。養其氣、反之本而不偏、則盡性而天矣。性未成則善惡混。故亹亹而繼善者、斯爲善矣。惡盡去則善因以亡。故舍曰善而曰成之者性。
【読み】
人の剛柔・緩急あり、才と不才と有るは、氣の偏りなり。天は本參和して偏らず。其の氣を養い、之が本に反して偏らざれば、則ち性を盡くして天なり。性未だ成らざれば則ち善惡混ず。故に亹亹[びび]として善を繼ぐ者は、斯に善爲り。惡盡く去るときは則ち善因りて以て亡ぶ。故に善と曰うを舍[や]めて之を成す者は性なりと曰う。

24
德不勝氣、性命於氣。德勝其氣、性命於德。窮理盡性、則性天德、命天理。氣之不可變者、獨死生修夭而已。故論死生則曰有命。以言其氣也。語富貴則曰在天。以言其理也。此大德所以必受命、易簡理得而成位乎天地之中也。所謂天理也者、能悅諸心、能通天下之志之理也。能使天下悅且通、則天下必歸焉。不歸焉者、所乘所遇之不同、如仲尼與繼世之君也。舜・禹有天下而不與焉者、正謂天理訓致、非氣稟當然、非志意所與也。必曰舜・禹云者、餘非乘勢則求焉者也。
【読み】
德、氣に勝たざれば、性命は氣に於てす。德、其の氣に勝たば、性命は德に於てす。理を窮め性を盡くすときは、則ち性は天德にして、命は天理なり。氣の變ず可からざる者は、獨り死生脩夭のみ。故に死生を論ずれば則ち命有りと曰う。以て其の氣を言うなり。富貴を語れば則ち天に在りと曰う。以て其の理を言うなり。此れ大德は必ず命を受け、易簡にして理得て位を天地の中に成す所以なり。所謂天理なる者は、能く諸を心に悅ばし、能く天下の志に通ずるの理なり。能く天下をして悅び且つ通ぜしむれば、則ち天下必ず焉に歸す。焉に歸せざる者は、乘ずる所遇う所同じからざるにて、仲尼と繼世の君との如きなり。舜・禹天下を有ちて與らずとは、正に天理の訓致せるにて、氣稟の當然に非ず、志意の與る所に非ざるを謂うなり。必ず曰いて舜・禹と云う者は、餘は勢に乘ずるに非ざれば則ち焉を求めたる者なればなり。

25
利者爲神、滯者爲物。是故風雷有象、不速於心。心禦見聞、不弘於性。
【読み】
利なる者を神と爲し、滯る者を物と爲す。是の故に風雷は象有り、心より速やかならず。心は見聞に禦[とど]まれば、性より弘からず。

26
上知下愚、習與性相遠旣甚而不可變者也。
【読み】
上知と下愚とは、習いと性と相遠きこと旣に甚だしくして變ず可からざる者なり。

27
纖惡必除、善斯成性矣。察惡未盡、雖善必粗矣。
【読み】
纖惡も必ず除けば、善斯に性を成す。惡を察すること未だ盡くさざれば、善と雖も必ず粗し。

28
不識不知、順帝之則、有思慮知識、則喪其天矣。君子所性、與天地同流、異行而已焉。
【読み】
識らず知らず、帝の則に順うとは、思慮知識有れば、則ち其の天を喪うなり。君子の性とする所は、天地と流を同じくし、行を異にするのみ。

29
在帝左右、察天理而左右也。天理者、時義而已。君子敎人、舉天理以示之而已。其行己也、述天理而時措之也。
【読み】
帝の左右に在すとは、天理を察して左右するなり。天理とは、時義のみ。君子の人を敎うるに、天理を舉げて以て之を示すのみ。其の己を行うや、天理を述べて時に之を措くなり。

30
和樂、道之端乎。和則可大、樂則可久。天地之性、久大而已矣。
【読み】
和樂は、道の端か。和すれば則ち大なる可く、樂しめば則ち久しかる可し。天地の性、久大なるのみ。

31
莫非天也。陽明勝則德性用、陰濁勝則物欲行。領惡而全好者、其必由學乎。
【読み】
天に非ざるは莫きなり。陽明勝つときは則ち德性用いられ、陰濁勝つときは則ち物欲行わる。惡を領[おさ]めて好を全うする者は、其れ必ず學に由るか。

32
不誠不莊、可謂之盡性窮理乎。性之德也未嘗僞且慢。故知不免乎僞慢者、未嘗知其性也。
【読み】
誠ならず莊かならざれば、之を性を盡くし理を窮むと謂う可けんや。性の德や未だ嘗て僞且つ慢ならず。故に僞慢なるに免れざる者は、未だ嘗て其の性を知らざることを知るなり。

33
勉而後誠莊、非性也。不勉而誠莊、所謂不言而信、不怒而威者與。
【読み】
勉めて後に誠莊なるは、性に非ざるなり。勉めずして誠莊なるは、所謂言わずして信あり、怒らずして威ある者か。

34
生直理順、則吉凶莫非正也。不直其生者、非幸福於囘、則免難於苟也。
【読み】
生直く理順なれば、則ち吉凶も正に非ざる莫きなり。其の生を直しくせざる者は、福を囘[よこしま]なるに幸[のぞ]むに非ざれば、則ち難を苟[かりそめ]に免るるなり。

35
屈伸相感而利生、感以誠也。情僞相感而利害生、雜之僞也。至誠則順理而利、僞則不循理而害。順性命之理、則所謂吉凶、莫非正也。逆理則凶爲自取、吉其險幸也。
【読み】
屈伸相感じて利生ずるは、感ずるに誠を以てすればなり。情僞相感じて利害生ずるは、之に僞を雜えればなり。至誠なれば則ち理に順って利あり、僞なれば則ち理に循わずして害あり。性命の理に順えば、則ち所謂吉凶も、正に非ざる莫きなり。理に逆えば則ち凶は自ら取れりと爲し、吉は其れ險幸なり。

36
莫非命也。順受其正。順性命之理、則得性命之正。滅理窮欲、人爲之招也。
【読み】
命に非ざる莫きなり。順って其の正しきを受く。性命の理に順えば、則ち性命の正を得。理を滅ぼし欲を窮むるは、人爲の招きなり。


大心篇

1
大其心、則能體天下之物。物有未體、則心爲有外。世人之心、止於聞見之狹。聖人盡性、不以見聞梏其心。其視天下、無一物非我。孟子謂盡心則知性知天以此。天大無外。故有外心、不足以合天心。見聞之知、乃物交而知、非德性所知。德性所知、不萠於見聞。
【読み】
其の心を大にするときは、則ち能く天下の物に體す。物未だ體せざる有るときは、則ち心に外有りと爲す。世人の心は、聞見の狹きに止まる。聖人は性を盡くして、見聞を以て其の心を梏[しば]らず。其の天下を視ること、一物として我に非ざるは無し。孟子の心を盡くすときは則ち性を知り天を知ると謂えるも此を以てなり。天は大にして外無し。故に外有るの心は、以て天心に合するに足らず。見聞の知は、乃ち物交わりて知り、德性の知る所に非ず。德性の知る所は、見聞に萠さず。

2
由象識心、徇象喪心。知象者心、存象之心、亦象而已。謂之心、可乎。
【読み】
象に由って心を識るも、象に徇えば心を喪う。象を知る者は心なるも、象を心に存するは、亦象なるのみ。之を心と謂いて、可ならんや。

3
人謂己有知、由耳目有受也。人之有受、由内外之合也。知合内外於耳目之外、則其知也過人遠矣。
【読み】
人の己知有りと謂えるは、耳目受くること有るに由れるなり。人の受くること有るは、内外の合えるに由るなり。内外を耳目の外に合することを知るときは、則ち其の知や人に過ぐること遠いかな。

4
天之明莫大於日。故有目接之、不知其幾萬里之高也。天之聲莫大於雷霆。故有耳屬之、莫知其幾萬里之遠也。天之不禦莫大於太虛。故心知廓之、莫究其極也。人病其以耳目見聞累其心、而不務盡其心。故思盡其心者、必知心所從來而後能。
【読み】
天の明は日より大なるは莫し。故に目之に接すること有るも、其の幾萬里の高きを知らざるなり。天の聲は雷霆より大なるは莫し。故に耳之に屬くこと有るも、其の幾萬里の遠きを知る莫きなり。天の禦がざるは太虛より大なるは莫し。故に心知之を廓[ひら]くも、其の極を究むること莫きなり。人の病は其れ耳目の見聞を以て其の心を累わして、其の心を盡くすことを務めざるにあり。故に其の心を盡くさんと思う者は、必ず心の從り來る所を知りて而して後に能くす。

5
耳目雖爲性累、然合内外之德。知其爲啓之之要也。
【読み】
耳目は性の累い爲りと雖も、然れども内外の德を合す。其の之を啓[ひら]くの要爲ることを知るなり。

6
成吾身者、天之神也。不知以性成身、而自謂因身發智、貪天功爲己力、吾不知其知也。民何知哉。因物同異相形、萬變相感、耳目内外之合、貪天功而自謂己知爾。
【読み】
吾が身を成す者は、天の神なり。性を以て身を成すことを知らずして、自ら身に因って智を發せりと謂うは、天功を貪りて己が力と爲し、吾れ其の知たるを知らざるなり。民は何をか知らんや。物の同異相形れ、萬變相感じ、耳目に内外の合するに因り、天功を貪りて自ら己知れりと謂えるのみ。

7
體物體身、道之本也。身而體道、其爲人也大矣。道能物身、故大。不能物身而累於身、則藐乎其卑矣。
【読み】
物に體たり身に體たるは、道の本なり。身にして道を體とするときは、其の爲人や大なり。道は能く身を物とするが故に大なり。身を物とすること能わずして身に累わさるるときは、則ち藐なるかな其の卑しきこと。

8
能以天體身、則能體物也不疑。
【読み】
能く天を以て身に體するときは、則ち能く物に體するや疑われず。

9
成心忘、然後可與進於道。
【読み】
成心忘れて、然る後に與に道に進む可し。

10
化則無成心矣。成心者意之謂與。
【読み】
化すときは則ち成心無し。成心なる者は意の謂か。

11
無成心者、時中而已矣。
【読み】
成心無き者は、時に中するのみ。

12
心存、無盡性之理。故聖不可知謂神。
【読み】
心存するときは、性を盡くすの理無し。故に聖にして知る可からざるを神と謂う。

13
以我視物則我大。以道體物我則道大。故君子之大也大於道。大於我者、容不免狂而已。
【読み】
我を以て物を視るときは則ち我れ大なり。道を以て物我に體するときは則ち道大なり。故に君子の大なるや道に大なるなり。我に大なる者は、容に狂たるを免れざるべきのみ。

14
燭天理如向明、萬象無所隱。窮人欲如專顧影閒、區區於一物之中爾。
【読み】
天理を燭せば明に向かうが如く、萬象隱るる所無し。人欲を窮むれば專ら影閒を顧みるが如く、一物の中に區區とするのみ。

15
釋氏不知天命、而以心法起滅天地、以小緣大、以末緣本。其不能窮而謂之幻妄。眞所謂疑氷者與。
【読み】
釋氏は天命を知らずして、心法を以て天地を起滅し、小を以て大に緣せ、末を以て本に緣す。其の窮むること能わざるときは而[すなわ]ち之を幻妄と謂う。眞に所謂氷を疑う者か。

16
釋氏妄意天性、而不知範圍天用、反以六根之微因緣天地。明不能盡、則誣天地日月爲幻妄、蔽其用於一身之小、溺其志於虛空之大。此所以語大語小、流遁失中。其過於大也、塵芥六合。其蔽於小也、夢幻人世。謂之窮理、可乎。不知窮理而謂盡性、可乎。謂之無不知、可乎。塵芥六合、謂天地爲有窮也。夢幻人世、明不能究所從也。
【読み】
釋氏は天性を妄意して、天用を範圍するを知らず、反って六根の微を以て天地を因緣す。明盡くすこと能わざるときは、則ち天地日月を誣いて幻妄と爲し、其の用を一身の小なるに蔽い、其の志を虛空の大なるに溺らす。此れ大を語り小を語り、流遁して中を失う所以なり。其の大に過ぐるや、六合を塵芥とす。其の小に蔽うや、人世を夢幻とす。之を理を窮むと謂いて、可ならんや。理を窮むを知らずして性を盡くすと謂いて、可ならんや。之を知らざる無しと謂いて、可ならんや。六合を塵芥とするは、天地を謂いて窮まり有りと爲せばなり。人世を夢幻とするは、明從る所を究むる能わざればなり。


中正篇

1
中正然後貫天下之道。此君子之所以大居正也。蓋得正則得所止、得所止則可以弘而致於大。樂正子・顏淵、知欲仁矣。樂正子不致其學、足以爲善人信人。志於仁、無惡而已。顏子好學不倦、合仁與知、具體聖人、獨未至聖人之止爾。
【読み】
中正にして然る後に天下の道を貫く。此れ君子の大にして正しきに居る所以なり。蓋し正を得るときは則ち止まる所を得、止まる所を得るときは則ち以て弘めて大に致る可し。樂正子・顏淵は、仁を欲するを知れり。樂正子は其の學を致めざるも、以て善人信人爲るに足れり。仁に志せば、惡無きのみ。顏子は學を好みて倦まず、仁と知とを合わせ、體を聖人に具うるも、獨未だ聖人の止まりに至らざるのみ。

2
學者中道而立、則有位以弘之。無中道而弘、則窮大而失其居。失其居則無地以崇其德、與不及者同。此顏子所以克己研幾、必欲用其極也。未至聖而不已。故仲尼賢其進。未得中而不居。故惜夫未見其止也。
【読み】
學者中道にして立つときは、則ち位以て之を弘むる有り。中道にして弘むる無きときは、則ち大を窮めて其の居を失う。其の居を失うときは則ち地以て其の德を崇ぶ無く、及ばざる者と同じ。此れ顏子の己に克ちて幾を研[きわ]めて、必ず其の極を用いんと欲する所以なり。未だ聖に至らざれば而ち已まず。故に仲尼其の進むを賢とす。未だ中を得ずして居らず。故に夫の未だ其の止まるを見ざるを惜しめるなり。

3
大中至正之極、文必能致其用、約必能感其通。未至於此、其視聖人、恍惚前後、不可爲像。此顏子之歎乎。
【読み】
大中至正の極は、文なれば必ず能く其の用を致し、約なれば必ず能く其の通ずるを感ず。未だ此に至らざれば、其の聖人を視るに、前後に恍惚として、像を爲す可からず。此れ顏子の歎か。

4
可欲之謂善。志仁則無惡也。誠善於心之謂信。充内形外之謂美。塞乎天地之謂大。大能成性之謂聖。天地同流、陰陽不測之謂神。
【読み】
欲す可き、之を善と謂う。仁に志せば則ち惡無ければなり。誠に心に善なる、之を信と謂う。内に充ちて外に形る、之を美と謂う。天地に塞がる、之を大と謂う。大能く性を成す、之を聖と謂う。天地と流を同じくし、陰陽測られざる、之を神と謂う。

5
高明不可窮、博厚不可極、則中道不可識。蓋顏子之歎也。
【読み】
高明にして窮む可からず、博厚にして極む可からざれば、則ち中道にして識る可からず。蓋し顏子の歎ぜしところなり。

6
君子之道、成身成性以爲功者也。未至於聖、皆行而未成之地爾。
【読み】
君子の道は、身を成し性を成して以て功と爲す者なり。未だ聖に至らざるは、皆行いて未だ成らざるの地なるのみ。

7
大而未化、未能有其大。化而後能有其大。
【読み】
大にして未だ化せざるときは、未だ其の大を有つこと能わず。化して後に能く其の大を有つなり。

8
知德以大中爲極、可謂知至矣。擇中庸而固執之、乃至之之漸也。惟知學然後能勉、能勉然後日進而不息可期矣。
【読み】
德は大中を以て極と爲すことを知るは、至[きわみ]を知ると謂う可し。中庸を擇びて固く之を執るは、乃ち之に至るの漸なり。惟學ぶことを知り然る後に能く勉め、能く勉めて然る後に日々に進んで息まざるを期す可きのみ。

9
體正則不待矯而弘。未正必矯、矯而得中、然後可大。故致曲於誠者、必變而後化。
【読み】
體正しければ則ち矯むるを待たずして弘し。未だ正しからざれば必ず矯め、矯めて中を得、然る後に大なる可し。故に曲を誠に致す者は、必ず變じて後に化す。

10
極其大而後中可求、止其中而後大可有。
【読み】
其の大を極めて後に中求む可く、其の中に止まりて後に大有つ可し。

11
大亦聖之任。雖非淸和一體之偏、猶未忘於勉而大爾。若聖人、則性與天道無所勉焉。
【読み】
大も亦聖の任なり。淸和一體の偏に非ずと雖も、猶未だ勉むることを忘れずして大なるのみ。聖人の若きは、則ち性と天道とのままにして勉むる所無し。

12
無所雜者淸之極。無所異者和之極。勉而淸、非聖人之淸。勉而和、非聖人之和。所謂聖者、不勉不思而至焉者也。
【読み】
雜じる所無き者は淸の極なり。異なる所無き者は和の極なり。勉めて淸きは、聖人の淸に非ず。勉めて和するは、聖人の和に非ず。所謂聖なる者は、勉めず思わずして焉に至る者なり。

13
勉、蓋未能安也。思、蓋未能有也。
【読み】
勉むるは、蓋し未だ安んずること能わざるなり。思うは、蓋し未だ有すること能わざるなり。

14
不尊德性、則學問從而不道。不致廣大、則精微無所立其誠。不極高明、則擇乎中庸、失時措之宜矣。
【読み】
德性を尊ばざるときは、則ち學問も從って道[よ]らず。廣大を致めざるときは、則ち精微も其の誠を立つる所無し。高明を極めざるときは、則ち中庸を擇ぶも、時に措くの宜しきを失う。

15
絕四之外、心可存處、蓋必有事焉。而聖不可知也。
【読み】
四つを絕つの外、心の存す可き處は、蓋し必ず事とすること有らん。而も聖にして知る可からざるなり。

16
不得已、當爲而爲之、雖殺人、皆義也。有心爲之、雖善、皆意也。正己而物正、大人也。正己而正物、猶不免有意之累也。有意爲善、利之也。假之也。無意爲善、性之也。由之也。有意在善、且爲未盡、況有意於未善耶。仲尼絕四、自始學至成德、竭兩端之敎也。
【読み】
已むことを得ず、當に爲すべくして之を爲さば、人を殺すと雖も、皆義なり。心有りて之を爲さば、善なりと雖も、皆意なり。己を正して物正しきは、大人なり。己を正して物を正すは、猶意有るの累いを免れざるなり。意有りて善を爲すは、之を利するなり。之を假るなり。意無くして善を爲すは、之を性とするなり。之に由るなり。意有りて善に在るすら、且つ未だ盡くさずと爲すに、況んや未だ善からざるに意有るをや。仲尼の四つを絕つは、始學自り成德に至るまで、兩端を竭くすの敎なり。

17
不得已而後爲、至於不得爲而止、斯智矣夫。
【読み】
已むことを得ずして後に爲し、爲すことを得ざるに至って止まば、斯れ智なるかな。

18
意、有思也。必、有待也。固、不化也。我、有方也。四者有一焉、則與天地爲不相似。
【読み】
意は、思うこと有るなり。必は、待つこと有るなり。固は、化せざるなり。我は、方有るなり。四つの者一つも有るときは、則ち天地と相似ずと爲す。

19
天理一貫、則無意・必・固・我之鑿。意・必・固・我一物存焉、非誠也。四者盡去、則直養而無害矣。
【読み】
天理一貫なるときは、則ち意・必・固・我の鑿無し。意・必・固・我の一物も存するときは、誠に非ざるなり。四つの者盡く去るときは、則ち直ちに養いて害無し。

