通 書

誠上第一
誠者聖人之本。大哉乾元、萬物資始、誠之源也。乾道變化、各正性命、誠斯立焉。純粹至善者也。故曰、一陰一陽之謂道。繼之者善也。成之者性也。元亨誠之通。利貞誠之復。大哉易也、性命之源乎。
【読み】
誠は聖人の本なり。大なる哉乾元、萬物資[と]りて始まるとは、誠の源なり。乾道變化し、各々性命を正すとは、誠斯[ここ]に立つなり。純粹至善なる者なり。故に曰く、一陰一陽之を道と謂う。之を繼ぐ者は善なり。之を成す者は性なり、と。元亨は誠の通ずるなり。利貞は誠の復[かえ]るなり。大なる哉易や、性命の源か。

誠下第二
聖誠而已矣。誠五常之本、百行之源也。靜無而動有、至正而明達也。五常百行、非誠非也。邪暗塞也。故誠則無事矣。至易而行難。果而確無難焉。故曰、一日克己復禮、天下歸仁焉。
【読み】
聖は誠のみ。誠は五常の本にして、百行の源なり。靜かなるときは無にして動くときは有、至正にして明達なり。五常百行も、誠に非ざれば非なり。邪[よこしま]にして暗塞なり。故に誠なるときは則ち事無きなり。至って易くして而も行い難し。果にして確かなるときは難きこと無し。故に曰く、一日己に克ちて禮に復れば、天下仁に歸す、と。

誠幾德第三
誠無爲。幾善惡。德、愛曰仁、宜曰義、理曰禮、通曰智、守曰信。性焉安焉、之謂聖。復焉執焉、之謂賢。發微不可見、充周不可窮、之謂神。
【読み】
誠は爲す無し。幾に善惡あり。德は、愛を仁と曰い、宜しきを義と曰い、理を禮と曰い、通ずるを智と曰い、守るを信と曰う。焉[これ]を性のままにし焉に安んずる、之を聖と謂う。焉に復り焉を執る、之を賢と謂う。發すること微かにして見る可からざる、充つること周くして窮む可からざる、之を神と謂う。

聖第四
寂然不動者誠也。感而遂通者神也。動而未形、有無之閒者幾也。誠精故明。神應故妙。幾微故幽。誠・神・幾曰聖人。
【読み】
寂然として動かざる者は誠なり。感じて遂に通ずる者は神なり。動いて而も未だ形れず、有無の閒なる者は幾なり。誠なれば精しきが故に明らかなり。神なれば應ずるが故に妙なり。幾なれば微かなるが故に幽なり。誠・神・幾なるを聖人と曰う。

愼動第五
動而正曰道。用而和曰德。匪仁匪義匪禮匪智匪信、悉邪也。邪動辱也。甚焉害也。故君子愼動。
【読み】
動きて正しきを道と曰う。用いて和するを德と曰う。仁に匪ず義に匪ず禮に匪ず智に匪ず信に匪ざるは、悉く邪なり。邪に動くは辱[はじ]なり。甚だしきときは害なり。故に君子は動くことを愼む。

道第六
聖人之道、仁義中正而已矣。守之貴、行之利、廓之配天地。豈不易簡。豈爲難知。不守不行不廓耳。
【読み】
聖人の道は、仁義中正のみ。之を守るときは貴く、之を行うときは利[よ]ろしく、之を廓[ひら]くときは天地に配[なら]ぶ。豈易簡ならずや。豈知り難しと爲さんや。守らず行わず廓かざるのみ。

師第七
或問曰、曷爲天下善。曰、師。曰、何謂也。曰、性者剛柔善惡中而已矣。不達。曰、剛善、爲義、爲直、爲斷、爲嚴毅、爲幹固、惡、爲猛、爲隘、爲彊梁。柔善、爲慈、爲順、爲巽、惡、爲懦弱、爲無斷、爲邪佞。惟中也者、和也、中節也、天下之達道也、聖人之事也。故聖人立敎、俾人自易其惡、自至其中而止矣。故先覺覺後覺、闇者求於明、而師道立矣。師道立、則善人多。善人多、則朝廷正而天下治矣。
【読み】
或ひと問いて曰く、曷[なに]をか天下の善と爲す、と。曰く、師なり、と。曰く、何の謂ぞや、と。曰く、性なる者は剛柔の善惡と中とのみ、と。達せず。曰く、剛の善なるを、義と爲し、直と爲し、斷と爲し、嚴毅と爲し、幹固と爲し、惡なるを、猛と爲し、隘と爲し、彊梁と爲す。柔の善なるを、慈と爲し、順と爲し、巽[そん]と爲し、惡なるを、懦弱と爲し、無斷と爲し、邪佞と爲す。惟中なる者は、和なり、節に中るなり、天下の達道なり、聖人の事なり。故に聖人の敎を立つるや、人をして自ら其の惡を易え、自ら其の中に至らしめて止む。故に先覺は後覺を覺し、闇き者は明らかなるに求めて、師道立つ。師道立つときは、則ち善人多し。善人多きときは、則ち朝廷正しくして天下治まる、と。

幸第八
人之生不幸不聞過。大不幸無恥。必有恥則可敎、聞過則可賢。
【読み】
人の生まれて不幸なるは過を聞かざるなり。大不幸なるは恥無きなり。必ず恥ずること有るときは則ち敎う可く、過を聞くときは則ち賢なる可し。

思第九
洪範曰、思曰睿。睿作聖。無思本也。思通用也。幾動於彼誠動於此、無思而無不通爲聖人。不思則不能通微。不睿則不能無不通。是則無不通生於通微、通微生於思。故思者聖功之本、而吉凶之機也。易曰、君子見幾而作、不俟終日。又曰、知幾其神乎。
【読み】
洪範に曰く、思うに睿と曰う。睿は聖を作す、と。思うこと無きは本なり。思って通ずるは用なり。幾彼に動きて誠此に動き、思うこと無くして而も通ぜざる無きを聖人と爲す。思わざれば則ち微に通ずること能わず。睿ならざれば則ち通ぜざる無きこと能わず。是れ則ち通ぜざる無きは微に通ずるより生じ、微に通ずるは思うより生ずるなり。故に思うは聖功の本にして、吉凶の機なり。易に曰く、君子は幾を見て作[おこ]り、日を終うるを俟たず、と。又曰く、幾を知るは其れ神か、と。

志學第十
聖希天、賢希聖、士希賢。伊尹・顏淵大賢也。伊尹恥其君不爲堯・舜、一夫不得其所、若撻於市。顏淵不遷怒、不貳過、三月不違仁。志伊尹之所志、學顏子之所學、過則聖、及則賢、不及則亦不失於令名。
【読み】
聖は天を希い、賢は聖を希い、士は賢を希う。伊尹・顏淵は大賢なり。伊尹は其の君の堯・舜と爲らざるを恥じ、一夫も其の所を得ざれば、市に撻[むちう]たるるが若し。顏淵は怒を遷さず、過を貳[ふたた]びせず、三月仁に違わず。伊尹の志せし所を志し、顏子の学びし所を学ぶとき、過ぎなば則ち聖、及ばば則ち賢、及ばざるも則ち亦令名を失わざらん。

順化第十一
天以陽生萬物、以陰成萬物。生仁也。成義也。故聖人在上、以仁育萬物、以義正萬物。天道行而萬物順、聖德脩而萬民化。大順大化不見其迹、莫知其然、之謂神。故天下之衆、本在一人。道豈遠乎哉。術豈多乎哉。
【読み】
天は陽を以て萬物を生じ、陰を以て萬物を成す。生ずるは仁なり。成すは義なり。故に聖人上に在りて、仁を以て萬物を育い、義を以て萬物を正す。天道行われて萬物順い、聖德脩まりて萬民化す。大順大化して其の迹を見ず、其の然るを知ること莫き、之を神と謂う。故に天下の衆[おお]きも、本は一人に在り。道豈遠からんや。術豈多からんや。