20
妄去然後得所止、得所止然後得所養而進於大矣。
【読み】
妄去りて然る後に止まる所を得、止まる所を得て然る後に養う所を得て大に進むなり。

21
無所感而起、妄也。感而通、誠也。計度而知、昏也。不思而得、素也。
【読み】
感ずる所無くして起こるは、妄なり。感じて通ずるは、誠なり。計度して知るは、昏なり。思わずして得るは、素なり。

22
事豫則立、必有敎以先之。盡敎之善、必精義以研之。精義入神、然後立斯立、動斯和矣。
【読み】
事豫めすれば則ち立つは、必ず敎有りて以て之に先んずればなり。敎の善を盡くすは、必ず義を精しくして以て之を研[きわ]めればなり。義を精しくして神に入り、然る後に立てば斯に立ち、動けば斯に和するなり。

23
志道則進、據者不止矣。依仁則小者可游而不失和矣。
【読み】
道を志せば則ち進み、據る者止まらず。仁に依るときは則ち小者游ぶ可くして和を失わず。

24
志學然後可與適道、强禮然後可與立、不惑然後可與權。
【読み】
學に志して然る後に與に道に適く可く、禮に强[つと]めて然る後に與に立つ可く、惑わずして然る後に與に權る可し。

25
博文以集義、集義以正經、正經然後一以貫天下之道。
【読み】
文を博めて以て義を集め、義を集めて以て經を正し、經を正して然る後に一以て天下の道を貫く。

26
將窮理而不順理、將精義而不徙義、欲資深且習察、吾不知其智也。
【読み】
將に理を窮めんとして理に順わず、將に義を精しくせんとして義に徙らず、資[と]ること深くして且つ習いて察らかならんと欲するも、吾は其の智なるを知らざるなり。

27
知・仁・勇天下之達德。雖本之有差、及所以知之成之則一也。蓋謂仁者以生知、以安行此五者、智者以學知、以利行此五者、勇者以困知、以勉行此五者。
【読み】
知・仁・勇は天下の達德なり。之を本づくれば差有りと雖も、之を知り之を成す所以に及んでは則ち一なり。蓋し謂えらく、仁者は以て生まれながらにして知り、以て此の五者を安んじ行い、智者は以て學びて知り、以て此の五者を利して行い、勇者は以て困しみて知り、以て此の五者を勉めて行うなり。

28
中心安仁、無欲而好仁、無畏而惡不仁、天下一人而已。惟責己一身當然爾。
【読み】
中心より仁に安んじ、欲すること無くして仁を好み、畏るること無くして不仁を惡むは、天下に一人のみ。惟己が一身を責めて當に然るべきのみ。

29
行之篤者、敦篤云乎哉。如天道不已而然、篤之至也。
【読み】
之を行いて篤き者は、敦篤と云わんかな。天道已まざるが如くにして然るは、篤きの至りなり。

30
君子於天下、達善達不善、無物我之私。循理者共悅之、不循理者共改之。改之者、過雖在人如在己、不忘自訟。共悅者、善雖在己、蓋取諸人而爲、必以與人焉。善以天下、不善以天下。是謂達善達不善。
【読み】
君子の天下に於るや、善を達し不善を達し、物我の私無し。理に循う者あれば共に之を悅び、理に循わざる者あれば共に之を改む。之を改むとは、過人に在りと雖も己に在るが如くし、自ら訟[せ]むることを忘れざるなり。共に悅ぶとは、善己に在りと雖も、蓋し諸を人に取りて爲し、必ず以て人と與にするなり。善も天下を以てし、不善も天下を以てす。是を善を達し不善を達すと謂う。

31
善人云者、志於仁而未致其學、能無惡而已。君子名之必可言也如是。
【読み】
善人と云う者は、仁に志して未だ其の學を致めず、能く惡無きのみ。君子之を名づくるときは必ず言う可しとは是の如し。

32
善人、欲仁而未致其學者也。欲仁。故雖不踐成法、亦不陷於惡。有諸己也。不入於室由不學。故無自而入聖人之室也。
【読み】
善人とは、仁を欲して未だ其の學を致めざる者なり。仁を欲す。故に成法を踐まずと雖も、亦惡に陷らず。諸を己に有すればなり。室に入らざるは學ばざるに由る。故に自って聖人の室に入ること無きなり。

33
惡不仁。故不善未嘗不知。徒好仁而不惡不仁、則習不察、行不著。是故徒善未必盡義、徒是未必盡仁。好仁而惡不仁、然後盡仁義之道。
【読み】
不仁を惡む。故に不善は未だ嘗て知らずんばあらず。徒[いたづら]に仁を好むのみにして不仁を惡まざるときは、則ち習いて察らかならず、行いて著れず。是の故に徒善は未だ必ずしも義を盡くさず、徒是は未だ必ずしも仁を盡くさず。仁を好みて不仁を惡み、然る後に仁義の道を盡くすなり。

34
篤信好學。篤信不好學、不越爲善人信士而已。好德如好色、好仁爲甚矣。見過而内自訟、惡不仁而不使加乎其身、惡不仁爲甚矣。學者不如是不足以成身。故孔子未見其人、必嘆曰已矣乎。思之甚也。
【読み】
篤く信じて學を好む。篤く信じて學を好まざれば、善人信士爲るを越[す]ぎざるのみ。德を好むこと色を好むが如きは、仁を好むこと甚だしと爲す。過を見て内に自ら訟[せ]め、不仁を惡んで其の身に加えしめざれば、不仁を惡むこと甚だしと爲す。學者是の如きにあらざれば以て身を成すに足らず。故に孔子未だ其の人を見ずして、必ず嘆いて已みなんかなと曰えり。之を思うこと甚だしきなり。

35
孫其志於仁則得仁、孫其志於義則得義。惟其敏而已。
【読み】
其の志を仁に孫[したが]わしめば則ち仁を得、其の志を義に孫わしめば則ち義を得。惟其の敏なるのみ。

36
博文約禮、由至著入至簡。故可使不得叛而去。溫故知新、多識前言往行以畜德、繹舊業而知新益、思昔未至而今至、緣舊所見聞而察來、皆其義也。
【読み】
文を博めて禮に約[つづ]めば、至著なる由りして至簡なるに入る。故に叛いて去ることを得ざらしむ可し。故きを溫ね新しきを知り、多く前言往行を識って以て德を畜い、舊業を繹[たづ]ねて新益を知り、昔の未だ至らざりしを思いて今至り、舊の見聞せる所に緣りて來を察するは、皆其の義なり。

37
責己者當知天下國家無皆非之理。故學至於不尤人、學之至也。
【読み】
己を責むる者は當に天下國家に皆非なるの理無きを知るべし。故に學んで人を尤めざるに至れば、學の至りなり。

38
聞而不疑則傳言之、見而不殆則學行之、中人之德也。聞斯行、好學之徒也。見而識其善而未果於行、愈於不知者爾。世有不知而作者、蓋鑿也、妄也。夫子所不敢也。故曰我無是也。
【読み】
聞いて疑わざるときは則ち之を傳え言い、見て殆[あや]ぶまざるときは則ち之を學び行うは、中人の德なり。聞くままに斯に行うは、學を好むの徒なり。見て其の善たるを識りて未だ行を果たさざるは、知らざるより愈[まさ]れる者なるのみ。世に知らずして作す者有るは、蓋し鑿なり、妄なり。夫子敢えてせざる所なり。故に曰く、我れ是れ無し、と。

39
以能問不能、以多問寡、私淑艾以敎人、隱而未見之仁也。
【読み】
能を以て不能に問い、多を以て寡に問い、私[ひそ]かに淑艾[しゅくがい]して以て人に敎ゆるは、隱れて未だ見れざるの仁なり。

40
爲山平地、此仲尼所以惜顏囘未至、蓋與互郷之進也。
【読み】
山を爲り地を平らかにするは、此れ仲尼の顏囘の未だ至らざるを惜しむ所以にして、蓋し互郷の進むを與[ゆる]せるものなり。

41
學者四失。爲人則失多、好高則失寡、不察則易、苦難則止。
【読み】
學ぶ者に四失あり。人の爲にするときは則ち多きに失し、高きを好むときは則ち寡きに失し、察らかならざるときは則ち易[あなど]り、難きに苦しむときは則ち止む。

42
學者捨禮義、則飽食終日、無所猷爲、與下民一致、所事不踰衣食之閒、燕游之樂爾。
【読み】
學ぶ者禮義を捨つるときは、則ち飽食して日を終え、猷[はか]り爲す所無く、下民と致[むね]を一にし、事とする所も衣食の閒、燕遊の樂しみを踰えざるのみ。

43
以心求道、正猶以己知人、終不若彼自立彼爲不思而得也。
【読み】
心を以て道を求むるは、正に猶己を以て人を知らんとするがごとく、終に彼の自づから立ち、彼の思わずして得ることを爲すに若かざるなり。

44
考求迹合以免罪戾者、畏罪之人也。故曰考道以爲無失。
【読み】
迹の合わんことのみを考え求めて以て罪戾を免るる者は、罪を畏るるの人なるのみ。故に曰く、考道は以て失無しと爲すのみ、と。

45
儒者窮理。故率性可以謂之道。浮圖不知窮理而自謂之性。故其說不可推而行。
【読み】
儒者は理を窮む。故に性に率う、以て之を道と謂う可し。浮圖は理を窮むることを知らずして自ら之を性と謂う。故に其の說は推して行う可からざるなり。

46
致曲不貳、則德有定體。體象誠定、則文節著見。一曲致文、則餘善兼照。明能兼照、則必將徙義。誠能徙義、則德自通變。能通其變、則圓神無滯。
【読み】
曲を致して貳ならざるときは、則ち德に定體有り。體象誠に定まるときは、則ち文節著見す。一曲文を致すときは、則ち餘善も兼ね照らす。明能く兼ね照らすときは、則ち必ず將に義に徙らんとす。誠能く義に徙るときは、則ち德自づから變に通ず。能く其の變に通ずるときは、則ち圓神にして滯ること無し。

47
有不知則有知、無不知則無知。是以鄙夫有問、仲尼竭兩端而空空。易無思無爲、受命乃如響。聖人一言盡天下之道、雖鄙夫有問、必竭兩端而告之。然問者隨才分各足、未必能兩端之盡也。
【読み】
知らざること有れば則ち知ること有り、知らざること無ければ則ち知ること無し。是を以て鄙夫問うこと有れば、仲尼兩端を竭くして空空たり。易は思うこと無く爲すこと無く、命を受くれば乃ち響きの如し。聖人は一言にして天下の道を盡くすに、鄙夫と雖も問うこと有れば、必ず兩端を竭くして之に告ぐ。然れども問う者は才分に隨いて各々足るのみにして、未だ必ずしも兩端を之れ盡くすこと能わざるなり。

48
敎人者必知至學之難易、知人之美惡、當知誰可先傳此、誰將後倦此。若灑掃應對、乃幼而孫弟之事、長後敎之、人必倦弊。惟聖人於大德有始有卒。故事無大小、莫不處極。今始學之人、未必能繼、妄以大德敎之、是誣也。
【読み】
人に敎ゆる者は必ず學に至るの難易を知り、人の美惡を知って、當に誰に先づ此を傳う可きか、誰が將に後れて此に倦まんとするかを知るべし。灑掃應對の若きは、乃ち幼くして孫弟の事なれば、長じて後に之を敎えば、人必ず倦み弊[つか]れん。惟聖人の大德に於るや始め有り卒わり有り。故に事大小と無く、極に處せざるは莫し。今始めて學ぶの人、未だ必ずしも繼ぐこと能わざるに、妄りに大德を以て之に敎えば、是れ誣くなり。

49
知至學之難易、知德也。知其美惡、知人也。知其人且知德。故能敎人使入德。仲尼所以問同而答異、以此。
【読み】
學に至るの難易を知るは、德を知るなり。其の美惡を知るは、人を知るなり。其の人を知り且つ德を知る。故に能く人に敎えて德に入らしむ。仲尼問うこと同じくして而も答うること異なる所以は、此を以てなり。

50
蒙以養正、使蒙者不失其正、敎人者之功也。盡其道、其惟聖人乎。
【読み】
蒙以て正を養うとは、蒙[くら]き者をして其の正を失わざらしむるにて、人を敎ゆる者の功なり。其の道を盡くすは、其れ惟聖人のみか。

51
洪鐘未嘗有聲、由扣乃有聲。聖人未嘗有知、由問乃有知。有如時雨之化者、當其可、乘其閒而施之、不待彼有求有爲而後敎之也。
【読み】
洪鐘は未だ嘗て聲有らず、扣[たた]くに由りて乃ち聲有り。聖人未だ嘗て知ること有らず、問うに由りて乃ち知ること有り。時雨の化するが如き者有りとは、其の可なるに當たり、其の閒に乘じて之を施すにて、彼の求むること有り爲すこと有るを待ちて後に之を敎ゆるにはあらざるなり。

52
志常繼則罕譬而喩、言易入則微而臧。
【読み】
志常に繼がるるときは則ち譬え罕[まれ]にして喩[さと]り、言入り易きときは則ち微かにして臧[よ]し。

53
凡學、官先事、士先志、謂有官者先敎之事、未官者使正其志焉。志者、敎之大倫而言也。
【読み】
凡そ學は、官には事を先にし、士には志を先にすとは、官に有る者には先づ之に事を敎え、未だ官せざる者には其の志を正さしむるを謂えるなり。志とは、之に大倫を敎ゆるをもて言えるなり。

54
道以德者、運於物外使自化也。故諭人者、先其意而孫其志可也。蓋志意兩言、則志公而意私爾。
【読み】
道[みちび]くに德を以てする者は、物外に運りて自づから化せしむるなり。故に人を諭す者は、其の意を先にして其の志に孫[したが]わしめば可なり。蓋し志意兩つながら言うときは、則ち志は公にして意は私なるのみ。

55
能使不仁者仁、仁之施厚矣。故聖人幷答仁智以舉直錯諸枉。
【読み】
能く不仁なる者をして仁とならしむるは、仁の施しの厚きなり。故に聖人仁智に幷せ答えるに直きを舉げて諸を枉れるに錯[お]くを以てせり。

56
以責人之心責己則盡道。所謂君子之道四、丘未能一焉者也。以愛己之心愛人則盡仁。所謂施諸己而不願亦勿施於人者也。以衆人望人則易從。所謂以人治人改而止者也。此君子所以責己・責人・愛人之三術也。
【読み】
人を責むるの心を以て己を責むれば則ち道を盡くす。所謂君子の道四、丘は未だ一つだにあること能わざる者なり。己を愛するの心を以て人を愛すれば則ち仁を盡くす。所謂諸を己に施して願わざれば亦人に施すこと勿かれなる者なり。衆人を以て人に望めば則ち從い易し。所謂人を以て人を治め、改むれば而[すなわ]ち止む者なり。此れ君子の己を責め人を責め人を愛する所以の三術なり。

57
有受敎之心、雖蠻貊可敎。爲道旣異、雖黨類難相爲謀。
【読み】
敎を受くるの心有れば、蠻貊と雖も敎ゆ可し。道を爲すこと旣に異なれば、黨類と雖も相爲に謀り難し。

58
大人所存、蓋必以天下爲度。故孟子敎人、雖貨色之欲、親長之私、達諸天下而後已。
【読み】
大人の存する所は、蓋し必ず天下を以て度と爲す。故に孟子人を敎ゆるや、貨色の欲、親長の私と雖も、諸を天下に達して後に已む。

59
子而孚化之、衆好者翼飛之、則吾道行矣。
【読み】
子として之を孚化[ふか]し、衆の好き者は之を翼飛せしむるときは、則ち吾が道行われん。



至當篇

1
至當之謂德、百順之謂福。德者福之基、福者德之致。無入而非百順。故君子樂得其道。
【読み】
至當する之を德と謂い、百順する之を福と謂う。德は福の基づくところにして、福は德の致せるものなり。入るとして百順に非ざるは無し。故に君子は其の道を得ることを樂しむ。

2
循天下之理之謂道、得天下之理之謂德。故曰易簡之善配至德。
【読み】
天下の理に循う之を道と謂い、天下の理を得る之を德と謂う。故に曰く、易簡の善は至德に配す、と。

3
大德敦化、仁智合一、厚且化也。小德川流、淵泉時出之也。
【読み】
大德の敦化するは、仁智合一し、厚くして且つ化するなり。小德の川流するは、淵泉時に之を出だすなり。

4
大德不踰閑、小德出入可也。大者器則小者不器矣。
【読み】
大德閑[のり]を踰えずんば、小德出入すとも可なり。大なる者器なれば則ち小なる者は器ならず。

5
德者、得也。凡有性質而可有者也。
【読み】
德は、得なり。凡そ性質有れば而[すなわ]ち有る可き者なり。

6
日新之謂盛德、過而不有、不凝滯於心知之細也。
【読み】
日新之を盛德と謂うとは、過つも有たず、心に凝滯せずして知の細かきものなり。

7
浩然無害、則天地合德。照無偏繫、則日月合明。天地同流、則四時合序。酬酢不倚、則鬼神合吉凶。天地合德、日月合明、然後能無方體。能無方體、然後能無我。
【読み】
浩然として害すること無きときは、則ち天地と德を合す。照らして偏繫すること無きときは、則ち日月と明を合す。天地と流を同じくするときは、則ち四時と序を合す。酬酢するに倚らざるときは、則ち鬼神と吉凶を合す。天地と德を合し、日月と明を合して、然る後に能く方體無し。能く方體無くして、然る後に能く我無し。

8
禮器則藏諸身、用無不利。禮運云者、語其達也。禮器云者、語其成也。達與成、體與用之道。合體與用、大人之事備矣。禮器不泥於小者、則無非禮之禮、非義之義。蓋大者器、則出入小者、莫非時中也。子夏謂大德不踰閑、小德出入可也、斯之謂爾。
【読み】
禮器なれば則ち諸を身に藏して、用利ろしからざる無し。禮運と云う者は、其の達するを語れるなり。禮器と云う者は、其の成れるを語れるなり。達と成とは、體と用との道なり。體と用と合すれば、大人の事備わる。禮器にして小なる者に泥まざれば、則ち禮に非ざるの禮、義に非ざるの義無し。蓋し大なる者器なれば、則ち出入して小なる者も、時に中するに非ざるもの莫きなり。子夏の大德閑[のり]を踰えずんば、小德出入すとも可なりと謂えるも、斯の謂のみ。

9
禮器則大矣。修性而非小成者與。運則化矣。達順而樂亦至焉爾。
【読み】
禮器なれば則ち大なり。性を修めて小成するに非ざる者か。運れば則ち化す。達し順いて樂しみも亦焉に至るのみ。

10
萬物皆備於我、言萬物皆有素於我也。反身而誠、謂行無不慊於心、則樂莫大焉。
【読み】
萬物皆我に備われりとは、萬物は皆我に素づくこと有るを言えるなり。身に反りみて誠ならばとは、行って心に慊[あきた]らざること無ければ、則ち樂しみ焉より大なるは莫きを謂えるなり。

11
未能如玉、不足以成德。未能成德、不足以孚天下。修己以安人。修己而不安人、不行乎妻子。況可愾於天下。
【読み】
未だ玉の如きこと能わざれば、以て德を成すに足らず。未だ德を成すこと能わざれば、以て天下を孚[はぐく]むに足らず。己を修めて以て人を安んず。己を修むるのみにして人を安んぜざれば、妻子にすら行われず。況んや天下に愾[いた]る可けんや。

12
正己而不求於人、不願乎外之盛者與。
【読み】
己を正して人に求めずとは、外に願わざるの盛んなる者か。

13
仁道有本。近譬諸身、推以及人、乃其方也。必欲博施濟衆、擴之天下、施之無窮、必有聖人之才、能弘其道。
【読み】
仁道は本づくところ有り。近く諸を身に譬えて、推して以て人に及ぼすは、乃ち其の方なり。必ず博く施して衆を濟い、之を天下に擴め、之を無窮に施さんと欲するは、必ず聖人の才有りて、能く其の道を弘むるものなり。