治第十二
十室之邑、人人提耳而敎、且不及。況天下之廣、兆民之衆哉。曰、純其心而已矣。仁義禮智四者、動靜、言貌視聽無違、之謂純。心純則賢才輔。賢才輔則天下治。純心要也。用賢急焉。
【読み】
十室の邑すら、人人ごとに耳を提[と]って敎うるときは、且つ及ばず。況んや天下の廣き、兆民の衆[おお]きをや。曰く、其の心を純にするのみ、と。仁義禮智の四者、動靜、言貌視聽違うこと無き、之を純と謂う。心純なるときは則ち賢才輔く。賢才輔くるときは則ち天下治まる。心を純にするは要なり。賢を用うるは急なり。

禮樂第十三
禮理也。樂和也。陰陽理而後和。君君臣臣、父父子子、兄兄弟弟、夫夫婦婦。萬物各得其理、然後和。故禮先而樂後。
【読み】
禮は理なり。樂は和なり。陰陽理ありて而して後に和す。君君たり臣臣たり、父父たり子子たり、兄兄たり弟弟たり、夫夫たり婦婦たり。萬物各々其の理を得て、然る後に和す。故に禮は先にして樂は後なり。

務實第十四
實勝善也。名勝恥也。故君子進德脩業、孳孳不息、務實勝也。德業有未著、則恐恐然畏人知、遠恥也。小人則僞而已。故君子日休、小人日憂。
【読み】
實の勝れるは善なり。名の勝れるは恥なり。故に君子德に進み業を脩め、孳孳[しし]として息まざるは、實の勝らんことに務むるなり。德業未だ著れざる有れば、則ち恐恐然として人の知らんことを畏るるは、恥より遠ざかるなり。小人は則ち僞れるのみ。故に君子は日に休[やす]らぎ、小人は日に憂う。

愛敬第十五
有善不及。曰、不及則學焉。問曰、有不善。曰、不善則告之不善、且勸曰庶幾有改乎。斯爲君子。有善一不善二、則學其一而勸其二。有語曰斯人有是之不善、非大惡也、則曰、孰無過。焉知其不能改。改則爲君子矣。不改爲惡。惡者天惡之。彼豈無畏耶。烏知其不能改。故君子悉有衆善、無弗愛且敬焉。
【読み】
善有りて及ばず。曰く、及ばざれば則ち學ぶのみ、と。問いて曰く、不善有り、と。曰く、不善あれば則ち之に不善なるを告げ、且つ勸めて庶幾[ねが]わくは改むること有らんか。斯[ここ]に君子と爲らんと曰え。善一つ不善二つ有れば、則ち其の一つを學びて其の二つを勸めよ。語ること有りて斯の人に是の不善有れども、大惡に非ざるなりと曰わば、則ち曰え、孰か過無からん。焉[いづく]んぞ其の改むること能わざるを知らんや。改むれば則ち君子と爲る。改めざるを惡と爲す。惡なる者は天之を惡む。彼豈畏るること無からんや。烏[いづく]んぞ其の改むること能わざるを知らんや、と。故に君子は悉く衆善を有し、愛し且つ敬せざる無し。

動靜第十六
動而無靜、靜而無動、物也。動而無動、靜而無靜、神也。動而無動、靜而無靜、非不動不靜也。物則不通、神妙萬物。水陰根陽、火陽根陰。五行陰陽、陰陽太極。四時運行、萬物終始、混兮闢兮、其無窮兮。
【読み】
動くときは而[すなわ]ち靜かなること無く、靜かなるときは而ち動くこと無きは、物なり。動くも而も動くこと無く、靜かなるも而も靜かなること無きは、神なり。動くも而も動くこと無く、靜かなるも而も靜かなること無しとは、動かず靜かならざるに非ざるなり。物は則ち通ぜざるも、神は萬物を妙にす。水は陰なるも陽に根ざし、火は陽なるも陰に根ざす。五行は陰陽、陰陽は太極。四時運行し、萬物終始し、混じり闢[わか]れて、其れ窮まり無し。

樂上第十七
古者聖王、制禮法、修敎化、三綱正、九疇敍、百姓大和、萬物咸若、乃作樂、以宣八風之氣、以平天下之情。故樂聲淡不傷、和而不淫。入其耳感其心、莫不淡且和焉。淡則欲心平。和則躁心釋。優柔平中、德之盛也。天下化中、治之至也。是謂道配天地。古之極也。後世禮法不修、政刑苛紊。縱欲敗度、下民困苦。謂古樂不足聽也、代變新聲。妖淫愁怨、導欲增悲、不能自止。故有賊君棄父、輕生敗倫、不可禁者矣。嗚呼樂者、古以平心、今以助欲。古以宣化、今以長怨。不復古禮、不變今樂、而欲至治者、遠矣。
【読み】
古は聖王、禮法を制し、敎化を修めて、三綱正しく、九疇[きゅうちゅう]敍[つ]いで、百姓大いに和らぎ、萬物咸[ことごと]く若[したが]い、乃ち樂を作りて、以て八風の氣を宣べ、以て天下の情を平らかにせり。故に樂の聲は淡くして傷[やぶ]らず、和らぎて淫りならず。其の耳に入り其の心に感じては、淡くして且つ和らげずということ莫し。淡ければ則ち欲心平らかなり。和らげば則ち躁心釋く。優柔平中なるは、德の盛んなり。天下の化中するは、治の至りなり。是を道天地に配[なら]ぶと謂う。古の極なり。後世は禮法修まらず、政刑苛紊[かぶん]なり。欲を縱[ほしいまま]にし度を敗[やぶ]り、下民困苦す。古樂は聽くに足らざるなりと謂い、代々新聲に變う。妖淫愁怨なるは、欲を導き悲しみを增して、自ら止むること能わず。故に君を賊[そこな]い父を棄て、生を輕んじ倫を敗りて、禁ず可からざる者有り。嗚呼樂は、古は以て心を平らかにせるに、今は以て欲を助く。古は以て化を宣べたるに、今は以て怨みを長ず。古の禮に復らず、今の樂を變えずして、至治を欲する者は、遠いかな。

樂中第十八
樂者本乎政也。政善民安、則天下之心和。故聖人作樂、以宣暢其和心、達於天地。天地之氣感而大和焉。天地和、則萬物順。故神祇格鳥獸馴。
【読み】
樂は政に本づくなり。政善く民安らかなれば、則ち天下の心和らぐ。故に聖人樂を作りて、以て其の和心を宣暢し、天地に達せしむ。天地の氣感じて大いに和す。天地和せば、則ち萬物順[よろこ]ぶ。故に神祇[しんぎ]格[いた]り鳥獸馴る。

樂下第十九
樂聲淡、則聽心平。樂辭善、則歌者慕。故風移而俗易矣。妖聲豔辭之化也亦然。
【読み】
樂の聲淡ければ、則ち聽く心平らかなり。樂の辭善ければ、則ち歌う者慕う。故に風移りて俗易わる。妖聲豔辭[えんじ]の化するも亦然り。

聖學第二十
聖可學乎。曰、可。有要乎。曰、有。請聞焉。曰、一爲要。一者無欲也。無欲則靜虛動直。靜虛則明。明則通。動直則公。公則溥。明通公溥庶矣乎。
【読み】
聖は學ぶ可きか。曰く、可なり、と。要有りや、と。曰く、有り、と。請問す、と。曰く、一を要と爲す。一とは無欲なり。無欲ならば則ち靜かなるときは虛しくして動くときは直[ただ]し。靜かなるとき虛しければ則ち明らかなり。明らかなれば則ち通ず。動くとき直しければ則ち公なり。公ならば則ち溥[あまね]し。明通公溥ならば庶からん、と。

公明第二十一
公於己者公於人。未有不公於己、而能公於人也。明不至則疑生。明無疑也。謂能疑爲明、何啻千里。
【読み】
己に公なる者のみ人に公なり。未だ己に公ならずして、能く人に公なるはあらざるなり。明至らざれば則ち疑い生ず。明らかなれば疑い無きなり。能く疑うを謂いて明と爲すと、何ぞ啻[ただ]に千里のみならんや。

理性命第二十二
厥彰厥微、匪靈弗瑩。剛善剛惡。柔亦如之。中焉止矣。二氣五行、化生萬物。五殊二實、二本則一。是萬爲一。一實萬分、萬一各正、小大有定。
【読み】
厥の彰らかなる厥の微かなる、靈に匪ざれば瑩[あき]らかならず。剛の善あり剛の惡あり。柔も亦之の如し。中にして止まんのみ。二氣五行、萬物を化生す。五の殊なるも二の實にして、二の本は則ち一なり。是れ萬も一爲り。一の實にして萬に分かれ、萬と一と各々正しく、小大定まり有り。