14
制行以己、非所以同乎人。
【読み】
行を制するに己を以てするは、人に同じくする所以に非ず。

15
必物之同者、己則異矣。必物之是者、己則非矣。
【読み】
物の同じきを必とする者は、己則ち異なれるのみ。物の是なるを必とする者は、己則ち非なるのみ。

16
能通天下之志者、爲能感人心。聖人同乎人而無我。故和平天下、莫盛於感人心。
【読み】
能く天下の志に通ずる者は、能く人心に感ずることを爲す。聖人は人に同じくして我無し。故に天下を和平するは、人心に感ずるより盛んなるは莫し。

17
道遠人則不仁。
【読み】
道人に遠ければ則ち仁ならず。

18
易簡理得則知幾。知幾然後經可正。天下達道五、其生民之大經乎。經正則道前定、事豫立、不疑其所行。利用安身之要莫先焉。
【読み】
易簡の理得らるるときは則ち幾を知る。幾を知りて然る後に經正す可し。天下の達道五、其れ生民の大經か。經正しきときは則ち道前に定まり、事豫め立ち、其の行う所を疑わず。利用安身の要は焉より先なるは莫し。

19
性天經、然後仁義行。故曰有父子・君臣・上下、然後禮義有所錯。
【読み】
天經を性として、然る後に仁義行わる。故に曰く、父子・君臣・上下有りて、然る後に禮義錯[お]く所有り、と。

20
仁通極其性。故能致養而靜以安。義致行其知。故能盡文而動以變。
【読み】
仁は其の性に通じ極む。故に能く養を致して靜かにして以て安んず。義は其の知を致め行う。故に能く文を盡くして動きて以て變ず。

21
義、仁之動也。流於義者於仁或傷。仁、體之常也。過於仁者於義或害。
【読み】
義は、仁の動くなり。義に流るる者は仁に於て或は傷うことあり。仁は、體の常なり。仁に過ぐる者は義に於て或は害うことあり。

22
立不易方、安於仁而已乎。
【読み】
立ちて方を易[か]えざるは、仁に安んじて已まんか。

23
安所遇而敦仁。故其愛有常心。有常心則物被常愛也。
【読み】
遇う所に安んじて仁を敦くす。故に其の愛に常の心有り。常の心有れば則ち物常の愛を被るなり。

24
大海無潤。因暍者有潤。至仁無恩。因不足者有恩。樂天安土、所居而安、不累於物也。
【読み】
大海は潤すこと無し。暍者[えっしゃ]あるに因って潤すこと有り。至仁は恩むこと無し。足らざる者あるに因って恩むこと有り。天を樂しみ土に安んじ、居る所のままにして安んずるは、物に累わされざるなり。

25
愛人然後能保其身。能保其身則不擇地而安。不擇地而安、蓋所達者大矣。大達於天、則成性成身矣。
【読み】
人を愛して然る後に能く其の身を保つ。能く其の身を保つときは則ち地を擇ばずして安んず。地を擇ばずして安んずるは、蓋し達する所の者大なり。大なること天に達するときは、則ち性を成し身を成す。

26
上達則樂天、樂天則不怨。下學則治己、治己則無尤。
【読み】
上達すれば則ち天を樂しみ、天を樂しめば則ち怨みず。下學すれば則ち己を治め、己を治むれば則ち尤むること無し。

27
不知來物、不足以利用。不通晝夜、未足以樂天。聖人成其德、不私其身。故乾乾自强。所以成之於天爾。
【読み】
來物を知らざれば、以て用を利するに足らず。晝夜に通ぜざれば、未だ以て天を樂しむに足らず。聖人は其の德を成して、其の身を私せず。故に乾乾として自ら强[つと]む。之を天に成す所以のみ。

28
君子於仁聖、爲不厭、誨不倦、然且自謂不能、蓋所以爲能也。能不過人。故與人爭能、以能病人。大則天地合德、自不見其能也。
【読み】
君子の仁聖に於るや、爲して厭[あ]かず、誨[おし]えて倦まず、然も且つ自ら能わずと謂うは、蓋し能爲る所以なり。能人に過ぎず。故に人と能を爭い、能を以て人を病[くる]しむるなり。大なれば則ち天地と德を合わせて、自らは其の能を見ざるなり。

29
君子之道達諸天。故聖人有所不能。夫婦之智淆諸物。故大人有所不與。
【読み】
君子の道は諸を天に達す。故に聖人も能わざる所有り。夫婦の智は諸を物に淆[ま]じゆ。故に大人も與らざる所有り。

30
匹夫匹婦、非天之聰明不成其爲人。聖人、天聰明之盡者爾。
【読み】
匹夫匹婦も、天の聰明に非ざれば其の人爲ることを成さず。聖人は、天の聰明の盡くせる者のみ。

31
大人者、有容物、無去物。有愛物、無徇物。天之道然。天以直養萬物。代天而理物者、曲成而不害其直、斯盡道矣。
【読み】
大人は、物を容るること有りて、物を去[す]つること無し。物を愛すること有りて、物に徇うこと無し。天の道然り。天は直を以て萬物を養う。天に代わって物を理[おさ]むる者も、曲成して其の直を害せざれば、斯に道を盡くすなり。

32
志大則才大事業大。故曰可大。又曰富有。志久則氣久德性久。故曰可久。又曰日新。
【読み】
志大なれば則ち才大にして事業大なり。故に曰く、大なる可し、と。又曰く、富有、と。志久しければ則ち氣久しく德性久し。故に曰く、久しかる可し、と。又曰く、日に新たなり、と。

33
淸爲異物、和爲徇物。
【読み】
淸は物に異なることを爲し、和は物に徇うことを爲す。

34
金和而玉節之則不過、知運而貞一之則不流。道所以可久可大、以其肖天地而不離也。與天地不相似、其違道也遠矣。
【読み】
金和して玉之を節すれば則ち過ごさず、知運りて貞之を一にすれば則ち流れず。道の久しかる可く大なる可き所以は、其の天地に肖て離れざるを以てなり。天地と相似ざれば、其の道に違えるや遠し。

35
久者一之純、大者兼之富。
【読み】
久とは一なるの純らにして、大とは兼ぬるの富めるなり。

36
大則直不絞、方不劌。故不習而無不利。
【読み】
大なれば則ち直なるも絞[きび]しからず、方なるも劌[そこな]わず。故に習わざれども利ろしからざる無し。

37
易簡然後能知險阻。易簡理得然後一以貫天下之道。易簡故能說諸心。知險阻故能研諸慮。
【読み】
易簡にして然る後に能く險阻を知る。易簡の理得られて然る後に一以て天下の道を貫く。易簡なる故に能く心を說ばす。險阻を知る故に能く慮を研[きわ]む。

38
知幾爲能以屈爲伸。君子無所爭。彼伸則我屈、知也。彼屈則吾不伸而伸矣。又何爭。
【読み】
幾を知れば能く屈を以て伸と爲すと爲す。君子は爭う所無し。彼伸びるときは則ち我れ屈するは、知なり。彼屈するときは則ち吾れ伸びずして伸びる。又何をか爭わん。

39
無不容然後盡屈伸之道。至虛則無所不伸矣。君子無所爭、知幾於屈伸之感而已。精義入神、交伸於不爭之地、順莫甚焉、利莫大焉。
【読み】
容れざること無くして然る後に屈伸の道を盡くす。至虛なれば則ち伸びざる所無し。君子は爭う所無く、幾を屈伸の感に知るのみ。義を精しくして神に入り、爭わざるの地に交々伸びるときは、順なること焉より甚だしきは莫く、利ろしきこと焉より大なるは莫し。

40
天下何思何慮。明屈伸之變、斯盡之矣。
【読み】
天下何をか思い何をか慮らん。屈伸の變に明らかなれば、斯に之を盡くすなり。

41
勝兵之勝、勝在至柔。明屈伸之神爾。
【読み】
兵に勝つの勝は、勝つこと至柔なるに在り。屈伸の神に明らかなるのみ。

42
敬斯有立。有立斯有爲。
【読み】
敬するときは斯に立つこと有り。立つこと有れば斯に爲すこと有り。

43
敬、禮之輿也。不敬則禮不行。
【読み】
敬は、禮の輿なり。敬せざれば則ち禮行われず。

44
恭敬・撙節・退讓以明禮、仁之至也、愛道之極也。
【読み】
恭敬・撙節[そんせつ]・退讓して以て禮を明らかにするは、仁の至りなり、愛道の極みなり。

45
己不勉明、則人無從倡、道無從弘、敎無從成矣。
【読み】
己明に勉めざれば、則ち人從って倡うること無く、道從って弘まること無く、敎從って成ること無し。

46
禮、直斯淸、撓斯昏。和斯利、樂斯安。
【読み】
禮、直しければ斯に淸く、撓[みだ]るれば斯に昏し。和すれば斯に利ろしく、樂しめば斯に安し。

47
將致用者、幾不可緩。思進德者、徙義必精。此君子所以立多凶多懼之地、乾乾德業、不少懈於趨時也。
【読み】
將に用を致さんとする者は、幾に緩[おこた]る可からず。德に進まんと思う者は、義に徙ること必ず精しかるべし。此れ君子の凶多く懼れ多きの地に立ち、德業に乾乾として、少[しばら]くも時に趨くことに懈らざる所以なり。

48
動靜不失其時、義之極也。義極則光明著見。唯其時、物前定而不疚。
【読み】
動靜するに其の時を失わざるは、義の極みなり。義極まるときは則ち光明著見す。唯其の時、物前に定まりて疚しからざるのみ。

49
有吉凶利害、然後人謀作、大業生。若無施不宜、則何業之有。
【読み】
吉凶利害有りて、然る後に人謀作り、大業生ず。若し施すとして宜しからざること無ければ、則ち何の業か之れ有らん。

50
天下何思何慮。行其所無事、斯可矣。
【読み】
天下何をか思い何をか慮らん。其の無事なる所を行えば、斯れ可なり。

51
知崇、天也。形而上也。通晝夜而知、其知崇矣。
【読み】
知の崇きは、天なり。形よりして上なればなり。晝夜を通じて知る、其の知崇きかな。

52
知及之而不以禮性之、非己有也。故知禮成性而道義出。如天地位而易行。
【読み】
知之に及ぶも而も禮を以て之を性にせざれば、己が有に非ざるなり。故に知禮性を成して道義出づ。天地位して易行わるるが如し。

53
知德之難言、知之至也。孟子謂我於辭命則不能。又謂浩然之氣難言。易謂不言而信、存乎德行。又以尙辭爲聖人之道。非知德、達乎是哉。
【読み】
德の言い難きを知るは、知の至りなり。孟子に謂う、我れ辭命に於ては則ち能くせず、と。又謂う、浩然の氣は言い難し、と。易に謂う、言わずして信あるは、德行に存す、と。又辭を尙ぶを以て聖人の道と爲せるなり。德を知れるに非ずんば、是に達せんや。

54
闇然、修於隱也。的然、著於外也。
【読み】
闇然とは、隱に修むるなり。的然とは、外に著るるなり。


作者篇

1
作者七人、伏羲・神農・黃帝・堯・舜・禹・湯。制法興王之道、非有述於人者也。
【読み】
作者七人とは、伏羲・神農・黃帝・堯・舜・禹・湯なり。法を制して王を興すの道ありて、人を述ぶること有る者に非ざるなり。

2
以知人爲難。故不輕去未彰之罪。以安民爲難。故不輕變未厭之君。及舜而去之。堯君德。故得以厚吾終。舜臣德。故不敢不虔其始。
【読み】
人を知るを以て難しと爲す。故に輕々しく未だ彰らかならざるの罪を去らず。民を安んずるを以て難しと爲す。故に輕々しく未だ厭わざるの君を變えず。舜に及びて之を去る。堯は君德たり。故に以て吾が終わりを厚くすることを得。舜は臣德たり。故に敢えて其の始めを虔[つつし]まずんばあらず。

3
稽衆舍己、堯也。與人爲善、舜也。聞善言則拜、禹也。用人惟己、改過不吝、湯也。不聞亦式、不諫亦入、文王也。
【読み】
衆を稽[かんが]え己を舍つるは、堯なり。人と與に善を爲すは、舜なり。善言を聞けば則ち拜するは、禹なり。人を用ゆること惟れ己のごとくし、過ちを改むること吝かならざるは、湯なり。聞かざるに亦式[のり]あり、諫めざるに亦入るは、文王なり。

4
別生分類、孟子所謂明庶物、察人倫者與。
【読み】
生を別ち類を分かつは、孟子謂う所の庶物に明らかに、人倫に察らかなる者か。

5
象憂喜、舜亦憂喜、所過者化也、與人爲善也、隱惡也、所覺者先也。
【読み】
象憂い喜べば、舜も亦憂い喜ぶは、過ぐる所の者化するなり、人と與に善を爲すなり、惡を隱すなり、覺る所の者先んずるなり。

6
好問、好察邇言、隱惡揚善、與人爲善、象憂亦憂、象喜亦喜、皆行其所無事也、過化也、不藏怒也、不宿怨也。
【読み】
問うことを好み、好んで邇[ちか]き言を察し、惡を隱して善を揚げ、人と與に善を爲し、象憂えば亦憂え、象喜べば亦喜ぶは、皆其の無事なる所を行うなり、過ぎれば化し、怒りを藏せず、怨みを宿[とど]めざるなり。

7
舜之孝、湯・武之武、雖順逆不同、其爲不幸均矣。明庶物、察人倫、然後能精義致用、性其仁而行。湯放桀、有慙德而不敢赦。執中之難也如是。天下有道而已。在人在己不見其閒也。立賢無方也如是。
【読み】
舜の孝と、湯・武の武とは、順逆同じからずと雖も、其の不幸爲ることは均し。庶物を明らかにし、人倫を察らかにして、然る後に能く義を精しくして用を致し、其の仁を性として行うなり。湯の桀を放つや、德に慙[は]づること有りて敢えて赦さず。中を執るの難きこと是の如し。天下道有れば而[すなわ]ち已む。人に在り己に在りて其の閒を見ざるなり。賢を立つること方無きこと是の如し。

8
立賢無方、此湯所以公天下而不疑。周公所以于其身望道而必吾見也。
【読み】
賢を立つるに方無きは、此れ湯の天下を公にして疑わざる所以なり。周公の其の身を于[おろそ]かにして道を望んで必ず吾れ見んとする所以なり。

9
帝臣不蔽、言桀有罪、己不敢違天縦赦。旣已克之、今天下莫非上帝之臣、善惡皆不可揜。惟帝擇而命之、己敢不聽。
【読み】
帝臣蔽われずとは、言うこころは桀に罪有り、己敢えて天に違いて縦[ほしいまま]に赦さず。旣已に之に克てば、今天下は上帝の臣に非ざる莫く、善惡皆揜う可からず。惟帝擇びて之に命ぜば、己敢えて聽かずんばあらず、と。

10
虞・芮質厥成、訟獄者不之紂而之文王。文王之生所以靡縶於天下、由多助於四友之臣爾。
【読み】
虞[ぐ]・芮[ぜい]厥の成[たい]らぎを質[ただ]し、訟獄する者紂に之[ゆ]かずして文王に之く。文王の生[おこ]りて天下を靡縶[びちゅう]せる所以は、多く四友の臣に助けられたるに由るのみ。

11
以杞包瓜、文王事紂之道也。厚下以防中潰、盡人謀而聽天命者與。
【読み】
杞[くこ]を以て瓜を包むは、文王の紂に事えたるの道なり。下を厚くして以て中の潰ゆるを防ぎ、人謀を盡くして天命を聽く者か。

12
上天之載、無聲臭可象。正惟儀刑文王、當冥契天德而萬邦信悅。故易曰、神而明之、存乎其人。不以聲色爲政、不革命而有中國、默順帝則而天下自歸者、其惟文王乎。
【読み】
上天の載は、聲臭の象る可き無し。正に惟文王に儀刑すれば、當に天德に冥契して萬邦信[まこと]に悅ぶべし。故に易に曰く、神にして之を明らかにするは、其の人に存す、と。聲色を以て政を爲さず、命を革めずして中國を有し、默して帝の則に順いて天下自づから歸する者は、其れ惟文王のみか。

13
可願可欲、雖聖人之知、不越盡其才以勉焉而已。故君子之道四、雖孔子自謂未能。博施濟衆、修己安百姓、堯・舜病諸。是知人能有願有欲、不能窮其願欲。
【読み】
願う可く欲す可きは、聖人の知ありと雖も、其の才を盡くして以て焉に勉むるに越[す]ぎざるのみ。故に君子の道四つ、孔子と雖も自ら未だ能わずと謂う。博く施して衆を濟い、己を修めて百姓を安んずるは、堯・舜も諸を病めり。是に人能く願うこと有り欲すること有るも、其の願欲を窮むること能わざるを知る。

14
周有八士、記善人之富也。
【読み】
周に八士有りとは、善人の富[おお]きを記すなり。

15
重耳婉而不直。小白直而不婉。
【読み】
重耳は婉にして直ならず。小白は直にして婉ならず。

16
魯政之弊、馭法者非其人而已。齊因管仲、遂倂壞其法。故必再變而後至於道。
【読み】
魯の政の弊[つい]えたるは、法を馭[おさ]むる者其の人に非ざるのみ。齊は管仲に因りて、遂に其の法を倂せ壞[こぼ]てり。故に必ず再變して後に道に至るなり。

17
孟子以智之於賢者爲有命。如晏嬰智矣、而獨不智於仲尼、非天命耶。
【読み】
孟子は智の賢者に於るを以て命有りと爲せり。晏嬰の智の如きにして、而も獨り仲尼よりも智ならざりしは、天命に非ざるか。

18
山楶藻梲爲藏龜之室、祀爰居之義、同歸於不智。宜矣。
【読み】
楶[とがた]に山えり梲[うだち]に藻がきて龜を藏するの室を爲るは、爰居[えんきょ]を祀るの義と、同じく不智に歸す。宜なるかな。

19
使民義、不害不能敎。愛猶衆人之母、不害使之義。禮樂不興、僑之病與。
【読み】
民を使うに義ありて、敎ゆること能わざるを害とせず。愛するは猶衆人の母のごとくして、使うの義なるを害せず。禮樂興らざるは、僑の病めるところか。

20
獻子者忘其勢、五人者忘人之勢。不資其勢而利其有、然後能忘人之勢。若五人者有獻子之勢、則反爲獻子之所賤矣。
【読み】
獻子は其の勢を忘れ、五人は人の勢を忘る。其の勢を資[と]りて其の有るを利とせずして、然る後に能く人の勢を忘る。若し五人の者獻子の勢を有りとすれば、則ち反って獻子の賤しむ所と爲らんのみ。

21
顓臾主祀東蒙、旣魯地、則是已在邦域之中矣。雖非魯臣、乃吾事社稷之臣也。
【読み】
顓臾[せんゆ]は東蒙を祀ることを主り、旣に魯の地なれば、則ち是れ已に邦域の中に在り。魯の臣に非ずと雖も、乃ち吾が社稷に事うるの臣なり。


三十篇

1
三十器於禮、非强立之謂也。四十精義致用、時措而不疑。五十窮理盡性、至天之命。然不可自謂之至。故曰知。六十盡人物之性、聲入心通。七十與天同德、不思不勉、從容中道。
【読み】
三十にして禮に器[た]つは、强いて立てるの謂には非ざるなり。四十にして義を精しくし用を致し、時に措いて疑わず。五十にして理を窮め性を盡くして、天の命に至る。然れども自ら之を至ると謂う可からず。故に知ると曰う。六十にして人物の性を盡くし、聲入りて心通ず。七十にして天と德を同じくし、思わず勉めず、從容として道に中る。

2
常人之學、日益而不自知也。仲尼學行習察、異於他人。故自十五至於七十、化而知裁。其德進之盛者與。
【読み】
常人の學は、日々に益すも自ら知らざるなり。仲尼の學行習察は、他人に異なり。故に十五自り七十に至るまで、化して裁することを知る。其の德の進むことの盛んなる者か。

3
窮理盡性、然後至於命。盡人物之性、然後耳順。與天地參。無意・必・固・我、然後範圍天地之化、從心而不踰矩。老而安死、然後不夢周公。
【読み】
理を窮め性を盡くして、然る後に命に至る。人物の性を盡くして、然る後に耳順う。天地と參たり。意・必・固・我無くして、然る後に天地の化を範圍し、心のままに從いて矩を踰えず。老いて死に安んじて、然る後に周公を夢みず。

4
從心莫如夢。夢見周公、志也。不夢、欲不踰矩也。不願乎外也。順之至也。老而安死也。故曰吾衰也久矣。
【読み】
心のままに從うは夢に如くは莫し。夢に周公を見るは、志あればなり。夢みざるは、欲して矩を踰えざるなり。外に願わざるなり。順なるの至りなり。老いて死に安んぜるなり。故に曰く、吾の衰えるや久しいかな、と。

5
困而不知變、民斯爲下矣。不待困而喩、賢者之常也。困之進人也、爲德辨、爲感速。孟子謂人有德慧術知者存乎疢疾以此。自古困於内無如舜、困於外無如孔子。以孔子之聖而下學於困、則其蒙難正志、聖德日躋、必有人所不及知而天獨知之者矣。故曰莫知我也夫、知我者其天乎。
【読み】
困しみて變ずることを知らざれば、民斯を下と爲さん。困しむを待たずして喩[さと]るは、賢者の常なり。困の人を進ましむるや、德を爲すこと辨[あき]らかに、感を爲すこと速やかなり。孟子の人の德慧術知有る者は疢疾[ちんしつ]に存すと謂えるも此を以てなり。古自り内に困しめるものは舜に如くは無く、外に困しめるものは孔子に如くは無し。孔子の聖なるを以てして困に下學するときは、則ち其の難を蒙りて志を正し、聖德日々に躋[のぼ]り、必ず人の知ること及ばざる所にして天のみ獨り之を知る者有らん。故に曰く、我を知るもの莫きかな、我を知る者は其れ天か、と。

6
立斯立、道斯行、綏斯來、動斯和。從欲風動、神而化也。
【読み】
立つれば斯に立ち、道[みちび]けば斯に行[したが]い、綏[やす]んずれば斯に來り、動かせば斯に和らぐ。欲するに從いて風のごとく動くは、神にして化するものなり。

7
仲尼生於周、從周禮。故公旦法壞、夢寤不忘爲東周之意。使其繼周而王、則其損益可知矣。
【読み】
仲尼は周に生まれて、周の禮に從う。故に公旦の法壞るれば、夢寤に東周を爲さんとするの意を忘れず。其をして周を繼いで王たらしめば、則ち其の損益知る可し。

8
滔滔忘反者、天下莫不然。如何變易之。天下有道、丘不與易。知天下無道而不隱者、道不遠人。且聖人之仁、不以無道必天下而棄之也。
【読み】
滔滔として反ることを忘るる者、天下然らざるは莫し。如何ぞ之を變易せん。天下道有らば、丘は與に易えざるなり。天下の道無きを知って隱れざる者は、道人に遠からざればなり。且つ聖人の仁は、道無きを以て天下に必として之を棄てざればなり。

9
仁者先事後得、先難後獲。故君子事事則得食、不以事事、雖有粟、吾得而食諸。仲尼少也國人不知、委吏乘田得而食之矣。及德備道尊、至是邦必聞其政。雖欲仕貧、無從以得之。今召我者而豈徒哉。庶幾得以事事矣、而又絕之、是誠繫滯如匏瓜不食之物也。
【読み】
仁者は事を先にして得るを後にし、難きを先にして獲るを後にす。故に君子は事を事とするときは則ち食を得、事を事とするを以てせざるときは、粟有りと雖も、吾れ得て諸を食わんや。仲尼の少[わか]きや國人知らず、委吏乘田となりて得て之を食う。德備わり道尊きに及びては、是の邦に至りては必ず其の政を聞く。貧に仕えんと欲すと雖も、從りて以て之を得ること無し。今我を召す者は而[すなわ]ち豈徒[むだごと]ならんや。庶幾わくは得て以て事を事とせんとして、又之を絕つは、是れ誠に繫滯すること匏瓜の如く食われざるの物なり。

10
不待備而勉於禮樂、先進於禮樂者也。備而後至於禮樂、後進於禮樂者也。仲尼以貧賤者必待文備而後進、則於禮樂終不可得而行矣、故自謂野人而必爲。所謂不願乎其外也。
【読み】
備わるを待たずして禮樂に勉むるは、先進の禮樂に於る者なり。備わりて後に禮樂に至るは、後進の禮樂に於る者なり。仲尼は、貧賤なる者は必ず文備わるを待って後に進むときは、則ち禮樂に於て終に得て行う可からざるを以て、故に自ら野人と謂いて必ず爲さんとす。所謂其の外を願わざるものなり。

11
功業不試、則人所見者藝而已。
【読み】
功業試みざれば、則ち人の見る所の者は藝なるのみ。

12
鳳至圖出、文明之祥、伏羲・舜・文之瑞。不至則夫子之文章知其已矣。
【読み】
鳳至り圖出づるは、文明の祥にして、伏羲・舜・文の瑞なり。至らざれば則ち夫子の文章其の已んぬることを知るなり。

13
魯禮文闕失、不以仲尼正之、如有馬者不借人以乘習。不曰禮文而曰史之闕文者、祝史所任、儀章器數而已、舉近者而言約也。
【読み】
魯の禮文闕失せるに、仲尼を以て之を正しめざるは、馬有る者の人を借りて以て乘習せしめざるが如し。禮文と曰わずして史の闕文と曰える者は、祝史の任ずる所は、儀章器數のみなれば、近き者を舉げて約[つづ]まやかなるを言えるなり。

14
師摯之始、樂失其次、徒洋洋盈耳而已焉。夫子自衛反魯、一嘗治之、其後伶人賤工識樂之正。及魯益下衰、三桓僭妄、自太師以下、皆知散之四方、逾河蹈海以去亂。聖人俄頃之助、功化如此。用我者、期月而可、豈虛語哉。
【読み】
師摯の始や、樂其の次を失い、徒に洋洋として耳に盈てるのみ。夫子衛自り魯に反り、一たび嘗て之を治め、其の後伶人賤工も樂の正しきを識る。魯益々下衰して、三桓僭妄なるに及んで、太師自り以下、皆散じて四方に之[ゆ]き、河を逾え海を蹈[わた]りて以て亂を去ることを知る。聖人俄頃[しばらく]の助の、功化あること此の如し。我を用ゆる者あらば、期月にして可なりとは、豈虛語ならんや。

15
與與如也、君或在朝在廟、容色不忘向君也。君召使擯、趨進翼如。沒階、趨進翼如。賓不顧矣。相君送賓、賓去則白曰賓不顧而去矣。紓君敬也。上堂如揖、恭也。下堂如授、其容紓也。
【読み】
與與如たりとは、君或は朝に在り廟に在りて、容色君に向かえるを忘れざるなり。君召して擯せしむれば、趨り進むに翼如たり。階を沒[つ]くして、趨り進むに翼如たり。賓顧みず。君を相[たす]けて賓を送り、賓去るときは則ち白[もう]して曰く、賓顧みずして去れり、と。君の敬せるを紓[ゆる]めるなり。堂を上るに揖[ゆう]するが如くするは、恭なり。堂を下るに授くるが如くするは、其の容紓やかなるなり。

16
冉子請粟與原思爲宰、見聖人之用財也。
【読み】
冉子の粟を請えると原思の宰と爲れるとは、聖人の財を用ゆることを見せるなり。

17
聖人於物無畔援。雖佛肸・南子、苟以是心至、敎之在我爾。不爲已甚也如是。
【読み】
聖人の物に於るや畔援すること無し。佛肸・南子と雖も、苟も是の心を以て至らば、之に敎ゆるは我に在るのみ。已甚[はなは]だしきを爲さざることや是の如し。

18
子欲居九夷。不遇於中國、庶遇於九夷、中國之陋爲可知。欲居九夷、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦可行。何陋之有。
【読み】
子九夷に居らんと欲す。中國に遇わずして、九夷に遇わんことを庶うは、中國の陋しきこと知る可しと爲す。九夷に居らんと欲するは、言忠信にして、行篤敬なるときは、蠻貊の邦と雖も行わる可ければなり。何の陋しきことか之れ有らん。

19
栖栖者、依依其君而不能忘也。固、猶不囘也。
【読み】
栖栖とは、其の君に依依として忘るること能わざればなり。固とは、猶囘[めぐ]らざるがごとし。

20
仲尼應問、雖叩兩端而竭、然言必因人爲變化。所貴乎聖人之詞者、以其知變化也。
【読み】
仲尼の問いに應うる、兩端を叩いて竭くすと雖も、然も言は必ず人に因りて變化を爲す。聖人の詞に貴ぶ所の者は、其の變化を知れるを以てなり。

21
富而可求也、雖執鞭之士、吾亦爲之。不憚卑以求富、求之有可致之道也。然得乃有命、是求無益於得也。
【読み】
富にして求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾も亦之を爲さん。卑しきを憚らずして以て富を求むるは、之を求めて致す可きの道有ればなり。然れども得るに乃ち命有るは、是れ求むるも得るに益無きものなり。

22
愛人以德、喩於義者常多。故罕及於利。盡性者方能至命。未達之人、告之無益。故不以亟言。仁大難名、人未易及。故言之亦鮮。
【読み】
人を愛するに德を以てすれば、義に喩[さと]る者常に多し。故に罕[まれ]に利に及ぶ。性を盡くす者は方に能く命に至る。未だ達せざるの人は、之に告ぐるも益無し。故に以て亟[しば]々言わず。仁は大にして名づけ難く、人未だ及ぶこと易からず。故に之を言うこと亦鮮し。

23
顏子於天下、有不善未嘗不知。知之未嘗復行。故怒於人者、不使加乎其身、愧於己者、不輒貳之於後也。
【読み】
顏子の天下に於るや、不善有らば未だ嘗て知らずんばあらず。之を知れば未だ嘗て復び行わず。故に人に怒れる者は、其の身に加えしめず、己に愧じたる者は、輒ち之を後に貳びせざるなり。

24
顏子之徒、隱而未見、行而未成。故曰吾聞其語而未見其人也。
【読み】
顏子の徒は、隱れて未だ見れず、行いて未だ成らず。故に曰く、吾れ其の語を聞けるも而も未だ其の人を見ず、と。

25
用則行、舍則藏、惟我與爾有是夫。顏子龍德而隱。故遯世不見知而不悔。與聖者同。
【読み】
用ゆれば則ち行い、舍つれば則ち藏るは、惟我と爾とのみ是れ有るかな。顏子は龍德ありて隱る。故に世を遯れ知られずして悔いず。聖者と同じきなり。

26
龍德、聖修之極也。顏子之進、則欲一朝而至焉。可謂好學也已矣。
【読み】
龍德は、聖修の極みなり。顏子の進むは、則ち一朝にして至らんと欲す。學を好むと謂う可きのみ。

27
囘非助我者、無所疑問也。有疑問、則吾得以感通其故而達夫異同者矣。
【読み】
囘は我を助くる者に非ずとは、疑い問う所無ければなり。疑い問うこと有れば、則ち吾は以て其の故に感通して夫の異同を達することを得る者なり。

28
放鄭聲、遠佞人。顏囘爲邦、禮樂法度不必敎之。惟損益三代、蓋所以告之也。法立而能守、則德可久、業可大。鄭聲・佞人能使爲邦者喪其所守。故放遠之。
【読み】
鄭聲を放ち、佞人を遠ざく。顏囘の邦を爲[おさ]むるに、禮樂法度は必ずしも之を敎えず。惟三代を損益するは、蓋し之を告げし所以なり。法立って能く守るときは、則ち德久しかる可く、業大なる可し。鄭聲・佞人は能く邦を爲むる者をして其の守る所を喪わしむ。故に之を放ち遠ざくるなり。

29
天下有道則見、無道則隱。君子疾沒世而名不稱。蓋士而懷居、不足以爲士。必也去無道、就有道。遇有道而貧且賤、君子耻之。舉天下無道、然後窮居獨善、不見知而不悔。中庸所謂惟聖者能之、仲尼所以獨許顏囘惟我與爾爲有是也。
【読み】
天下道有るときは則ち見れ、道無きときは則ち隱る。君子は世を沒するまで名の稱せられざるを疾[にく]む。蓋し士にして居を懷[おも]わば、以て士と爲すに足らず。必ずや道無きを去って、道有るに就かん。道有るに遇って貧しく且つ賤しきは、君子之を耻づ。天下を舉げて道無くして、然る後に窮居して獨り善くし、知られずして悔いず。中庸に謂う所の惟聖者のみ之を能くするものにして、仲尼獨り顏囘のみを許して、惟我と爾とのみ是れ有りと爲せる所以なり。

30
仲由樂善。故車馬衣裘、喜與賢者共敝。顏子樂進。故願無伐善施勞。聖人樂天。故合内外而成其仁。
【読み】
仲由は善を樂しむ。故に車馬衣裘、賢者と共にして敝[やぶ]らんことを喜ぶ。顏子は進むことを樂しむ。故に善に伐[ほこ]り勞を施すこと無からんことを願う。聖人は天を樂しむ。故に内外を合わせて其の仁を成す。

31
子路禮樂文章、未足盡爲政之道、以其重然諾、言爲衆信。故片言可以折獄、如易所謂利用折獄、利用刑人。皆非爻卦盛德、適能是而已焉。
【読み】
子路の禮樂文章は、未だ政を爲すの道を盡くすに足らざるも、其の然諾を重んずるを以て、言えば衆の爲に信ぜらる。故に片言以て獄[うったえ]を折[さだ]む可きこと、易に謂う所の用って獄を折むるに利ろし、用って人を刑するに利ろしきものの如し。皆爻卦の盛德なるには非ずして、適々是を能くするのみ。

32
顏淵從師、進德於孔子之門。孟子命世、修業於戰國之際。此所以潛見之不同。
【読み】
顏淵は師に從い、德を孔子の門に進む。孟子は命世にして、業を戰國の際に修む。此れ潛見の同じからざる所以なり。

33
犂牛之子、雖無全純、然使其色騂且角、縱不爲大祀所取、次祀小祀終必取之。言大者苟立、人所不棄也。
【読み】
犂牛の子は、全純なること無しと雖も、然れども其の色騂[あか]く且つ角あらしむるときは、縱[たと]い大祀の取る所と爲らざるも、次祀小祀には終に必ず之を取らん。大なる者苟も立たば、人の棄てざる所なるを言えるなり。


有德篇

1
有德者必有言、能爲有也。志於仁而無惡、能爲無也。
【読み】
德有る者は必ず言有りとは、能く有爲るなり。仁に志して惡無しとは、能く無爲るなり。

2
行修言道、則當爲人取。不務徇物强施以引取乎人。故往敎妄說、皆取人之弊也。
【読み】
行修まり言いて道あるときは、則ち當に人の爲に取らるべし。物に徇い强いて施すことを務めて以て人を引取せず。故に往いて敎え妄りに說ばしむるは、皆人を取るの弊なり。

3
言不必信、行不必果、志正深遠、不務硜硜信其小者。
【読み】
言必ずしも信ならず、行必ずしも果ならざるは、志正しく深遠にして、硜硜[こうこう]として其の小なる者を信[まこと]にすることを務めざるなり。

4
辭取意逹則止。多或反害也。
【読み】
辭は意逹するときは則ち止むを取る。多ければ或は反って害あるなり。

5
君子寧言之不顧、不規規於非義之信。寧身被困辱、不徇人以非禮之恭。寧孤立無助、不失親於可賤之人。三者知和而能以禮節之也。與上有子之言、文相屬而不相蒙者。凡論語・孟子發明前文、義各未盡者、皆挈之。他皆倣此。
【読み】
君子は寧ろ之を言いて顧みられざるとも、義に非ざるの信に規規たらず。寧ろ身困辱せらるとも、人に徇うに禮に非ざるの恭を以てせず。寧ろ孤立して助無くとも、賤しむ可きの人に親しむに失せず。三つの者は和を知って而も能く禮を以て之を節するものなり。上の有子の言と、文は相屬[つづ]いて相蒙[おお]わざる者なり。凡そ論語・孟子は前文を發明して、義各々未だ盡くさざる者、皆之を挈[つな]ぐなり。他も皆此に倣[なら]え。

6
德主天下之善。善原天下之一。善同歸治。故王心一。言必主德。故王言大。
【読み】
德は天下の善を主とす。善は天下の一に原[もと]づく。善は同じく治に歸す。故に王心は一なり。言は必ず德を主とす。故に王言は大なり。

7
言有敎、動有法。晝有爲、宵有得。息有養、瞬有存。
【読み】
言うに敎有り、動くに法有り。晝に爲すこと有り、宵に得ること有り。息に養うこと有り、瞬に存すること有り。

8
君子於民、導使爲德而禁其爲非、不大望於愚者之道與。禮謂道民以言、禁民以行、斯之謂爾。
【読み】
君子の民に於るや、導いて德を爲さしめて其の非を爲すことを禁ずるは、愚者に大望せざるの道か。禮に民を道くに言を以てし、民を禁ずるに行を以てすと謂えるも、斯の謂のみ。

9
無徵而言、取不信、啓詐妄之道也。杞・宋不足徵吾言則不言、周足徵則從之。故無徵不信、君子不言。
【読み】
徵無くして言うは、不信を取り、詐妄を啓[ひら]くの道なり。杞・宋は吾が言を徵[あ]かすに足らざれば則ち言わず、周は徵かすに足れば則ち之に從う。故に徵無く信ぜられざるときは、君子は言わず。

10
便辟、足恭。善柔、令色。便佞、巧言。
【読み】
便辟は、恭に足[す]ぐ。善柔は、色を令くす。便佞は、言を巧みにす。

11
節禮樂、不使流離相勝。能進反以爲文也。
【読み】
禮樂を節すとは、流れ離れて相勝たしめず。能く進め反して以て文を爲すなり。

12
驕樂、侈靡。宴樂、宴安。
【読み】
驕樂は、侈靡なり。宴樂は、宴安なり。

13
言形則卜如響。以是知蔽固之私心、不能默然以逹性與天道。
【読み】
言形[あらわ]るときは則ち卜うこと響きの如し。是を以て蔽固の私心は、默然として以て性と天道とに逹すること能わざるを知る。

14
人道知所先後、則恭不勞、愼不葸、勇不亂、直不絞、民化而歸厚矣。
【読み】
人道に先後する所を知るときは、則ち恭しけれども勞せず、愼めども葸[おそ]れず、勇なれども亂れず、直なれども絞[きび]しからず、民化して厚きに歸せん。

15
膚受、陽也。其行、陰也。象生、法必效。故君子重夫剛者。
【読み】
膚受は、陽なり。其の行は、陰なり。象生ずるときは、法必ず效う。故に君子は夫の剛なる者を重んず。

16
歸罪爲尤、罪己爲悔。言寡尤者、不以言得罪於人也。
【読み】
罪を歸するを尤と爲し、己を罪するを悔と爲す。言いて尤寡しとは、言を以て罪を人に得ざるなり。

17
己所不欲、勿施於人、能恕己以仁人也。在邦無怨、在家無怨、己雖不施不欲於人、然人施於己、能無怨也。
【読み】
己の欲せざる所は、人に施すこと勿かれとは、能く己を恕して以て人を仁[いつく]しむなり。邦に在りて怨むこと無く、家に在りて怨むこと無しとは、己欲せざるものを人に施さざるに、然も人は己に施すと雖も、能く怨むこと無きなり。

18
敬而無失、與人接而當也。恭而有禮、不爲非禮之恭也。
【読み】
敬して失うこと無きとは、人と接して當たれるなり。恭しくして禮有りとは、禮に非ざるの恭を爲さざるなり。