顏子第二十三
顏子、一簞食、一瓢飮、在陋巷。人不堪其憂、而不改其樂。夫富貴人所愛也。顏子不愛不求、而樂乎貧者、獨何心哉。天地閒、有至貴至富可愛可求、而異乎彼者。見其大而忘其小焉爾。見其大則心泰。心泰則無不足。無不足則富貴貧賤處之一也。處之一則能化而齊。故顏子亞聖。
【読み】
顏子は、一簞食、一瓢飮、陋巷に在り。人其の憂えに堪えざるに、而も其の樂しみを改めず。夫れ富貴は人の愛する所なり。顏子愛せず求めずして、貧に樂しむ者は、獨り何の心ぞや。天地の閒、至貴至富の愛す可く求む可くして、而も彼と異なる者有り。其の大なるを見て其の小なるを忘るるのみ。其の大なるを見るときは則ち心泰し。心泰きときは則ち足らざる無し。足らざる無きときは則ち富貴貧賤も之に處ること一なり。之に處ること一なるときは則ち能く化して齊[ひと]し。故に顏子は聖に亞[つ]げり。

師友第二十四
天地閒、至尊者道、至貴者德而已矣。至難得者人。人而至難得者、道德有於身而已矣。求人至難得者有於身、非師友則不可得也已。
【読み】
天地の閒、至って尊き者は道、至って貴き者は德のみ。至って得難き者は人なり。人にして至って得難き者は、道德を身に有することのみ。人の至って得難き者を身に有せんと求むるに、師友に非ざれば則ち得可からざるのみ。

師友第二十五
道義者、身有之則貴且尊。人生而蒙、長無師友則愚。是道義由師友有之、而得貴且尊。其義不亦重乎。其聚不亦樂乎。
【読み】
道義は、身に之を有するときは則ち貴く且つ尊し。人生まれて蒙[くら]く、長じて師友無きときは則ち愚かなり。是れ道義は師友に由りて之を有し、而して貴く且つ尊きを得るなり。其の義亦重からずや。其の聚亦樂しからずや。

過第二十六
仲由喜聞過、令名無窮焉。今人有過、不喜人規、如護疾而忌醫、寧滅其身而無悟也。噫。
【読み】
仲由過を聞くを喜びて、令名窮まり無し。今の人は過有るも、人の規すを喜ばざること、疾を護りて醫を忌むが如く、寧ろ其の身を滅ぼすとも悟ること無きなり。噫[ああ]。

勢第二十七
天下勢而已矣。勢輕重也。極重不可反。識其重而亟反之可也。反之力也。識不早、力不易也。力而不競天也。不識不力人也。天乎人也。何尤。
【読み】
天下は勢のみ。勢は輕重なり。極めて重きときは反す可からず。其の重きを識りて亟[すみ]やかに之を反すは可なり。之を反すは力むるなり。識ること早からざるときは、力むとも易からざるなり。力めて而も競わざるは天なり。識らず力めざるは人なり。天か人なり。何をか尤めん。

文辭第二十八
文所以載道也。輪轅飾而人弗庸徒飾也。況虛車乎。文辭藝也。道德實也。篤其實而藝者書之、美則愛。愛則傳焉、賢者得以學而至之。是爲敎。故曰、言之無文、行之不遠。然不賢者、雖父兄臨之師保勉之不學也。强之不從也。不知務道德、而第以文辭爲能者、藝焉而已。噫、弊也久矣。
【読み】
文は道を載す所以なり。輪轅は飾らるとも而も人の庸[もち]いざるときは徒飾なり。況んや虛車をや。文辭は藝なり。道德は實なり。其の實に篤くして藝ある者之を書[しる]すに、美なれば則ち愛でらる。愛でらるるときは則ち傳わり、賢なる者以て學びて之に至ることを得。是を敎と爲す。故に曰く、言の文無きは、行われて遠からず、と。然るに賢ならざる者は、父兄之に臨み師保之を勉[はげ]ますと雖も學ばざるなり。之に强うれども從わざるなり。道德に務むるを知らずして、第[ただ]文辭のみを以て能と爲す者は、藝なるのみ。噫、弊や久しいかな。