19
聚百順以事君親。故曰孝者畜也。又曰畜君者好君也。
【読み】
百順を聚めて以て君親に事う。故に曰く、孝とは畜[あつ]むるなり、と。又曰く、君に畜むる者は君を好むなり、と。

20
事父母先意承志。故能辨志意之異、然後能敎人。
【読み】
父母に事うるには意に先だって志を承く。故に能く志意の異を辨じて、然る後に能く人に敎ゆるなり。

21
藝者、日爲之分義、涉而不有、過而不存。故曰游。
【読み】
藝とは、日々に之が分義を爲し、涉りて而も有せず、過ごして而も存せず。故に游と曰う。

22
天下有道、道隨身出。天下無道、身隨道屈。
【読み】
天下道有るときは、道身に隨いて出づ。天下道無きときは、身道に隨いて屈す。

23
安土、不懷居也。有爲而重遷、無爲而輕遷、皆懷居也。
【読み】
土に安んずるは、居を懷わざるなり。爲すこと有るに而も遷るを重[わづら]い、爲すこと無きに而も遷るを輕んずるは、皆居を懷うなり。

24
老而不死、是爲賊、幼不率敎、長無循述、老不安死。三者、皆賊生之道也。
【読み】
老いて死せず、是を賊と爲すとは、幼にして敎に率わず、長じて循い述ぶること無く、老いて死に安んぜざるなり。三つの者は、皆生を賊[そこな]うの道なり。

25
樂驕樂則佚欲、樂宴樂則不能徙義。
【読み】
驕樂を樂しめば則ち欲に佚し、宴樂を樂しめば則ち義に徙ること能わず。

26
不僭不賊、其不忮不求之謂乎。
【読み】
僭[たが]わず賊[そこな]わざるは、其れ忮[やぶ]らず求めざるの謂か。

27
不穿窬、義也。謂非其有而取之曰盜、亦義也。惻隱、仁也。如天、亦仁也。故擴而充之、不可勝用。
【読み】
穿窬せざるは、義なり。其の有に非ずして之を取るを謂いて盜と曰うも、亦義なり。惻隱は、仁なり。天の如きも、亦仁なり。故に擴めて之を充たすときは、勝[あ]げて用ゆ可からず。

28
自養、薄於人、私也。厚於人、私也。稱其才、隨其等、無驕吝之弊、斯得之矣。
【読み】
自らを養いて、人に薄きは、私なり。人に厚きも、私なり。其の才に稱[かな]い、其の等に隨い、驕吝の弊無きときは、斯れ之を得るなり。

29
罪己則無尤。
【読み】
己を罪すれば則ち尤むること無し。

30
困辱非憂、取困辱爲憂。榮利非樂、忘榮利爲樂。
【読み】
困辱は憂いに非ず、困辱を取るを憂いと爲す。榮利は樂しみに非ず、榮利を忘るるを樂しみと爲す。

31
勇者不懼、死且不避而反不安貧、則其勇將何施耶。不足稱也。仁者愛人。彼不仁而疾之深、其仁不足稱也。皆迷謬不思之甚。故仲尼率歸諸亂云。
【読み】
勇者は懼れず、死すら且つ避けずして反って貧に安んぜざるときは、則ち其の勇將に何[いづこ]に施さんや。稱するに足らざるなり。仁者は人を愛す。彼不仁にして之を疾[にく]むこと深きときは、其の仁稱するに足らざるなり。皆迷謬して思わざるの甚だしきなり。故に仲尼率[ことごと]く諸を亂に歸して云えり。

32
擠人者人擠之。侮人者人侮之。出乎爾者反乎爾、理也。勢不得反、亦理也。
【読み】
人を擠[おしのけ]る者は人も之を擠る。人を侮る者は人も之を侮る。爾に出づる者の爾に反るは、理なり。勢反すことを得ざるも、亦理なり。

33
克己行法爲賢、樂己可法爲聖。聖與賢、迹相近而心之所至有差焉。辟世者依乎中庸、沒世不遇而無嫌、辟地者不懷居以害仁、辟色者遠耻於將形、辟言者免害於禍辱。此爲士淸濁淹速之殊也。辟世辟地、雖聖人亦同。然憂樂於中、與賢者・其次者爲異。故曰迹相近而心之所至者不同。
【読み】
己に克ちて法を行うを賢と爲し、己を樂しんで法る可きを聖と爲す。聖と賢とは、迹相近きも心の至る所は差有り。世を辟くる者は中庸に依り、世を沒するまで遇わざるも嫌うこと無く、地を辟くる者は居を懷って以て仁を害することをせず、色を辟くる者は耻の將に形れんとするに遠ざかり、言を辟くる者は害を禍辱より免る。此れ士の淸濁淹速の殊なりと爲すなり。世を辟け地を辟くるは、聖人と雖も亦同じ。然れども中に憂樂すること、賢者と其の次の者と異なりと爲す。故に曰く、迹相近きも心の至る所の者同じからず、と。

34
進賢如不得已、將使卑踰尊、疏踰戚之意。與表記所謂事君難進而易退則位有序、易進而難退則亂也相表裏。
【読み】
賢を進むるに已むを得ざるが如くするは、將に卑きをして尊きに踰え、疏きをして戚[した]しきに踰えしめんとするの意なり。表記に謂う所の君に事えて進むを難[はばか]りて退くを易[かろ]んずるときは則ち位序有り、進むを易んじて退くを難るときは則ち亂るなりと相表裏す。

35
弓調而後求勁焉、馬服而後求良焉。士必愨而後智能焉。不愨而多能、譬之豺狼不可近。
【読み】
弓は調いて後に勁[つよ]きを求め、馬は服[な]れて後に良きを求む。士も必ず愨[まこと]ありて後に智能なり。愨あらずして能多きは、之を譬うるに豺狼にして近づく可からず。

36
谷神能象其聲而應之、非謂能報以律呂之變也。猶卜筮叩以是言則報以是物而已。易所謂同聲相應是也。王弼謂命呂者律、語聲之變、非此之謂也。
【読み】
谷神は能く其の聲に象[に]せて之に應ずるも、能く報ずるに律呂の變を以てするを謂うには非ざるなり。猶卜筮の叩くに是の言を以てすれば則ち報ずるに是の物を以てするがごときのみ。易に謂う所の同聲相應ずとは是れなり。王弼の呂に命ずる者は律なりと謂えるは、聲の變を語るにて、此の謂には非ざるなり。

37
行前定而不疚、光明也。大人虎變。夫何疚之有。
【読み】
行前に定まりて疚しからざるは、光明なり。大人は虎變す。夫れ何の疚しきことか之れ有らん。

38
言從作乂、名正、其言易知、人易從。聖人不患爲政難、患民難喩。
【読み】
言從えば乂[おさ]まると作すとは、名正しきときは、其の言知り易く、人從い易きなり。聖人は政を爲すの難きを患えず、民の喩し難きを患う。


有司篇

1
有司、政之綱紀也。始爲政者、未暇論其賢否。必先正之、求得賢才而後舉之。
【読み】
有司は、政の綱紀なり。始めて政を爲す者は、未だ其の賢否を論ずるに暇あらず。必ず先づ之を正し、賢才を求め得て後に之を舉ぐ。

2
爲政不以德、人不附且勞。
【読み】
政を爲すに德を以てせざれば、人附かずして且つ勞す。

3
子之不欲、雖賞之不竊。欲生於不足則民盜。能使無欲則民不爲盜。假設以子不欲之物賞子、使竊其所不欲、子必不竊。故爲政者在乎足民。使無所不足、不見可欲而盜必息矣。
【読み】
子の欲せざるときは、之を賞すと雖も竊[ぬす]まず。欲は足らざるに生じて則ち民盜む。能く欲すること無からしむれば則ち民は盜を爲さず。假設[たと]えば子の欲せざるの物を以て子を賞し、其の欲せざる所を竊ましむるも、子は必ず竊まざらん。故に政を爲す者は民を足らすに在り。足らざる所無くして、欲す可きを見ざらしむるれば而[すなわ]ち盜は必ず息まん。

4
爲政必身倡之、且不愛其勞。又益之以不倦。
【読み】
政を爲すには必ず身もて之を倡え、且つ其の勞を愛[お]しまず。又之に益すに倦まざるを以てす。

5
天子討而不伐。諸侯伐而不討。故雖湯・武之舉、不謂之討而謂之伐。陳恆弑其君、孔子請討之。此必因周制隣有弑逆、諸侯當不請而討。孟子又謂征者上伐下。敵國不相征。然湯十一征、非賜鈇鉞、則征討之名、至周始定乎。
【読み】
天子は討じて伐せず。諸侯は伐して討ぜず。故に湯・武の舉と雖も、之を討と謂わずして之を伐と謂う。陳恆其の君を弑せしとき、孔子之を討ぜんことを請えり。此れ必ず周の制は隣に弑逆有らば、諸侯は當に請わずして討ずべきに因るならん。孟子も又謂う、征とは上の下を伐つなり。敵國には相征せず、と。然るに湯の十一征は、鈇鉞[ふえつ]を賜いたるに非ざれば、則ち征討の名は、周に至りて始めて定まれるか。

6
野九一而助、郊之外助也。國中什一使自賦、郊門之内通謂之國中、田不井授。故使什而自賦其一也。
【読み】
野は九に一にして助すとは、郊の外は助するなり。國中は什に一にして自ら賦せしむとは、郊門の内は通じて之を國中と謂い、田井授せず。故に什にして自ら其の一を賦せしむるなり。

7
道千乘之國、不及禮樂刑政、而云節用而愛人、使民以時。言能如是則法行、不能如是則法不徒行。禮樂刑政亦制數而已爾。
【読み】
千乘の國を道[おさ]むるに、禮樂刑政に及ばずして、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てすと云う。言うこころは、能く是の如くなれば則ち法行われ、是の如きこと能わざれば則ち法徒に行われず。禮樂刑政も亦制數なるのみなればなり。

8
富而不治、不若貧而治。大而不察、不若小而察。
【読み】
富みて治まらざるは、貧なるも治まるに若かず。大にして察かならざるは、小なるも察らかなるに若かず。

9
報者、天下之利、率德而致。善有勸、不善有沮、皆天下之利也。小人私己、利於不治。君子公物、利於治。
【読み】
報なる者は、天下の利なりとは、德に率いて致すなり。善勸むこと有り、不善沮[はば]むこと有るは、皆天下の利なり。小人は己に私して、治まらざるを利とす。君子は物に公にして、治まるを利とす。


大易篇

1
大易不言有無。言有無、諸子之陋也。
【読み】
大易は有無を言わず。有無を言うは、諸子の陋なり。

2
易語天地陰陽、情僞至隱賾而不可惡也。諸子馳騁說詞、窮高極幽。而知德者厭其言。故言爲非難。使君子樂取之爲貴。
【読み】
易は天地陰陽を語り、情僞隱賾に至るも惡[いと]う可からず。諸子は說詞を馳騁し、高きを窮め幽を極む。而して德を知る者は其の言を厭う。故に言うは難きに非ずと爲す。君子をして樂しみて之を取らしむるを貴しと爲す。

3
易一物而三才。陰陽、氣也。而謂之天。剛柔、質也。而謂之地。仁義、德也。而謂之人。
【読み】
易は一物にして三才なり。陰陽は、氣なり。而して之を天に謂う。剛柔は、質なり。而して之を地に謂う。仁義は、德なり。而して之を人に謂う。

4
易爲君子謀、不爲小人謀。故撰德於卦。雖爻有小大、及繫辭其爻、必諭之以君子之義。
【読み】
易は君子の爲に謀り、小人の爲に謀らず。故に德を卦に撰ぶ。爻に小大有りと雖も、其の爻に繫辭するに及んでは、必ず之に諭すに君子の義を以てす。

5
一物而兩體、其太極之謂與。陰陽天道、象之成也。剛柔地道、法之效也。仁義人道、性之立也。三才兩之、莫不有乾・坤之道。
【読み】
一物にして兩體なるは、其れ太極の謂か。陰陽は天の道にして、象の成れるなり。剛柔は地の道にして、法の效[あらわ]れたるなり。仁義は人の道にして、性の立てるなり。三才にして之を兩にし、乾・坤の道有らざるは莫し。

6
陰陽・剛柔・仁義之本立、而後知趨時應變。故乾・坤毀則無以見易。
【読み】
陰陽・剛柔・仁義の本立ちて、而して後に時に趨き變に應ずることを知る。故に乾・坤毀てば則ち以て易を見ること無し。

7
六爻各盡利而動、所以順陰陽・剛柔・仁義・性命之理也。故曰六爻之動、三極之道也。
【読み】
六爻各々利を盡くして動くは、陰陽・剛柔・仁義・性命の理に順う所以なり。故に曰く、六爻の動くは、三極の道なり、と。

8
陽徧體衆陰、衆陰共事一陽、理也。是故二君共一民、一民事二君、上與下皆小人之道也。一君而體二民、二民而宗一君、上與下皆君子之道也。
【読み】
陽の徧く衆陰を體し、衆陰の共に一陽に事うるは、理なり。是の故に二君の一民を共にし、一民の二君に事うるは、上と下と皆小人の道なり。一君にして二民を體し、二民にして一君を宗とするは、上と下と皆君子の道なり。

9
吉凶・變化・悔吝・剛柔、易之四象與。悔吝由嬴不足而生、亦兩而已。
【読み】
吉凶・變化・悔吝・剛柔は、易の四象か。悔吝も嬴[あま]ると足らざるに由りて生ずれば、亦兩なるのみ。

10
尙辭則言無所苟、尙變則動必精義、尙象則法必致用、尙占則謀必知來。四者非知神之所爲、孰能與於此。
【読み】
辭を尙ぶときは則ち言苟もする所無く、變を尙ぶときは則ち動くに必ず義を精しくし、象を尙ぶときは則ち法りて必ず用を致し、占を尙ぶときは則ち謀りて必ず來るを知る。四つの者は神の爲す所を知るに非ざれば、孰か能く此に與らんや。

11
易非天下之至精、則詞不足待天下之問。非深、不足通天下之志。非通變極數、則文不足以成物、象不足以制器、幾不足以成務。非周知兼體、則其神不能通天下之故、不疾而速、不行而至。
【読み】
易、天下の至精に非ざれば、則ち詞は天下の問いに待するに足らず。深きに非ざれば、天下の志に通ずるに足らず。變に通じ數を極むるに非ざれば、則ち文は以て物を成すに足らず、象は以て器を制するに足らず、幾は以て務めを成すに足らず。周く知り兼ね體するに非ざれば、則ち其の神は天下の故に通じ、疾からずして速やかに、行かずして至ること能わず。

12
示人吉凶、其道顯矣、知來藏往、其德行神矣、語蓍龜之用也。
【読み】
人に吉凶を示して、其の道顯らかなり、來るを知り往けるを藏して、其の德行神なりとは、蓍龜の用を語るなり。

13
顯道者、危使平、易使傾、懼以終始、其要無咎之道也。神德行者、寂然不動、冥會於萬化之感而莫知爲之者也。受命如響。故可與酬酢。曲盡鬼謀。故可以佑神。
【読み】
道を顯らかにすとは、危を平らかならしめ、易なるは傾せしめ、懼[おど]すに終始を以てして、其の要は咎無きの道なり。德行を神にすとは、寂然として動かず、萬化の感に冥會して之を爲すを知ること莫き者なり。命を受くること響きの如し。故に與に酬酢す可し。鬼謀を曲[つぶさ]に盡くす。故に以て神を佑く可し。

14
開物於幾先。故曰知來。明患而弭其故。故曰藏往。極數知來、前知也。前知其變、有道術以通之。君子所以措於民者遠矣。
【読み】
物を幾先に開く。故に來るを知ると曰う。患いを明らかにして其の故を弭[や]む。故に往けるを藏すと曰う。數を極めて來るを知るは、前知なり。其の變を前知し、道術有りて以て之を通ず。君子の民に措く所以の者遠いかな。

15
潔靜精微、不累其迹、知足而不賊、則於易深矣。
【読み】
潔靜精微にして、其の迹に累わされず、足るを知りて賊[そこな]わざれば、則ち易に深し。

16
天下之理得、元也。會而通、亨也。說諸心、利也。一天下之動、貞也。
【読み】
天下の理の得たるは、元なり。會して通ずるは、亨なり。諸心を說ばしむるは、利なり。天下の動を一にするは、貞なり。

17
乾之四德、終始萬物、迎之隨之不見其首尾。然後推本而言、當父母萬物。
【読み】
乾の四德は、萬物に終始し、之を迎え之に隨えども其の首尾を見ず。然る後に本を推して言えば、當に萬物に父母たるべし。

18
彖明萬物資始。故不得不以元配乾。坤其偶也。故不得不以元配坤。
【読み】
彖は萬物の資りて始まるを明らかにす。故に元を以て乾に配せざるを得ず。坤は其の偶なり。故に元を以て坤に配せざるを得ず。

19
仁統天下之善、禮嘉天下之會、義公天下之利、信一天下之動。
【読み】
仁は天下の善を統べ、禮は天下の會を嘉みし、義は天下の利を公にし、信は天下の動を一にす。

20
六爻擬議、各正性命。故乾德旁通、不失太和、而利且貞也。
【読み】
六爻擬議して、各々性命を正す。故に乾德旁く通じ、太和を失わずして、利且つ貞なり。

21
顏氏求龍德正中而未見其止。故擇中庸、得一善則拳拳服膺、歎夫子之忽焉前後也。
【読み】
顏氏は龍德正中を求めて未だ其の止まるを見ず。故に中庸を擇びて、一善を得れば則ち拳拳服膺し、夫子の前後に忽焉たるを歎ずるなり。

22
乾三・四位過中重剛、庸言庸行不足以濟之。雖大人之盛有所不安。外趨變化、内正性命。故其危其疑、艱於見德者、時不得舍也。九五、大人化矣。天德位矣、成性聖矣。故旣曰利見大人、又曰聖人作而萬物睹。亢龍以位畫爲言。若聖人則不失其正、何亢之有。
【読み】
乾の三・四の位は中より過ぎて重剛なれば、庸言庸行は以て之を濟[すく]うに足らず。大人の盛んなると雖も安んぜざる所有り。外は變化に趨き、内は性命を正す。故に其の危ぶみ其の疑いて、德を見すに艱[くる]しむ者は、時に舍[お]くことを得ざるなり。九五は、大人の化するなり。天德の位なり、性を成せるの聖なり。故に旣に大人を見るに利ろしと曰い、又聖人作りて萬物睹ると曰う。亢龍は位畫を以て言を爲す。聖人の若きは則ち其の正を失わざれば、何の亢[たかぶ]ることか之れ有らん。

23
聖人用中之極、不勉而中。有大之極、不爲其大。大人望之、所謂絕塵而奔、峻極於天、不可階而升者也。
【読み】
聖人は中を用ゆるの極みにして、勉めずして中る。大を有するの極みにして、其の大を爲さず。大人之を望むも、所謂塵を絕ちて奔り、峻として天に極まり、階して升る可からざる者なり。

24
乾之九五曰飛龍在天、利見大人。乃大人造位天德、成性躋聖者爾。若夫受命首出、則所性不存焉。故不曰位乎君位而曰位乎天德、不曰大人君矣而曰大人造也。
【読み】
乾の九五に曰く、飛龍天に在り、大人を見るに利ろし、と。乃ち大人は造りて天德に位し、性を成して聖に躋[のぼ]れる者のみ。若し夫れ命を受け首として出づるは、則ち性とする所は焉に存せず。故に君位に位すと曰わずして天德に位すと曰い、大人君たりと曰わずして大人造ると曰うなり。

25
庸言庸行、蓋天下經德達道。大人之德施於是者溥矣、天下之文明於是者著矣。然非窮變化之神以時措之宜、則或陷於非禮之禮、非義之義。此顏子所以求龍德正中、乾乾進德、思處其極、未敢以方體之常安吾止也。
【読み】
庸言庸行は、蓋し天下の經德達道なり。大人の德施の是に於る者溥[あまね]く、天下の文明の是に於る者著らかなり。然れども變化の神を窮めて時に措くの宜しきを以てするに非ざれば、則ち或は禮に非ざるの禮、義に非ざるの義に陷らん。此れ顏子の龍德正中を求め、乾乾として德に進み、其の極に處らんことを思い、未だ敢えて方體の常を以て吾が止まるところに安んぜざる所以なり。

26
惟君子爲能與時消息、順性命、躬天德而誠行之也。精義時措。故能保合太和、健利且貞。孟子所謂始終條理、集大成於聖智者與。易曰、大明終始、六位時成、時乘六龍以御天。乾道變化、各正性命、保合太和、乃利貞。其此之謂乎。
【読み】
惟君子のみ能く時と與に消息し、性命に順い、天德を躬にして誠に之を行うことを爲すなり。義を精しくして時に措く。故に能く太和を保合し、健にして利且つ貞なり。孟子謂う所の條理に始終し、聖智に集大成せる者か。易に曰く、大いに終始を明らかにして、六位時に成り、時に六龍に乘って以て天を御す。乾道變化して、各々性命を正し、太和を保合して、乃ち利貞なり、と。其れ此の謂か。

27
成性則躋聖而位天德。乾九二正位於内卦之中、有君德矣。而非上治也。九五言上治者、言乎天之德、聖人之性。故捨曰君而謂之天。見大人、德與位之皆造也。
【読み】
性を成すときは則ち聖に躋って天德に位す。乾の九二は位を内卦の中に正して、君德有り。而れども上治には非ざるなり。九五に上治を言える者も、天の德を言いて、聖人の性なり。故に君と曰うを捨てて之を天と謂う。大人を見るとは、德と位との皆造れるなり。

28
大而得易簡之理、當成位乎天地之中、時舍而不受命。乾九二有焉。及夫化而聖矣、造而位天德矣、則富貴不足以言之。
【読み】
大にして易簡の理を得て、當に位を天地の中に成すべきに、時に舍いて命を受けず。乾の九二焉に有り。夫の化して聖となり、造りて天德に位するに及んでは、則ち富貴も以て之を言うに足らず。

29
樂則行之、憂則違之、主於求吾志而已、無所求於外。故善世博化、龍德而見者也。若潛而未見、則爲己而已、未暇及人者也。
【読み】
樂しめば則ち之を行い、憂えば則ち之を違[さ]るは、吾が志を求むるを主とするのみにして、外に求むる所無し。故に世を善くし化を博むるは、龍德にして見れたる者なり。潛んで未だ見れざるが若きは、則ち己が爲にするのみにして、未だ人に及ぶに暇あらざる者なり。

30
成德爲行、德成自信、則不疑、所行日見乎外可也。
【読み】
成德行を爲すとは、德成りて自ら信ずるときは、則ち疑わず、行う所日々に外に見して可なるなり。

31
乾九三修辭立誠。非繼日待旦如周公、不足以終其業。九四以陽居陰。故曰在淵。能不忘於躍、乃可免咎。非爲邪也。終其義也。
【読み】
乾の九三は辭を修めて誠を立つ。日に繼いで旦を待つこと周公の如きに非ざれば、以て其の業を終えるに足らず。九四は陽を以て陰に居る。故に淵に在りと曰う。能く躍ることを忘れざれば、乃ち咎を免る可し。邪を爲すには非ざるなり。其の義を終うるなり。

32
至健而易、至順而簡。故其險其阻、不可階而升、不可勉而至。仲尼猶天。九五飛龍在天、其致一也。
【読み】
至健にして易く、至順にして簡[つづまや]かなり。故に其の險其の阻は、階して升る可からず、勉めて至る可からず。仲尼は猶天のごとし。九五の飛龍天に在りと、其の致一なり。

33
坤至柔而動也剛、乃積大勢成而然也。
【読み】
坤は至柔にして動くや剛なりとは、乃ち積むこと大にして勢成って然るなり。

34
乾至健無體、爲感速。故易知。坤至順不煩、其施普。故簡能。
【読み】
乾は至健にして體無く、感を爲すこと速やかなり。故に易にして知る。坤は至順しにて煩ならず、其の施すや普し。故に簡にして能あり。

35
坤先迷不知所從。故失道。後能順聽、則得其常矣。
【読み】
坤は先んずれば從う所を知らざるに迷う。故に道を失う。後れて能く順い聽くときは、則ち其の常を得。

36
造化之功、發乎動、畢達乎順。形諸明、養諸容載、遂乎說潤、勝乎健、不匱乎勞、終始乎止。
【読み】
造化の功は、動に發して、畢く順に達す。諸を明に形し、諸を容載に養い、說潤に遂げ、健に勝ち、勞に匱[とぼ]しからず、止に終始す。

37
健・動・陷・止、剛之象、順・麗・入・說、柔之體。
【読み】
健・動・陷・止は、剛の象にして、順・麗・入・說は、柔の體なり。

38
巽爲木、萠於下、滋於上。爲繩直、順以達也。爲工、巧且順也。爲白、所遇而從也。爲長、爲高、木之性也。爲臭、風也、入也。於人爲寡髮廣顙、躁人之象也。
【読み】
巽を木と爲すは、下に萠えて、上に滋ればなり。繩直と爲すは、順にして以て達すればなり。工と爲すは、巧みにして且つ順なればなり。白と爲すは、遇う所のままにして從えばなり。長と爲し、高と爲すは、木の性なればなり。臭と爲すは、風なればなり、入るなればなり。人に於て寡髮廣顙と爲すは、躁[さわ]がしき人の象なればなり。

39
坎爲血卦、周流而勞、血之象也。爲赤、其色也。
【読み】
坎を血の卦と爲すは、周流して勞し、血の象なればなり。赤と爲すは、其の色なり。

40
離爲乾卦、於木爲科上槁、附且躁也。
【読み】
離を乾の卦と爲し、木に於るや科[うつろ]にして上槁[か]るると爲すは、附きて且つ躁なればなり。

41
艮爲小石、堅難入也。爲徑路、通或寡也。
【読み】
艮を小石と爲すは、堅くして入り難ければなり。徑路と爲すは、通ずること或は寡ければなり。

42
兌爲附決、内實則外附必決也。爲毀折、物成則上柔者必折也。
【読み】
兌を附決と爲すは、内實なるときは則ち外に附するもの必ず決[き]ればなり。毀折と爲すは、物成るときは則ち上の柔なる者必ず折るればなり。

43
坤爲文、衆色也。爲衆、容載廣也。
【読み】
坤を文と爲すは、衆色なればなり。衆と爲すは、容載廣ければなり。

44
乾爲大赤、其正色也。爲冰、健極而寒甚也。
【読み】
乾を大赤と爲すは、其の正色なればなり。冰と爲すは、健極まりて寒さ甚だしければなり。

45
震爲萑葦、爲蒼筤竹、爲旉、皆蕃鮮也。
【読み】
震を萑葦[かんい]と爲し、蒼筤竹[そうろうちく]と爲し、旉[ふ]と爲すは、皆蕃りて鮮かなればなり。

46
一陷溺而不得出爲坎、一附麗而不能去爲離。
【読み】
一の陷溺して出づるを得ざるを坎と爲し、一の附麗して去ること能わざるを離と爲す。

47
艮一陽爲主於兩陰之上、各得其位而其勢止也。易言光明者多艮之象。著則明之義也。
【読み】
艮は一陽兩陰の上に主と爲り、各々其の位を得て其の勢止まれるものなり。易に光明を言える者は多くは艮の象なり。著らかなるときは則ち明なるの義なり。

48
蒙無遽亨之理。由九二循循行時中之亨也。
【読み】
蒙には遽に亨るの理無し。九二の循循として時中の亨に行うに由る。

49
不終日貞吉、言疾正則吉也。仲尼以六二以陰居陰、獨無累於四、故其介如石。雖體柔順、以其在中而靜、何俟終日。必知幾而正矣。
【読み】
日を終えずして貞にして吉なりとは、疾く正しければ則ち吉なるを言えるなり。仲尼六二の陰を以て陰に居り、獨り四に累わさるること無きを以て、故に其の介[かた]きこと石の如し、と。體は柔順なりと雖も、其の中に在りて靜なるを以て、何ぞ日を終うるを俟たん。必ず幾を知って正しきなり。

50
坎維心亨。故行有尙。外雖積險、苟處之心亨不疑、則雖難必濟而往有功也。
【読み】
坎は維れ心亨る。故に行いて尙きこと有り。外に險を積むと雖も、苟も之に處するの心亨りて疑わざるときは、則ち難きと雖も必ず濟[な]りて往いて功有るなり。

51
中孚、上巽施之、下說承之。其中必有感化而出焉者。蓋孚者覆乳之象、有必生之理。
【読み】
中孚は、上巽[したが]いて之に施し、下說びて之を承く。其の中必ず感化して出づる者有り。蓋し孚とは覆い乳[はぐく]むの象にして、必ず生ずるの理有るなり。

52
物因雷動。雷動不妄、則物亦不妄。故曰、物與無妄。
【読み】
物は雷に因りて動く。雷動いて妄ならざれば、則ち物も亦妄ならず。故に曰く、物ごとに無妄を與う、と。

53
靜之動也、無休息之期。故地雷爲卦、言反又言復。終則有始、循環無窮。入、指其化而裁之爾。深、其反也。幾、其復也。故曰反復其道。又曰出入無疾。
【読み】
靜の動くや、休息の期無し。故に地雷卦と爲りて、反と言い又復と言う。終われば則ち始まる有り、循環して窮まり無し。入は、其の化を指して之を裁するのみ。深とは、其の反るなり。幾とは、其の復るなり。故に曰く、其の道に反復す、と。又曰く、出入して疾無し、と。

54
益長裕而不設、益以實也。妄加以不誠之益、非益也。
【読み】
益は長裕して設けずとは、益するに實を以てするなり。妄りに加うるに誠ならざるの益を以てするは、益に非ざるなり。

55
井渫而不食、强施行惻。然且不售。作易者之嘆與。
【読み】
井渫[さら]えども食われず、强いて施し行いて惻む。然も且つ售[もち]いられず。易を作る者の嘆きか。

56
闔戶、靜密也。闢戶、動逹也。形開而目睹耳聞、受於陽也。
【読み】
戶を闔づるは、靜密なり。戶を闢くは、動逹なり。形開いて目睹耳聞くは、陽に受くるなり。

57
辭各指其所之、聖人之情也。指之以趨時盡利、順性命之理、臻三極之道也。能從之則不陷於凶悔矣。所謂變動以利言者也。然爻有攻取愛惡、本情素動、因生吉凶悔吝而不可變者。乃所謂吉凶以情遷者也。能深存繫辭所命、則二者之動見矣。又有義命當吉・當凶・當否・當亨者、聖人不使避凶趨吉、一以貞勝而不顧。如大人否亨、有隕自天、過涉滅頂凶无咎、損益龜不克違、及其命亂也之類。三者情異。不可不察。
【読み】
辭各々其の之く所を指すは、聖人の情なり。之を指すに時に趨き利を盡くし、性命の理に順い、三極の道に臻[いた]るを以てす。能く之に從うときは則ち凶悔に陷らず。所謂變動は利を以て言う者なり。然るに爻には攻取愛惡して、本情素[つね]に動き、因りて吉凶悔吝を生じて變ず可からざる者有り。乃ち所謂吉凶は情を以て遷る者なり。能く深く繫辭命ずる所を存すれば、則ち二者の動見れん。又義の命の當に吉なるべく、當に凶なるべく、當に否なるべく、當に亨るべき者有り、聖人は凶を避けて吉に趨かしめず、一に貞しきを以て勝えて顧みず。大人は否にして亨る、隕つること有り天自りす、過ぎて涉り頂を滅す、凶なるも咎无し、損益の龜違うこと克わず、及び其の命亂なりの類の如きなり。三者の情は異なる。察せざる可からず。

58
因爻象之旣動、明吉凶於未形。故曰爻象動乎内、吉凶見乎外。
【読み】
爻象の旣に動くに因りて、吉凶未だ形れざるに明らかにす。故に曰く、爻象内に動いて、吉凶外に見る、と。

59
富有者、大無外也。日新者、久無窮也。
【読み】
富有とは、大にして外無きなり。日に新たなりとは、久しくして窮まり無きなり。

60
顯、其聚也。隱、其散也。顯且隱、幽明所以存乎象。聚且散、推盪所以妙乎神。
【読み】
顯は、其の聚なり。隱は、其の散なり。顯且つ隱なるは、幽明の象に存する所以なり。聚まり且つ散ずるは、推盪の神に妙なる所以なり。

61
變化進退之象云者、進退之動也微、必驗之於變化之著。故察進退之理爲難、察變化之象爲易。
【読み】
變化は進退の象なりと云う者は、進退の動くや微かなれば、必ず之を變化の著らかなるに驗すなり。故に進退の理を察するを難しと爲し、變化の象を察するを易しと爲す。

62
憂悔吝者存乎介、欲觀易象之小疵、宜存志靜、知所動之幾微也。
【読み】
悔吝を憂うる者は介に存すとは、易象の小疵を觀んと欲せば、宜しく志を存すること靜かなして、動く所の幾微を知るべしとなり。

63
往之爲義、有已往、有方往。臨文者、不可不察。
【読み】
往の義爲るや、已に往ける有り、方に往かんとする有り。文に臨む者は、察せざる可からず。


樂器篇

1
樂器有相、周・召之治與。其有雅、太公之志乎。雅者正也。直己而行正也。故訊疾蹈厲者、太公之事耶。詩亦有雅。亦正言而直歌之、無隱諷譎諫之巧也。
【読み】
樂器に相有るは、周・召の治か。其の雅有るは、太公の志か。雅とは正なり。己を直しくして正しきを行うなり。故に疾きを訊[せ]めて蹈厲する者は、太公の事か。詩にも亦雅有り。亦正言して直ちに之を歌い、隱諷譎諫の巧み無きものなり。

2
象武、武王初有天下、象文王武功之舞。歌維淸以奏之。大武、武王沒、嗣王象武王之功之舞。歌武以奏之。酌、周公沒、嗣王以武功之成由周公、告其成於宗廟之歌也。
【読み】
象武は、武王初めて天下を有して、文王の武功を象れるの舞なり。維淸を歌いて以て之を奏す。大武は、武王沒し、嗣王武王の功を象れるの舞なり。武を歌いて以て之を奏す。酌は、周公沒し、嗣王武功の成れるは周公に由れるを以て、其の成れるを宗廟に告ぐるの歌なり。

3
興己之善、觀人之志、羣而思無邪、怨而止禮義、入可事親、出可事君。但言君父、舉其重者也。
【読み】
己の善を興し、人の志を觀、羣して思い邪無く、怨むも禮義に止まり、入りては親に事う可く、出でては君に事う可し。但君父とのみ言えるは、其の重き者を舉ぐるなり。

4
志至詩至。有象必可名。有名斯有體。故禮亦至焉。
【読み】
志至るときは詩も至る。象有れば必ず名づく可し。名有れば斯に體有り。故に禮も亦至る。

5
幽贊天地之道、非聖人而能哉。詩人謂后稷之穡、有相之道、贊化育之一端也。
【読み】
天地の道を幽贊するは、聖人に非ずして能くせんや。詩人后稷の穡は、相[たす]くるの道有りと謂えるは、化育を贊くるの一端なればなり。

6
禮矯實求稱、或文或質、居物後而不可常也。他人才未美。故絢飾之以文、莊姜才甚美、乃更絢之用質素。下文繪事後素。素謂其材。字雖同而義施各異。故設色之工、材黃白者必繪以靑赤、材赤黑必絢以粉素。
【読み】
禮は實を矯めて稱[かな]うことを求め、或は文[かぎ]り或は質にし、物の後に居て常とす可べからざるなり。他人の才は未だ美ならず。故に之を絢飾するに文を以てするも、莊姜の才は甚だ美なれば、乃ち更に之に絢するに質素を用ゆ。下文に繪の事は素より後にす、と。素は其の材を謂えり。字は同じと雖も而れども義の施すところは各々異なり。故に色を設くるの工は、黃白を材とする者は必ず繪[えが]くに靑赤を以てし、赤黑を材とするは必ず絢するに粉素を以てす。

7
陟降庭止、上下無常、非爲邪也。進德修業、欲及時也。在帝左右、所謂欲及時也與。
【読み】
庭に陟[のぼ]り降るとは、上下すること常無きも、邪を爲すには非ざるなり。德に進み業を修めて、時に及ばんことを欲するなり。帝の左右に在りとは、所謂時に及ばんことを欲するか。

8
江沱之媵以類行而欲喪朋。故無怨。嫡以類行而不能喪其朋。故不以媵備數。卒能自悔、得安貞之吉。乃終有慶而其嘯也歌。
【読み】
江沱の媵[よう]は類を以て行いて朋を喪わんことを欲す。故に怨むこと無し。嫡は類を以て行いて其の朋を喪うこと能わず。故に媵を以て數に備えざるなり。卒に能く自ら悔いて、安貞の吉を得。乃ち終に慶び有りて其の嘯くや歌えるなり。

9
采枲耳、議酒食。女子所以奉賓祭、厚君親者足矣。又思酌使臣之勞、推及求賢審官。王季・文王之心、豈是過與。
【読み】
枲耳[しじ]を采って、酒食を議[はか]る。女子の賓祭に奉じ、君親に厚き所以の者足る。又使臣の勞に酌まんことを思い、推して賢を求め官を審らかにするに及ぶ。王季・文王の心も、豈是に過ぎんや。

10
甘棠初能使民不忍去、中能使民不忍傷、卒能使民知心敬而不瀆之以拜。非善敎寖明、能取是於民哉。
【読み】
甘棠の初は能く民をして去るに忍びざらしめ、中は能く民をして傷[やぶ]るに忍びざらしめ、卒は能く民をして心敬みて之を瀆すに拜[かが]むことを以てせざることを知らしむ。善敎の寖[ようや]く明らかなるに非ざれば、能く是を民に取らんや。

11
振振、勸使勉也。歸哉歸哉、序其情也。
【読み】
振振とは、勸めて勉めしむるなり。歸らんか歸らんかとは、其の情を序ぶるなり。

12
卷耳、念臣下小勞則思小飮之、大勞則思大飮之。甚則知其怨苦嘘嘆。婦人能此、則險詖私謁害政之心、知其無也。
【読み】
卷耳は、臣下を念って小勞するときは則ち之に小飮せしめんことを思い、大勞するときは則ち之に大飮せしめんことを思う。甚だしければ則ち其の怨苦嘘嘆するを知る。婦人此を能くするときは、則ち險詖私謁して政を害するの心、其れ無きことを知るなり。

13
綢直如髮、貧者紒縰無餘、順其髮而直韜之爾。
【読み】
綢直髮の如しとは、貧しき者は縰[かみつつみ]を紒[むす]ぶに餘無く、其の髮に順いて直ぐに之を韜[つつ]むのみ。

14
蓼蕭・裳華有譽處兮、皆謂君接己溫厚、則下情得伸、讒毀不入而美名可保也。
【読み】
蓼蕭[りくしょう]・裳華に譽れ有りて處[やす]しとは、皆君己に接して溫厚なるときは、則ち下情伸ぶるを得、讒毀入らずして美名保つ可きを謂えるなり。

15
商頌顧予烝嘗、湯孫之將、言祖考來顧以助湯孫也。
【読み】
商頌に予が烝嘗を顧みよ、湯の孫の將[たてまつりもの]とは、祖考來り顧みて以て湯の孫を助けよと言えるなり。

16
鄂不韡韡、兄弟之見、不致文於初、本諸誠也。
【読み】
鄂[がく]として韡韡[いい]たらずとは、兄弟の見するに、文を初めに致さずして、諸を誠に本づくるなり。

17
采苓之詩、舍旃則無然、爲言則求所得、所譽必有所試。厚之至也。
【読み】
采苓[さいれい]の詩は、旃[これ]を舍くときは則ち然ること無く、言を爲すときは則ち得る所を求め、譽むる所は必ず試みる所有り。厚きの至りなり。