聖蘊第二十九
不憤不啓、不悱不發。舉一隅不以三隅反、則不復也。子曰、予欲無言。天何言哉。四時行焉、百物生焉。然則聖人之蘊、微顏子殆不可見。發聖人之蘊、敎萬世無窮者、顏子也。聖同天。不亦深乎。常人有一聞知、恐人不速知其有也。急人知而名也。薄亦甚矣。
【読み】
憤せずんば啓せず。悱せずんば發せず。一隅を擧ぐるに、三隅を以て反らざるときは、則ち復びせざるなり。子曰く、予言うこと無からんと欲す。天何をか言わんや。四時行われ、百物生ず、と。然れば則ち聖人の蘊は、顏子微かりせば殆ど見る可からず。聖人の蘊を發して、萬世無窮に敎ゆる者は、顏子なり。聖は天と同じ。亦深からずや。常人は一の聞知有るときは、人の速やかに其の有せるを知らざらんことを恐るるなり。人の知りて名あらんことを急とするなり。薄きこと亦甚だしきいかな。

精蘊第三十
聖人之精、畫卦以示、聖人之蘊、因卦以發。卦不畫、聖人之精、不可得而見。微卦、聖人之蘊、殆不可悉得而聞。易何止五經之源。其天地鬼神之奧乎。
【読み】
聖人の精は、卦を畫して以て示され、聖人の蘊は、卦に因りて以て發せらる。卦畫せられざれば、聖人の精は、得て見る可からず。卦微かりせば、聖人の蘊は、殆ど悉くは得て聞く可からず。易は何ぞ止[ただ]に五經の源のみならんや。其れ天地鬼神の奧か。


乾損益動第三十一
君子乾乾、不息於誠。然必懲忿窒慾、遷善改過、而後至。乾之用其善是、損益之大莫是過。聖人之旨深哉。吉凶悔吝生乎動。噫、吉一而已。動可不愼乎。
【読み】
君子は乾乾として、誠なるに息まず。然して必ず忿りを懲らし慾を窒ぎ、善に遷り過を改めて、而して後に至る。乾の用は其れ是を善しとし、損益の大は是より過ぎたるは莫し。聖人の旨深いかな。吉凶悔吝は動に生ず。噫、吉は一つのみ。動くこと愼まざる可けんや。

家人・睽・復・無妄第三十二
治天下有本、身之謂也。治天下有則、家之謂也。本必端。端本誠心而已矣。則必善。善則和親而已矣。家難而天下易。家親而天下疏也。家人離必起於婦人。故睽次家人。以二女同居、而志不同行也。堯所以釐降二女於嬀汭、舜可禪乎、吾玆試矣。是治天下觀於家。治家觀身而已矣。身端心誠之謂也。誠心復其不善之動而已矣。不善之動妄也。妄復則無妄矣。无妄則誠矣。故无妄次復、而曰、先王以茂對時育萬物。深哉。
【読み】
天下を治むるに本有り、身の謂なり。天下を治むるに則有り、家の謂なり。本は必ず端[ただ]しくす。本を端しくするは心を誠にするのみ。則は必ず善くす。則を善くするは親を和するのみ。家は難くして天下は易し。家は親しくして天下は疏ければなり。家人の離るるは必ず婦人より起こる。故に睽[けい]は家人に次ぐ。二女同居して、志同行せざるを以てなり。堯の二女を嬀汭[ぎぜい]に釐降[りこう]せしめし所以は、舜は禪る可きか、吾玆に試みんとなり。是れ天下を治むるは家に觀るなり。家を治むるは身に觀るのみ。身の端しきは心誠なるの謂なり。心を誠にするは其の不善の動を復するのみ。不善の動は妄なり。妄復するときは則ち無妄なり。无妄なれば則ち誠なり。故に无妄は復に次ぎ、而して曰く、先王以て茂[さか]んに時に對[あた]りて萬物を育[やしな]う、と。深いかな。

富貴第三十三
君子以道充爲貴、身安爲富。故常泰無不足。而銖視軒冕、塵視金玉。其重無加焉爾。
【読み】
君子は道の充つるを以て貴しと爲し、身の安きを富めりと爲す。故に常に泰くして足らざる無し。而して軒冕を銖のごとく視、金玉を塵のごとく視る。其の重きも焉に加うる無きのみ。

陋第三十四
聖人之道、入乎耳存乎心、蘊之爲德行、行之爲事業。彼以文辭而已者陋矣。
【読み】
聖人の道は、耳に入りて心に存し、之を蘊[つ]めば德行と爲り、之を行えば事業と爲る。彼の文辭を以てするのみなる者は陋なり。

擬議第三十五
至誠則動。動則變。變則化。故曰、擬之而後言、議之而後動。擬議以成其變化。
【読み】
至誠なるときは則ち動く。動けば則ち變ず。變ずれば則ち化す。故に曰く、之を擬[はか]りて而して後に言い、之を議[はか]りて而して後に動く。擬議して以て其の變化を成す、と。

刑第三十六
天以春生萬物、止之以秋。物之生也、旣成矣不止、則過焉。故得秋以成。聖人之法天、以政養萬民、肅之以刑。民之盛也、欲動情勝、利害相攻不止、則賊滅無倫焉。故得刑以治。情僞微曖、其變千狀、苟非中正明達果斷者、不能治也。訟卦曰、利見大人。以剛得中也。噬嗑曰、利用獄。以動而明也。嗚呼、天下之廣、主刑者民之司命也。任用可不愼乎。
【読み】
天は春を以て萬物を生じ、之を止むるに秋を以てす。物の生ずるや、旣に成りて止まらざるときは、則ち過ぐ。故に秋を得て以て成るなり。聖人の天に法[のっと]るや、政を以て萬民を養い、之を肅[ただ]すに刑を以てす。民の盛んなるや、欲動きて情勝ち、利害相攻めて止まざるときは、則ち賊滅して倫無し。故に刑を得て以て治む。情僞微曖にして、其の變千狀なれば、苟も中正明達果斷なる者に非ざれば、治むること能わざるなり。訟の卦に曰く、大人を見るに利[よ]ろし、と。剛の中を得るを以てなり。噬嗑[ぜいこう]に曰く、獄を用うるに利ろし、と。動きて明らかなるを以てなり。嗚呼、天下の廣き、刑を主る者は民の司命なり。任用愼まざる可けんや。

公第三十七
聖人之道、至公而已矣。或曰、何謂也。曰、天地至公而已矣。
【読み】
聖人の道は、至公なるのみ。或ひと曰く、何の謂ぞや、と。曰く、天地は至公なるのみ、と。

孔子上第三十八
春秋正王道、明大法也。孔子爲後世王者而脩也。亂臣賊子誅死者於前、所以懼生者於後也。宜乎萬世無窮、王祀夫子、報德報功之無盡焉。
【読み】
春秋は王道を正し、大法を明らかにせるなり。孔子後世の王者の爲に脩するなり。亂臣賊子の死者を前に誅するは、生者を後に懼れしむる所以なり。宜なるかな萬世窮まり無く、夫子を王とし祀り、德に報い功に報ゆることの盡くる無きや。

孔子下第三十九
道德高厚、敎化無窮、實與天地參而四時同、其惟孔子乎。
【読み】
道德高く厚くして、敎化窮まり無く、實に天地と參[まじ]わりて四時と同じきは、其れ惟孔子のみか。

蒙・艮第四十
童蒙求我、我正果行如筮焉。筮叩神也。再三則瀆矣。瀆則不告也。山下出泉、靜而淸也。汨則亂。亂不決也。愼哉。其惟時中乎。艮其背、背非見也。靜則止。止非爲也。爲不止矣。其道也深乎。
【読み】
童蒙我に求むるに、我正もて行を果すること筮の如し。筮は神を叩くなり。再三すれば則ち瀆す。瀆せば則ち告げざるなり。山下に泉を出すは、靜かにして淸きなり。汨[みだ]りにすれば則ち亂る。亂せば決けざるなり。愼めや。其れ惟時に中するのみかな。其の背に艮[とど]まるとは、背は見ゆるに非ざるなり。靜かなるときは則ち止まる。止まるとは爲すことあるに非ざるなり。爲さば止まらず。其の道や深いかな。