18
簡、略也。無所難也。甚則不恭焉。賢者仕祿、非迫於飢寒。不恭莫甚焉。簡兮簡兮、雖刺時君不用、然爲士者不能無太簡之譏。故詩人陳其容色之盛、善御之强、與夫君子由房由敖不語其材武者異矣。
【読み】
簡は、略なり。難き所無きなり。甚だしきときは則ち恭ならず。賢者の仕祿するは、飢寒に迫られたるに非ず。恭ならざること焉より甚だしきは莫し。簡たり簡たりとは、時君の用いざるを刺[そし]ると雖も、然れども士爲る者も太だしく簡なるの譏り無きこと能わず。故に詩人其の容色の盛んなる、善く御するの强きを陳べて、夫の君子の房に由り敖に由りて其の材武を語らざる者と異なり。

19
破我斧、缺我斨、言四國首亂、烏能有爲、徒破缺我斧斨而已。周公征而安之、愛人之至也。
【読み】
我が斧を破り、我が斨[しょう]を缺くとは、四國首めて亂るるも、烏んぞ能く爲すこと有らんや、徒に我が斧斨を破缺するのみなるを言う。周公征して之を安んぜしは、人を愛するの至りなり。

20
伐柯、言正當加禮於周公、取人以身也。其終見書予小子其新逆。
【読み】
伐柯は、正に禮を周公に加えるに當たって、人を取るに身を以てすべきことを言えるなり。其の終わりは書の予小子其れ新[みづか]ら逆[むか]えんに見えたり。

21
九罭、言王見周公當大其禮命、則大人可致也。
【読み】
九罭[きゅうよく]は、王、周公を見て當に其の禮命を大にすべく、則ち大人致す可きことを言えるなり。

22
狼跋、美周公不失其聖、卒能感人心於和平也。
【読み】
狼跋は、周公其の聖を失わず、卒に能く人心を和平に感ぜしめたるを美[ほ]むるなり。

23
甫田歲取十千、一成之田九萬畝、公取十千畝。九一之法也。
【読み】
甫田に歲ごとに十千を取るとは、一成の田は九萬畝にして、公は十千畝を取る。九一の法なり。

24
后稷之生、當在堯・舜之中年。而詩云上帝不寧、疑在堯時高辛子孫爲二王後、而詩人稱帝爾。
【読み】
后稷の生まるるは、當に堯・舜の中年に在るべし。而るに詩に上帝寧んぜざらんやと云えるは、疑うらくは堯の時に在るも高辛の子孫は二王の後爲れば、詩人帝と稱せるのみならん。

25
唐棣枝類棘枝、隨節屈曲、則其華一偏一反、左右相矯、因得全體均正。偏喩管・蔡失道、反喩周公誅殛。言我豈不思兄弟之愛、以權宜合義、主在遠者爾。唐棣本文王之詩。此一章周公制作、序己情而加之。仲尼以不必常存而去之。
【読み】
唐棣は、枝は棘の枝に類[に]て、節に隨いて屈曲すれば、則ち其の華も一偏一反し、左右相矯め、因りて全體の均正なるを得。偏は管・蔡の道を失えるに喩え、反は周公の誅殛するに喩う。言うこころは、我れ豈兄弟の愛を思わざらんや、權宜を以て義に合し、遠きに在る者を主れるのみ、と。唐棣は本文王の詩なり。此の一章は周公制作し、己が情を序べて之に加えり。仲尼は必ずしも常に存せざるを以て之を去れり。

26
日出而陰升自西、日迎而會之。雨之候也。喩婚姻之得禮者也。日西矣而陰生於東、喩婚姻之失道者也。
【読み】
日出でて陰西自り升り、日迎えて之に會う。雨の候なり。婚姻の禮を得たる者に喩うるなり。日西して陰東に生ずるは、婚姻の道を失える者に喩うるなり。

27
鶴鳴而子和、言出之善者與。鶴鳴魚潛、畏聲聞之不臧者與。
【読み】
鶴鳴いて子和すは、言の出づるの善なる者か。鶴鳴き魚潛むは、聲聞の臧[よ]からざるを畏るる者か。

28
鴥彼晨風、鬱彼北林、晨風雖摯擊之鳥、猶時得退而依深林而止也。
【読み】
鴥[いつ]たる彼の晨風、鬱たる彼の北林とは、晨風は摯擊の鳥なりと雖も、猶時に退いて深林に依りて止まることを得るなり。

29
漸漸之石言有豕白蹢、烝涉波矣。豕之負塗曳泥、其常性也。今豕足皆白、衆與涉波而去、水患之多爲可知也。
【読み】
漸漸の石に言う、豕有り白き蹢[ひづめ]あり、烝[もろもろ]波を涉る、と。豕の塗を負い泥を曳くは、其の常性なり。今豕の足皆白く、衆々與に波を涉って去れば、水患の多きこと知る可しと爲すなり。

30
君子所貴乎道者三、猶王天下有三重焉。言也、動也、行也。
【読み】
君子の道に貴ぶ所の者三つ、猶天下に王たるに三重有るがごとし。言なり、動なり、行なり。

31
耇造德降、則民諴和而鳳可致。故鳴鳥聞、所以爲和氣之應也。
【読み】
耇造[こうぞう]の德降るときは、則ち民諴和[かんわ]して鳳も致す可し。故に鳴鳥の聞こゆるは、和氣の應爲る所以なり。

32
九疇次敍。民資以生、莫先天材。故首曰五行。君天下必先正己。故次五事。己正然後邦得而治。故次八政。政不時舉必昏。故次五祀。五紀明然後時措得中。故次建皇極。求大中不可不知權。故次三德。權必有疑。故次稽疑。可徵然後疑決。故次庶徵。福極徵、然後可不勞而治。故九以嚮勸終焉。五爲數中。故皇極處之。權過中而合義者也。故三德處六。
【読み】
九疇に次敍あり。民の資りて以て生くるは、天材より先なるは莫し。故に首めに五行を曰う。天下に君たるには必ず先づ己を正しくす。故に五事を次にす。己正しくして然る後に邦得て治まる。故に八政を次にす。政は時に舉げざれば必ず昏し。故に五紀を次にす。五紀明らかにして然る後に時に措いて中を得。故に皇極を建つるを次にす。大中を求むるには權を知らざる可からず。故に三德を次にす。權れば必ず疑有り。故に疑を稽[かんが]うるを次にす。徵す可くして然る後に疑決す。故に庶徵を次にす。福極徵[あき]らかにして、然る後に勞せずして治む可し。故に九は嚮勸を以て終わる。五を數の中と爲す。故に皇極之に處る。權は中より過ぎて義に合する者なり。故に三德は六に處る。

33
親親尊尊。又曰親親尊賢。義雖各施、然而親均則尊其尊、尊均則親其親爲可矣。若親均尊均、則齒不可以不先。此施於有親者不疑。若尊賢之等、則於親尊之殺、必有權而後行。急親賢爲堯・舜之道。然則親之賢者先得之於疏之賢者爲必然。堯明俊德於九族而九族睦、章俊德於百姓而萬邦協、黎民雍。皐陶亦以惇敍九族、庶明勵翼爲邇可遠之道、則九族勉敬之人固先明之、然後遠者可次序而及。大學謂克明俊德爲自明其德、不若孔氏註愈。
【読み】
親を親しみ尊を尊ぶ、と。又曰く、親を親しみ賢を尊ぶ、と。義各々施すところありと雖も、然して親均しきときは則ち其の尊を尊び、尊均しきときは則ち其の親を親しむを可と爲す。若し親均しく尊均しきときは、則ち齒以て先にせざる可からず。此れ親有る者に施して疑わず。賢を尊ぶの等の若きは、則ち親尊の殺に於て、必ず權ること有りて後に行う。賢を親しむを急にするを堯・舜の道と爲す。然れば則ち親の賢なる者之を疏の賢なる者に先んじて得るを必然と爲す。堯は俊德を九族に明らかにして九族睦み、俊德を百姓に章らかにして萬邦協[やわ]らぎ、黎民雍[やわ]らぐ。皐陶も亦惇く九族を敍で、庶々明らかに勵み翼[たす]くを以て邇きより遠きにす可きの道と爲せば、則ち九族の勉め敬むの人固より先づ之を明らかにし、然る後に遠き者は次序して及ぶ可し。大學に克く俊德を明らかにすと謂いて自ら其の德を明らかにすと爲せるは、孔氏の註の愈れるに若かず。

34
義民、安分之良民而已。俊民、俊德之民也。官能則準牧無義民、治昏則俊民用微。
【読み】
義民とは、分に安んずるの良民なるのみ。俊民とは、俊德の民なり。能あるを官にするときは則ち準牧に義民無く、治昏きときは則ち俊民用[もっ]て微[かく]る。

35
五言、樂語歌詠五德之言也。
【読み】
五言とは、樂語の五德を歌詠するの言なり。

36
卜不習吉、言卜官將占、先決問人心、有疑乃卜、無疑則否。朕志無疑、人謀僉同。故無所用卜。鬼神必依、龜筮必從。故不必卜筮。玩習其吉以瀆神也。
【読み】
卜は吉を習[かさ]ねずとは、卜官將に占わんとすれば、先づ問を人心に決し、疑有れば乃ち卜し、疑無ければ則ち否[しか]せざるを言う。朕が志に疑無く、人謀僉[みな]同じ。故に卜を用ゆる所無し。鬼神も必ず依り、龜筮も必ず從う。故に必ずしも卜筮せざるなり。玩んで其の吉を習ぬるは以て神を瀆すなり。

37
衍忒未分、有悔吝之防。此卜筮之所由作也。
【読み】
忒[たが]えるを衍[お]して未だ分[あき]らかならざるときは、悔吝の防ぎ有り。此れ卜筮の由って作る所なり。


王禘篇

1
禮不王不禘、則知諸侯歲闕一祭爲不禘明矣。至周以祠爲春、以禴爲夏、宗廟歲六享、則二享四祭爲六矣。諸侯不禘、其四享歟。夏・商諸侯、夏特一祫。王制謂礿則不禘、禘則不嘗、假其名以見時祀之數爾。作記者不知文之害意、過矣。
【読み】
禮は王たらざれば禘せざれば、則ち諸侯は歲ごとに一祭を闕き禘せざることありと爲すこと明らかなるを知る。周に至って祠を以て春と爲し、禴[やく]を以て夏と爲し、宗廟は歲ごとに六享なれば、則ち二享四祭にて六爲り。諸侯は禘せざれば、其れ四享のみか。夏・商の諸侯は、夏に特[ただ]一祫[こう]のみ。王制に礿[やく]するときは則ち禘せず、禘するときは則ち嘗せずと謂えるは、其の名を假りて以て時祀の數を見すのみ。記を作れる者の文の意を害することを知らざること、過[はなは]だし。

2
禘於夏・周爲春秋、嘗於夏・商爲秋冬。作記者交舉、以二氣對互而言爾。
【読み】
禘は夏・周に於ては春秋と爲し、嘗は夏・商に於ては秋冬と爲す。記を作れる者交え舉げたるは、二氣を以て對互して言えるのみ。

3
享嘗云者、享爲追享朝享、禘亦其一爾。嘗以配享、亦對舉秋冬而言也。夏・商以禘爲時祭、知追享之必在夏也。然則夏・商天子、歲乃五享、禘列四祭、幷祫而五也。周改禘爲禴、則天子享六、諸侯不禘、又歲闕一祭、則亦四而已矣。王制所謂天子犆礿・祫禘・祫嘗・祫烝、旣以禘爲時祭、則祫可同時而舉。諸侯礿犆、禘一犆一祫、言於夏禘之時正爲一祭、特一祫而已。然則不王不禘、又著見於此矣。下又云嘗祫烝祫、則嘗烝且祫無疑矣。若周制亦當闕一時之祭、則當云諸侯祠則不禴、禴則不嘗。
【読み】
享嘗と云う者は、享は追享朝享爲り、禘も亦其の一なるのみ。嘗以て享に配せるも、亦秋冬を對舉して言えるなり。夏・商は禘を以て時祭と爲せば、追享の必ず夏に在るを知るなり。然れば則ち夏・商の天子は、歲ごとに乃ち五享、禘は四祭に列し、祫[こう]を幷せて五なり。周は禘を改めて禴[やく]と爲せば、則ち天子の享は六にして、諸侯は禘せず、又歲ごとに一祭を闕けば、則ち亦四なるのみ。王制に謂う所の天子は犆礿[とくやく]・祫禘・祫嘗・祫烝すとは、旣に禘を以て時祭と爲せば、則ち祫も時を同じくして舉ぐ可きなり。諸侯は礿犆し、禘は一犆一祫すとは、夏禘の時に於て正に一祭を爲し、特[ただ]一祫するのみを言えるなり。然れば則ち王たらざれば禘せざること、又此に著見せり。下に又嘗して祫し烝して祫すと云えば、則ち嘗烝して且つ祫すること疑無し。周制の若きも亦當に一時の祭を闕くべければ、則ち當に諸侯祠するときは則ち禴せず、禴するときは則ち嘗せずと云うべし。

4
庶子不祭祖、明其宗也。不祭禰、明其宗也。庶子不爲長子斬、不繼祖與禰故也。
【読み】
庶子の祖を祭らざるは、其の宗を明らかにするなり。禰[でい]を祭らざるも、其の宗を明らかにするなり。庶子が長子の爲に斬せざるは、祖と禰とを繼がざるが故なり。

5
庶子不祭殤與無後者。註不祭殤者、父之庶、蓋以殤未足語世數、特以己不祭禰、故不祭之。不祭無後者、祖之庶也、雖無後、以其成人備世數、當祔祖以祭之、己不祭祖、故不得而祭之也。祖庶之殤則自祭之也、言庶孫則得祭其子之殤者、以己爲其祖矣。無所祔之也。凡所祭殤者唯適子、此據禮天子下祭殤五、皆適子適孫之類。故知凡殤非適皆不當特祭、惟當從祖祔食。無後者謂昆弟諸父。殤與無後者如祖廟在小宗之家、祭之如在大宗。
【読み】
庶子は殤と後無き者とを祭らず。註に殤を祭らざるは、父の庶なればなりとあるは、蓋し殤は未だ世數を語るに足らざるを以て、特に己禰[でい]を祭らざるを以ての故に之を祭らざるなり。後無き者を祭らざるは、祖の庶なればなりとあるは、後無しと雖も、其の成人して世數に備わるを以てせば、當に祖に祔して以て之を祭るべきに、己祖を祭らざるが故に得て之を祭らざるなり。祖庶の殤は則ち自ら之を祭るなりとあるは、庶孫則ち其の子の殤を祭るを得るは、己其の祖と爲るを以てなるを言う。之を祔する所無ければなり。凡そ殤を祭る所の者は唯適子のみとあるは、此れ禮に據るに天子の殤を下祭するもの五つありて、皆適子適孫の類なり。故に凡そ殤は適に非ざるときは皆當に特祭すべからず、惟當に祖に從いて祔食すべきを知る。後無き者とは昆弟諸父を謂う。殤と後無き者とは如し祖廟小宗の家に在るも、之を祭ること大宗に在るが如くす。

6
殷而上七廟。自祖考而下五、幷遠廟爲祧者二。無不遷之太祖廟。至周有百世不毀之祖。則三昭三穆、四爲親廟、二爲文・武二世室、幷始祖而七。諸侯無二祧。故五。大夫無不遷之祖、則一昭一穆、與祖考而三。故以祖考通謂爲太祖。若祫、則請於其君、幷高祖干祫之。孔註王制謂周制、亦粗及之而不詳爾。
【読み】
殷よりして上は七廟あり。祖考自りして下は五、遠廟の祧[ちょう]と爲れる者二と幷す。遷らざるの太祖廟無し。周に至って百世毀たざるの祖有り。則ち三昭三穆の、四を親廟と爲し、二を文・武二世室と爲し、始祖と幷せて七なり。諸侯は二祧無し。故に五なり。大夫は遷らざるの祖無く、則ち一昭一穆と祖考とにして三なり。故に祖考を以て通じて謂いて太祖と爲す。若し祫[こう]せんとするときは、則ち其の君に請い、高祖を幷せて之を干し祫す。孔が王制を註して周制を謂えるも、亦粗[ほぼ]之に及んで詳しからざるのみ。

7
鋪筵設同几、疑左右几一云。交鬼神異於人。故夫婦而同几。求之或於室、或於祊也。
【読み】
筵を鋪き同几を設くとは、疑うらくは左右の几一と云うか。鬼神に交わるは人と異なる。故に夫婦にして几を同じくす。之を求むるは或は室に於てし、或は祊[ほう]に於てするなり。

8
祭社稷五祀百神者、以百神之功報天之德爾。故以天事鬼神、事之至也、理之盡也。
【読み】
社稷五祀百神を祭る者は、百神の功を以て天の德に報ずるのみ。故に天を以て鬼神に事うるは、事の至りなり、理の盡くるなり。

9
天子因生以賜姓、諸侯以字爲謚、蓋以尊統上、卑統下之義。
【読み】
天子は生に因りて以て姓を賜い、諸侯は字を以て謚と爲すとは、蓋し尊は上を統べ、卑は下を統ぶるの義を以てなり。

10
天子因生以賜姓、難以命於下之人、亦尊統上之道也。
【読み】
天子は生に因りて以て姓を賜い、以て下の人に命じ難きも、亦尊の上を統ぶるの道なり。

11
據玉藻、疑天子聽朔於明堂、諸侯則於太廟。就藏朔之處告祖而行。
【読み】
玉藻に據るに、疑うらくは天子は朔を明堂に聽き、諸侯は則ち太廟に於てするならん。朔を藏せるの處に就き祖に告げて行うなり。

12
受命祖廟、作龜禰宮、次序之宜。
【読み】
命を祖廟に受け、龜を禰宮に作すは、次序の宜しきなり。

13
公之士及大夫之衆臣爲衆臣。公之卿大夫・卿大夫之室老及家邑之士爲貴臣。上言公士、所以別士於公者也。下言室老士、所以別士於家者也。衆臣不以杖卽位、疑義與庶子同。
【読み】
公の士及び大夫の衆臣を衆臣と爲す。公の卿大夫・卿大夫の室老及び家邑の士を貴臣と爲す。上に公士と言えるは、士を公に別つ所以の者なり。下に室老士と言えるは、士を家に別つ所以の者なり。衆臣の杖を以て位に卽かざるは、疑うらくは義庶子と同じきか。

14
適士、疑諸侯薦於天子之士及王朝爵命之通名。蓋三命方受位天子之朝。一命再命受職受服者、疑官長自辟除、未有位於王朝。故謂之官師而已。
【読み】
適士とは、疑うらくは諸侯の天子に薦めたるの士及び王朝にて爵命せるの通名ならん。蓋し三命は方に位を天子の朝に受くるなり。一命再命の職を受け服を受くる者は、疑うらくは官長自ら辟除して、未だ王朝に位すること有らず。故に之を官師と謂うのみ。

15
小事則專達、蓋得自達於其君、不俟聞於長者、禮所謂達官者也。所謂達官之長者、得自達之長也。所謂官師者、次其長者也。然則達官之長必三命而上者、官師則中士而再命者、庶士則一命爲可知。
【読み】
小事は則ち專ら達すとは、蓋し自ら其の君に達するを得て、長に聞くことを俟たざる者にして、禮に所謂達官なる者なり。所謂達官の長とは、自ら達するを得るものの長なり。所謂官師とは、其の長に次ぐ者なり。然れば則ち達官の長は必ず三命よりして上なる者、官師は則ち中士にして再命なる者、庶士は則ち一命なること知る可しと爲す。

16
賜官、使臣其屬也。
【読み】
官を賜えば、其の屬を臣とせしむるなり。

17
祖廟未毀、敎於公宮、則知諸侯於有服族人亦引而親之、如家人焉。
【読み】
祖廟未だ毀たざるときは、公宮に敎ゆとあれば、則ち諸侯服有るの族人に於て亦引いて之を親しむこと、家人の如くすることを知る。

18
下而飮者、不勝者自下堂而受飮也。其爭也、爭爲謙讓而已。
【読み】
下りて飮むとは、勝たざる者自ら堂を下りて受けて飮むなり。其の爭いとは、爭うも謙讓爲るのみ。

19
君子之射、以中爲勝、不必以貫革爲勝。侯以布、鵠以革。其不貫革而墜於地者、中鵠爲可知矣。此爲力不同科之一也。
【読み】
君子の射は、中るを以て勝と爲し、必ずしも革を貫くを以て勝と爲さず。侯は布を以てし、鵠は革を以てす。其の革を貫かずして地に墜つる者も、鵠に中れること知る可しと爲す。此れ力の科を同じくせざる爲の一なり。

20
知死而不知生、傷而不弔。畏・壓・溺可傷尤甚。故特致哀死者、不弔生者以異之。且如何不淑之詞、無所施焉。
【読み】
死を知るも生を知らざれば、傷んで弔せず。畏・壓[あつ]・溺は傷む可きの尤も甚だし。故に特に哀を死者に致すも、生者を弔せずして以て之を異にす。且つ如何にして淑[よ]からざるの詞は、施す所無けん。

21
博依、善依永而歌樂之也。雜服、雜習於制數服近之文也。
【読み】
博依とは、善く依永して之を歌樂するなり。雜服とは、制數服近の文を雜習するなり。

22
春秋大要、天子之事也。故曰知我者其惟春秋乎、罪我者其惟春秋乎。
【読み】
春秋の大要は、天子の事なり。故に曰く、我を知る者は其れ惟春秋か、我を罪する者は其れ惟春秋か、と。

23
苗而不秀者與下文不足畏也爲一說。
【読み】
苗にして秀でざる者と下文の畏るるに足らざるなりとは一說爲り。


乾稱篇

1
乾稱父、坤稱母。予茲藐焉、乃混然中處。故天地之塞、吾其體、天地之帥、吾其性。民吾同胞、物吾與也。大君者、吾父母宗子、其大臣、宗子之家相也。尊高年、所以長其長、慈孤弱、所以幼其幼。聖其合德、賢其秀也。凡天下疲癃殘疾、惸獨鰥寡、皆吾兄弟之顚連而無告者也。於時保之、子之翼也。樂且不憂、純乎孝者也。違曰悖德、害仁曰賊。濟惡者不才、其踐形、惟肖者也。知化則善述其事、窮神則善繼其志。不愧屋漏爲無忝、存心養性爲匪懈。惡旨酒、崇伯子之顧養。育英才、潁封人之錫類。不弛勞而厎豫、舜其功也。無所逃而待烹、申生其恭也。體其受而歸全者、參乎。勇於從而順令者、伯奇也。富貴福澤、将厚吾之生也。貧賤憂戚、庸玉女於成也。存吾順事、沒吾寧也。
【読み】
乾を父と稱し、坤を母と稱す。予茲[ここ]に藐焉[びょうえん]たる、乃ち混然として中處するなり。故に天地の塞は、吾が其の體にして、天地の帥は、吾が其の性なり。民は吾が同胞にして、物は吾が與[ともがら]なり。大君とは、吾が父母の宗子にして、其の大臣は、宗子の家相なり。高年を尊ぶは、其の長を長とする所以にして、孤弱を慈しむは、其の幼を幼とする所以なり。聖は其の德を合わせたるものにして、賢は其の秀れしものなり。凡そ天下の疲癃殘疾[ひりゅうざんしつ]、惸獨鰥寡[けいどくかんか]は、皆吾が兄弟の顚連[てんれん]して告ぐる無き者なり。時に于[おい]て之を保[やす]んずるは、子の翼[つつしみ]なり。樂しみ且つ憂えざるは、孝に純[もっぱ]らなる者なり。違うを德に悖ると曰い、仁を害するを賊と曰う。惡を濟[な]す者は不才にして、其の形を踐むは、惟れ肖者[しょうしゃ]なり。化を知れば則ち善く其の事を述べ、神を窮むれば則ち善く其の志を繼ぐ。屋漏に愧じざるを忝[はずかし]むる無しと爲し、心を存し性を養うを懈らずと爲す。旨酒を惡むは、崇伯の子の養を顧るなり。英才を育つるは、潁[えい]の封人の類に錫[あた]えるなり。勞を弛めずして豫[よろこび]を厎[いた]すは、舜の其の功なり。逃るる所無くして烹らるるを待つは、申生の其の恭なり。其の受けしを體して全きを歸すは、參か。從うに勇みて令に順う者は、伯奇なり。富貴福澤は、将[もっ]て吾の生を厚くす。貧賤憂戚は、庸[もっ]て女[なんじ]を成に玉にす。存するときは吾れ順いて事え、沒するときは吾れ寧し、と。

2
凡可狀、皆有也。凡有、皆象也。凡象、皆氣也。氣之性本虛而神、則神與性乃氣所固有。此鬼神所以體物而不可遺也。
【読み】
凡そ狀[かたち]とす可きものは、皆有なり。凡そ有は、皆象なり。凡そ象は、皆氣なり。氣の性は本虛にして神なれば、則ち神と性とは乃ち氣の固有する所なり。此れ鬼神の物に體して遺す可からざる所以なり。

3
至誠、天性也。不息、天命也。人能至誠、則性盡而神可窮矣。不息、則命行而化可知矣。學未至知化、非眞得也。
【読み】
至誠は、天の性なり。息まざるは、天の命なり。人能く至誠なるときは、則ち性盡くされて神窮む可し。息まざるときは、則ち命行われて化知る可し。學んで未だ化を知るに至らざれば、眞に得るに非ざるなり。

4
有無虛實通爲一物者、性也。不能爲一、非盡性也。飲食男女皆性也。是烏可滅。然則有無皆性也。是豈無對。莊・老・浮屠爲此說久矣、果暢眞理乎。
【読み】
有無虛實通じて一物と爲す者は、性なり。一と爲すこと能わざるは、性を盡くすに非ざるなり。飲食男女も皆性なり。是れ烏んぞ滅す可けんや。然れば則ち有無は皆性なり。是れ豈對すること無けんや。莊・老・浮屠此の說を爲すこと久しきも、果たして眞理を暢[の]べんや。

5
天包載萬物於内、所感所性、乾坤・陰陽二端而已。無内外之合、無耳目之引取、與人物蕞然異矣。人能盡性知天、不爲蕞然起見、則幾矣。
【読み】
天は萬物を内に包載して、感ずる所性とする所は、乾坤・陰陽の二端のみ。内外の合無く、耳目の引取無く、人物の蕞然[さいぜん]なると異なり。人能く性を盡くし天を知り、蕞然なるの爲に見を起こさざるときは、則ち幾し。

6
有無一、内外合、此人心之所自來也。若聖人、則不專以聞見爲心。故能不專以聞見爲用。無所不感者、虛也。感卽合也、咸也。以萬物本一、故一能合異。以其能合異、故謂之感。若非有異則無合。天性、乾坤・陰陽也。二端、故有感。本一、故能合。天地生萬物、所受雖不同、皆無須臾之不感。所謂性卽天道也。
【読み】
有無の一にして、内外の合するは、此れ人心の自り來る所なり。聖人の若きは、則ち專ら聞見を以て心と爲さず。故に能く專ら聞見を以て用と爲さず。感ぜざる所無き者は、虛なり。感は卽ち合なり、咸なり。萬物は本一なるを以て、故に一能く異を合す。其の能く異を合するを以て、故に之を感と謂う。若し異有るに非ざるときは則ち合無し。天性は、乾坤・陰陽なり。二端なる、故に感有り。本一なる、故に能く合す。天地萬物を生じ、受くる所は同じからずと雖も、皆須臾の感ぜざる無し。所謂性は卽ち天道なり。

7
感者性之神、性者感之體。惟屈伸動靜終始之能一也。故所以妙萬物而謂之神、通萬物而謂之道、體萬物而謂之性。
【読み】
感なる者は性の神にして、性なる者は感の體なり。惟れ屈伸動靜終始の能く一たるなり。故に萬物に妙にして之を神と謂い、萬物に通じて之を道と謂い、萬物に體して之を性と謂う所以なり。

8
至虛之實、實而不固。至靜之動、動而不窮。實而不固、則一而散。動而不窮、則往且來。
【読み】
至虛の實は、實にして固ならず。至靜の動は、動いて窮まらず。實にして固ならざれば、則ち一にして而も散ず。動いて窮まらざれば、則ち往いて且つ來る。

9
性通極於無、氣其一物爾。命稟同於性、遇乃適然焉。人一己百、人十己千、然有不至、猶難語性。可以言氣。行同報異、猶難語命。可以言遇。
【読み】
性は無に通じ極まるも、氣は其の一物たるのみ。命は性に稟けて同じきも、遇は乃ち適々然るなり。人一たびすれば己百たびし、人十たびすれば己千たびして、然も至らざること有るも、猶性を語り難し。以て氣を言う可し。行同じくして報異なるも、猶命を語り難し。以て遇を言う可し。

10
浮屠明鬼、謂有識之死、受生循環、遂厭苦求免。可謂知鬼乎。以人生爲妄。可謂知人乎。天人一物、輒生取舍。可謂知天乎。孔・孟所謂天、彼所謂道、惑者指游魂爲變爲輪廻。未之思也。大學當先知天德。知天德則知聖人、知鬼神。今浮屠極論要歸、必謂死生轉流、非得道不免。謂之悟道、可乎。自其說熾傳中國、儒者未容窺聖學門墻、已爲引取、淪胥其閒、指爲大道。其俗達之天下、致善惡・智愚・男女・臧獲、人人著信。使英才閒氣、生則溺耳目恬習之事、長則師世儒宗尙之言、遂冥然被驅、因謂聖人可不脩而至、大道可不學而知。故未識聖人心、已謂不必求其迹、未見君子志、已謂不必事其文。此人倫所以不察、庶物所以不明、治所以忽、德所以亂。異言滿耳、上無禮以防其僞、下無學以稽其弊。自古詖淫邪遁之詞、翕然竝興、一出於佛氏之門者千五百年。自非獨立不懼、精一自信、有大過人之才、何以正立其閒、與之較是非、計得失。
【読み】
浮圖は鬼を明らかにして、有識の死するや、生を受けて循環と謂い、遂に苦を厭いて免れんことを求む。鬼を知ると謂う可けんや。人生を以て妄と爲す。人を知ると謂う可けんや。天人は一物なるに、輒ち取舍を生ず。天を知ると謂う可けんや。孔・孟謂う所の天は、彼謂う所の道なるも、惑える者遊魂の變を爲すを指して輪廻と爲すは、未だ之を思わざればなり。大學は當に先づ天德を知るべし。天德を知れば則ち聖人を知り、鬼神を知る。今浮圖は要歸を極論するに、必ず死生流轉は道を得るに非ずんば免れずと謂う。之を道を悟ると謂いて、可ならんや。其の說熾んに中國に傳わりしより、儒者未だ聖學の門牆を窺う容[べ]からざるに、已に引取するところと爲り、其の閒に淪胥して、指して大道と爲す。其の俗之を天下に達し、善惡・知愚・男女・臧獲、人人に信を著くを致せり。英才閒氣をして、生まれては則ち耳目恬習の事に溺れ、長じては則ち世儒祟尙の言を師とせしめて、遂に冥然として驅られ、因りて聖人は脩めずして至る可く、大道は學ばずして知る可しと謂う。故に未だ聖人の心を識らざるに、已に必ずしも其の迹を求めずと謂い、未だ君子の志を見ざるに、已に必ずしも其の文を事とせずと謂う。此れ人倫の察らかならざる所以、庶物の明らかならざる所以、治の忽せにせらるる所以、德の亂るる所以なり。異言耳に滿つるも、上は禮の以て其の僞を防ぐこと無く、下は學の以て其の弊を稽[かんが]うること無し。古より詖淫邪遁の詞、翕然[きゅうぜん]として竝び興り、一に佛氏の門より出づる者千五百年なり。獨立して懼れず、精一にして自ら信じ、大いに人に過ぐる才有るに非ざるよりは、何を以て正しく其の閒に立ち、之と是非を較べ、得失を計らんや。

11
釋氏語實際、乃知道者所謂誠也、天德也。其語到實際、則以人生爲幻妄、有爲爲疣贅、以世界爲蔭濁、遂厭而不有、遣而弗存。就使得之、乃誠而惡明者也。儒者則因明致誠、因誠致明。故天人合一、致學而可以成聖、得天而未始遺人。易所謂不遺・不流・不過者也。彼語雖似是、觀其發本要歸、與吾儒二本殊歸矣。道一而已。此是則彼非、此非則彼是。固不當同日而語。其言流遁失守、窮大則淫、推行則詖、致曲則邪。求之一卷之中、此弊數數有之。大率知晝夜陰陽、則能知性命、能知性命、則能知聖人、知鬼神。彼欲直語太虛、不以晝夜陰陽累其心、則是未始見易。未始見易、則雖欲免陰陽晝夜之累、末由也已。易且不見、又烏能更語眞際。捨眞際而談鬼神、妄也。所謂實際、彼徒能語之而已。未始心解也。
【読み】
釋氏の實際を語るは、乃ち道を知る者の謂う所の誠なり、天德なり。其の語って實際に到るときは、則ち人生を以て幻妄と爲し、有爲を疣贅[ゆうぜい]と爲し、世界を以て蔭濁と爲し、遂に厭いて有せず、遣てて存せず。就使[たと]い之を得るも、乃ち誠なるのみにして明を惡む者なり。儒者は則ち明に因りて誠を致し、誠に因りて明を致す。故に天人合一し、學を致めて以て聖と成る可く、天を得て而も未だ始めより人を遺さず。易に謂う所の遺さず、流れず、過ぎざる者なり。彼の語るは是に似たりと雖も、其の本を發し歸を要むるを觀るに、吾が儒と本を二つにし歸を殊にせり。道は一のみ。此れ是なれば則ち彼非にして、此れ非なれば則ち彼是なり。固より當に同日にして語るべからず。其の言流遁して守りを失い、大を窮むるときは則ち淫し、推して行うときは則ち詖[かたよ]り、曲を致すときは則ち邪なり。之を一卷の中に求むるも、此の弊數數之れ有り。大率晝夜陰陽を知れば、則ち能く性命を知り、能く性命を知れば、則ち能く聖人を知り、鬼神を知る。彼は直ちに太虛を語り、晝夜陰陽を以て其の心を累わさざらんことを欲せば、則ち是れ未だ始めより易を見ざるなり。未だ始めより易を見ざれば、則ち陰陽晝夜の累いを免れんと欲すと雖も、由末[な]きのみ。易すら且つ見ず、又烏んぞ能く更に眞際を語らんや。眞際を捨てて鬼神を談ずるは、妄なり。所謂實際も、彼は徒能く之を語るのみ。未だ始めより心解せざるなり。

12
易謂原始反終故知死生之說者、謂原始而知生、則求其終而知死必矣。此夫子所以直季路之問而不隱也。
【読み】
易に始めを原[たづ]ねて終わりに反る、故に死生の說を知ると謂える者は、始めを原ねて生を知れば、則ち其の終わりを求めて死を知ること必せるを謂う。此れ夫子の季路の問いに直[あた]って隱さざる所以なり。

13
體不偏滯、乃可謂無方無體。偏滯於晝夜陰陽者、物也。若道、則兼體而無累也。以其兼體、故曰一陰一陽、又曰陰陽不測、又曰一闔一闢、又曰通乎晝夜。語其推行故曰道、語其不測故曰神、語其生生故曰易。其實一物、指事異名爾。
【読み】
體して偏滯せざるを、乃ち方無く體無しと謂う可し。晝夜陰陽に偏滯する者は、物なり。道の若きは、則ち兼ね體して累い無きなり。其の兼ね體するを以て、故に一陰一陽と曰い、又陰陽測られずと曰い、又一闔一闢と曰い、又晝夜に通ずと曰う。其の推行を語るが故に道と曰い、其の測られざるを語るが故に神と曰い、其の生生を語るが故に易と曰う。其の實は一物にして、事を指して名を異にするのみ。

14
大率天之爲德、虛而善應。其應非思慮聰明可求。故謂之神。老氏況諸谷、以此。
【読み】
大率天の德爲る、虛にして善く應ず。其の應ずるや思慮聰明の求む可きに非ず。故に之を神と謂う。老氏諸を谷に況[たと]えたるも、此を以てなり。

15
太虛者、氣之體。氣有陰陽。屈伸相感之無窮。故神之應也無窮。其散無數。故神之應無數。雖無窮、其實湛然。雖無數、其實一而已。陰陽之氣、散則萬殊、人莫知其一也。合則混然、不見其殊也。形聚爲物、形潰反原。反原者、其游魂爲變與。所謂變者、對聚散・存亡爲文、非如螢雀之化、指前後身而爲說也。
【読み】
太虛は、氣の體なり。氣に陰陽有り。屈伸相感ずること窮まり無し。故に神の應ずるや窮まり無し。其の散ずるや無數なり。故に神の應ずるも無數なり。窮まり無しと雖も、其の實は湛然たり。無數と雖も、其の實は一のみ。陰陽の氣、散ずれば則ち萬殊にして、人其の一たるを知ること莫きなり。合すれば則ち混然として、其の殊なるを見ざるなり。形聚まれば物と爲り、形潰ゆれば原に反る。原に反るとは、其の游魂變を爲すか。所謂變とは、聚散・存亡に對して文を爲し、螢雀の化の、前後の身を指して說を爲すが如きに非ざるなり。

16
益物必誠、如天之生物、日進日息。自益必誠、如川之方至、日增日得。施之妄。學之不勤、欲自益且益人、難矣哉。易曰、益長裕而不設信夫。
【読み】
物を益して必ず誠ならば、天の物を生ずるが如く、日に進み日に息う。自ら益して必ず誠ならば、川の方[あまね]く至るが如く、日に增し日に得。之を施して妄なり。之を學んで勤めずして、自ら益し且つ人を益せんと欲するも、難いかな。易に曰く、益は長じ裕かにして而も設けずとは信なるかな。

17
將修己、必先厚重以自持。厚重知學、德乃進而不固矣。忠信進德、惟尙友而急賢。欲勝己者親、無如改過之不吝。
【読み】
將に己を修めんとすれば、必ず先づ厚重にして以て自ら持すべし。厚重にして學ぶことを知れば、德乃ち進んで固ならず。忠信にして德に進むは、惟友を尙びて賢を急とす。己に勝れる者親しまんことを欲せば、過を改むるの吝かならざるに如くは無し。

18
戲言出於思也。戲動作於謀也。發於聲、見乎四支、謂非己心、不明也。欲人無己疑、不能也。過言非心也。過動非誠也。失於聲、繆迷其四體、謂己當然、自誣也。欲他人己從、誣人也。或者謂出於心者歸咎爲己戲、失於思者自誣爲己誠。不知戒其出汝者、歸咎其不出汝者、長傲且遂非。不知孰甚焉。
【読み】
戲言は思に出づるなり。戲動は謀に作るなり。聲に發れ、四支に見るるを、己の心に非ずと謂うは、明らかならざるなり。人の己を疑うこと無からんと欲するも、能わざるなり。過言は心に非ざるなり。過動は誠に非ざるなり。聲に失い、其の四體を繆迷するに、己當に然るべしと謂うは、自ら誣うるなり。他人の己に從わんと欲するは、人を誣うるなり。或者は心に出づる者を謂いて咎を歸して己が戲と爲し、思に失う者を自ら誣いて己が誠と爲す。其の汝に出づる者を戒め、咎を其の汝に出でざる者に歸するを知らず、傲を長ぜしめ且つ非を遂ぐ。不知なること孰か焉より甚だしからん。


参考文献
『太極圖説・通書・西銘・正蒙』(岩波文庫)
『正蒙』(山根三芳:明徳出版社)
『張子正蒙注』(王夫之著:中華書局)